ナレッジ概要
紙おむつなどに使われる吸水性の高分子素材(super-absorbent polymer: SAP)は、吸水力の強さと吸水量の多さから乾燥地の農業や植林における土壌改良材(保水材)としての利用が期待されている。しかし、塩分の多い土壌では吸水性能が劣化しやすいという欠点がある。また、広い面積にSAPを施用するには多額のコストがかかる。緑化や林業の場合、植林時に苗木周囲の狭い範囲に施用し、苗木活着率の向上や初期成長に限定した利用が現実的である。SAPの保水効果は樹種や土壌条件によって異なるので、適用地域の対象樹種と土壌を用いた事前テストを推奨する。
キーワード:乾燥地植林、土壌改良材、Hydrogel、吸水性高分子、緑化
背景(歴史・発展)
1974年ころから米国農務省では高分子が水を吸収して膨潤することを利用した土壌保水材の開発が行われていた。これとは別に、日本の企業は吸水性高分子を使った紙おむつを開発し、内外で実績を重ねてきた。同時に高分子の吸水特性を砂漠緑化や乾燥地農業へ利用することが検討され、1990年ころには日本国内でも多くの試験が行われた記録が残っている。しかし、湿潤温帯な気候である日本国内の需要が限られることもあり、農林水産省の指定する土壌改良材リストではポリビニルアルコール系高分子が団粒形成促進材としてのみ認定されている。日本での注目度は低下した感があるが、2010年頃から海外で再び研究が増加し、熱帯地域の途上国からも試用例が報告されるようになった(図1)。また、日本のSAPメーカーが世界市場に占める割合は大きいため、紙おむつ以外の用途拡大の方向が求められており、土壌改良材も再び注目されている。
SAPの素材は石油化学系が主流であるが、天然物由来のSAPの研究開発も盛んに行われている。石油化学由来のSAPは分解しにくく土壌に残留する可能性が心配されているためである。天然物由来のSAPは適度な分解性をもつは今後主流になる可能性はあるが、今のところ小規模な適用例に限られている。
具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)
SAPは石油化学由来の高分子や天然物由来の高分子を素材として製造される。現在、市販製品の大多数は石油化学由来の製品である。常温乾燥時はプラスチック(固体)で、それを粉砕し粒度をそろえて販売されている。粒度は0.5㎜以下が多いが、2㎜程度の大きな製品もある。水を吸収すると膨れスライム状のゲルとなる。純水(蒸留水)の場合、吸収率は数百倍になる(図2)。ただし、土壌と混ぜると、土壌粒子のすきまでしかSAPは膨潤できない。保水量の増加を期待しすぎてはいけない。SAPの効果は砂のような排水の良すぎて水不足になる土壌に対し有効である。SAPにより排水が遅れるため、土壌水の植物による有効性が高まる。SAP自体が水を生むわけではないので、必要な水は与えなければ効果はでない。灌水頻度を減らしたり、乾季の枯死リスクを低減することが主な効果である。樹種によってはSAP添加により発根がよくなり、活着促進につながる。
ナレッジ活用事例
最近の国内使用例としては海岸林の造成で使われた例がある。海岸の砂地は水はけがよく乾燥しやすい。また飛砂を抑える対策が必須である。SAP保水材の投入により保水性が高まり、飛砂が抑制され苗木活着率が向上した。十分吸水したSAPを利用すると活着促進に有効という結果が得られている(山部・小山 2013)。
日本における位置づけ・特徴
日本は世界で有数のSAP生産国で、様々な用途について検討が進んでいる。熱帯乾燥地域の農業や緑化分野での活用が期待されている。
ナレッジの所有者・継承者および連絡先
株式会社日本触媒、三洋化成工業株式会社などがSAP製品の日本の主な製造メーカーである。 土壌保水材用として小売りされている製品もある。
関連URL
引用・参考文献
- 高橋ら(2018) 林業・緑化分野における高吸水性高分子樹脂の利用. 森林科学会誌https://doi.org/10.4005/jjfs.100.229
- 高橋ら(2020) 高吸水性高分子樹脂を添加した土壌の物理・化学・生物特性.森林立地学会誌 https://doi.org/10.18922/jjfe.62.1_51
- 高橋(2020) 高吸水性高分子樹脂(SAP)の植林への利用―SAP の特徴と現場における土壌水分の変化―.海外の森林と林業 https://doi.org/10.32205/jjjiff.107.0_23
- 高橋ら(2022) 高吸水性高分子樹脂(SAP)を用いた植林の可能性.海外の森林と林業 https://doi.org/10.32205/jjjiff.115.0_3
- Takahashi et al. (2023)Water Retention Characteristics of Superabsorbent Polymers (SAPs) Used as Soil Amendments. Soil Syst. 2023, 7(2), 58; https://doi.org/10.3390/soilsystems7020058
- 矢部・小山(2013) 海岸砂地におけるクロマツ植栽木の活着率向上のための保水材等の使用方法.海岸林学会12:35-40 http://jscf.jp/journal/pdf/JSCF12(2)35-40.pdf
その他
土壌水分状態を改善しても、植物の生理特性によりSAPの効果は大きく異なる。また、SAPの添加量は多くても土壌重量の1%以下であり、少ない方が効果的という報告も多い。事前に小規模な試験を行うことを推奨する。
SAPは水管理を補助するものである。水管理と併用しない場合は、地域の降水量を補完する程度であることを理解ていただきたい。樹木を使った緑化の場合、苗木の活着促進など初期の効果に限定されたものである。
パルプ生産などの大規模産業植林でも利用されていると聞く。ノズルを土壌中に差し込み加水したSAPゲルをポンプで注入する方法もがある。
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