ナレッジ名称:大豆おからの食品加工技術-栄養価の高い未利用資源の有効利用-

ナレッジ概要

大豆おからは豆腐の製造過程での絞り粕である。江戸時代の料理本には大豆おからの調理法も記されており 、和食では炒り煮や蒸し料理、汁物の材料として用いられてきた。現代の日本では、生おからや乾燥大豆おからを粉砕したおからパウダーも食品原料として食品に用いられている。日本が培ってきた大豆おからを食品として活用する技術を用いて、付加価値を高めた食品開発が可能となる。

背景(歴史・発展)

豆腐は奈良時代に中国から日本に伝わったとされ、庶民も口にするようになったのは江戸時代である。天明2年(1782年)に「豆腐百珍」という豆腐料理の本が爆発的な人気を呼んだ頃には、日本全国で豆腐が食されるようになった。大豆おから(図1)は豆腐の製造過程で豆乳を絞った際に生じ、同じ江戸時代に出版された料理本には大豆おからの調理法も記されており、和食では炒り煮や蒸し料理、汁物の材料として用いられることが一般的だった。現代の日本では、乾燥前の生おからや大豆おからを乾燥・粉砕したおからパウダーが食品原料として多様な食品に用いられており、日本が培ってきた豆腐を製造する際に発生する大豆の絞り粕である大豆おからを食品として活用する技術を同じ植物性タンパク質食品であるサチャインチおからの加工に応用することで、付加価値の高いサチャインチおからの加工食品の開発を目指す。

図 1 豆腐制作の途中で出るおから

出典:食オタMAGAZINE(2021年11月3日参照)、「豆から自家製!手づくり豆腐をつくってみよう」、 https://www.shokuotamagazine.com/shokuotanote_handmadetofu

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

おからは、具体的には豆腐作りの以下の手順のなかで発生する。

  1. 大豆の精選:割豆、破砕豆、虫喰豆、他の種子類、異物などの夾雑物を取り除く。
  2. 洗浄:大豆の表面に付着している土・ほこりなどを十分取り除くために、水洗いを何回も繰り返す。
  3. 浸漬:次の工程の大豆磨砕をしやすくするために、水に漬ける。漬ける時間は水温によって異なるため、気温にも気を使う工程である。また、ここでも、割豆、破砕豆、虫喰豆、他の種子類、異物などの夾雑物を取り除く。
  4. 摩砕:浸漬し水分を含んで大きくなった大豆を細かく砕く。昔は石臼で挽いていたが、現在はグラインダーが一般に用いられる。磨砕は、大豆の細胞を破り、タンパク質等の成分を抽出するのに役立つ。磨砕は注水しながら行うが、加水量によって豆乳の濃度を加減する。磨砕した大豆を生呉(なまご)と呼ぶ。
  5. 加熱:生呉を加熱する。加熱は、大豆タンパクを凝固しやすく、成分を最大に溶出させるために行う。昔は、生呉を釜に入れ直火で加熱(地釜)していたが、現在はボイラーによる蒸気加熱が主流で、加熱温度は100℃前後である。生呉を加熱したものを煮呉(にご)という。
  6. 絞り:次の工程の大豆磨砕をしやすくするために、水に漬ける。漬ける時間は水温によって異なるため、気温にも気をつかう工程である。また、この工程で、豆乳とおからに分けられる(図2)。
図 2煮た大豆(煮呉)を絞り、豆乳とおからをこし布で分ける工程

出典:食オタMAGAZINE(参照:2021年11月3日)、「豆から自家製!手づくり豆腐をつくってみよう」、 https://www.shokuotamagazine.com/shokuotanote_handmadetofu

大豆おからは栄養価が高い食品である一方で、食物繊維が多く、モソモソした食感や大豆製品特融の風味や臭みが特徴的である。しかしながら、日本ではこれらの欠点を克服するための調理法や加工技術が培われてきた。

現在では、食品廃棄物として扱われることも多いおからであるが、江戸時代には、安価で腹を満たし、体を温めてくれる市民にとって欠かせない食材であった。また、切らずに食材として利用できることから、「きらず」と呼ばれていた。煮物、汁物、ふりかけなど多様な調理法で利用され、すり鉢ですって滑らかにする、あるいは、パラパラな状態になるまで炒って使用する、酒、酢、みりんなどと一緒に煮る、魚と一緒に食す(図3)などの工夫がなされてきた。

図 3 茨城県の郷土料理であるいわしの卯の花漬けは、豊富にとれる新鮮なイワシを長く味わえるように酢と合わせて保存食として重宝されてきた

出典:農林水産庁(参照:2021/11/3)、「うちの郷土料理」、 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/iwashinounohanazuke_ibaraki.html

ナレッジ活用事例

大豆おからは、炒り煮や蒸し料理、汁物の材料として用いられることが一般的だった。例として、高知県では、昔は正月前に豆腐を作ることが仕来りで、その際に生じたおからをもち米と混ぜて作る餅にして正月に食べられていた。その他、おからを味付けして魚と一緒に食べるなど、多様な活用法がある。

近年では大豆おからが低糖質で食物繊維やたんぱく質が豊富なヘルシー食材として注目され、クッキーやプロテインバー等の健康・ダイエット食品に利用されるほか、ハンバーグのつなぎやスイーツを作る際の小麦粉の代用品、練り物、チョコレート菓子やワサビ製品等、多種多様な食品の原料としても用いられている。

日本ではあまり知られていないものの、海外でもおからは活用されてきた。インドネシアでは、栄養価の面で注目されている、オカラテンペという発酵おから食品として利用されている。ヨーロッパやアメリカでは、19世紀ごろに豆腐や豆乳が紹介され、おからをパンの材料として使用していた事例もあった。1960年代以降は、アメリカで栄養面に注目し、様々なレシピ開発が行われてきた。そのほか、中国では、豆腐店の近くに養豚場を設け、家畜の餌として活用されていた。

日本における位置づけ・特徴

大豆おからは、豆腐の製造過程で豆乳を絞った際の絞り粕で、本来は豆乳を絞った後に廃棄されるものであるが、栄養価が高いこともあり、古くから日本では資源として有効活用してきた。このように、大豆おからは日本人に馴染み深い食品である。

豆を絞ったあとの粕を活用するという観点から、途上国でも同様に、現状では廃棄してしまう絞り粕を有効活用する知恵を活用できる。おから活用にあたっての課題として、傷みやすいということが知られているが、近年では、乾燥おから、パウダー状の乾燥おからなどの商品も開発され、利用の幅が大きく広がった。海外においても、豆などを絞った後の粕が傷みやすいことが考えられるが、乾燥や粉砕などの新しい技術を活用することで、十分に活用されていない資源の有効活用が期待できる。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

一般社団法人「日本乾燥おから協会」、一般財団法人「全国豆腐連合会」、「NIPPONおからプロジェクト」などの団体が豆腐おからの利用促進にむけて活動している。

関連URL

その他

豆を絞ったあとの絞り粕を有効活用する知恵は途上国等でも活用できる。例として、ペルーでは、サチャインチのナッツからオイルを絞ったあとのおから状の絞り粕の活用について課題がある。現在は、十分に活用されていないが、サチャインチおからは良質なたんぱく質を豊富に含んでおり、豆腐おからのナレッジを活用し、加工食品などを開発し付加価値と認知度を高めることで、資源の有効活用の可能性が広がり、流通の拡大が期待される。