ごあいさつ
この度、理事長に就任いたしました奥田です。
日本では、少し郊外に足を延ばせば緑の景色が広がり、森林減少を身近に感じることは多くありません。しかし世界全体で見ると、森林は2015年から2025年の間、毎年約400万ヘクタールのペースで減少し続けました。これは1990~2000年の年間1,000万ヘクタールという減少率に比べれば半減していますが、荒廃した緑を回復するためには、今後も積極的な努力が欠かせないことを示しています。
近年顕著になっている極端気象や温暖化の影響には、森林減少・劣化が直接・間接に関わっていることが明らかになってきました。もちろん、森林が持つ二酸化炭素吸収力だけに温暖化対策を委ねることはできませんが、排出を含む森林のガス交換プロセスは、地球全体の炭素循環において無視できない役割を果たしています。森林面積をどう維持し、どう増やし、質的改善を図るか――この「ピンチコック」ともいえる、地球規模の炭素循環を調整する機能に注目することは、今後ますます重要になってくるでしょう。
さらに、森林保全や修復活動は、途上国における植林や森林保全の取り組みを通じて大きな波及効果を生みます。しかし、森林減少が著しい熱帯地域では、森林問題と貧困問題が複雑に絡み合い、地元の生産者や農民の生活に寄り添った、繊細で熟練を要する資源管理が求められます。
温暖化がこのまま進めば、人類は燃え上がるような熱波の中で暮らすことになる――そんな悲観的な未来像が語られることもあります。しかし、本当に私たちは「茶色の世界」へと突き進んでいるだけなのでしょうか。森に棲んでいた祖先が草原へと進出し、長い旅路の中で進化を遂げてきた歴史を振り返れば、ヒトは森の資源を利用しつつ、それを育む営みを繰り返してきたと考えられます。森林は文化や文明の形成と切り離せない存在であり、資源を回復へと導く本能的な特性を、私たちは今も持ち続けているのではないでしょうか。
森林をはじめとする緑の資源の重要性は、SDGsにも示されている通り、持続的な発展に欠かせません。近年では、自然生態系が本来備えている価値が “nature positive” の観点から語られるようになりました。炭素吸収だけでなく、生物多様性の保全、人への癒し効果など、多面的な価値が期待されています。特にこの「心和的」な(心を落ち着かせるような)機能は、自然との「物語的な相互作用(narrative exchange)」を促し、ヒトが緑へと回帰するための重要なきっかけとなります。それは、私たちが目指す Society 5.0 の実現に向けた大きな原動力にもなり得ます。
私自身、幼少期は町工場が立ち並ぶ地域で育ちましたが、夏になると祖父母の住む田舎で長く過ごしました。スギの苗を育てていた祖父に「この木はどうするの」と尋ねたとき、「お前が大人になったときのことを考えて…」と、普段は寡黙な祖父がつぶやいた言葉が今も心に残っています。子どもながらに「ずいぶん先の話だ」と感じたその瞬間が、私にとっての「植林」の最初のイメージでした。
数十年後、学生実習でその地を訪れ伐倒試験を行った際、伐ったスギの年輪に自分の年齢と同じ時間が刻まれていることに気づき、その森との「物語的な相互作用(narrative exchange)」を始めたいという静かな衝動に包まれました。また、熱帯地域での植林活動に関わった際、数年後に当時の小中学生が自分たちの植えた木を見に戻ってくるという話を聞き、胸が温かくなったことを覚えています。
木を植え、緑を増やすには長い時間が必要です。世代を超えてメッセージを伝え続ける営みだからこそ、私たちが本来もつ「緑への回帰の心」を呼び覚ます力があるのだと思います。
緑とともに歩む時間は、私たち自身の未来を静かに形づくっていきます。JIFPRO は、こうした自然との関わりを大切にしながら、科学的知見と地域社会の知恵を結びつけ、持続可能な森林管理と修復に取り組んでまいります。国内外の多様なパートナーと協働し、未来世代へ確かな緑を引き継ぐための実践を、これからも着実に進めていきます。 私たち JIFPRO とともに、緑の時間を刻んでみませんか。
公益財団法人国際緑化推進センター 理事長 奥田 敏統





