ナレッジ名称:オイルパーム樹幹を利用する-熱帯の未利用資源を活用-

ナレッジ概要

オイルパーム(アブラヤシ)はパーム油生産のために広大なプランテーションで栽培されている。油を採取することが最大の目的であるが、インドネシアやマレーシアなどのパームオイル産業の主要国では、油生産に伴い膨大な量のバイオマスが廃棄物として排出される。こうしたバイオマスの活用に向けて、日本国内の大学や研究機関、民間企業などが生産国と協力して、様々な利用技術を開発してきている。ここではオイルパーム樹幹の活用に向けて研究開発された技術の一端を紹介するとともに、未利用資源の有効活用に向けた課題についても触れてみたい。

背景(歴史・発展)

ヤシ科植物の多くは姿形が「樹木」に見えるが、利用の観点に立つと「木材」とは大きく異なる。オイルパームの場合、油を含む果実を覆う果房部分は成分的に木材に類似しているが、その一方で樹幹(OPT=oil palm trunk)を輪切りにすると年輪がなく、維管束と柔細胞で構成されており、含水率が非常に高い(図1)。そのため、OPTの利用には木材の技術がそのまま適用できるわけではなく、素材の性質に合わせた利用手段を講じる必要がある。

オイルパームの高さは5~6mから大きいものでは12mほどに達し、25~30年経つとオイル収穫量が低下するため伐採更新が必要となり、土地利用の転換など更新目的以外も含めて全プランテーション面積の4~5%程度が毎年伐採の対象となる。伐採の大部分はOPTをショベルカーで横倒しにしたのち、厚さ10cm程度にスライスされて現場に放置される(図2)。つまり、自然に土に帰ることを待つわけである。ごく一部のOPTは裁断しないまま合板原料等としてプランテーション外に持ち出されるが、その量は伐採量全体の3%に満たないと推定される。残りはすべて土に帰され、地力を維持するための役割を担っているとされるが、害虫発生の問題などもあると聞く。

OPTを構成する柔細胞部分は乾燥すると顆粒状になり、この部分に大量の水分が蓄えられているものと考えられる。そのため、伐採現場で簡単にスライスできて処理が容易である一方、材としての利用には強度が出ないために不向きである。すなわち、現状ではOPTを搬出して「木質材料」として利用するメリットは少なく、現場で土に帰すことがコスト的にもエネルギー的にも最もリーズナブルなのであろう。

図1.オイルパームプランテーション(左)と樹幹(右上)/断面(右下)
図2.オイルパームの伐採(左)と裁断(右)の様子

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

オイルパーム樹幹OPTは内部に大量の水分を含むことが材として適さない要因の一つであるが、ほかの利用を試みるための基礎研究として、OPT全体の性状把握を行なった。その結果、全体重量の60~70%が水分であり(湿量基準、木材:33~66%)、しかも中心部分のほうが外皮に近い部分よりも高含水率であることがわかった。また、この水分を搾ると図3のような黄色い液体が得られ、ここにはシュクロース、グルコース、フルクトースなどの糖分が1mL当たり20~100mgという高い濃度で含有されていることが明らかになった。

図3.パーム搾汁液

この特徴を利用して、OPTからバイオエタノールを製造するための研究開発を行なった。糖濃度は中心に近くなるほど高いことから、中心部分から得た搾汁液を清酒製造用の酵母を使ってエタノール発酵を試みた。その結果、糖に対する重量割合で50~60%のエタノールが得られることがわかり、これは対照として用いたグルコース溶液と同等の収率であった。また、生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料となる乳酸も、OPT搾汁液のバクテリアを使った乳酸発酵により、エタノールと同様に定量的に得られることがわかった。

そこで、次のステップとして、いかに効率よくOPT搾汁液を採取するかという課題に取り組んだ。日本では古くから九州、沖縄方面でサトウキビの搾汁を採取しており、そのための技術や装置の開発が進んでいる(図4)。これをベースにOPT向けの搾汁について研究開発を行ない、バイオエタノール等の大量生産に供しうる技術を確立するに至った。

図4.サトウキビ用小型搾汁機

一方、東南アジアの国々では近年違法伐採の取り締まり強化などの影響で、木材産業に供される原木の供給量が減っている。オイルパーム樹幹OPTは前述のとおり、材が柔らかくそのまま木質材料としての利用には適さない。マレーシアやインドネシアでは合板用にOPTをロータリーレース(丸太をかつら剥きする機械)で単板に剥いているが、強度や平滑性の点から広葉樹単板などと組み合わせる必要があり、OPTだけでは製品化が難しい。しかも、乾燥させて水分を除去した場合、密度が大きく低下しスカスカの状態となるため、そのまま材として利用することはできない。

日本で古くから使われる木材の中にも密度が低いものがあり、技術的な発展により強くて多用途の材に仕上げる手法が確立されている。その一つが「圧密化技術」である。スギやヒノキなどの柔らかい材に熱と圧を掛けて圧縮し、密度を高くすることによって床材などにも使える強度にまで仕立て上げる方法で、これらは圧縮木材と呼ばれる。圧密化したスギ材を床に使った綾てるはドーム(宮崎県、図5)など国内各地で幅広く活用されている。

図5.圧縮木材を使ったフローリング(綾てるはドーム)

この手法を木材とは性状の異なるOPTに適用するための技術開発が、高い圧密化技術を有する国内企業によって進められた。その結果、ある程度まで水分を除去したOPT単板に対して、スギなどと同じように圧密化して一定強度の板材を製造できることを明らかにした。

ナレッジ活用事例

水分量が多く、かつその水分中の糖濃度が高いオイルパーム樹幹(OPT)は、その水分を搾り出すことによってエタノールや乳酸の原料となり得ることがわかった。そこで、次のステップでは、大量にあるOPTから多量の搾汁液を得るための技術を開発することであった。サトウキビの搾汁で実績のある装置メーカーの協力を得て、マレーシアの研究機関にOPTを搾汁するベンチプラントを設置した。この装置は前段でOPTを裁断し(シュレッダー)、後段でその裁断したOPT細裂片を搾る(圧搾ミル)という二段プロセスである(図6)。

図6.OPT搾汁ベンチプラント:シュレッダー(左)と圧搾ミル(右)

シュレッダーに投入するOPTはロータリーレースで外側をある程度まで剥いた中芯部分で、前述のとおり含水率、糖含有量ともに高い部分を対象とした。ここで実施した研究開発の目標は、OPTの特性を最大限に活かし、外皮近くは合板用など木質材料として利用し、残った中芯部分は搾汁してバイオエタノール製造に供することであった。そのように使うことにより、ほとんどが廃棄されている伐採後のOPTを、より効率的に活用できる可能性が広がると考えられる。

木材の代替としてOPTを使用することは、圧密化技術により可能性が高まると考えられる。特にマレーシアでは、木材資源の不足などにより近年木材産業の衰退が顕著であり、それを食い止めるために木材業界ではオイルパームを「材」として活用したいとの思いがある。しかしながら、OPTを加工するには多段階のプロセスが必要となる。まず、OPTから単板を切り出す際に大量の水分が噴出し、さらに圧を掛けて水分を搾り出して乾燥しやすい状態にする。それに熱を掛けて乾燥し、合板などの材料に供する。圧密化などの材質を上げるためのアプローチはこの段階で入ることになるが、木材に比べて原料の保存・保管手段(=水分が多いので腐りやすい)も含めて手間が掛かることは否めない。

それでも実際には圧密化技術により実用に供しうる材ができつつある。図7はパーム圧縮材を内部に使った木橋であるが、屋外ですでに3年以上使用されている。ただし、表面にヒノキを圧密化した材を使っており、強度と風合いの点で低分子フェノール含浸とともに補強がなされている。これはマレーシア等の現地で生産されているパーム合板も同様に、表面に広葉樹材などを使っている場合がほとんどである。この点、パームの「材」としての活用にはまだまだ技術的な進展が望まれるが、そこに圧密化をはじめとする日本発の技術や手法の活用が期待できるのではないかと思う。

図7.OPT圧縮材を使用した木橋

日本における位置づけ・特徴

日本は南北に長い国土を有するため、昔から様々な植物材料に対する利用技術が培われている。その一方で、熱帯地域にはまだまだ未利用の植物資源が多種多様に存在する。オイルパームはその果実に含まれる油を採ることが目的で栽培されており、樹幹の利用は元々念頭にはなかった。しかしながら、これだけ世界的にパーム油が利用され、生産国の栽培面積が膨大になった昨今、伐採期を迎えた樹幹のバイオマス量は無視できない存在である。ここで取り上げたエタノール変換や圧密化など日本オリジナルの技術に基づくモノづくりの製造手法を確立することによって、現状では利用価値の低いパーム樹幹を有効に活用しうる道を開くことに繋がり、従来の原材料に代わる新たな植物資源となることが期待できる。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

  • 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
  • 国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター
  • 株式会社 パームホルツ

関連URL

引用・参考文献

  1. 田中良平 2021 「木質バイオマスとしてのアブラヤシ」、アブラヤシ農園問題の研究Ⅰ(グローバル編)、第12章:260-278、晃洋書房
  2. 松田敏誉、富村洋一 1992 「オイルパーム廃樹幹の利用-マレーシアにおける研究の現状-」、熱帯林業、24:37-46

その他

マレーシアやインドネシアなどの現地では、パーム油生産でかなりの利益が出ていることから、副次的に発生するバイオマスや廃液を活用することに対して、今ひとつ本腰が入っていないように感じられる。特にパーム樹幹については現場からの運搬にコストが掛かることなどを理由に、確実な利益が見込まれないとなかなか現場は動かない。樹幹に限らず、オイルパーム由来のバイオマスが有効に利用されるためには、いかに安価な技術で付加価値の高い製品を生み出すことができるかに掛かっている。

執筆者(所属)

田中良平(森林総合研究所 企画部)