ナレッジ名称:粉末加工技術を用いた途上国未利用資源の活用

ナレッジ概要

粉砕機を用いた加工は日本の優れた技術である。食品は、視覚、臭覚、味覚、触覚、聴覚などの五感でおいしいさが判定される。例えば、舌触りにざらつきが出る粒子の粒形は20~30㎛以上であり、粉の粒度は食品にとって重要な要素である。

微粉砕機で食品原料を非常に細かい粉末に粉砕することで、食感が滑らかになるだけでなく水への溶解性が向上し、液体状態の食品へも利用範囲が広がる。微粉末加工技術を活用し、加工の幅が広がることで、食品原料の高付加価値化が期待できる。

背景(歴史・発展)

古代から現代にいたる人類の歴史の中では、ものを砕くことで新しいものを作り出してきた。例えば、化粧品用の顔料としての粉体の利用は約50~60万年の歴史がある。石器時代(約1万年前)には、穀物を石ですりつぶして粉にし、風力を利用して分別したと言われている。日本書紀にも鉛白系の化粧品が用いられていたという記述がある。

日本の食文化で粉体化といえば、うどん、蕎麦、豆腐、きな粉、抹茶、胡麻、団子などの粉ものが挙げられる。これらの食べ物は石臼なしに存在しなかったので、うどんなどは貴族の食べ物であった。500年ほど前(江戸時代)になって石臼が普及し、蕎麦やうどんは庶民の食べ物になった(図1)。しかし、大正末期から昭和初期になると、機械による粉砕技術が進み、また、市販の粉の普及が進んだことで、石臼は次第にすたれていった。

現代では、粉体製造技術はさらに機械と高精度化が進み、食品、医薬品、IT向け高機能材料、化粧品など様々な分野・領域で粉体が活用されている。材料についても、生物(動植物)、鉱物、金属材料、化学製品、無機材料など多様な素材が粉砕され、用途が拡大している。

投稿者自身による作品 CC 表示-継承 3.0, リンクによる

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

粉体は、気体、液体、固体の3形態のいずれかからも生成される。液体からは液体に溶け込んだ成分を沈殿させる方法があり、溶液の析出により、粉体が生成される。この方法は、粒子の大きさや形状などが均一な粉体の生成に向いている。主に、乾燥法、イオン反応法、加水分解法の3手法に分けられる。乾燥法は、機械を用いて粉体を含んだ水溶液を急激に乾燥させることで粉体を生成する方法である。イオン反応法は、成分を含んだ溶液を混合し反応させて生成した難溶性の沈殿物を処理する方法である。この方法では、用いる溶液の濃度が濃いほど細かい粉体が得られる。加水分解法は、金属アルコキシド(アルコール類の水酸基(-OH)の水素を金属で置換した化合物)と水を作用させることで粉体を発生させる方法である。この方法により、微細な粉体結晶を得ることができる。

固体の粉砕は、自然に存在する石灰石や石英、粘土の原料などを粗砕、中砕、粉砕、微粉砕し、これを分級して粉とする(図2) 。また、木の実や穀物では、皮と実を分け、実を粉砕して粉にするが、この手法は石器時代から行われている。また、固体からの粉生成は、叩く、転がす、擦る、の3手法に大別される。具体的な、粉砕機の名称の例は以/下の通りである。

  • 叩く:ハンマークラッシャー、スタンプミル、ハンマーミル
  • 転がす:ロールクラッシャー、エッジランナー、ローラーミル
  • 擦る:ボールミル、タワーミル、ビーズミル

その他、「粉末化する」、「霧化する」という意味のアトマイズという方法で、固体を粉砕にしないで、溶液から直接粉体を取り出す方法がある。この方法では、急激に温度を下げて凝固させるため、粒子の形状が丸くなるという特徴がある。例として、高圧ガスによって温めた溶液を噴霧して急冷する方法、温めた溶液を回転するディスクで飛散、急冷する方法、温めた溶液を水中に噴霧させ、急冷することで粉体を生成する方法などがある。

By Smalljim – Own work, CC BY-SA 3.0, Link

ナレッジ活用事例

粉砕技術は、多様な材料で使用されている。食品では、米、蕎麦、大豆、麦、雑穀などの穀物や、各種お茶類、ニンニク、朝鮮人参、ミネラル、きのこ類、漢方薬等の食品、砂糖、塩、昆布、カツオ節等の調味料などの粉砕に利用されている。さらに、ホタテ焼成カルシウム、ホタテ貝殻、焼酎カス、蔓藻、竹チップ、籾殻、カニ殻、エビ殻、カンキツ皮類などの乾燥品など、本来は廃棄されてしまうものを粉砕加工することで新しい用途に活用される事例がある。さらに、石灰や長石などの鉱物、プラチナ、チタン、セメント、岩塩、活性炭等の工業材料、正極材・負極材といった電池材料など、IT向け高機能材料、工業など様々な分野でさまざまな粉砕技術が発達した。

途上国の植物資源も粉砕技術のナレッジで用途が拡大する可能性がある。ペルー原産のサチャインチのナッツ(図3)からオイルを絞った後の搾りかす、すなわちサチャインチおから(図4)の利用用途は限られていた。そのため、サチャインチおからを乾燥し微粉砕したところ、テクスチャーが大幅に改善された。他の食品との組合せも容易になり、利用の拡大が期待される。今回は、気流粉砕機を用いて微粉砕したものを用いたが、粒度や用途によって適切な機械の選択が望ましい。サチャインチおからは高栄養なので、高機能食品としての商品化など、様々な形での高付加価値化の可能性を検討されている。

図3 サチャインチ
By The lifted lorax – Own work,CC BY-SA 3.0, Link
図4 ペルーのサチャインチパウダー

日本における位置づけ・特徴

粉砕技術は、前述の3.に記載されている通り、食品のみならず、現在の日常の生活用品の生産に必要不可欠な技術となっている。食品に関しては、古くから用いられている穀物等の粉砕のみならず、微粉砕にすることで活用の幅が広がる可能性がある(図5)。多くの企業が微粉砕加工業者と相談・協力しながら新しい商品が日々生み出されている。

日本の砕機製造業者の特徴として丁寧なフォローアップがあげられる。製造した機器を導入した企業に対しては、運転・維持管理に関する指導が継続して行われている。先進国に限らず途上国でも、粉砕、微粉砕のナレッジを活用していきたい企業が安心して導入できるサポートを提供している。

図5 微粉砕処理による用途の拡大

関連URL

本ナレッジに関連するインターネット上の情報は以下の通りである。

引用・参考文献

  1. 株式会社イプロスTech Note 編集部 2015年 粉体工学の基礎知識1 粉の歴史とその恩恵
  2. 株式会社イプロスTech Note 編集部 2015年 粉体工学の基礎知識4 さまざまな分野で使われる粉粒体

その他

日本の海産資源では、ホタテやカキの貝殻を微粉末化してバイオプラスチックや土壌改良材などの商品として既に売り出されている。

ペルーのサチャインチのナッツからオイルが十分に活用されていないので、絞り粕(サチャインチおから)を微粉末化することで付加価値のある新たな商品を開発する取り組みが行われている。微粉末化のナレッジにより、途上国の十分に活用されずに廃棄されてしまうさまざまな森林資源の活用が広がることが期待できる。