ナレッジ名称:森林を守る教育(2) 森林のプロを育成

ナレッジ概要

森林教育は、“森林や森林と人との関係性をよりよいものにすることができる人の育成”を目的に、フォーマル教育、ノンフォーマル教育、インフォーマル教育の幅広い領域で行われている。

フォーマル教育においては、(1)市民を育成対象とする学校教育(普通教育)と(2)森林・林業の専門家を育成対象とする学校教育(専門教育)が行われ、ノンフォーマル教育においては、(3)市民を育成対象とする社会教育および林業普及と、(4)森林・林業の専門家を育成対象とする林業普及および職業訓練が行われ、インフォーマル教育においては、(5)市民を育成対象とする家庭教育等が行われている1)

本項目では、森林・林業の専門家を育成対象とする学校教育(専門教育)、林業普及、職業訓練について記述する。

市民を育成対象とする森林教育については、【森林教育(1) 市民の育成】を参照されたい。

背景(歴史・発展)

(1)学校教育(専門教育)

日本における学校教育(専門教育)は、1882(明治15)年の東京山林学校開校によって開始され、大学専門教育の始まりとなった。また、1901(明治34)年には木曾山林学校が開校され、高等学校専門教育の始まりとなった。いずれにおいても、当初は林学体系に沿った専門教育が行われていたが、近年では領域と内容が拡張して林業色が薄くなっている。

(2)林業普及

日本における林業普及は、1949(昭和24)年の林業指導普及事業の発足によって開始された。一定の資格を持つ都道府県職員である林業普及指導員が、森林所有者等を対象に森林・林業に関する技術指導や情報提供を行うことによって、森林の多面的機能の発揮や林業の振興を図っている。

(3)職業訓練

林業労働者に対するOJT(業務内で行われる職業訓練)とOFF-JT(業務外で行われる職業訓練)がある。林野庁では、2003(平成15)年度から「緑の雇用」事業を実施し、林業事業体の新規採用者を対象に、各事業体による実地研修や研修実施機関による集合研修の実施を支援している。この他、国や都道府県の研修実施機関が研修を実施している。

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

(1)学校教育(専門教育)

専門教育を実施している大学のなかには、JABEE(日本技術者教育認定機構)認定の技術者教育プログラム(森林および森林関連分野)の実施校があり、国家資格「技術士補」と同等の資格を付与している。専門教育を実施している高等学校では、従来の林業の専門技術者育成から、進学を視野に入れた基礎教育としての専門教育へと移行してきている。この他、全国各地で自治体による林業大学校等の設立が相次いでおり、森林・林業の専門家を育成する森林教育が行われている。

(2)林業普及

林業普及は、都道府県の林務職員による林業普及指導事業によって行われている。林業普及指導員が、試験研究機関や行政と森林所有者等との橋渡し役となり、森林の有する多面的機能の発揮と、林業の持続的かつ健全な発展のための、森林・林業に関する技術及び知識の普及や森林施業に関する指導を行っている。また、林業普及指導員資格試験の地域森林総合監理区分合格者が森林総合監理士(フォレスター)として登録され、地域の森林づくり構想の作成や合意形成に当たっている。

(3)職業訓練

職業訓練は、林野庁や都道府県の研修機関によって森林・林業従事者を対象に行われている。この他、森林組合や民間事業体で行われる職業訓練もある。林業への新規就業者の確保・育成や現場技能者のキャリアアップを支援する「緑の雇用」事業では、新規就業者向けのフォレストワーカー研修に加え、林業就業経験が5年・10年クラスの現場管理責任者を育成するフォレストリーダー研修・フォレストマネージャー研修を行っている。

ナレッジ活用事例

(1)学校教育(専門教育)

JABEE・日本技術者教育認定機構による技術者教育プログラム認定は2001年度に始まっており2)、森林及び森林関連分野では3大学が認定されている。また、専門教育を行っている大学、高等学校の多くが、森林技術者教育の場である演習林をもっている。演習林では、森林の更新、保育、生産・保全に至る一連の作業や管理計画の立案などを体験し、森林技術者の全体像をとらえる実習・演習が行われている3)

写真1 演習林の整備のゆきとどいたスギ林

(2)林業普及

森林総合監理士(フォレスター)の育成状況とその後の活動状況が明らかにされている。人材の量的・質的確保、他の林業人材との連携強化などの課題があり、各人材やその候補者らが自助努力を惜しまず、研鑽に励むことはもちろんのこと、所属機関でのキャリアパスや処遇の改善など、林業人材に関わる産学官の組織が連携し、就業前から就業後まで見通した包括的な教育・研修の実践やキャリアパスの構築の実現に向けた取り組みが求められている4)

(3)職業訓練

「緑の雇用」事業のフォレストワーカー研修生を対象とするアンケート調査により、研修生の属性や研修環境と「緑の雇用」事業集合研修とOJT研修の評価との関連が明らかにされている。集合研修における伐採・搬出に関わる技術の研修やOJT研修に対する評価が高いが、一方で、研修の評価と研修生の年齢、前職・学歴、地元・UIターン別などの属性との関連性が見いだせないことから、研修の設計や研修体制を通じた研修生の学びへの動機づけが重要であることが確認された5)

写真2 植物園における林務職員研修

日本における位置づけ・特徴

日本における専門家を育成する森林教育は、明治期から100余年の歴史を有する学校教育(専門教育)や林業普及および職業教育によって行われている。

制度化された学校教育(専門教育)や林業普及、職業訓練による森林教育は、実施体制や予算が確保されることによって、国や地域全体を対象に安定した影響力を発揮することが期待できる。

しかし、日本における学校教育(専門教育)や林業普及、職業訓練における森林教育も、社会情勢や森林・林業事情の変化に伴う改革が求められていることに留意する必要がある。

大学や高等学校における森林教育が、その領域と内容の拡張に伴って林業色を薄くしてきたなかで、学校教育(専門教育)が育成する専門家像と森林・林業現場が期待する専門家像をいかに合致させるかが課題となっている。

近年設置が相次いでいる林業大学校は、従来の大学や高等学校における学校教育(専門教育)を補完することによって、地域の林業がかかえる課題を解決し、就業につなげる存在となることを目指している。一方で、林業大学校の設置数が増加するなかで、林業大学校の必要性や定員の充足などが課題となっている6)

学校教育(専門教育)においては、実習・演習に使われる演習林が重要な役割を果たしている。全国大学演習林協議会に加盟する27大学に加え、専門教育を行っている高等学校の多くが演習林における実習・演習を行っている。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

  • 林野庁(URL参照)
  • 全国大学演習林協議会(URL参照)
  • 一般社団法人 全国林業改良普及協会(URL参照)
  • 全国森林組合連合会(URL参照)
  • JABEE・日本技術者教育認定機構(URL参照)

関連URL

引用・参考文献

  1. 大石康彦・井上真理子 2020 森林教育の領域に関する実証的考察 日本森林学会誌 102(3):166~172
  2. 太田武彦 2007 JABEEの歩み 森林科学 51:4-7
  3. 田坂聡明 2007 森林技術者教育で演習林の果たす役割-教育・研究のための森づくりを目指して- 森林科学 51:17-21
  4. 大石卓史、田村典江 2018 森林・林業再生プランにおける人材育成の現状と課題:森林総合監理士(フォレスター)と森林施業プランナーの育成・活動の評価 林業経済研究 64(1):14-25
  5. 川﨑章惠 2017 「緑の雇用」研修生からみる研修の評価:—フォレストワーカー対象アンケート調査結果をもとに— 森林利用学会誌 32(1):5-14
  6. 青山将英 2020 山梨県における林業大学校設立に向けた課題について 第131回日本森林学会大会学術講演集:84

その他

森林・林業の専門家を育成する学校教育(専門教育)、林業普及、職業訓練はいずれも、国や地域における教育の制度や体制、森林・林業の制度や体制がある程度整っている状況において機能するものである。制度や体制が整っていない国や地域においては、制度や体制の構築を検討する必要があるが、素地が整っていない国や地域で短期間に制度や体制を構築することは困難である。そういった国や地域における現実的な対応としては、NPO等が学校教育(専門教育)、林業普及、職業訓練に相当する森林教育を担うことで、公的セクターの代替機能を果たすことが考えられる。

専門家を育成する森林教育には、国や地域の森林・林業事情に適合したプログラムと指導者が不可欠であり、プログラムの整備や指導者の育成から着手する必要がある。

日本における学校教育(専門教育)の始まりとなった東京山林学校では、当初は招聘ドイツ人教員によって、次いでドイツ留学経験のある教員によって、その後国内で育成された教員によって森林教育が担われてきた経緯がある。したがって、教育の基礎理論もドイツ林学に基づくものであった。

日本における学校教育(専門教育)が、海外の先進地からの移入によって開始されたことは、新たに森林教育(専門教育)を進めようとする国や地域において参考にすべきことではあるが、国や地域の実情にかかわらず日本に倣うべきだと考えるのは不適当である。森林・林業や社会文化は国や地域によって異なるものであり、今後進むべき道筋も日本がたどってきた道筋とは異なると考える必要がある。

執筆者(所属)

大石康彦(森林総合研究所多摩森林科学園)

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