ナレッジ名称:バーク堆肥 ~林業残渣から堆肥を造る~

ナレッジ概要

林業は、森に樹木を育てることで木材を得る産業である。木材は樹木から取り出されるが、この時、樹皮や枝葉等の部分は余る。この余った部分を林業残渣という。一般的に、樹木から木材を取り出すのは森林の外の工場である。そのため、木材工場には林業残渣が廃棄物として溜まる。この林業残渣から作られた堆肥がバーク堆肥(図 1)である。名前にある「バーク」は英語で樹皮を意味している。これは、一般的な林業残渣にはバーク(樹皮)が含まれているためである。日本では1955年頃から林業残渣を元にバーク堆肥が作られるようになり、1965年頃にはバーク堆肥の工場生産が開始された。日本でのバーク堆肥は、主に野菜栽培を目的に利用が拡大してきた。現在は、バーク堆肥を造林用の苗木資材に活用し、森林に還元する事業(図 2)が行われ始めている。このように、バーク堆肥は、林業残渣を活用して持続的な森林経営を担う一端として期待されている。

[caption id="attachment_633" align="aligncenter" width="640"] 図 1 バーク堆肥[/caption]
[caption id="attachment_634" align="aligncenter" width="408"] 図 2 バーク堆肥の循環利用[/caption]

背景(歴史・発展)

バーク堆肥の生産は1950年頃にアメリカで開始され、トヨダケ属の木材腐朽菌の接種による堆肥化技術が進んでいた。アメリカでのバーク堆肥の利用開始に伴い、日本でも1950年代後半頃から、林業や農業残渣を活用した堆肥の開発及び実用化のための研究が始められた。結果、日本ではアメリカと同じ方法よりも、伝統的に利用されていた米ぬかと鶏糞を林業残渣に混ぜ込む方が堆肥の発酵が促進するというデータが得られた。日本でのバーク堆肥研究開始の当初は、木材工場で廃棄されていた林業残渣の処分方法の一つとして、林業残渣の堆肥化が進められていたが、研究により堆肥としての有効性が認められるようになった。

1960年代に、国立林業試験場の指導の下、かつて林業残渣を廃棄物としていた工場からのバーク堆肥の製造販売が行われるようになった。バーク堆肥に係る業者が増えたことから、1967年に日本バーク堆肥協会が発足し、1976年には全国バーク堆肥工業会が発足した。1976年に、両協会の統一品質基準(図 3)が設定され、バーク堆肥の市場流通が拡大した。

図 3 統一品質基準

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

現在、日本で製造されるバーク堆肥は、木材工業のチップ生産や製材の際に多く発生する樹皮を主原料にし、枝葉や抜根といった林業残渣を副原料として、さらに牛糞等の畜糞や食品残渣などを発酵促進剤として加え発酵し、製造されている。

一般的なバーク堆肥の製造工程は図 4のように分かれており、材料となる林業残渣調達の後、粉砕、発酵促進剤を加えて適宜切り返しなどを行いながら熟成させ、堆肥化を完了させている。この熟成や切り返しのタイミングは、含水率や温度の変化を確認しながら行う。

図 4 一般的なバーク堆肥の製造工程

ナレッジ活用事例

日本でバーク堆肥は、農業用の肥料・土壌改良剤、園芸用の培養土、造園用の花壇・緑化、治山用の法面・岩盤緑化吹付基材(図 5)などに広く使われている。また、近年では再造林用に用いられるコンテナ苗(図 6)の基本用土の資材としてバーク堆肥の活用・実用化に向けた研究が進められている。

図 5 法面・岩盤緑化

図 6 コンテナ苗

日本における位置づけ・特徴

バーク堆肥は、肥料取締法によって特殊肥料に位置付けられている。地力増進法により政令指定の土壌改良資材にも指定されている。生産者は全国バーク堆肥工業会や日本バーク堆肥協会に加盟し、品質基準を守った製品が流通している。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

  • 一般社団法人 日本森林技術協会
  • 全国バーク堆肥工業会

関連URL

  1. 特定非営利活動法人 日本バーク堆肥協会https://www.bark-compost.com/ (参照:2023/10/4)
  2. 全国バーク堆肥工業会zmchip.com  (参照:2023/10/4)
  3. 山興緑化有限会社https://sanko-ryokka.com/ (参照:2023/10/4)
  4. バーク堆肥とは?https://ecologia.100nen-kankyo.jp/column/single261.html (参照:2023/10/4)
  5. スギバークコンポストを利用したコンテナ苗生産試験結果の概要【実生 スギ・ヒノキ・カラマツ】 https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/houkokusho/attach/pdf/syubyou-3.pdf (参照:2023/10/10)

引用・参考文献

  1. 全国バーク堆肥工業会,2007,土壌改良指定材 バーク堆肥―土に活力を―, 全国バーク堆肥工業会発行
  2. 田口 木乃霞, 玉木 一郎, 茂木 靖和, CO2排出量の少ない地域産資材を用いたヒノキ実生コンテナ苗の育成の可能性, 日本森林学会誌, 2023, 105 巻, 7 号, p. 233-238

その他

バーク堆肥は林業残渣を堆肥化するという観点から、日本バーク堆肥協会が「木から土へ。土から木へ。」というキャッチコピーを使用し、環境に優しい有機土壌改良資材であることをPRしている。

2000年代初めから日本の再造林技術の一貫作業システムで使用されているコンテナ苗の基本用土としてバーク堆肥の活用に期待が高まっている。これまでコンテナ苗の基本用土として使用されてきた外国産のヤシ殻ピート(図 7)と比較して、バーク堆肥を基本用土として使用することで安定供給と地産地消による運搬時の二酸化炭素排出量削減に貢献し、循環型林業を推進することが出来ると考えられる。現在までのコンテナ苗の基本用土としてのバーク堆肥使用の研究では、バーク堆肥を使用した苗の方が、ヤシ殻ピートを基本用土とした苗よりも成長特性で劣る点も確認されている。しかし、改善策としてバーク堆肥に排水性を改善するパーライトといった副資材を混合することでヤシ殻ピートと同等に苗木を成長させた事例もある。今後の再造林でのバーク堆肥利用の実用化に向けた取り組みが進んでいくと期待される。

図 7 ヤシ殻ピート

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