ごあいさつ
COVID-19が海外の森林を対象とするJIFPROの事業にも大きな影響を与えている中ですが、理事長に就任させていただきました。よろしくお願い申し上げます。
COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2などのウイルスは、ヒトと動物が密接に接触している地域に出現するとされています。特に食生活を補完するために野生生物の狩猟を行うことが多いアフリカ、南アジア、東南アジアなどの熱帯地域は病原体感染のホットスポットです。そのため、人間の健康に対するリスクも考慮に入れて熱帯林を管理することが求められています。熱帯林の重要性は国連の持続的開発目標(SDGs)でも示されていますが、この機会に感染症の影響を含めた熱帯林管理法を提示すべきではないかと思います。
光合成によって二酸化炭素を吸収する森林は、大気その他の地球環境の形成に大きな役割を果たし、ヒトを含め、多様な生物と長く共存してきました。また、四季の変化を見せる森林を愛で、森林のもたらす物理的な資源とともに精神的な安らぎを感じる人々がいます。一方、深い森に恐怖を感じる人々もいます。いずれにしても、森林は人類に物理的にも精神的にも大きな影響を与えてきましたが、昨今は健康への直接的な影響が問われているわけです。コロナ禍で活動が制限されている時だからこそ、植物のようにとどまって、様々な観点から森林を見直す機会とすることも重要かもしれません。
さて、地球温暖化はすでにIPCC第3次評価報告書(2007年)で断定されていましたが、第6次評価報告書(2022年)では、その要因に関して、「人間活動が起因する地球温暖化は疑う余地がない」として人間活動起因を説いています。さらに、地域的な極端現象にも言及し、日本を含む北太平洋地域では、熱帯域の拡大の影響にともなう熱帯低気圧の高緯度への移動、さらに非常に強い熱帯低気圧の頻度増加を指摘しています。
温暖化問題は、人間活動からの温室効果物質の発生を抑えることが最も大切なことで、森林の二酸化炭素吸収力などに頼るべきではないことは論を俟ちません。人為的な排出をそのままにしながら、熱帯林の吸収力で排出量をご破算にするという考えが一部にあるようですが、そのような考えは温暖化問題の解決にはなりません。また、海外で適切な森林活動を行う人材を抱えていない企業・団体がほとんどで、森林活動を行っても、世界的な基準に照らして高い評価を受けることは困難です。そのために、JIFPROがプロ集団として海外での森林活動を支援する必要もあるでしょう。とはいえ、日本の活動と協調するだけでは不十分です。
熱帯で森林保全や植林活動に力を注ぐ途上国もありますが、そこでも資金や人材が不足しているのが実態です。このような状況のため、JIFPROは皆様のご支援をいただいて具体的な森林活動を行っていますが、途上国の人材育成への関与も期待されています。各地でリーダーや教育者となる人材の育成が必要ですので、関係する教育機関・研究機関との連携強化も深化させたいと願います。
また、このような活動の評価には、森林地帯における観測と計測のデータが必要となります。適切なIT技術を活用することで、国際的な評価が得られるようにする必要もあるでしょう。そのような点においてもJIFPROは貢献したいと思いますが、やはりJIFPRO単独では極めて限られた活動しかできません。ウィズコロナの社会となるかもしれませんが、関係各位との連携を一層密にして、産官学さらには世界の人々と心を合わせて事業を進めていく所存です。
今後とも、JIFPROへのご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。
公益財団法人国際緑化推進センター 理事長 沢田治雄