ナレッジ名称:期待の新技術セルロースナノファイバーで森林を守る

ナレッジ概要

セルロースナノファイバー(CNF)は、再生産可能で大気中のCO2の固定化物である木質資源から単離-精製された木材セルロース繊維を、そのままあるいは軽微な前処理後に水中で解繊処理(微細化処理)して製造される、新規バイオ系ナノ素材である。近年その形状や強度、機能の特異性が明らかになっており、高機能・高付加価値製品および汎用製品への利用が検討されており、一部は既に実用化されている。CNFは、化石資源に一部代替可能で、循環型・持続型の社会基盤の構築に貢献でき、現在の資源・環境問題の解決の一助になり得る素材として注目されている。

背景(歴史・発展)

植物細胞壁の乾燥重量の約50%を占めるセルロース成分は、直鎖状のセルロース分子が数十本規則的に束ねられた結晶性で幅数nmの繊維状「セルロースミクロフィブリル」を最小単位としていることは電子顕微鏡が利用できるようになった20世紀の中ごろから、既に植物組織学分野では知られていた。すなわち、植物細胞壁中では、高強度・高弾性のセルロースミクロフィブリルが鉄筋のような役割を担い、リグニン成分と、ヘミセルロース成分とで、分子からナノレベルの天然の複合化構造を形成し、樹木のように重力と風雨に耐える高強度を発現している。木材から単離-精製されたセルロース繊維はこれまで主に紙・板紙原料に利用されてきた。また、セルロース純度の高い木材セルロース繊維(溶解パルプ)はレーヨン繊維(人造絹糸)、セロファン、各種水溶性あるいは有機溶剤可能性セルロース誘導体類に変換されて機能性高分子として利用されてきた。

20世紀の後期に入るとこれまで分析や形状観察が困難であった様々なナノ材料が開発され、分子とマクロな構造体の中間となるナノ材料の特異的な形状と機能が注目され、ナノ材料科学が進展した。植物セルロース繊維は無数のセルロースミクロフィブリルすなわちセルロースナノファイバー(Cellulose Nanofiber:CNF)の集合体であることは知られていたが、植物セルロース繊維中のセルロースミクロフィブリルどうしは強固に結合しているため、これまではセルロースミクロフィブリルを損傷なくCNFに分離-精製し、ナノ材料として利用されることはなかった。

21世紀に入り、植物セルロース繊維の効率的なCNF調製技術、効率的なCNF調製を可能による植物セルロース繊維の様々な前処理技術が世界レベルで見いだされた。さらに研究室レベルで調製されたCNFが他のナノ材料と同等あるいはそれらを超える先端材料に変換可能であることが見いだされた。CNFが再生産可能な植物主成分を原料とし、大気中のCO2の固定化物由来であることも、CNFが環境適応型の新規バイオ系ナノ素材として注目された理由である。SDGsや、低炭素社会、循環型社会の構築、また、地球温暖化防止、海洋マイクロプラスチックの削減等のグローバルな資源・環境問題の解決の一端をCNFが担う可能性も見いだされており、世界レベルでCNFの基礎および応用研究が進められている。

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

合成繊維分野では、ナノファイバーは幅が全て100nm以下と定義されており、CNFについてもこれを適用している。幅約30ミクロン、長さ1~3mmの木材セルロース繊維(広葉樹で平均長さ約1mm、針葉樹で平均約3mm)から、幅100nm以下のCNFへの変換は、水中での機械的な解繊による微細化(ダウンサイジング)処理によって製造されるのが特徴である(図1)。一方、カーボンナノチューブやバクテリアセルロースナノファイバーは低分子原料からナノ材料に高分子化(ボトムアップ)処理して調製される。幅が100nm以上の繊維を含む場合には、ミクロフィブリル化セルロースあるいはセルロースフィラメントとしてCNFとは区別されている。

図1.樹木セルロースの階層構造
図1.樹木セルロースの階層構造

一旦乾燥した製紙用の木材セルロース繊維シート(ドライラップパルプ)を、水中に浸漬し、従来型の解繊装置で長時間処理しても全てCNFレベルにまで微細化することは困難であった。そこで、新しい微細化・解繊処理装置として石臼方式のグラインダー型、高圧ホモジナイザー型のウォータージェット型、対抗衝突型、少量の研究室レベルでは超音波ホモジナイザー型等の効率的なCNF用の解繊装置が開発された。CNF化効率をさらに向上させるため、原料となるセルロース繊維の選択とともに、様々な軽微な化学前処理、酵素前処理等が検討された。その結果、効率的なCNF製造が可能になったばかりではなく、最小単位で3nmと超極細均一幅のCNFへの変換も可能となった。セルロースミクロフィブリルが含まれていれば、どのような植物、農産物あるいは農産廃棄物からも、原料の選択、前処理条件および水中解繊処理条件を最適化すれば、CNFが得られる。しかし、コスト、構造や成分の均一性、原料の安定供給等の観点から、工業用素材としてのCNFは、紙パルプ産業が昼夜連続工程で木材チップから製造している製紙用木材セルロース繊維が、乾燥kg当たり約60円と安価であり、優位性がある。

当研究室(東京大学大学院農学生命科学研究科磯貝研究室)では、製紙用木材セルロース繊維を触媒酸化反応によって前処理し、その後水中で軽微な解繊処理することで、全て3nmの超極細均一幅のCNFにほぼ定量的に変換できる手法を見出した。触媒酸化反応によって繊維状の木材セルロースの形状を保ちながら、その中に含まれている無数の結晶性セルロースミクロフィブリルの表面に位置選択的に規則的に高密度で、水中でマイナス荷電を有するカルボキシ基のナトリウム塩が導入される。その結果、水中でミクロフィブリル間に反発力が作用し、軽微な解繊処理によって完全ナノ分散化が可能になり、幅が3nmと光の波長よりも十分小さいため、透明なCNFの水分散液が得られる。その後、同様に結晶性セルロースミクロフィブリル表面に荷電基を導入する様々な化学前処理方法が日本から見いだされ、新しい完全ナノ分散化CNFとして実用化研究開発が精力的に進められている。具体的に導入された荷電基として、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、カルボキシメチル基、ザンテートエステル基、硫酸エステル基、C2/C3ジカルボキシ基がある。

ナノ分散化度(解繊度)をコントロールすることにより、CNFと定義されても幅は3~100nmと広範囲である。したがって、幅のサイズはCNFの定義に当てはまっていても形状はさまざまである。広い幅分布を有し、分岐構造やネットワーク構造を有するセルロースナノネットワーク、幅は約3nmと一定であるが平均長さが300nm以上のCNF、長さが300nm以下の針状あるいは紡錘形を有するセルロースナノクリスタルの三形状に分類される(図2)。セルロースナノネットワークの場合には、不均一な構造ではあるが、10%以上の高固形分化が可能であり、運搬コストの低減が可能である。また、抄紙工程のように効率的な脱水-乾燥-シート化あるいはフィルム化が可能となる。CNFは固形分濃度が5%以下、場合によっては2%以下であるため、運搬コストが高く、多量の水を除去する脱水-乾燥によるフィルム化のコストも高くなる。セルロースナノクリスタルは短いためにCNFよりも高固形分化-運搬コストの低減が可能であるが、プラスチック複合化の際の補強効果はCNFよりも低下する。したがって、CNFのコスト、構造や形状に基づいて適正な利用方法を検討する必要がある。

図2.ナノセルロース類の形状による分類
図2.ナノセルロース類の形状による分類

ナレッジ活用事例

CNFの活用については、世界レベルで検討が進められているが、本稿では日本における事例を紹介する。当研究室で見出された触媒酸化反応前処理を経て製造されるCNFは、その水分散液の特異的粘性挙動から、スムーズに筆記できるボールペンのインキ分散剤として利用されている。また、超消臭機能を利用することで、介護者の負担軽減を目的とした大人用使い捨ておむつに利用されている。さらに、ゴムと複合化することで、省エネで乗り心地の良い自動車用タイヤの部材として実用化されている。また、化学処理後に高分子と複合化したCNFはスポーツシューズの部材として実用化され、販売されている。そのほか、電子基板材料、酸素バリア性のある食品容器、食品添加剤、化粧品添加剤成分等として利用されている。現状ではCNFの生産量が少ないため、高価格となり、いずれもCNFの特性あるいはCNFの水分散液の特性を活かした高機能・高付加価値製品への利用が進められている。

一方、ゴムやプラスチックとCNFの複合化によって軽量高強度材料の研究開発が重点的に進められている。まだ実用化事例はわずかであるが、ゴムやプラスチックのほとんどは石油原料由来であるため、CNFを複合化することでその使用量の削減と、関連する環境・資源問題の低減が期待されている。また、ゴムやプラスチック等の高分子材料の現状での国内需要量は年間2000万トン弱であるため、CNFを高分子と複合化することで化石資源由来の高分子の使用量を低減でき、同時にCNFの使用量を増加させることができ、低価格化が可能となる。

日本における位置づけ・特徴

北米、北欧では森林産業が基幹産業であるため、CNFに対する基礎および応用研究も精力的に進められている。しかし、文化の違いもあり、短期的な視点で利益につながる用途展開を追求しており、プラスチック代替の容器の開発に主軸を置いている。一方、日本では特に印刷情報用紙の需要が激減しており、今後の回復が認められない状況から、従来の紙パルプ産業は、森林資源を原料としてエネルギー(バイオマス発電)とマテリアル(例えばCNF)を生産するバイオリファイナリー産業、あるいはバイオエコノミー産業としての事業変換を模索している。したがって、20社を超える企業(紙パルプ、化学、機械等)が独自のCNFをパイロット生産、あるいは本格生産している。また、国の支援もあり、おそらく数千社の企業が新しいビジネスを念頭にCNFの実用化を検討していると推測される。既に実用化間近なCNFの研究開発事例もあり、今後は様々なCNF含有の高機能あるいは汎用製品が実用化されると考えられる。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

磯貝 明:東京大学大学院農学生命科学研究科(akira-isogai@g.ecc.u-tokyo.ac.jp)
矢野浩之:京都大学生存圏研究所(yano@rish.kyoto-u.ac.jp)
遠藤貴士:産業技術総合研究所中国センター(t-endo@aist.go.jp)
ナノセルロースジャパン(NCJ)事務局(ncj@soubun.com)
富士市CNFプラットフォーム事務局(0545-55-2779)

関連URL

NEDO:炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100169.html (参照:2021/2/25)
環境省:セルロースナノファイバー http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cnf.html (参照:2021/2/25)
環境省:CNFに係る関係省庁の主な取組 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cnf/Cooperations_for_CNF_practicalization.pdf (参照:2021/2/25)
環境省:環境省におけるバイオ関連の取り組みについて https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20171012/siryo7.pdf  (参照:2021/2/25)

引用・参考文献

Akira Isogai (2018) Development of completely dispersed cellulose nanofibers. Proceedings of the Japan Academy, Series B 94(4):161-179.
磯貝 明 (2020) セルロースナノファイバーの現状と今後. 自動車技術73(11):88-93.
磯貝 明 (2020) 新規ナノ素材「セルロースナノファイバー」の開発の現状と応用展開. 化学装置 62(9):600-607.
Akira Isogai (2020) Cellulose nanofibers: New category of nanomaterials prepared from plant cellulose fibers. Journal of Fiber Science and Technology, 76(10):310-326.

その他

日本は国土の約66%が森林の森林資源大国である。しかし、安定供給、林業家の高齢化、急斜面が多く運搬コストの問題等により、国産材の有効利用は進んでいない。特に、間伐材は林地残材として放置されている場合が多い。「管理された森林」として大気中のCO2の固定化に貢献するためには、植林-育林-伐採-運搬-利用-植林の循環を進め、森林産業(林業)を活性化する必要がある。CNFの利用促進、特に針葉樹由来のCNFの優位性が指摘されているので、CNF製造原料として国産間伐材の利用量が増加することは、林業の活性化につながる可能性がある。まだ、LCA評価等の環境負荷について正確な知見が得られているわけではないが、化石資源を基盤とした20世紀型の社会基盤から、再生産可能な木質資源を基盤とした循環型社会基盤の構築のためにも、CNFがその一翼を担う可能性があり、期待されている新規バイオ系ナノ素材である(図3)。

日本国内に限らず、途上国においても、地球温暖化防止、海洋マイクロプラスチック問題の低減、化石資源の使用量低減につながる可能性があり、CNFの実用化の推進とそれによる循環型社会基盤の構築、融合型新産業の創成が期待される。

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