サトウヤシ砂糖

写真1.森林内に自生するサトウヤシ(左)及び花序液の採集(右)

原料となる植物

学名
Arenga pinnata
別名:Arenga saccharifera Labill.
一般名
サトウヤシ(砂糖椰子)
樹種概要

サトウヤシ(Arenga pinnata Merr.)は、東南アジアを原産とするヤシ科クロツグ属の一種で、亜熱帯乾燥~湿潤林から熱帯乾燥~多雨林にかけての生物分布帯に分布し、降水量700mm-4,000mm、年平均気温19~27℃、土壌pH5.0~8.0)にわたる幅広い環境に耐えて生育している。耐病性、耐乾性、耐菌性、耐アルカリ性、耐害虫性が高く、乾燥、台風、害虫、菌類による被害を受けることはほとんどない。好適な生育は500~800mの標高域で年降水量1,200mm以上、7~10ヶ月の湿潤月、年平均気温25℃前後で得られるとされる。インドネシアでは国内全域にわたって森林内に自生する在来種である。

成熟し開花するまで通常10-12年かかるが、5-6年で開花を始める場合もある。別の報告では標高によって開花までの期間は12-16年の幅がある。開花を始めてから約15年にわたって継続的に開花する。開花は一般に不定期で果実の成熟には約2年を要する。

サトウヤシは花序液を煮詰めたサトウヤシ砂糖の原料となる他、葉、果肉(胚珠)、幹の髄も食品として利用可能である。また葉や幹の繊維が箒・ブラシ、屋根ふき材料となるなど、多様な産品を生み出すことで周辺の森林生態系を損傷することなく地域社会に経済的便益をもたらす重要な有用植物である。

産品の特徴

用途
食品
産地
東南アジア
産品概要

サトウヤシ砂糖の生産方法と生産概況

サトウヤシ砂糖は花序を切って出る液を竹筒で貯め、それを大鍋に入れて煮詰めることで作る。木枠やココナッツの殻に流し込み固形化するか、そのまま粉末状になるまで鍋の中で撹拌する。花序液は直ぐに発酵するため、砂糖生産のためには採取後、あまり時間を置かずに煮詰めて発酵を止める必要があり、大規模なプランテーションによる生産には不向きである。

西ジャワ州の国立公園内における生産地調査(※ビジネスモデル参照)では、50~100本/ha程度の自生密度で、サトウヤシ1本から、朝夕約20リットル/日の花序液の採集が可能であった。花序液20リットルは、煮詰めた後、サトウヤシ砂糖約0.8kgに相当する。1農家当たり5~10本のサトウヤシを管理していたことから、1農家当たりのサトウヤシ砂糖の生産量は4~8kg/日、100~200kg/月と試算された。農家での買い取り価格を150円/kgとすると、1農家当たりのサトウヤシ砂糖販売収入は、600~1,200円/日、15,000~25,000円/月と試算され、森林周辺に居住する農家の貴重な現金収入源となっている。サトウヤシの生産面積はやや減少傾向だが、サトウヤシ砂糖の生産量は増加傾向にある(表1)。

表1.インドネシアのサトウヤシの生産面積及び生産量
(出典) インドネシア林業省 (Statistik Perkebunan Indonesia 2014 – 2016)

インドネシア国内における需要動向

インドネシア国内では、サトウヤシ砂糖,ココヤシ砂糖およびオウギヤシ砂糖の主に3 種類の「ヤシ砂糖」が一般的に流通している。ヤシ砂糖は,保存期間 が2,3年と長く長距離輸送も可能な産品であり、従来の固形に加えて粉末状がスーパー、百貨店等で販売されている。ヤシ砂糖の最大消費先はインドネシア料理には欠かせない調味料のケチャップであるが、その他家庭では料理や菓子づくり、コーヒー・紅茶の甘味料として広く使用されている。近年、無農薬・無化学肥料の有機認証製品(JAS、USDA、EU) も販売されており、これらは健康志向の中間~富裕層が主なターゲットとなっている(写真2)。

インドネシアにおける粉末状サトウヤシ砂糖ビジネスの先駆者であるアレンガ・インドネシア社代表のインドラワント氏への聞き取り調査によれば、糖尿病患者に、白砂糖ではなくサトウヤシ砂糖を薦めている医師が同国には多いとのことである。

写真2.インドネシア国内で販売されているサトウヤシ砂糖商品

日本を含む海外への輸出動向

ココヤシ及びサトウヤシ由来のヤシ砂糖は近年の健康ブームを背景に、欧米諸国にも多く輸出されているが、公式の貿易統計データの入手は困難である。現在,日本国内におけるヤシ砂糖の名称で取引のある商品のほとんどがココヤシを原料としている。サトウヤシ砂糖については、一部の事例を除き日本への輸入実績はほとんど無いと考えられる。

日本への輸入に際しては,輸送コ ストに加えて,砂糖には高い関税率が かけられていることから,日本でのプレマ株式会社からのサトウヤシ砂糖1kgあたりの販売単価設定は業務用(10 kg単位,2016年10月に販売開始)で1,600円,個人消費者向け(250 g単位,2018 年から販売開始)で2,000円となった(表2)。

表2 .インドネシアの各段階及び日本国内におけるサトウヤシ砂糖販売単価の一例
(出典) 2016年9月加工業者B社への現地調査結果に基づき、1円=100ルピアで換算

日本国内における市場可能性 

(1)製菓材料としての食味等について

公益社団法人日本環境教育フォーラム、プレマ株式会社及びフェリス女学院大学エコキャンパス研究会が協働し、インドネシアからのサトウヤシ由来のヤシ砂糖を用いた高級菓子の商品開発を実施している。これまでに、横浜に拠点を置く洋菓子店やパン製造業者により、クッキーやパウンドケーキ、ジェラートや菓子パン等の生産と試験販売を行っているが、その実績から、サトウヤシ砂糖の香味・風味は、菓子等の原材料として魅力的であることが確認されている。

サトウヤシ砂糖の国内市場での浸透を考える上で、特に注目したいのが食味の上品さやまろやかさなどから御茶席用の高級和菓子の甘味材料として多く使われている和三盆である。日本古来の黍(きび)から作る和三盆の末端価格は1kgあたり2,500~3,000円程度のものが多く、サトウヤシ砂糖とほぼ同じか少し高い設定となっている。サトウヤシ砂糖は色がやや濃い他、食味に個性があり製菓材料として物によっては使いづらい面も想定されるとは言え、逆にサトウヤシ砂糖でなければ作れない味の菓子を作ることは和三盆と同様に、十分挑戦の余地があると言える。(表3)

表3 .サトウヤシ砂糖と他の砂糖との価格、特徴比較

(2)健康食品としての差別化可能性

サトウヤシ砂糖はインドネシア国内では健康食品としての認知が浸透している。サトウヤシ砂糖を健康効果のある食品として日本で販売する際には、健康に効果があるとされる成分及び安全性について、信頼性の高い情報を提示できれば、消費者への高い訴求力が期待できる。サトウヤシ砂糖を販売する上での大前提となる安全性確認および特性を明らかにするための成分分析について、日本の分析機関に各種分析を依頼し、以下の結果を得た(表4)。

表4 サトウヤシ砂糖の成分分析結果(重要成分のみ抜粋)
(*1) ビタミン様物質に分類されるため表示基準なし。(*2) 任意表示のため表示基準なし。

本分析に供試したサトウヤシ砂糖には、一般的なミネラル量は、精製白砂糖に比べれば明らかに多く含まれているが、カルシウム、鉄、マグネシウム等、消費者ニーズが高く、健康機能を有するとされるミネラル量はそれほど多く含まれていなかった。一方、100g当たりの含有量として、健康効果のある以下の4成分が多く含まれていることが判明した。

  • ナイアシン … 脳神経の働きを助ける、血行を良くする(黒砂糖の約4倍)
  • 葉酸 … 貧血、口内炎予防、病気に対する抵抗力を高める(黒砂糖の約4倍)
  • イノシトール … 脂肪肝や動脈硬化を予防する、脳細胞に栄養を与える
  • ポリフェノール … 動脈硬化や脳梗塞を防ぐ抗酸化、ホルモン促進作用(黒糖と同等)
以上から、サトウヤシ砂糖に比較的多く含まれている健康有効成分(ナイアシン、葉酸、イノシトール及びポリフェノール等)を特長とした健康志向型高付加価値商品として、消費者(主に富裕層)ならびに製菓等食品製造販売企業へ訴求していくことが可能であろう。特に葉酸は消費者庁の表示基準では「胎児の正常な発育に寄与する栄養素です」と認定されており、サトウヤシ砂糖から一日に推奨される摂取量を摂るのが難しいとしても、20~40代の妊娠期間前後の女性には強いインパクトを持つことが期待できる。但し、その効果に言及するためには平成3年にスタートし、平成27年4月に改定された保健機能食品制度(現在は消費者庁管轄)の認証をクリアする必要がある。

(3)フェアトレード商品としての訴求

サトウヤシ砂糖の原料は、プランテーションではなく、天然林又は二次林から採集される。そこで、大量生産・大量販売ではなく、地元住民が限られた量で、持続可能な形で生産・販売している天然由来の食品であることをセールス・ポイントとして、フェアトレード市場を狙う戦略が考えられる。

サトウヤシ砂糖を日本国内で流通させるためには、以上に述べたようなの3つの柱に基づいたブランディング戦略により、高価格でもグリーン購入やエシカル消費に理解のある顧客を長期的に獲得していくことで、事業化の可能性が十分にあると考えられる。一方で表5のような課題も指摘されている。

表5 日本におけるサトウヤシ砂糖製品の事業化に向けた課題

参考情報
  • 北野至亮 (1984) 熱帯植物要覧. 熱帯植物研究会編. 養賢堂
  • 佐藤 輝, 仲摩 栄一郎, 久野 真希子, 矢田 誠(2018)「インドネシア・ジャワ島の持続可能な森林保全をめざす非木材林産物のサトウヤシ砂糖の生産工程調査と日本での商品化の試み」『人間と環境』2018 年 44 巻 3 号 2-17
  • 仲宗根洋子(2004)「インドネシア産ヤシ砂糖と甘蔗糖の糖,有機酸およびアミノ酸組成」『琉球大学農学部学術報告』第51 号,127-130.
  • JEEF(2014)ヤシ砂糖加工品生産支援による人と自然の共生プロジェクトhttp://www.jeef.or.jp/activities/indonesia/
  • Uhl, Natalie W. and Dransfield, John (1987) Genera Palmarum – A classification of palms based on the work of Harold E. Moore. Lawrence, Kansas: Allen Press. ISBN 0-935868-30-5 / ISBN 978-0-935868-30-2
  • Wageningen University. 2010. Effect of Palm Sugar on Blood Glucose Concentrations (LIPS) https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01240837

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