ナレッジ名称:耐震性、耐火性の高い新しい構法の開発により純木造ビルを実現

ナレッジ概要

近年、木材は環境負荷が少なく、持続可能な資源として注目され、我が国の都市部においても民需を中心に、7階建てや10階建て木造オフィスビルの実例が増えてきた。国も2021年10月に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:森林を活かす都市の木造化推進法)を施行し、木材需要の拡大と持続可能な社会の実現のため木材利用の促進を推進している。

一方で中高層木造建築が実現するには、耐火基準、建物自体の重量や地震、台風などに対する構造的な強度、材料調達の適正化などが求められる。当社(株式会社シェルター)が研究開発してきたKES構法や木質耐火部材COOL WOOD(クールウッド)といった木造建築のナレッジは、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比較した際、木造が従来から指摘されてきた耐火基準や構造的強度、加工インフラにおける欠点を改良するアプローチとして実用的なものといえる。このナレッジが広まることで、伐採適齢期にある木材の利用促進、地産地消による地方創生、そして人と地球環境にやさしい社会づくりに貢献できる。

我が国は災害立国・防災立国ともいわれ、東日本大震災による地震や津波で未曽有の被害を被った。同様の被害は東南アジア、中国内陸部、南米でもたびたび報告されてきた。高性能な構法や部材の活用は、これらの国の人々の生活を守る防災上のナレッジとして役立つことが期待される。

背景(歴史・発展)

当社は1974年に山形で創業し、独自開発した木質構造部材の研究・設計・製造・販売のほか、木造建築(大規模・中高層・耐火)の設計(デザイン、構造設計・計算)・施工や木造防耐火設計、木造耐火コンサルティング、木造都市づくりの企画・コーディネートなど、幅広い事業を展開している。

創業当初は、木造建築の最大の弱点と言われていた接合部分の強化を図るべく、「木造建築における接合金物工法」である「KES構法」を独自に開発し標準化した。この「KES構法」により、従来の在来軸組工法と比較して耐震強度及び設計の自由度を飛躍的に向上させることができた。世界各国で特許を取得するとともに、現在では住宅から大規模・中高層の木造建築にまで幅広く採用されている。

また、大規模・中高層の木造建築を普及するためには、建築基準法の規制をクリアする耐火構造材開発の必要性を感じ、2001年には木質耐火部材の研究開発を開始した。その後、2013年6月に1時間耐火の国土交通大臣認定を取得した木質耐火部材「COOL WOOD」を開発した。さらに2017年12月には、木質耐火部材「COOL WOOD」(柱・梁) が国内初となる3時間の国土交通大臣認定を取得したことで、高さ制限を受けることなく木造建築が実現可能となった。

2021年4月には、木質耐火部材「COOL WOOD」に製材を束ねる応用技術を用いて日本初の製材による純木造7階建てビル「髙惣木工ビル」(写真 1_髙惣木工ビル)を建設した。このプロジェクトは既存の加工インフラと製材を活用し、木材の調達から建設までを建設地周辺ですべて完結できることを示した初の事例となった。

写真 1_髙惣木工ビル

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

KES構法

日本で最初に開発・標準化された「木造建築における接合金物工法」である。プロトタイプが完成した1974年以来、改良を重ねながら、世界各国で特許を取得してきた。「大切な家族の命と財産を守る」というコンセプトのもとに開発された接合金物である。かつては大工の勘と経験が頼りだった「仕口」や「継ぎ手」の加工をオリジナルの接合金物を用いることで施工性と木造建築の強度を徹底的に強化した。大空間や大スパンが可能なので、設計の自由度が高く、現在では住宅から大規模・中高層の公共木造建築にまで幅広く採用されている。

図 1_接合部CG

KES構法の栗駒総合支所が災害対策本部に

2008年6月、岩手県内陸南部を震源とするM7.2(気象庁速報値)の地震が発生した。震源地から7kmのところにあった宮城県栗原市の栗駒総合支所は、周辺で地割れや土石流が起こる中、KES構法により建設されたため無傷で残った。そのため、災害対策本部として活用され、耐震構造の重要性が認識された。

写真 2_栗原市総合支所

写真 3_災害対策本部

東日本大震災の大津波に耐える高い耐震性

建物の高さを大幅に超える15m以上の津波が宮城県南三陸町を襲った。周囲には残っている建物が何もない状況の中でKES構法を用いた歌津公民館だけが残り、構造体には傾きや変形が見られなかった。(宮城県南三陸町、延床1,010m2、地上2階)

写真 4_震災前
写真 5_震災後

木質耐火部材COOL WOOD(クールウッド)

木質耐火部材COOL WOOD(クールウッド)は、核となる木材を石こうボードで囲み、外側をさらに木材等で覆った製品である。低コストで加工しやすいことに加え、デザインやコストに合わせて樹種の指定をせず製造可能である。柱や梁の外観は木質のため、木の温もりを活かした建物に仕上げることができるのが特徴といえる。また、一般流通材である製材を束ねた使用方法は確立しており、木材調達から加工、現地での製作、施工といったトレーサビリティが建設地周辺で完結できるという経済的なメリットもある。

COOL WOOD(クールウッド)は全国の協力工場から常時供給されており、(一社)日本木造耐火建築協会https://mokutaiken.or.jp/ を通じて技術をオープン化し、ノウハウや情報が積極的に提供されている。

図 2_COOL WOOD_1時間耐火仕様

図 3_COOL WOOD_2時間耐火仕様

図 4_COOL WOOD_3時間耐火仕様

ナレッジ活用事例

国内初純木造7階建て「髙惣木工ビル」における製材品の活用

仙台駅東口正面に建設された「髙惣木工ビル」は、日本初の純木造7階建ビルのプロジェクトである。採用している木質耐火部材「COOL WOOD」の荷重支持部材には一般に流通しているJAS製材を100%使用し、柱や梁といった構造部材を含め、建設地周辺の地域(岩手、宮城、福島を中心に青森、栃木)より調達を行った。部材製造のための輸送距離も短くなるため、CO2の排出量の削減にも繋がった。

写真 6_髙惣木工ビル_外観
写真 7_髙惣木工ビル_内観

製材でつくる大断面

髙惣木工ビルでは、断面の小さな製品同士をシアープレート(スプリットリング)を用いて結合し、構造材を製作している。集成材を製造する多くの場合、接着剤を用いるが、この木造ビルでは接着剤を使わない方法で束ねて断面を大きくする「複合圧縮材(束ね柱)」を採用している。梁も同様に一般に流通する製材品を合わせることで大きい断面とする「合掌型合わせ梁」としている。このビルの土台・ブレース・柱・梁に使用したスギ・ヒノキ製材の材積は計454m3であり、269トンのCO2を固定化したことになる。

図 5_COOL WOOD束ね柱2時間耐火仕様CG

写真 8 _COOL WOOD束ね柱製作風景1

写真 9_COOL WOOD束ね柱製作風景2

写真 10_COOL WOOD束ね柱2時間耐火仕様

木材流通について

製材を活用して木質耐火構造や複合圧縮材(束ね柱)の開発に取り組んだ背景には、日本国内の木材流通が抱える課題に取り組むことで、中大規模木造建築の市場を広げたい、という思いがあった。

我が国では成熟した森林が広範囲に分布するが、建物を支える構造材料を製造できるJAS(日本農林規格)認証工場は限られている。また、原木を加工し、構造材にするプレカット工程では集成材を製造する際に特殊な大型加工機を用いる必要がある。このことから、地域産の原木を用いてCLTや集成材を製造するためには、産地から製造工場と建設地までを遠距離輸送することが多いのが実態である。

一方、一般の製材工場は、全国各地に多数存在し、生産インフラも整っている。束ね柱は、製材工場から得られる小さな断面の木材を組み合わせ、大きな断面にする技術である。小さな断面で、加工も簡単なため、従来の手持ちの加工機での加工が可能となる。それぞれの部材が小さくて軽いという点も特徴であり、大工、工務店が一般に所有する加工機レベルでもプレカット生産できる。また、集成材と比べ、製造から納品までの時間が短いことも優位性がある。

まとめ

この髙惣木工ビルは商業地区に建っているため、耐火性が求められる。7階建ての木造建築物で要求される2時間耐火基準は「COOL WOOD」(1、2 時間耐火仕様・柱・梁、2時間耐火仕様・床)により法律が求める基準をクリアしている。製材を活用した木造ビル建築は、建設地周辺のインフラを用いることができるので、素材生産地の森林側に近く、山側に資金が戻る経済的効果も高いことから、地産地消、地方創生を林業の面から貢献できる側面がある。7階建てというビルのスケールは日本国内で1年間に造られる建築物の9割を超える市場に対応できるレベルであり、持続可能な社会を目指す上で木材の需要拡大と環境負荷低減の面からも良いモデルケースとなった。

この技術が海外で活用される場合、現地の木材を調達し、大型加工機を使用せず既存インフラで加工から施工を行うことができるので、木材調達のコスト削減や運搬による経済的負荷の低減など多方面にメリットがあると期待される。

さらに、東日本大震災による地震や津波と同様の被害は東南アジア、中国内陸部、南米などでもたびたび報告されてきた。高性能な構法や部材は、これらの地域社会にも安全と安心をもたらす防災技術として寄与するものと考えられる。

日本における位置づけ・特徴

COOL WOOD(クールウッド)の特許は一般社団法人日本木造耐火建築協会(会員数:産学官民団体500以上)を通じ、技術をオープン化している。会員であれば、協会が主催しているマニュアル講習会を受講し技術を使用することができる。マニュアルは国立研究開発法人建築研究所の監修を得ており、1・2・3時間耐火の大臣認定に加え、会員より提供され協会が管理・運用する計30種類の大臣認定が収録されている。技術をオープンクローズ化することで、権利を保護しつつ、適切に運用されるようにしている。協会では定期的に木材利用拡大に関する実例紹介イベントの開催を行っており、木造で建てたいという技術者に向けた情報を発信している。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

株式会社シェルター https://shelter.inc/

お問い合わせ https://shelter.inc/contact/form-case

株式会社シェルター

〒108-0014

東京都港区芝5の13の15 芝三田森ビル 3F

TEL:03-5418-8800、FAX:03-5418-8801

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