ナレッジ概要
つまものとは和食のお吸い物や刺身に用いられる付け合わせのことである。見た目を美しくしたり生臭さを消すことにより食欲をそそる効果等を期待している。刺身に添えられる海藻や青じそなどや、キュウリやダイコンの千切り、食用菊、パセリ、ワサビ、ショウガなどすべて「つま」と呼ばれることが多い。その中で、樹木の葉っぱは料理をいろどる季節感や縁起物としての演出効果が期待され、料亭など飲食業から一定の需要がある。葉っぱは森林由来の産品であり、過疎化のすすむ山村の保全と地域振興につながる可能性が注目されている。
ここでは、先駆的な成功事例として有名な徳島県上勝町に本社がある「株式会社いろどり」社長を紹介する。社長の横石知二氏から「山のお宝を発見し地域に住む人が誇りに思える仕事をつくる:森が蘇ったのは、葉っぱを売ってお金に換えたビジネス」のご寄稿いただいた。(JIFPRO記載)
背景(歴史・発展)
山のお宝を発見し地域に住む人が誇りに思える仕事をつくる:
森が蘇ったのは、葉っぱを売ってお金に換えたビジネス
株式会社いろどり社長 横石知二
町の現状
徳島県勝浦郡上勝町は、徳島市内から車で約1時間のところにあり、人口が2021年3月現在で1,510人、四国でもっとも人口の少ない町である。町の総面積は109.68km2で、うち85.1%を山林が占めており、耕地はわずか1.9%。65歳以上の高齢者の割合が52.98%と、県内一高齢化比率が高い。主な産業は林業と農業で、しいたけ、彩、すだち、ゆこう、ゆず、花木、キウイフルーツといった、多品目少量生産の産地である。
私は昭和54年4月に上勝町農協(現 JA東とくしま勝浦支所) に営農指導員として採用され、18年間農協で販売業務を中心に行い、その後上勝町役場、現在は株式会社いろどりの代表取締役として町の特産品の企画、販売を行っている。上勝町は地域資源を活用した成功事例として全国的に注目される産地となり、最近は海外からも研修に訪れ、日本で一番元気な町とマスコミ等で頻繁に紹介されている。
当時の上勝の状況
徳島市内生まれのため、上勝に来た当初は、とにかく地理も人も、まったく分からなかった。町の人口流出がすごかった頃で、10代の若者は進学や就職で、みんな当たり前のように町から出ていった。働き盛りの世代でも、経済的に有利で、体力的に楽で便利な暮らしを求めて、町を離れる人が増えていた。出て行かない人たちには、取り残されたような感覚も生まれ、町全体に暗く沈んだ空気が漂っていたような印象がある。上勝に来てからまず一番に驚いたのは、山や田畑で働く60代から70代ぐらいの男性の何人かが、朝っぱらから一升瓶を提げて農協や役場に集まり、酒を呑んで、くだを巻いていることだった。補助金がいくらだの、国が悪い、役場が悪いだのといった愚痴を喋り続けていた。「どうしてみんな、自分たちが生まれた町のことを、こんなにも悪く言うんだろう」「なんでもっと、自分たちが住む町を、いいように考えんのだろう」その理由がどこにあるのかを調べてみた。それは、当時の町の主な産業であるミカン、林業、建設業などが、儲からないことだった。この経済基盤の弱さがこの原因なのだということがわかり、儲かる仕事をつくることの大切さを痛感した。そしてこのことへの挑戦が始まった。
寒凍害をきっかけに彩へ
昭和56年2月に起きた寒凍害によってミカンが全滅し、農家は今まで農業を考え直すきっかけをつかむこととなった。農協、行政、生産者が一丸となり新たな取り組みのスタート。柑橘類で所得を上げるには時間がかかることから、短期間で所得を上げられる品目を導入。短期決戦という今までに無い新しい感覚を身につけることができた。この寒凍害を総力戦で乗り切きったことにより、町に一体感と、「与えられる環境」から「自らが取り組む」という意識変化が芽生え始めてきた。
葉っぱを売る事業のきっかけ
昭和61年の秋に、たまたま出かけた大阪の出張先のお寿司屋さんでの出来事が、町の運命を変えることとなった。仕事仲間3人で食事をしていた時に、隣に座った若い女性3人組が、食事に飾られている山の葉っぱをみて「グラスに浮かべてみよう」「持って帰って押し花にしよう」と感動しているのを目の当たりにしたとき、自分の考えているものは「これだ!」と直感的にひらめきがはしり、葉っぱを売ることをやってみようと決心。まさに今から思えば、偶然立ち寄った居酒屋で生まれたビジネスだった。町の半数が高齢者、あまり前に出てこない女性達、そんな状況の中にあって、軽い、美しい、お金になる産業としてキャッチフレーズを掲げて推進。その人気は急速に高まっていった。現在では150軒が参加する町の一大事業に成長している。
具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)
株式会社いろどりの役割
株式会社いろどりは、地域の特産品の企画、情報処理を行うことを目的に平成11年に設立された。経営の中心となるのが葉っぱを売る、彩事業。彩とは、料理に添える花や枝葉等の「ツマモノ」ことを指し語源の由来は主となる料理のそばに置かれることから、夫婦の関係に見立てた「妻」といわれている。取引きは全国の市場を通じて行い、営業、企画は株式会社いろどり、出荷は農協、販売は市場を通じてという仕組みで構成され、彩事業の中心は平均年齢70歳の女性で、部会員が年商2億6千万円の売り上げを上げている。
システムの導入が資源活用の決め手
平成4年に防災無線による同報無線ファックスシステムを導入。平成11年に高齢者が使えるコンピューターシステムを開発。平成18年に光ファイバーを活用した新システムの導入を図り、高齢者がこのシステムを使いこなすことにより、大きな成果につながっている。農家にとって必要な情報をいかに早くキャッチできるかは経営に大きく左右する。資源を必要な人に、必要なものを、必要なところへと届けることができれば、こんなに面白いビジネスはない。しかし必要でない人に届けるとゴミになってしまう。今や農産物の流通も計画出荷の時代ではなく、需要出荷の時代に変化していることに気付いた。
仕組みで「気」を育てること
地方でもっとも失われてきたのが、「気」である。気の空洞化ともいわれる程、やってみよう、がんばろうという気が失われてきてしまった。あきらめの気がどんどん広がっている。むしろ今は技術を教えることよりこの「気を育てる」ことの方が重要かも知れない。そのことからしても仕組みは大事で、上勝のシステムは気の伝道ともいわれる程このことを重視している。IT化が進むと人とのつながりが希薄になるというが、決してそうではない。このツールを使ってお互いのコミュニケーションを高めていくことができる。高齢者にとってこのことがすごく大事だ。「元気にやっとるでぇ~」「風邪ひいとれへんかいなぁ~」と声をかけていくことにお互いの安心感のようなものが生まれている。
ツマモノの現状と展望
従来から日本料理店では掻い敷といってこういったツマモノは利用されていたが、都市化が進み、都市周辺で手に入れるのが困難になってきた。料亭等では修行の世界がなくなってきて採りに行く人手が確保できなくなっていることから、ここ数年はこういったものを市場で仕入れるということに変化してきた。従来使っていた高級料亭やホテル数はバブル崩壊後年々減少して、需要は激減しているようにみられるが、チェーン店や居酒屋、弁当屋等の新規需要が増えてきている。昨年度は、世界的に広がったコロナで飲食店の需要は、落ち込んだが、また個人向けの商品の開発によって新たな展開も出てきた。
町全体を商品にした取り組み
この彩事業の成功により町全体に活気が出てきた。高齢者の医療費が下がり、寝たきり数の減少、ゴミゼロ運動、バイオマス、特区など次々と成果があらわれ、U・Iターン数が増えてきた。町の取り組みすべてを関連した仕組みで動かしており、町は商品という考えである。「綺麗な町を作ると葉っぱが売れるよ」というつながりをもつことにより、みんなが自分のことと思うように仕掛けをする。地域資源を活かすということは、全国的に見てもなかなか成功事例がない。これは、そこに住んでいる人がその良さを発見できないからでもある。ではなぜ、発見できないのか。もともと住んでいる人にとって、地域資源は何も珍しいものでもなく、極当たり前のものであるから、そんなにすばらしいものという考えにはならない。むしろ逆に価値などまったくないという感覚が現実である。田舎に地域資源はいくらでもある。必要なのは、それを活かす力。そのことに町の人は気づき、与えられている環境の中から、脱出し自らが考える力をつけたことに、上勝の成功の要因がある。農家はまだ誰かがやってくれるという甘えがあり、補助金に頼るところが大半。与えられる環境からいち早く脱出し作業をするのではなく、仕事をすることが重要であることをぜひ早くわかってもらいたい。
元気な日本のモノづくりは、個々の人に居場所と出番が必要だと思う。地方には無限の可能性を秘めたものがたくさんある。みんながそれを活かす力がつけば、雇用はますます広がっていくし山は、荒れずに景観を保つことにもつながる。
ナレッジ活用事例
株式会社いろどりは、約320種類の品目を扱い、北海道から九州まで全国的な取引があり、JAを通じて出荷されている。年商は2億6千万円程度あり、つまもの市場の約8割のシェアを占める。(JIFPRO記載)
日本における位置づけ・特徴
平成25年、「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録された。農林水産省のホームページによると、和食の特徴は4つあり、(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、(2)健康的な食生活を支える栄養バランス、(3)自然の美しさや季節の移ろいの表現、(4)正月などの年中行事と密接な関わり、とされる。葉っぱビジネスは、(3)と(4)に欠かせない素材であり、和食ビジネスにも重要な構成要素となっている。
海外でも日本食レストランが増加しており、特にアジアではここ2年で50%の増加という(NikkeiAsia、2020/1/28)。和食関連として「つまもの」の現地生産や需要があるかもしれない。
また、東南アジア諸国ではバナナの葉が食器として広く利用され、ビジネスとして成立している国もある。(JIFPRO記載)
ナレッジの所有者・継承者および連絡先
- 商 号 株式会社いろどり
- ■所在地 徳島県勝浦郡上勝町大字福原字平間71-5
- ■設立日 平成11年4月2日
- ■連絡先 TEL.0885-46-0166
- FAX.0885-46-0577
- e-mail. info@irodori.co.jp〈代表〉
関連URL
株式会社いろどり https://irodori.co.jp/
引用・参考文献
- 横石知二 「そうだ葉っぱを売ろう!過疎の町のどん底からの再生、出版:SBクリエイティブ、2007年8月
- 横石知二 「学者は語れない儲かる里山資本テクニック、出版:SB新書、2015年8月
その他
昔の林業では雑木と扱われた未利用木質資源の高付加価値化につながった好適事例である。
執筆者(所属)
- 株式会社いろどり社長 横石知二
- 一部JIFPRO加筆