ナレッジ名称:簡易炭焼きによるマイクロ製炭技術-自分で炭焼き-

ナレッジ概要

炭は古くから世界の各地の多くの民族により使用されてきた。近年、わが国での木炭の生産量は大幅に減少しているが、いまでも一般的な炭焼法である黒炭窯による生産がおこなわれている。木炭は熱利用をはじめ、吸湿、脱臭、保水など様々な用途に利用されている。黒炭窯での木炭づくりは里山の自然の摂理を最大限活用しており、まさしく持続可能なシステムに裏付けられた技術といえる。ここでは、黒炭窯による製法に加え、比較的簡易に個人で炭焼きができる技術を紹介する。最近のアウトドアブームがきっかけに、価格が安価な輸入品の炭を利用したレジャーのあり方の見直しにつながる可能性がある。また、簡易な炭焼きの技術は途上国にも導入可能と考えられ、森林資源の循環利用や未利用木質資源の活用を通じて、森林の有効活用と保全につなげていくことが可能である。

背景(歴史・発展)

炭の発明は30万年以上の昔であり、燃料の木材がもつ自然の性質に対し煤煙を除き、軽くし、火熱を保たせ、腐るのを防ぐように工夫してつくられており、世界の各地の多くの民族に使用されてきた。また、炭のほとんど(80~96%)が炭素なので、熱を加えなければ酸化せず、熱利用だけでなく、顔料、防腐、吸湿、脱臭、研磨、保水、絶縁体など多方面で利用されている(樋口, 1993)。

わが国において里山での木炭の生産が盛んになったのは、明治中期頃から大釜で堅炭が焼ける技術が全国各地に普及するとともに、都市住民が木炭を使って食事の調理がされるようになって需要が拡大したことによる(有岡, 2004)。当時の炭窯は谷底の平坦面と丘陵斜面との境界部に作られ、背後斜面の森林は尾根部までも伐採されていたとされている(西城, 2020)。

わが国での木炭の生産量は1957年に200万tに達し、最大量となった1960年代以降、いわゆる燃料革命を転機として、石油・ガス・電気の利用増加、そして近年では輸入炭が増大するなどの理由により、国内生産の減少がつづいている(柳沼, 2003 ; 農林水産省, 2021)(図1)。このような状況の中、最近の木炭の生産は里山の森林内ではなく、あまり近隣に迷惑がかからない山麓の家の庭や畑などに窯を設置し、薪の搬入や炭の搬出など自動車が横付けできるような場所で行われることが多い(写真1)。

図1 我が国での木炭需給の推移
写真1 里にある黒炭窯

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

炭焼きの方法は、伏せ焼きや炭窯、ドラム缶窯、オイル缶窯などがある(農文協, 2008)。今回は伝統的な黒炭窯と最近の取組みを紹介したい。

黒炭窯はもっとも一般的な炭焼法で、800℃までの炭焼き温度により、黒炭を作ることができる(柳沼, 2003)。栃木県矢板市にある黒炭窯3窯にて木炭を焼き続けている古川夫妻に炭焼きの一連の過程を見学させていただいた。黒炭は7~10日間程度の時間をかけて、じっくりと焼き上げる。薪と燃料としての木片等を窯内に詰め込み(写真2)、火入れをするとまずは白い煙があがり、その後青い煙に変化し、煙の色が無くなったら、入り口をふさぎ酸欠状態にして、窯が冷えるのを待つ。冷えたところで、木炭を取出す(写真3)。「毎回木炭の出来具合が異なり、見るのが楽しみ」と古川夫妻。木炭は問屋に納品し、焼き鳥屋やうなぎ屋などで使われている。

写真2 隙間がないように木片を詰める

写真3 焼きあがった木炭

伝統的な炭焼きに対し、簡便な炭焼き器も各種市販されている。無煙炭化器(モキ製作所)は、燃焼中は煙が出にくく、比較的簡易に細かな炭をつくることができるので、雑木の処理や環境学習などに活用されている(写真4)(農文協, 2008 ; 東京大学富士癒しの森研究所, 2020)。

写真4 無煙炭化器

炭化時間の削減に取り組んでいる例として、阿部式炭窯(特許登録第5898130号, 特許情報プラットホーム)がある(写真5)(市川, 2021)。ドラム缶を改良した装置で、約2時間で炭化が終了し、約1時間程度放置すると木炭や竹炭が完成する。開発者の阿部壽夫さんは宮城教育大学の西城潔教授と共に奥松島竹廃材炭化プロジェクトを展開されている。

写真5 阿部式炭窯

市川式ペール缶窯は、里山資本主義(藻谷・NHK広島取材班, 2013)にて紹介された故和田芳治さん直伝のエコストーブ(ロケットストーブを持ち運べるように小型のペール缶で改良が加えられたもの)(和田, 2014 ; 市川, 2015)を基本に、炭が焼けるように筆者が自作したものであり、地面への埋設作業を不要とし、移動が容易である(写真6)。少量ではあるが、約4時間程度でバーベキュー用の木炭をつくることができる(市川, 印刷中)。個人で自作が可能であることから、今後普及が期待される。

写真6 市川式ペール缶窯

市川式ペール缶窯の使い方は、ペール缶の底の部分にスギ葉や割り箸、枝といった燃えやすいものを入れ、その上に金網を敷き、金網の上に約20cmに切りそろえた乾燥している枯損木等炭の材料を隙間がないように敷き詰める。ペール缶の蓋をしめてから、T型煙突からバーナー等で着火し、定期的にT型煙突から枯れ枝を投入し、燃焼し続けるようにする。約90分程度燃焼後、各煙突の解放部にフタをつけて密閉状態にし、密閉から約120分経過すると、容器の温度が下がり、木炭を取り出すことができる(写真7)。

写真7 焼きあがった炭 

ナレッジ活用事例

木炭は焼き鳥屋やうなぎ屋、あゆの塩焼き(写真8)などによく利用されている。木炭を使ってじっくり焼き上げると、余計な脂分が落ち、香ばしい香りがつくなど、日本人の伝統的な食文化を支える調理法として欠かせないものといえる。

写真8 炭火によるあゆの塩焼き

近年空前のアウトドアやキャンプブームとなっており(SAM, 2021 ; 高山, 2021)、バーベキュー用にはホームセンター等で販売されている海外産木炭が主に使われているのが現状である。市川式ペール缶用で製造した木炭はバーベキューに向いており(写真9)、今後木炭を自作する人々が増えることを期待している。

写真9 市川式ペール缶用でできた木炭

木炭は燃料としてだけではなく、家庭や店舗での調湿や脱臭としても使われている(写真10)。最近では燃料以外の用途にむけて使い勝手が良く工夫された商品も市販されている。

写真10 お店で調湿や脱臭に使われている例

また、炭は土壌に入れると吸水性や吸湿性、透水性、通気性、保肥性などの効果を発揮し、土壌改良剤として利用されている(柳沼, 2003 ; 農文協, 2008)(写真11)。気候変動が話題になる昨今、炭の施用による土壌炭素固定の役割も期待され、英語ではバイオチャー(バイオ炭)と呼ばれ、世界的に注目されている(Gurwick et al. , 2013)。これからの循環型社会、持続可能な開発目標(SGDs)を目指していくときに、木炭をはじめとした炭の利用効果を改めて見直す必要がある。

写真11 土壌改良剤としての利用

途上国では日常の調理で炭や薪が使われている国が多い。森林から過度な燃料が採取されたため、森林が劣化し、土地の荒廃につながった例は非常に多い(木平, 1994)。計画的な森林資源管理にもと、木炭生産をビジネスとして展開することはSDGsに合致する活動である。また、古くからおこなわれている伏せ焼き法は、浅くても深くても順調な炭化は難しいとされ(柳沼, 2003)、効率的な炭窯の導入もナレッジ展開の重要な方向である。

日本における位置づけ・特徴

燃料革命以前の日本では、広葉樹の萌芽再生能力を活用した薪炭林において木炭が生産され、都市部での熱利用に使われており、都市と山村をつなぐ持続可能なシステムが構築されていた。現代は石油製品にあふれているが、消費者は、炭だけでなく、一般消費財がどのように生産されているかを認識し、将来に向けて持続可能なシステムが構築されるよう、日用品の購入も意識していく必要がある。

木炭は図1に示したように、国内生産は減少し、近年は消費量の約9割を輸入に依存している。それには、木炭を気軽に作る方法がなかったということも影響していると考えられる。また、アウトドアなどのレジャーにおいても、価格が安価な輸入品の木炭を見直し、国産や自作の炭を利用することで、自然の摂理を最大限活用した、まさしく持続可能なシステムを自ら構築することができる。また、土壌改良剤としての炭の利用は、伝統的な焼畑をはじめ、世界で古くから活用されている農法の一部であり、里山の資源を循環的に利用する持続可能なシステムとして機能している。

さらには、木炭を焼いた後には灰ができる。灰は木炭の2~3%程度で、カルシウムやカリウムなどの無機成分があることから、農業用肥料や陶器などの釉薬としても用いられており(柳沼, 2003)、循環利用が可能である。

以上のことから、木炭の利用は限りある地域資源を保全・再生し、循環的に有効活用していくことといえる。これは日本国内に限らず、海外の途上国においても同様であり、持続可能な社会システムを考えるきっかけになりうる重要なナレッジと考えている。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

木炭についての全般的な情報は農林水産省や一般社団法人全国燃料協会のホームページを参照願います。

引用・参考文献

  1. 有岡利幸 (2004) 里山Ⅱ. 265pp, 法政大学出版局, 東京.
  2. Gurwick, N.P., Moore, L. A., Kelly, C. and Elias, P. (2013) A Systematic Review of Biochar Research, with a Focus on Its Stability in situ and Its Promise as a Climate Mitigation Strategy. PLoS One. 2013; 8(9): e75932.
    Published online 2013 Sep 30. doi: 10.1371/journal.pone.0075932
  3. 樋口清之 (1993) 木炭. 296pp, 法政大学出版局, 東京.
  4. 市川貴大 (2015) エコストーブの活用で“里山”を見直そう-広島県庄原市総領町在住の和田芳治さんを訪ねて. 森林技術884 : 32-35. (http://www.jafta-library.com/pdf/msn884.pdf
  5. 市川貴大 (2021) 炭焼きの工夫と竹廃材資源化の試み-宮城県奥松島で活動されている阿部壽夫さんを訪ねて. 森林技術947 : 28-31.
  6. 市川貴大 (2021) 里山林の枯損木活用法の提案-ペール缶を使った新たな簡易炭焼きの検討. 森林技術955 : 32-35.
  7. 一般社団法人全国燃料協会 (2021) 薪炭について.http://www.zen-nen.or.jp/standard1.html
    (2021年8月28日アクセス).
  8. 木平勇吉 (1994) 森林科学論. 182pp, 朝倉書店, 東京.
  9. 藻谷浩介・NHK広島取材班 (2013) 里山資本主義-日本経済は「安心の原理」で動く. 308pp, 角川書店, 東京.
  10. 農文協 (2008) 炭 とことん活用読本 土・作物を変える不思議パワー. 192pp, 農山漁村文化協会, 東京.
  11. 農林水産省 (2021) 木炭のはなし. https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/mokutan/index.html(2021年8月28日アクセス).
  12. 農林水産省 (2021) 特用林産物生産統計調査. https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokuyo_rinsan/ (2021年8月28日アクセス).
  13. 西城 潔 (2020) 炭焼きからみた里山の「これまで」と「これから」. 地理65(11) : 25-31.
  14. SAM (2021) 空前のキャンプブーム 自然に触れる尊さを実感(おもしろ新発見 密にならないレジャー). エコノミスト99 : 71-73.(https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210525/se1/00m/020/055000c
  15. 高山範理 (2021) 森林空間×アメニティの新たな胎動. 森林技術951 : 2-5.
  16. 特許情報プラットホーム. 特許5898130. https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
    (2021年8月28日アクセス).
  17. 東京大学富士癒しの森研究所 (2020) 東大式 癒しの森のつくり方 森の恵みと暮らしをつなぐ. 248pp, 築地書館, 東京.
  18. 和田芳治 (2014) 里山を食いものにしよう 原価0円の暮らし. 213pp, 阪急コミュニケーションズ. 東京.
  19. 柳沼力夫 (2003) 炭のすべてがよくわかる 炭のかがく. 143pp, 誠文堂新光社, 東京.

その他

執筆者(所属)

市川貴大(くまの木里山応援団)