チョウ類飼育販売事業の事例モデル

対象国
カンボジア(アジア)
実施年
令和2年度
課題・原状

カンボジア西部とタイの国境に広がる中央カルダモン山地国立公園は隣接する2つの保護区と併せて約99万ヘクタールと広大な面積をもち、東南アジア大陸部最大の原生森林地帯を形成している。ツキノワグマ、アジアゾウ、センザンコウ、マクジャク、シャムワニ、アジアアロワナなどが生息し、50を超える国際自然保護連合(IUCN)レッドリスト掲載種の生息地である。また、国内最大級の炭素貯蔵庫にもなっている。
しかしながら、カンボジアでは森林減少が急速に進んでおり、中央カルダモン山地国立公園も例外ではない。森林減少の主要な原因の1つは地域住民の貧困であり、森林地域に生活する人々は収入を得るために森林を違法に伐採したり農地への転換を繰り返してきた。さらにここ数年は、近隣地域からの移住者が増え、ますます森林資源への圧力が高まっている。従来の住民と新しい住民とのあつれきを緩和し、コミュニティ全体で協力しながら森林保全への意識を高めていくことが大きな課題となっている。

チョウは熱帯および亜熱帯地域の森林に多数生息し、その多くが途上国の貧しい地域と重なっている。これらの地域では住民の収入源が限られており、生活のために違法に森林資源が搾取されることが珍しくない。チョウは種類によって成虫期の餌(花蜜や熟れた果実)や幼虫期の食草が異なり、チョウが生息するためには多様で健全な森林の存在が不可欠である。すなわち、多様なチョウが生息する森林は生物多様性の豊かな森林である証とも言える。

チョウ類を飼育し先進国に販売するビジネスは、1980年代に欧州の蝶園や動物園などでチョウの生体展示が普及し始めたのに伴い新たに誕生したビジネスである。特に2000年以降取引量は増加し、生産地も東南アジア、中南米、東アフリカの多くの地域に広がった。世界的に見ると、コミュニティによるチョウ類飼育販売が地域の森林保全に貢献している事例が複数みられる。豊かなチョウの資源を有するカンボジアの森林地域でも、蝶飼育ビジネスの導入ができれば、住民の生計向上に寄与し、森林保全インセンティブを高める可能性があり、住民支援プログラムの一環として注目されている。蝶の飼育とあわせて、森林の生物多様性が重要なことや蝶がその指標になることなどの森林環境教育を実施することで、将来にわたり森林保全へのインセンティブとなる可能性が期待される。

日本では森林環境教育の先進的な研究や取組が行われ、国際学会(IUFROなど)でも高く評価されている。学校教育や地域活動の場で系統的な教育システムが開発されている。またボランティア的な市民レベルの環境モニタリングが継続的に実施されてきた。これらの活動は行政も注目し、タイアップした活動が行われている。

使用した日本のナレッジ

  1. チョウを用いた環境教育(リンク)
    日本では昆虫をとおして身近な自然について学ぶというプログラムが発達し、近年では地域の小中学校と連携して環境教育の実践の場として大きな役割を果たしている。蝶園や学校におけるチョウを使った環境教育の普及によって、幼少期に昆虫に関心を持つ、いわゆる昆虫少年/少女の興味をはぐくむ環境があり、将来の自然保護の主要な担い手やサポーターを育んでいる。
  2. 環境指標生物としてのチョウの活用(リンク)
    チョウ類は環境の変化に非常に敏感で、環境と動物相の関係を見るには好適な「環境指標生物」である。特定のチョウの生息状況を過去と比較することで、地域の生物多様性の変遷を推測することができ、将来の自然保全へと役立てることが可能となる。チョウは急激な環境変化を敏感に反映するため、大掛かりな調査なしに身近な環境状態の変化を知ることができる。
ナレッジ活用型
  • 環境に配慮した持続可能なチョウの飼育活動は、現金収入の機会が限られる森林周辺地域住民の貴重な収入源の一つとなり、飼育に参加する世帯の生活を支援する。
  • チョウの飼育活動を素材とした環境教育ツール(野外看板やビデオ)により、地域住民の森林や自然保全への意識が啓発される。

    ※カンボジアの住民はチョウ類への関心や飼育ビジネスの認知度は低く、特に農村部においては情報入手手段が限られるため、ビジネスの全体像をイメージするのが困難である。ビデオの作成は、ビジネスの利点やチョウと森林の関係について紹介したもので、学校や住民向けに地域のチョウ飼育活動の理解や森林保全への意識啓発を促すツールとなっている。
森林・住民への貢献・効果等
  • 住民に地域の森林生態系の重要性に関する知識が広まると、地域全体で森林保全へのインセンティブが向上することが期待される
  • 昆虫に関心を持つ少年/少女を教育する環境を提供することにより、彼らが成長後、カンボジアで森林生態系保全の担い手になる可能性がある。このような環境教育による人材育成は将来の森林保全に貢献することが期待できる
  • チョウ類飼育活動は屋内や家に隣接した小さな場所で、女性が子育てや家事の合間に作業が可能である。調査対象としたコミュニティでは飼育の担い手の多くが女性である。また、蝶飼育の作業場が、地域の女性が集まる場となって、女性たちにとって楽しみの多い活動になっていた。対象コミュニティを含むカンボジアの農村では女性が主体となる活動の場や機会が乏しく、こうした女性向けのアクティビティを提供することは女性の大きなエンパワーメントに繋がることが期待される
  • 本活動は生物多様性保全の国際目標達(ポスト愛知目標)で取り上げられている「若者、女性、ローカルコミュニティの参加」に合致している。特にチョウの飼育活動は、現地の女性が活動しやすい内容であり、活動を通して女性の主体性が高まることが期待できる。森林保全は、女性が主体となって進める農作業や生活と密接に関わっており、女性が森林保全の知識を身に着け、意思決定に参加できるようになることで、森林保全が効果的に進む可能性がある
ナレッジ適用の注意事項
  • 法律で蝶の販売を禁止している国があるので、事前に情報を得る。
  • 希少種の捕獲や取扱は十分に慎重な検討が必要である。
  • 環境教育を実施するためには、現地の小学校との連携や教員の協力で効果的なものとなる。
  • 蝶の飼育は手間と愛情が必要であるが、決して高収入は望めないことを説明する。
  • 蝶生育や植生の状態は季節によって変わるので、調査時期に注意する。
関連リンク
調査・報告
CIジャパン

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