ナレッジ概要
竹は笹とともに古くから様々な場面で利用されており、例えば茶道や華道の道具類や食品分野では包材としての利用例(水筒、笹の葉、笹飴、笹団子など)があったり、葉や稈等に含まれる成分が薬の一部として利用される例もある。最近では竹に含まれる成分において抗菌性、抗ウイルス性、殺虫性、抗酸化性、健康増進効果など見出されており、高い付加価値を有した高度なナレッジが注目されている。
背景(歴史・発展)
竹はアジア地域をはじめ温帯、熱帯地域を中心にいろいろな国々に存在している。現在国内では西日本の里山地域を中心に広く分布している。国内外を問わず、竹は生活と関わるいろいろな場面、例えば生活用の道具類や住居の一部として古くから使われてきた。縄文時代や弥生時代の古墳より竹で編んだ篭や竹籠などが出土していたり、万葉集には竹を詠んだ歌があり、正倉院には筆軸、竹籠、杖、竹箱、楽器類などが保存されている。鎌倉時代以降は、茶道や華道が盛んになり、それらに用いる道具類が竹で作られるようになった。その理由は、様々であるが変形し難く、弾力が強いが裂け易いなどの物理的な特性を竹が有していることが要因の一つになっていると考えられる。
また竹は笹とともに古くから食品との結び付きも深く、特に包材としての利用が多い。例えば竹で作られた水筒、肉を包む筍の皮、鱒寿司を包む笹の葉、笹飴、笹団子などである。一方で、竹の葉や稈に含まれる成分が薬の一部として用いられた例もある。身近な素材として竹が存在しており、かつ長年の生活経験から竹を用いることのメリットもあったためであろう。
国内では近年竹林の放置とその拡大現象が顕著であり、竹の繁茂等の問題が発生している(図1)。竹は元来、竹材の取得や筍(タケノコ)生産のために導入・植栽されたものであるが、1980年代の竹材生産の減少に端を発し、1990年代には海外の筍製品の輸入の急増によって国内の筍生産が急激に減少したことから、従来のような竹林利用は少なくなっているという社会的背景がある。そのため竹の大量消費を目的とした用途開発が急務となっている。一例としては、竹炭や竹酢液の製造が行われており、土壌改良材等としての用途が開発されている他、竹パルプや竹紙の製造、竹繊維を用いた強化プラスチック、生分解性樹脂等の製造、堆肥化、家畜敷料への利用等が行われている。
発電事業における混燃の試み、バイオエタノール製造等の試みもなされているが、残念ながら実用化にいたっていない。竹の利用率を今以上に増加させるためには、付加価値の高い用途の開発(高度利用)を進め、利用の可能性をさらに広げる必要がある。
具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)
高い付加価値が期待される竹含有成分の利用法について具体例を以下に紹介する。漢方薬ではマダケやハチクの稈の緑色の第一層の皮部を削りとった第二層の帯緑白色部を薄く削って帯綿状にしたものは竹筎(チクジョ)と呼ばれ、清涼効果、解熱効果、止瀉効果、鎭咳効果などある。ハチクの稈の節を火で炙ることで竹瀝(チクレキ)と呼ばれる黄褐色もしくは青黄色の液体が得られる。効果としては静熱し痰をなめらかにし、喉の痰を取り除く効果が知られている。
竹の各部位由来の成分が有する様々な機能性に関する研究例が多くある。例えば抗酸化性(活性酸素消去能、酸化防止、血中コレステロール濃度抑制効果等)、抗菌性・抗カビ性・抗ウイルス性(大腸菌並びに黄色ブドウ球菌増殖抑制効果、青カビ病菌・灰色カビ病菌等増殖抑制効果、インフルエンザウイルス不活化効果)、殺虫性(防蟻効果)、免疫活性向上効果、IgE抗体産生抑制効果などである。これらはまだ研究段階の成果であるが、いずれも生活環境の改善や健康増進に関わるものであり、有益な用途となる。
実用化に近いものとしては消毒剤の原料としての用途がある。様々な生活環境で用いる消毒剤には機能性はもとより安全性も重要な条件となる。天然物である竹を原料とし、製造される消毒剤はこれらの条件を満たしている。日本に多く分布する孟宗竹の稈部から強い抗菌性物質が見出されており、それらを効率的に取り出すことで食品をターゲットとした抗菌剤の開発が行われている。
また、孟宗竹稈部に含まれる香り物質に着目した例もある。竹由来の香り物質には抗菌性や抗ウイルス性の他、抗炎症性、ストレス低減効果などが見出されており、その工業的に優位な効率的な抽出法として「減圧式マイクロ波水蒸気蒸留法 (VMSD)」(図2)が開発されている。本法で得られる抽出水には前記のような優れた機能があり、それらは各種消毒剤や健康増進剤の原料として活用が可能であり、現在実用化に向けた研究開発が進められている。VMSDは外部より水分は導入せず、原料である竹の中の水分をマイクロ波で蒸気にして蒸留する原理である。そのため残された抽出残渣は乾燥した状態となり、その後の処理操作において乾燥工程が不要であり、利用が容易となる利点がある。研究の一例としてVMSDによる抽出残渣に対して蒸圧・酵素処理を施し、回収される成分には抗酸化性、コレステロール上昇抑制作用、免疫賦活作用などの生理活性が見出されており、機能性健康素材としての活用法が考えられている。また最終的に残った残渣については、乳酸菌によりサイレージ発酵した飼料としての開発も進んでいる。その他。抽出残渣には生活環境で問題になる悪臭成分に対する消臭活性も見出されており、各種消臭素材としての用途開発も行われている。
竹に対してVMSD処理を施し、消毒剤原料や機能性健康素材、飼料、消臭素材等が段階的に入手できるこの一連の操作は、竹の総合利用技術として注目されている。
ナレッジ活用事例
孟宗竹から抗菌性物質として2,6-ジメトキシ-p-ベンゾキノンが見いだされており、それらを含むエキスを活用し、グリセリン、エタノール、グリセリン脂肪酸エステルを用いて製剤化した例(製品名:「竹伝説」、日本油脂(株))がある。
孟宗竹やマダケを炭化し、農業用の資材として竹炭や竹酢液を製造している例がある。竹酢液からは環境に優しい洗剤を開発した例もある。
最近の利用例としては、パルプ関連会社(中越パルプ(株))が竹由来の紙やセルロースナノファイバーを製造・販売している。
竹のリファイナリー的な総合利用法の開発として、減圧式マイクロ波水蒸気蒸留法(VMSD)を核として、抗菌性、抗ウイルス性を有する抽出水、コレステロール上昇抑制効果等を健康増進効果に優れた成分、家畜飼料、消臭素材などを総合的に開発する試みがある(図3 森林総合研究所、東京電機大学)。
日本における位置づけ・特徴
日本では身近な生活の道具類として竹を用いてきた。その歴史は古く、縄文時代の古墳からも竹籠が出土している。また日本独特の文化である茶道や華道などでも道具類の一つとして竹が多用されている。その他、古くから竹の葉や幹を食品の包材として利用する例は多い。これは身近な素材として利用しやすかったことの他、経験的に食品類の腐敗防止や鮮度保持などの機能性が知られていたからであろう。最近、竹由来の抗菌性や抗酸化性に優れた成分が見いだされており、それらを活用した消毒剤や抗菌剤などが開発されている。
これら竹の利用例は資源を無駄なく有効に利用する「もったいない精神」を育む日本らしい取り組みである。
ナレッジの所有者・継承者および連絡先
- 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
- 東京電機大学
- 日本油脂(株)
- 中越パルプ(株)
関連URL
- 竹文化振興協会 http://web.kyoto-inet.or.jp/people/j-bamboo/index.html
- 日本木酢液協会 https://www.nihonmokusaku.jp/
- 竹伝説(日本油脂) https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902029649718199
- 竹紙(中越パルプ) http://www.chuetsu-pulp.co.jp/sustain/eco/about.html
- バイオリファイナリーによる竹資源活用にむけた技術開発(森林総合研究所) https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/koufu-pro/documents/seikasyu57.pdf
引用・参考文献
- 阪上末治 1997 抗菌のすべて、 繊維社
- 藤井透 2008 竹の基礎科学と高度利用技術、シーエムシー出版
- 内村悦三 2005 タケと竹を活かす、林業改良普及双書
- 大平辰朗 2012 最新の香り物質抽出法、八十一出版
- 椎葉究、平本茂、大平辰朗 2020 「竹バイオリファイナリー」孟宗竹中の健康に資する成分と孟宗竹の総合利用について BIOINDUSTRY、37:80-94
その他
日本では竹の繁茂等により、近隣にある森林も少なからず影響を受けている。竹の用途が増加すれば、繁茂した竹の除去にもつながり、森林の保全にも効果があると考えられる。途上国では、タケ資源の付加価値向上に伴い収益が向上すると、周囲の森林の利用圧低減につながると期待される。
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