ナレッジ名称:竹材の防虫技術ー竹の耐久性をあげる-

ナレッジ概要

虫害は、カビ、割れとともに「竹の三悪」とされ、竹材の防虫技術は、竹製品の寿命の延長と品質向上に重要な技術として探究されてきた。古来より暮らしの様々な場面で竹を利用してきた日本文化において、防虫対策に係る知見は文化財保存にも有効で、産業的、文化的分野における研究が重ねられている。

日本では、伐採後に虫のつきにくい時期を選んで伐採する方法や、漆塗装が防虫対策として伝統的に行われてきたほか、現代では、薬剤の塗布浸漬も行なっている。薬剤使用については、安全志向や環境志向の高まりから、高温高圧蒸気処理による炭化技術などの代替策の開発、効果検証が進められている。

本ナレッジでは竹産業の生産現場で導入されているナレッジを対象とする。

背景(歴史・発展)

日本において竹類は全国各地に生育しており、マダケ、モウソウチク、ハチク、チシマザサなど131群に分類される種類の竹が自生または栽培されている。そのうち有用種が農業、漁業に用いる暮らしの道具に利用され、縄文前期の遺跡から籃胎漆器(竹を網目状に編んだものに漆を塗り重ねた容器)が青森県是川遺跡で出土していることから、その歴史は少なくとも数千年前にまで遡ることができる。防虫対策に係るナレッジのいくつかは、そうした長い歴史の中で培われ、受け継がれており、漆塗装もその一つである。中には、新月伐採(新月の時に伐採すると虫がつかず腐りにくい)のように、科学的な検証が難しいものも存在する。現代に入り、サイエンスにもとづいた手法の導入や研究開発が行われる一方で、伝承により行われてきた竹の伐採時期の選択による虫害低減についても、研究によって、その効果が科学的に認められるようになった。

図1 害虫による食害(上:小さな穴が成虫の脱出孔、下:内部の食痕)
図1 害虫による食害(上:小さな穴が成虫の脱出孔、下:内部の食痕)

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

日本では、竹の食害を及ぼす主要な害虫として、チビタケナガシンクイ、ニホンタケナガシンクイ、ヒラタキクイムシ、アラゲヒラタキクイムシ、ササコクゾウが挙げられる。この中で加害量の大きいチビタケナガシンクイ(図2)、ヒラタキクイムシ(図3)はいずれも南方系で、東南アジアにも分布する。さらにチビタケナガシンクイは、幼虫、成虫ともに食害を及ぼすため、幼虫のみが食害を及ぼすヒラタキクイムシと比較して加害量が大きい。そのほか、タケトラカミキリやベニカミキリの成虫が竹に産卵することで幼虫による食害も見られる。

図2 チビタケナガシンクイ(Dinoderus minutus) (M. O'Donnell and A. Cline, Wood Boring Beetle Families, USDA APHIS PPQ, Bugwood.org撮影)
図2 チビタケナガシンクイ(Dinoderus minutus) (M. O’Donnell and A. Cline, Wood Boring Beetle Families, USDA APHIS PPQ, Bugwood.org撮影)

図3 ヒラタキクイムシ(Lyctus brunnus)(Pest and Diseases Image Library , Bugwood.org撮影)
図3 ヒラタキクイムシ(Lyctus brunnus)(Pest and Diseases Image Library , Bugwood.org撮影)

防虫技術に係る研究では害虫の種類ごとに効果検証が行われているが、いずれかの種類の虫に効果が認められるものは他の種類にも応用できる場合が多く、現実的には、上述の害虫一般に効果のある技術が採用されていると考えてよい。

竹の伐採時期

害虫は、竹内部の糖分を栄養とするため、糖分・デンプン含有量の高い竹材が虫害を受けやすい。タケノコを生やし、成長させる春・夏期の竹は糖分・デンプンを多く含むため虫が付きやすく、秋・冬期に伐採された竹の方が虫がつきづらいとして推奨されている。具体的な時期は、地方によって異なり、職人らによって経験的に選択されている。現実的には、秋・冬期に限って伐採、販売することで産業を成り立たせることは難しい。一年を通じて伐採する必要があるため、防虫技術を併用しながら、より長持ちする竹材、竹製品を産出する必要がある。

さらに、旧暦8月(現代の9月)の新月に伐採する竹は虫がつきづらく、長持ちするとの伝承もある。こうした新月伐採の伝承は木材伐採にも存在し、世界各地で同じような言い伝えが見られるが、科学的には、月の動きと虫害の多寡に相関関係は認められていない。

竹材の加工

害虫は竹内部の糖分を栄養とするため、竹皮を用いる編組加工用には、竹材を入手後すぐに竹ヒゴに加工し、皮と身を分けることも有効とされている。また、油抜きは、竹の内部から糖類が抜けるため防虫にも効果がある。

薬剤処理

日本では、クロルデンまたはクロロナフタリンなどを主剤とする薬剤の塗布浸漬が行われていたが、こうした化学薬剤は、近年の安全性基準の強化を受けて規制または全廃となっている。そのため、現在では法規制上問題なく、環境負荷の小さい薬剤が流通しており、防腐・防カビの用途を兼ねて使用されている。塗布浸漬法では、防虫効果の持続に限りがあるため、真空加圧式注入機により竹の内部まで薬剤を浸透させ、より長く防虫効果を持続させる方法も開発されている。

日本では木質材料に使用できる保護剤は日本木材保存協会で審査され、認定された薬剤が利用され、処理された材は、日本農林規格(JAS)や日本工業規格(JIS)で規格化されている。薬剤を使用する方法は、主に建材や、竹垣、竹杭となっており、食器や雑貨類ではあまり用いられていない。

熱処理

薬剤の代替技術として、炭化加工が注目されている。専用の窯を用いて、高温高圧蒸気により竹を前処理する方法で、大分県産業科学技術センターの検証により、一定の防虫効果が認められたものの、依然として薬剤同等の決定的な効果を得るためにはさらなる技術開発が必要とされている。

類似の木材の劣化防止法としてアセチル化処理がある。アセチル化とは木材と無水酢酸を高温・高圧下で化学反応させる方法で、材の疎水性(水をはじく性質)が増し、耐久性や耐候性が向上する。竹材でもアセチル化の試験が行われ、チビタケナガシンクイムシの食害に有効とされた。

ナレッジ活用事例

竹稈(稈(かん)とは茎の部分)の木部には糖類やデンプンが多く含まれ、そのままではカビや害虫によるダメージを受けやすい。防虫技術を適切に活用することで、竹製品の耐久性を高めることができる。

日本のナレッジは竹かごや竹垣などの製品を扱うことが多い。一方、熱帯地方の途上国では、建築材料や工事の足場として広く竹が利用されるので、強度低下につながる腐朽防止は重要な問題である。その事例を見ると、まず糖やデンプンの多い若い竹を使わないこと、そして簡便な防虫防腐方法として、水に浸漬させる方法がある。伐採した竹を速やかに水に漬け(流水または水を時々かえながら)、かびつないように注意して1月程度漬けた後、十分乾燥させる。この処理により糖質を洗い出し虫が付かないようにする。食塩水を使う場合もある。また安全性の高い無機薬剤としてホウ酸塩溶液(Boraxなど)に漬ける方法もよく使われている。その他の伝統的な方法として、煙による燻蒸も古くから使われている。化学的処理法としては木材の防腐防虫用薬剤も竹に利用されるが、毒性の強いものは禁止される状況にある。最近では環境に優しい方法が模索され、ニームの抽出液や植物由来の各種バイオオイルを使った試験も多い。ただし、実験室レベルの検証にとどまることが多く、実用化されたものは少ない。

アジア諸国では、竹製品は森林ビジネスの産品候補として期待されている。竹は生育が早く換金までの年月が短いため、ビジネスに参加する住民が効果を実感しやすい産品である。一方、途上国は一般に製品の品質が低く、国内富裕層向けや外国人観光客向けあるいは海外輸出といった付加価値が高い市場への参入障壁となっている。防虫技術については、途上国でもそれぞれの地域で伝統的な手法を持ち合わせている可能性が高いが、日本の技術を参考にさらに強化できる見込みがある。より長持ちし、品質の高い製品が生産できるようになれば、途上国において、竹製品がより収益性の高い森林ビジネスとして成長することが期待できる。

なお、竹は種類が多く、地域によって気候・風土や主要な害虫にも違いがあるため、異なる国や地域へ防虫技術を応用する際には、当地の状況に合わせた手法の検討が必要である。また、薬剤や機械類などの資材が必要となる技術は、資材の入手可否についても事前の検証が必要である。

ナレッジ活用モデル

日本における位置づけ・特徴

防虫技術は、竹を利用する世界各地で古くから探究されてきたと考えられる。日本では、竹の伐採時期を選ぶ方法などが伝統的に行われてきた。1970年代以降、森林総合研究所や、公設試験研究機関によって、防虫技術の検証や手法開発が行われた。現在では、安全志向や環境志向の高まりを受けて、薬剤処理に替わる技術開発が求められている。そうした社会背景の中で、虫害を、あくまでも自然素材の特徴として受け入れるといったような再定義も散見される。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

防虫技術に関して、森林総合研究所や、大分県産業科学技術センター、鹿児島県工業技術センター、北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場など、竹産業や木材産業が盛んな地域の公設試験研究機関によって、研究開発が行われてきた。

近年では、大分県産業科学技術センターによる、加圧蒸気処理技術やアセチル化処理による食害抑制、竹集成材に施された各種処理の防虫効果をテーマとした研究や、東京文化財研究所による、カミキリムシの低温処理殺虫の研究がある。

関連URL

引用・参考文献

  • 衛藤武一(1982)「チビタケナガシンクイムシの飼育と防虫試験について」木材保存22号17-31
  • Kaur et al. (2016) “Eco preservative for bamboo” BioResources 11(4) 10604-10624
  • 木川りか・大下芳博(2005)「カミキリムシに食害された竹製品の低温処理による殺虫事例」保存科学44号43-48
  • 小谷ら(2006、2007、2008)「生物劣化を抑制する加圧蒸気処理技術の開発 第1報〜第3報」大分県産業科学技術センター研究報告
  • 森八郎・新井英夫(1979)「タケ材の虫害と防除措置」保存科学18号41-56
  • 森田慎一(1985)「竹材の成分分析試験(V) 材中の抽出成分量虫害との関連について」鹿児島県木材工業試験場業務報告書26-28
  • 二宮信治(2000)「竹材高温高圧蒸気処理の虫害防止効果」大分県産業科学技術センター研究報告125-126
  • 二宮信治・中原恵(2000)「竹集成材に施された各種処置の防虫効果」大分県産業科学技術センター研究報告127-131
  • 二宮信治・小谷公人(2002)「アセチル化処理した竹材のチビタケナガシンクイムシ食害試験」木材保存 28-4: 135-143
  • 布村昭夫(1968)「ヒラタキクイムシの生態と防除(1)」北海道立林産試験場月報202号1-4
  • 高部圭司・吉村剛(2006) 生物学的視点から見た「新月伐採法」木材工業61巻12号 577-583
  • 林野庁(2018)「竹の利活用推進に向けて」
  • 山野勝次(2014)「文化財の材質からみた主要害虫」文化財の虫菌害67号18-25

その他

竹製品は木材と比較して生育がはやく、換金までの年月も短いので、近年、森林保全政策として各国で推進されている住民参加型の森林管理制度と相性のよい素材である。

コメントする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です