ベトナムニンジン

ベトナムニンジンの栽培圃場

ベトナムニンジンの蕾

北米のアメリカニンジンdwarf ginseng (Panax trifolius) (by Rob Routledge, Sault College, Bugwood.org:Forestry Imageより)

原料となる植物

学名
Panax L. spp.
一般名
人参(日本語)、Ginseng(英語)、Nhân Sâm/Tam Thất(越語)、インサム(韓国語)
樹種概要

トチバニンジン属 (Panax) 植物はウコギ科(Araliaceae)の多年生草本で、現在、およそ12種が知られている。北半球に広く分布し、北アメリカから日本、朝鮮半島等の東アジア地域、ベトナム、ミャンマーといった東南アジア地域、インド、ネパール等の南アジア地域に分布する。主な種・亜種には、朝鮮人参/高麗人参(P. ginseng)、中国人参(P. notoginsen)、トチバニンジン(P. japonicus)、ベトナムニンジン(P. vietnamensis)、ヒマラヤニンジン(P. pseudoginseng)、アメリカニンジン(P. quinquefolium)等がある。ヒマラヤニンジンは狭義には、P. pseudoginseng subsp. himalaicus を指すが、ここではP. pseudoginsengをヒマラヤニンジンとする。また、中国人参をP. pseudoginsengの変種:P. pseudoginseng var. notoginsengとし、トチバニンジンをP. pseudoginsengの亜種:P. pseudoginseng subsp. japonicusとする場合がある。いずれの種・亜種にも根や葉にサポニン類のジンセノサイドを含有し、生薬となる。上述のベトナムニンジンは、ベトナムに固有の比較的新しい種(1973年)で、ベトナム中央部クアンナム省とコンタム省に位置するゴップ・リン山(Mt. Ngoc Linh)で発見された。そのため、ベトナムではゴップ・リンニンジンと呼ばれている。同種の根には抗癌作用のあるマジョノサイドR2を比較的多く含有することが報告されており、その薬効に注目が集まりつつある。以下、ベトナムニンジンを主体にトチバニンジン属植物について概観する。

産品の特徴

用途
生薬(医薬品、食品を含む)
産地
トチバニンジン属植物:北アメリカ、東アジア・東南アジア・南アジア
ベトナムニンジン:ベトナム国クアンナム省・コンタム省(ゴップ・リン山)、ゲアン省キーソン郡の山岳部(標高:1,300 m 以上)
産品概要

薬効

根や葉に含有するサポニン (saponin)はジンセノサイド(ginsenoside)と呼ばれており、ダマラン系サポニン(dammarane saponin)とオレアン酸サポニン(oleanane saponin)に大別される。ダマラン系サポニンのうちプロトパナキサジオール (protopanaxadiol-type)には中枢神経に対して抑制的に働き抹消神経を拡張させて気持ちを静めリラックスさせる効果があるのに対し、プロトパナキサトリオール (protopanaxatriol-type)には中枢神経に興奮的に作用し血管を収縮させ活力を与える効果があるとされる。この相反する機能がバランス良く作用することで鎮静効果と強壮効果の両方をもたらし、血糖や血圧を調整し身体の状態を正常に保つといわれている[独法 国民生活センター (記者説明会資料)2007.1.10; 韓国人参公社ジャパン(ウエッブサイト)] 。ベトナムニンジンからはダマラン系オコチロールサポニン (Ocotillol-type)のマジョノサイドR2 (majonoside-R2)が抽出されているが、これには抗癌作用があるとの報告がある(Yamazaki 2000)。マジョノサイドR2はネパールから採取されたヒマラヤニンジンからも抽出されているが、ブータンから採取されたものからは報告されていない(Tanaka et al. 2000)。

 

栽培の現状と生育環境

北アメリカ東部海岸では1860年頃から中国への輸出用にアメリカニンジンの栽培が行われてきた。圃場での栽培が難しいとされ、天然林や二次林での林床栽培(wild-simulated methodsと呼ばれている)が推奨されている。その適地は、北または東向き斜面の渓畔林で、林冠が鬱閉している(鬱閉率:70%以上)暗い林内とされ、湿潤で水はけの良い、Ca分に富むやや酸性な土壌を好むとされる。

ベトナム国クアンナム省・コンタム省では圃場でベトナムニンジンの栽培が行われているが、根の形状や含有成分において天然品より劣ること、また、集約的な栽培では病気が蔓延しやすいことが報告されている。ベトナム国ゲアン省キーソン郡ではベトナムニンジンの試験栽培の他、ヒマラヤニンジン (P. pseudoginseng) の林床での試験栽培も行われているが、1年生苗の定植1年後の活着率は約90%とその生育は順調である。林床栽培地の環境は、アメリカからの報告同様、北向きの渓谷林内で、水はけが良く、Ca、Mgに富み、pH:5程度の弱酸性土壌に栽培されていた。

 

産品化と流通の実態

圃場または林床に定植された苗は4~6年後に出荷可能な根茎を発達させる。葉や花にもジンセノサイドが含まれることから、根茎以外の部位も市場で取引されている。

東アジア地域では古くからトチバニンジン属植物は広く流通していた。17世紀には既に朝鮮半島から中国(当時、清国)や日本(対馬藩)に朝鮮人参が輸出されている。18世紀(享保年間)になると日本でも朝鮮人参(「お種人参」と呼ばれている)の栽培に成功し始め、日本から中国(清国)へと朝鮮人参の根茎が輸出されるようになる。19世紀になると、中国(清国)は、アメリカからもアメリカニンジンの根茎の輸入を開始する。現在、日本は朝鮮人参輸入国で、2017年における日本の朝鮮人参の輸入量は年間1,100トン程度で [財務省貿易統計(輸入)2017]、主要な輸入国は中国(中華人民共和国)である。

本属植物は、ベトナム、ミャンマー、ブータン、ネパール等にも分布し、民間伝承薬として利用されてきたが、近年、それぞれの産地で、また、産地を超えて流通している。ベトナムの例では、国内に200-400トン/年程度のヒマラヤニンジンが流通しているが、その多くは中国からの輸入品である。近年、ベトナム産のものも流通しており、その根茎は7,500円/kg程度、花は3,000~4,000円/kg、葉は500~750円/kgで取引されている(現地聞き取り)。

 

ベトナムにおける取組

ベトナムではベトナムニンジンを国家的レベルの産品に指定し(首相決定、 Decision 787/QD-TTg, 2017)、国を挙げて、育苗、栽培に取り組んでいる。2009年にはすでに試験管培養での苗の生産に成功しており、本種の大量生産に期待が寄せられている。また、乾燥した葉をティーバックに詰めた高級人参茶や医薬品開発等、新規産品開発が精力的に行われている。

参考情報
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