ナレッジ名称:REDD+ クックブック:REDD+に取り組むための森林炭素モニタリング

ナレッジ概要

発展途上国における森林減少・森林劣化に由来するCO2の排出量は、人為活動による排出量全体の約2割を占め、化石燃料の使用に次ぐ大きな排出源となっている。そこで、森林減少と森林劣化からの排出を削減するため、気候変動枠組条約締約国会議においてREDD+という枠組みが作られた。

REDD+は、途上国が行う森林減少・森林劣化を抑制する取り組みによるCO2の排出削減、森林保全等によるCO2の排出防止および炭素固定による大気中のCO2の削減に対してインセンティブを与えるというのが基本的な考え方である。このため、排出削減量の評価には科学的なアプローチによって森林炭素の変化量をモニタリングすることが求められる。

そこで、森林総合研究所REDDプラス研究開発センター(現REDDプラス・海外森林防災研究開発センター)では、REDD+に取り組むための基礎知識や技術について、特に森林炭素モニタリングに注目して平易に説明した技術解説書「REDD-plus COOKBOOK」を作成した。本項では、この技術解説書に基づき、REDD+に取り組むために必要となる森林炭素モニタリングについて紹介する。

背景(歴史・発展)

気候変動枠組条約 (UNFCCC) 第 11 回締約国会議 (COP11) において、パプアニューギニアとコスタリカから発展途上国における森林減少(deforestation)および森林劣化(forest degradation) (写真1)からの温室効果ガスの排出削減(REDD)が温暖化緩和策の一つとして提案された。また、COP13 においては、森林保全、持続可能な森林経営および森林炭素蓄積の強化のための取り組みも含めることになり、これらが「プラス」と呼ばれるようになった。

写真1.世界での森林減少(左:ブラジル ロンドニア州、右:カンボジア コンポントム州)

国レベルで森林の炭素蓄積とその変化量を精度よく計測するためには、森林モニタリングシステムが不可欠である。森林モニタリングシステムとは、森林からの温室効果ガスの収支、森林炭素蓄積、および森林面積変化を推定するシステムであり、REDDプラスの実施に必須のものとして実施国に構築が求められている。森林モニタリングシステムにより、REDDプラスによる温室効果ガス削減効果が推定され、その結果に対するクレジットが算出されるため、モニタリングは計測・報告・検証 (MRV)可能な方法で国際的に信頼が得られ、しかも発展途上国で実施可能な方法で、できる限り正確に行われなければならない。その一方で、森林を取り巻く事情は各国により異なることから、それに合わせた柔軟で実施可能なシステムを作り上げていかなければならない。

森林減少、森林劣化による温室効果ガスの排出量を推定するには、活動データと呼ばれる土地利用変化の面積と排出係数と呼ばれる単位面積当たりの森林の炭素蓄積量が用いられる。UNFCCCでは、これらの値をモニタリングから得るために、リモートセンシングと現地調査を組み合わせた森林モニタリングシステム(図1)を推奨している。

図1.森林面積の変化や土地面積当たりの排出量・吸収量の計測

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

(1) リモートセンシングを用いた面積推定

森林の炭素蓄積量を推定するためには、その面積を把握する必要がある。森林は土地利用 (land-use) のカテゴリ (categories) のひとつである。森林から他の土地利用への転換 (conversion)、あるいは他の土地利用から森林への転換も発生する。また、カテゴリおよびサブカテゴリは、気候 (climate)、土壌 (soil)、生態系 (ecological zone)、管理形態(management systems) などにより層化 (stratification) されることがある1)

リモートセンシングデータを用いた面積変化の推定には、2時期の画像分類後にそれぞれを比較する方法と、2時期あるいは多時期の画像を一括分類して土地被覆変化を直接抽出する方法がある。前者では、分類処理が独立しているため、変化していない部分での境界線が必ずしも重ならないという問題点がある。後者では、変化しなかったクラスとクラス間の変化の全パターンを一度に解析するため結果の解釈や図化が難しいという問題点がある。

(2) 単位面積当たりの炭素蓄積推定

単位面積当たりの炭素蓄積量の推定には、調査対象の森林の炭素量を直接測定する方法(例えば固定調査プロット法)と、推定モデルを用いて間接的に推定する方法がある。どちらの手法を使用する場合も、調査を実施する場所の選定、調査地点数、調査・解析の担当者の技術の習得が推定値に大きく影響する。

炭素蓄積量を直接測定する方法とは、森林の中に複数の固定調査プロット(Permanent Sample Plot : PSP)を設置し、そこに成立する樹木の樹種・サイズ・個体数を基に炭素蓄積量を算出する方法である。この方法は固定調査プロットの設置や維持の現地作業に多くの労力を要し、測定者が立ち入ることが可能な範囲でしか調査を行なうことができない。しかし、調査は手法・道具ともに簡便で、かつ精度の高いデータが得られる利点がある。

炭素蓄積量を間接的に推定する方法としては、人工衛星や航空写真などの画像解析から対象地域の炭素蓄積量を間接的に推定する方法が複数ある。この方法は、画像解析に必要な機材にかかる費用と解析の精度にトレードオフが生じることが多い。人工林(plantation)などのように、単位面積当たりの個体数が既知で、樹種や林齢・個体サイズが揃っている森林の場合は、林齢と炭素蓄積量の相対成長関係を利用して推定することができる。

(3)森林参照レベルの設定

REDD+のための取り組みを実施しなかった場合と比較して、実際にどの程度の削減が実現したかを定量化するために、森林参照レベルを設定することになる(図2)。

図2.排出量削減の考え方

COP17 においては、森林参照レベルは活動実施における各国の実績を評価する基準であり、CO2換算で表現されること、各国の温室効果ガスインベントリに含まれる森林由来の排出・吸収量と一貫性を保ちながら構築されること、森林参照レベルの開発には、より良いデータや改良された方法、さらに、もし適切であれば追加の炭素プールを組み込みこんでいく段階的なアプローチが有効であること、準国レベルの森林参照レベルは、国レベルへの移行の間、当面の対策として構築されうることなどが示された。

森林参照レベルを設定するには、歴史的データが必要になるが、歴史的データをどのような時間間隔で取得するかにより、また、どのようなモデルを用いるかにより、設定される森林参照レベルが大きく異なる可能性がある。より精細なモデルを用いる場合、より多くの時点でのデータが必要となる2)

ここでは主に森林炭素のモニタリングについて述べたが、REDD+の実施に当たっては、セーフガードに留意する必要がある。その他、詳細な背景やルール、方法については、REDD-plus COOKBOOK(図3)を参照していただきたい。

図3.見やすさと使いやすさを追求したREDD-plus COOKBOOKのレイアウト

ナレッジ活用事例

REDD-plus COOKBOOKはREDD+に関心のある企業や大学、発展途上国の政府、NGO、国際機関等に配布され、REDD+の取り組への理解のために活用されている。また、発展途上国での森林保全の必要性の理解のため講義テキストとして用いている大学がある。

日本における位置づけ・特徴

REDD-plus COOKBOOKでは、日本が進めている二国間クレジット制度(JCM)におけるプロジェクトベースでのREDD+の実施に向け、必要となる森林参照レベルの設定にも適用可能な森林炭素モニタリングの方法論を解説している。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 REDDプラス・海外森林防災研究開発センター
E-mail:redd-rd-center@ffpri.affrc.go.jp

関連URL

引用・参考文献

  1. ^IPCC 2006 Chapter 3: Consistent representation of lands. In: 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories Volume 4, Agriculture, Forestry and Other Land Use
  2. ^松本光朗 2010 REDD+の科学的背景と国際議論. 森林科学 60:2-5

その他

REDD+の実施は、発展途上国における森林減少・森林劣化を抑制し、森林保全へとつなげていく仕組みである。その一方で、その仕組みは科学的根拠に基づく必要があり、IPCCの方法論を用いることを推奨している。本技術解説書は、REDD+に求められる方法論を理解するのに役立つものである。

執筆者(所属)

平田泰雅(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)

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