- 対象国
- インドネシア(東南アジア)
- 実施年
- 令和4年度
- 課題・原状
-
森林減少
インドネシアの法律で定められた森林区域面積は、2008年と2018年で比較すると134百万haより120百万haに減少した。一方、実態上の森林は、法令で定められた森林区域よりもはるかに少なく、森林区域内であっても森林が失われているところがある。森林減少は1990年代に著しく進み、1990年と2000年比で119百万haの面積は110百万haに減った。その後 2008年には97百万ha, 2018年には93百万ha, 2020年には92百万haと、減少速度は緩やかになったものの、依然として森林減少・劣化が続いている(FAO FRA 2020 Country Report)。
人工林資源管理と利活用の課題
インドネシアの森林資源は、天然一次林の大径材から、人工林や二次林の資源に移行している。人工林造成の担い手としては、多くが地域住民による社会林業によって担われているが、チーク等の高品質材を除くと、利用率は低く、利用されてもパルプ・チップ用や小径木の足場丸太利用などの低付加価値の利用にとどまる。今後は製材用(建築用材)としての需要を喚起していくことが重要である。現地調査では、以下の点も見えてきた。
- 人工林資源は充実しつつあるが樹齢が若く、径級が小さいものが多く、材質や等級などもそろっていない。強度の強化や耐久性付与などの技術支援が必要
- 木材加工のインフラはあるが製品の殆どは輸出用
建築における課題
伝統的には、様々な木造建築が存在していたが、1980年代ごろからは、鉄筋コンクリート(RC)造、レンガ造、Confined Masonryと呼ばれる工法に移行してきた。現在では、地方も含め都市で木造建築を見ることは少なく、建築用としての製材需要は小さい。RC造等の建築は、耐震基準はあるものの、それが徹底されていないなどのガバナンスの問題もあり、多発する地震のたびに、倒壊による犠牲者が発生している。現地調査では以下の点も見えてきた。
- 国家規格の耐震・耐火規格は既にあるが厳守されていなく、依然として地震により家屋等が倒壊している。
- 耐震性のある住宅設計の開発などは行われている。木造での耐震住宅のデザインは政府でも提供しているが、実施には至っていない。技術、費用、プロセスの課題がある。
- 人々の間には木造を好まず、コンクリートでなくてはいけないという「思い込み」がある。地震の被災状況でも、軽量な木造住宅の方が倒壊しにくかったが、木造住宅は貧しい人の家というマインドセットが強い。2006年ジョクジャカルタ震災からの復興に木造住宅は殆ど導入さてれていない。多くの被災家屋は、RC構造で再建され依然として耐震性は不十分。
- コスト:一般建築は日本の建築コストの10分の1程度であると言われる。ただ本ナレッジは現地の木材資源、ローカルインフラを用いるのでコスト優位性もあると考えられる。この点についてはさらなる検証が必要である。
- 建築産業に参入する場合、①現地法人の設立、②駐在員事務所、③技術供与の方法がある。現地法人の外国出資比率の上限は67%。駐在員事務所を維持するためには、3年ごとに一定規模の受注が必要。
気候変動対策
2016年のインドネシアの温室効果ガス排出量のうち、泥炭火災を含む土地セクターの排出割合が43.59%を占める(インドネシアNDC, 2021)。国は温室効果ガスの削減目標として、2030年には、ベースラインに対し29%、一定の条件を満たす場合には41%削減するとの目標を掲げている(同上)。これらの排出削減対策については、森林を含む土地利用分野が優先分野となっている。
首都移転
2024年に政府機関の移転を開始し、約20年かけて2045年に移転を完了し、東カリマンタン州のバリクパパンに比較的近い地域に新首都「ヌサンタラ」を作る計画である。25万haの用地を準備する予定であるが、周囲の自然環境等に及ぼす影響も懸念されている。現地調査では、10階建ての木造住宅、木造スタジアム、木造空港施設建設の構想があると分かった。
使用した日本のナレッジ
- ナレッジ活用型
-
- 「フォレストシティー」を目指すとされるヌサンタラでのナレッジ活用をする協力・連携を試みる。10階建ての木造住宅、木造スタジアム、木造空港施設は、いずれも大型・高層建築となり木造で実施するには、現在のインドネシア内でのナレッジ不足の可能性があり、KES構法等の日本のナレッジの活用余地に期待ができる。
- 建築物が、耐震性・耐火性のある木造建築で建設されると、地域の持続的森林管理や、住民への生計向上、「都市の森林化」を通じた環境貢献へのデモンストレーション効果がもたらされることが期待できる。
- 木造建築への「お金がない貧しい人のもの」というステレオタイプの見方を、「環境や住民に優しく、安全で気持ちがよいクールな建物」、「自分も住みたい建築スタイル」という方向に変える流れができることに期待ができる。
- 市民の見方が変われば、地震多発地での木造での耐震住宅の建設が普及する可能性が高まる。耐震住宅の建設が進めば、地域住民はより安全な暮らしができるようになり、生計がより安定的に維持可能となり、生計向上活動に取り組みやすくなる。
- 広く定着してしまっている人々の見方を変えるためには、他にも商業建築や富裕層の住宅にまず導入して実例を作り、実物としての見本を見せることも近道となりうる。
- コストについては、日本の製品を持ち込むのではなく、現地の木材資源を使い、ローカルの加工インフラを用いることでのコストダウンが見込まれ、現地に見合う価格に落ち着くことが期待できる。
- 現地での企業活動の規制の複雑性等により、連携協力に当たっては、現地法人を持つ日本のゼネコン会社との連携や、現地の環境意識の高い財閥系大企業との連携なども視野に入れて検討する。
- 森林・住民への貢献・効果等
-
- 低利用にとどまる地域住民による生産材を木造建築資材に使うことで、その製材需要を喚起できる。人工林材の付加価値向上により、地域住民の生計向上など地元経済の活性化、森林の持続的管理の推進、荒廃地への森林復旧などが進む。
- 日本のナレッジ活用により、耐震性・耐火性のある木造建築が促進されると、木造建築への炭素蓄積による排出削減効果が期待でき、地球温暖化防止への貢献がなされる。また、人工林資源の製材(建築用)需要を拡大することにより、荒廃地への植林による森林吸収源としての気候変動対策効果が期待できる。
- 木造建築への「お金がない貧しい人のもの」というステレオタイプの見方を、「環境や住民に優しく、安全で気持ちがよいクールな建物」、「自分も住みたい建築スタイル」という方向に変える流れができることに期待ができる。
- 日本のナレッジを活用して建築物に木材を使用すること、またその耐久性を高めることは、森林を守ることにもつながるため、森林保全に資することとなる。
- 関連リンク
- 参考文献
-
- FAO, Global Forest Resources Assessment 2020 -Country Report Indonesia-
- Enhanced Nationally Determined Contribution (NDC), Republic of Indonesia 2022
- 調査・報告
-
- JIFPRO
- 株式会社シェルター
コメントする