ナレッジ名称:ウルシの植栽適地

ナレッジ概要

今後の漆資源確保に対応し、ウルシ植栽地の着実な拡大に資するため、植栽適地に関する既往の知見を整理して、適地選定に活用するための留意点を記した。日本国内における近年の漆需要の増加を背景として、昨今の農政改革や農山村の過疎・高齢化の進行に伴う国内の農林業の環境変化により拡大している遊休農地などに対して、新たにウルシを植栽することで、漆資源の確保を進める動きが近年活発となっている。将来にわたり持続的に漆資源を安定供給する体制を確立するためには、植栽されたウルシの健全な生育は不可欠である。一方で、ウルシは植栽後の立地環境や土壌条件に影響を受けやすく、野菜や果樹・花卉などと同様に、土地の条件を選ぶ、比較的手間のかかる植物である。このことから、ウルシの植栽予定地について、現在、どのような立地環境にあり、過去にどのような作物が作付けられ、その収量はどの程度だったか、土地利用履歴や実績に留意し、さらに周囲の地形や土地造成時の工事内容にも注意を払い、土壌が水分過多な環境ではないかなど、立地環境や土壌条件を十分に検討し、適切なウルシの植栽地を選ぶことが肝要である。

背景(歴史・発展)

「漆」はウルシ(Toxicodendron vernicifluum (Stokes) F. Barkley)の幹に傷をつけて採取される樹脂を含む樹液であり、日本では縄文時代から塗料や接着剤として使用されてきた。現在も、漆器や金属への利用に留まらず、金閣寺や日光東照宮を初めとした国宝・重要文化財建造物の保存修復にも使用されており、日本の伝統文化を継承する上で必要不可欠な資源である。

日本における漆の消費量は2018年で約38トンであった。そのうち、国内における漆生産量は1.8トンで、国内消費量の5%程度に留まる状況である(林野庁 2020a)。将来にわたって持続的かつ安定的な漆資源の需給体制を確立するために、農山村の過疎化や高齢化などにより近年拡大している遊休農地などを有効活用して、より収益性の高いウルシをそれらに植栽することで、漆資源の確保を進める動きが活発となっている。日本におけるウルシ林面積は、2000年代には110~180 haを推移していたが、2012年以降300 haを超え、2018年には370 haへとウルシ林面積が拡大している (林野庁2020b)。一方、水田、畑、牧草地などから作付転換をし、新たにウルシを植えてみたところ、その後に樹の枝や梢端が枯死する「梢(しょう)端枯(たんが)れ」や樹が枯死する事例も散見されるようになり、問題となっている(写真1)(小野ら2019)。

写真1. 梢端(しょうたん)枯(が)れを起こしたウルシ
(撮影:田端雅進氏)

具体的技術(製法、作業方法、実施方法等の具体的なナレッジの方法)

土壌条件:

ウルシの植栽適地に関する条件については、過去のウルシ植栽事業実績に基づく種々の報告がある(伊藤1949, 1979; 倉田1949, 1951; 片山1952; 小野・伊藤1975; 高野1982; 千葉1984; 岩村1988; 田端2013; 徳島県農林水産部林業課 2017; 岩手県県北広域振興局農政部二戸農林振興センター林務室 2020)。これらの報告で共通して提示されたウルシの適地の土壌条件は、主に以下の3点である。

  1. 軟らかく肥沃な土壌であること
  2. 土壌中に滞水(水が停滞)しないこと
  3. 土壌が適度な保水性を有し、あまり乾燥しないこと。

このことから考えるとウルシは木本植物ではあるものの、スギやマツ、ヒノキなどの国内の主要造林木とは異なり、野菜や果樹、花卉などと同様に土地の条件を選ぶ、比較的手間のかかる植物であるといえる。

土壌水分環境や透水・排水性、通気性に関しては、ウルシは排水不良な過湿地を疎む(倉田1949)反面、乾燥する土地も好まず(片山1952; 千葉1984; 岩手県県北広域振興局農政部二戸農林振興センター林務室 2020)、適湿な土壌を好むと言われている(倉田1949; 高野1982; 徳島県農林水産部林業課2007)。土壌水分環境から考えた場合、過湿と乾燥、一見、相反する見解のようであるが、これは高野(1982)が記述しているように、「(ウルシの根が発達できる土壌は)ほどよい水分環境を備えた上で、極めて好気性である」ことがウルシの適地としての必要条件であることを示唆していると言える。小野ら(2019)は、土壌の透水能が高く、植栽基盤として問題の無いレベルの土壌であった場合でも、通年もしくは季節的に地下水位が高く、排水不良を誘引するような条件下にあるウルシ植栽地では、過湿環境に起因した根腐れが発生し、ウルシの活着・生育不良を引き起こすことを報告している。土壌の透排水不良に起因した滞水は、通気性も悪化させるため、そうした土地はウルシの植栽不適地として取り扱うべきである。

肥沃度や保肥力、土壌pH、土性などに関連する土壌の化学特性も、ウルシの生育の正否に関係していると言われている。土壌の保肥力の指標としての陽イオン交換容量(Cation Exchangeable Capacity; CEC)について、ウルシの生育良好地と不良地の土壌を分析し比較した報告(小野2019)では、生育良好地の土壌が不良地の土壌に比べCECが高く、交換性塩基類の保持力(保肥力)が高いことを示唆している。多くの既往文献で、ウルシは肥沃な土壌を好むとされているが、上述の結果はそれらの経験的な伝承を支持したものである。

ウルシ植栽地の土性については、「水が停滞しない砂礫壌土で、秩父古生層のような石灰質分を含み、小石混じりの壌土が最も適当」(小野・伊藤1975; 伊藤 1979)と記載されているものや、さらに「粘質な土壌では成長が思わしくなく、やや礫質な土壌で良い成長を示す傾向にある」(岩村1988)とするものがある。一方で、「埴質または砂質がかった壌土がよい」(千葉1984)としているものもあり、植栽適地の土壌として埴壌土を許容する報告もある。小野ら(2019)によると、土性とウルシの生育状況の関係性について、砂礫壌土や砂質壌土がウルシの適地条件としての必然性は認められなかったとしており、適地を判断する上での土性については見解に相違がある。

土壌の酸性度(土壌pH)については、ウルシは「土壌的にも、酸性に弱く、(中略)うまく育たない」(中野1982)とするものがあるのに対し、適地選定の基準として「pHは4.5~5.5とする」(千葉1984)や、「強酸性を避け、中性に近い土壌を好み、6.0~6.5くらいまで矯正しやすいところが良い」(高野1982; 徳島県農林水産部林業課2017)などと記しているものもある。土壌pHはウルシの適地を判断する際に関心の高い事項であるが、一方で小野ら(2019)は有効土層の土壌pHが5~7程度の弱酸性から中性の範囲ならばウルシの生育の良否に関わらないと報告しており、これらの報告に関する適地条件も見解が統一されていない状況である。

植栽不適地の土壌条件~地形や土地利用履歴の観点から鑑みた留意点~

農業および林業の現場では、その土地の地形や土壌などの立地条件を考慮して、その地に適した作物や樹木を選んで植えるのが原則であるという「適地適作」、あるいは「適地適木」という考え方がある。改めて、山林を眺めてみると、風が当たって土壌が乾燥する尾根にはアカマツ、水が集まり土壌が湿潤となりやすい斜面下部の沢筋にはスギ、その中間部にはヒノキが植えられていることが多いことに気付く。こうした造林木の植え方を、林業の現場では「尾根マツ、沢スギ、中ヒノキ」と言い、長年培われてきた経験を表す言葉である。このようなことは、アカマツ、スギ、ヒノキに限らず、土地の条件を選び、手間のかかる植物であるとされるウルシに関しても例外ではない。そこで、以下では、農地や林地における作付の転換を考える上でのウルシの適地適木に関する留意点について、実際の植栽事例を取り上げ、その地の地形や過去の土地利用・土地改変の観点から検討し、解説する。

農業従事者の高齢化や、米の生産調整を目的とした減反政策の推進により発生した、耕作が放棄された水田跡地を活用し、ウルシを植栽する事例が増えている。写真2は、1975年には牧草地(写真2a)、2012年には水田(写真2b)へと土地改変がなされ、さらにその後にウルシが植栽された(2017年、写真2c)場所を時系列に並べた空中写真である。同じ箇所の地形図(図1)で地形を確認すると、この周囲は斜面で囲まれ、北~北東方向にかけて沢筋が流れ込む斜面下部に位置した土地であり、水田への転換時には水田の水源として上部に溜め池も造成されたことが確認できる。一般に山地斜面下部には、上部からの水を集めやすく、適潤~湿性の土壌が分布する。実際に当該箇所の周囲の状況を確認すると、ウルシが植栽されている水田跡地は適潤性の土壌を好むスギ林に囲まれ、そのスギは良好な生育を示していた(写真3)。さらに、当該箇所の土壌断面を試坑し、観察すると、もともと斜面下部で上部より水を集めやすい地形であることに加え、水田造成時の切土で出現した硬盤や機械踏圧で形成された耕盤層によって水はけは不良で、地下水位も高く、極めて過湿な土壌水分環境となっていることが確認された(写真4)。既述のように、ウルシは排水良好で乾燥しすぎない適湿で且つ好気的な土壌を好むとされていることから、このような斜面下部の水田跡地(休耕田)はウルシの不適地と考えるべきであろう。

写真2. 水田跡地のウルシ植栽地における土地利用の変化(太線部がウルシ植栽地) 出典:国土地理院ウェブサイト(https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1)
図1. 水田跡地のウルシ植栽地の地形図 (太線部がウルシ植栽地)
出典:国土地理院ウェブサイト(https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1)
写真3. 水田跡地のウルシ植栽地のようす
写真4. 水田跡地のウルシ植栽地の土壌断面

一方、写真5は、河岸段丘上を切り開いた畑の一角にウルシを植栽して30年ほど経過した場所を示す航空写真である。この畑はスギ林に囲まれており、その生育は良好であった。当該箇所の地形図(図2)によると、ウルシ植栽箇所は段丘前面の土手に面し、斜面上部に位置していた。尾根、山腹斜面上部、台地の肩などの土壌は乾燥の影響を受けやすく、一般に乾~適潤性の土壌が出現する。当該箇所の土壌断面を観察すると、腐植に富む黒色の土層が30cm程度と厚く(写真6a)、ウルシの根は60cm深程度まで伸長していた。また、土壌内部での滞水の痕跡や排水不良が疑われる土壌物理特性は認められず、土壌の理化学特性は良好であった。当該植栽地の約30年生のウルシの平均胸高直径は24cm、平均樹高は15mであり、生育も良好であることが確認された(写真6b)。

写真5. 河岸段丘上の畑の一角のウルシ植栽地の様子
(太線部がウルシ植栽地)
出典:Map data ©2020 Google Earth
図2. 河岸段丘上の畑の一角のウルシ植栽地の地形図(太線部がウルシ植栽地) 出典:国土地理院ウェブサイト(https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1)
写真6.  河岸段丘上の畑の一角のウルシ植栽地の土壌断面(a)と外観(b)

ナレッジ活用事例

日本国内においては、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、日本森林学会誌、日本文化財漆協会、一般社団法人農山漁村文化協会、日本森林技術協会、日本特用林産振興会、および漆の資源利用に関わる各種自治体が、植栽適地に関する情報を提供している。

海外では、中国、ベトナム、ミャンマー、タイなどで漆器がつくられ 観光地などで土産物や仏具などで利用されている。ブータン、韓国などでも漆が使われる。ミャンマーやタイ北部ではビルマウルシ(Gluta usitata/ : Melanorrhoea usitata)が植栽され、樹液が採取される。日本と同様、植栽適地についても砂質土壌から粘土質土壌、酸性から中性の土壌まで統一的な見解がない。

日本における位置づけ・特徴

2015年の文化庁通達(文化庁2015)の影響により、国宝や重要文化財の保存・修復のための国産漆の需要が増加している。現在、国内で使用されている漆の9割以上が中国産であり、国産漆資源増産の必要性が高くなっている。今後、国内で漆を安定的に供給するために、ウルシを植栽し、漆資源の確保が急務となっている。一方で、ウルシは適地に植栽しても、漆を採取できるまでには15~20年かかるため、確実な漆資源の増産が求められており、ウルシ適地の選定が非常に重要であると言える。

ナレッジの所有者・継承者および連絡先

近年、いくつかの自治体や、漆資源の生産・利用を進める団体等からウルシ林の造成に関する情報をまとめた冊子やpdf等が公開されている(7.参照)。ウルシはスギやヒノキなどの造林木と比べ、土地の条件を選り好みし、手間のかかる樹種である一方で(小林2009a, b)、その造成技術は確立されていない。日本のナレッジを参考にそれぞれの植栽現地に適合した技術や知見の集積が必要であると考えられる。

関連URL

  1. 岩手県県北広域振興局農政部二戸農林振興センター林務室 (2020) ウルシ植栽のすすめ. 10pp. 
    https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/014/952/urushi_susume.pdf
  2. 日本特用林産振興会(2020)令和元年度特用林産物を活用した成長産業支援対策 特用林産物(漆)関連情報の収集・提供事業報告書 48pp. https://nittokusin.jp/nittokusin/wp-content/uploads/2020/04/9a99e9463dc127e25ce3ccfa963ccbe0.pdf
  3. 田端雅進(2013)ウルシの健全な森を育て、良質な漆を生産する. 森林総合研究所第3期中期計画成果3 育種・生物機能-1. 22pp. https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/chukiseika/documents/3rd-chukiseika3.pdf
  4. 徳島県農林水産部林業課(2017)うるしの木.=栽培のすすめ=. 24pp.
  5. Asian Lacquer Craft Exchange Research Project:

引用・参考文献

  1. 文化庁 (2015) 「国宝・重要文化財(建造物)保存修理における漆の使用方針について」平成27年2月24日付(26庁財第510号)
  2. 千葉春美 (1984) ウルシ樹の造成とかきとりの手引. 日本文化財漆協会
  3. 伊藤清三 (1949) うるしー漆樹と漆液. 農林週報社
  4. 伊藤清三 (1979) 日本の漆. 東京文庫
  5. 岩村良男 (1988) 薬用等原木林育成技術に関する研究. 青森県林業試験場報告 38:56-86
  6. 岩手県県北広域振興局農政部二戸農林振興センター林務室 (2020) ウルシ植栽のすすめ. 10pp.
    https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/014/952/urushi_susume.pdf
  7. 片山佐又 (1952) 技術・経営 特殊林産. 朝倉書店
  8. 小林光憲(2009)ウルシはとっても贅沢な木(上). 岩手の林業624:4-5
  9. 小林光憲(2009)ウルシはとっても贅沢な木(下). 岩手の林業625: 5-6
  10. 倉田益二郎 (1949) 特用樹種. 朝倉書店、東京
  11. 倉田益二郎 (1951) 特用樹の有利な栽培法. 博友社 東京
  12. 日本特用林産振興会(2020)令和元年度特用林産物を活用した成長産業か支援対策 特用林産物(漆)関連情報の収集・提供事業報告書 48pp. https://nittokusin.jp/nittokusin/wp-content/uploads/2020/04/9a99e9463dc127e25ce3ccfa963ccbe0.pdf
  13. 小野賢二、平井敬三、田端雅進、小谷二郎、中村人史(2019)ウルシ植栽適地の土壌特性. 日本森林学会誌101:311-317
  14. 小野賢二(2020)ウルシ林造成のための植栽適地. 森林技術944:12-15
  15. 小野陽太郎・伊藤清三 (1975) キリ・ウルシ ―つくり方と利用-. 農山漁村文化協会
  16. 林野庁(2020a)令和元年度森林林業白書
    https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r1hakusyo/attach/pdf/zenbun-22.pdf
  17. 林野庁 (2020b) 特用林産物生産統計調査 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokuyou_rinsan/gaiyou/index.html
  18. 庄司清三(1935)漆液の産出量及品質に及ぼす気候要素に就て 日本林学会誌17:42-47.
  19. 庄司清三(1936)漆樹分布地の地床構成植物に就て 日本林学会誌18:43-55.
  20. 田端雅進、橋田光(2020)地域資源を活かす生活工芸双書 漆2:植物特性と最新植栽技術. 一般社団法人農山漁村文化協会 125pp.
  21. 高野徳明 (1982) 漆の木-苗木づくり 植栽 撫育管理 かき取り作業-. 岩手県林業改良普及協会
  22. 田中功二、飯田昭光、土屋慧、小岩俊行、松本則行、中村弘一、高田守男、平井敬三、平岡裕一郎、田端雅進(2017)植栽適地の評価に向けた漆の成長への立地環境および林分状況の影響の解明. 日本森林学会誌99:136-139
  23. 日本文化財漆協会(2020)ウルシ苗栽培 75pp.
  24. Elliott et al. (1997) Forest restoration research in northern Thailand: 2. The fruits, seed and seedlings of Gluta usitata (Wall.) hou (Anacardiaceae) Natu. Hist. Bull. Siam Soc. 45: 205-215.

その他

日本では非森林の土地利用がうるし生産林として森林としての土地利用に転換されている。

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