シアバター
原料となる植物
- 学名
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Vitellaria paradoxa
別名:Butryospermum paradoxum, - 一般名
- シアーノキ、Shea Butter Tree
- 樹種概要
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地域及び生育環境
シアーノキはアフリカ大陸北半球の湿潤もしくは乾燥サバンナ地帯に分布するアカテツ科の双子葉植物で、常緑の小高木。一般にブッシュの中に自生しており、樹高は7m~25m程度になるが、農地内に自生している場合は、農業従事者によって平均樹高15m~20m、直径1m程度に維持管理されることもある。
主要生産物はシアーナッツと呼ばれる種子から作られるバターである。年間平均降雨量が1000㎜以下の地域に分布しており、パームオイル栽培が不可能な地域の重要な油脂系樹木となっている。
生育
自生がほとんどであるが種子から発芽させた場合、樹木の生長は遅く、シアーナッツの収穫ができるのは樹齢10~15年以上、結実が最大になるには20~25年が必要。ガーナなど挿し木による増殖を実施している地域もある。
開花は12月~2月頃の乾季で、直径1cm程度の黄色がかったクリーム色の花が1つの枝に10~40個咲く。雨季の5月~8月頃に結実し、卵の形状の長さ3~8cm程の果実が1本の樹木から15~20kg収穫できる。果肉を取り除き乾燥させることで平均3~4kgのシアーナッツが収穫できる。乾燥シアーナッツの脂肪分は40~60%と非常に高い。
利用
果肉は農繁期の貴重な栄養源となり、採脂肪の残渣は家畜の飼料となる。若い葉を幼児用の胃薬や頭痛薬に使う民族もいる。火傷や皮膚の潰瘍の塗り薬、マッサージクリームとしても利用。樹皮は水に浸して染料の原料になる。材は非常に固く、耐朽力があるため用材として使われるほか、調理器具や薪炭材としても使われている。
産品の特徴
- 用途
- 食品、医薬品・化粧品
- 産地
- アフリカ大陸の北緯5度~15度の湿潤及び乾燥サバンナ地帯、セネガルからウガンダ北西部の年間降雨量500~1200mmの約100万km2の地域21カ国に分布
- 産品概要
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バター・オイルの特性
シアーバターはオレイン酸などの脂肪酸、ポリフェノールなどの抗酸化物質、湿調整効果のある不けん化物を含み、抗炎症作用もあるため、化粧品や医薬品の原料、またチョコレートや菓子類に使うカカオバターの代用品として国際市場での需要が高い。
一方で、シアーノキは原産地の西アフリカの農村で伝統的に利用されてきた多目的樹種である。種の油脂成分含有量が非常に高く、オイルパームに次ぐ油脂系樹木であるが、樹皮、枝、花、実、種子のすべてが利用される。
種子から生産されるシアーバター、オイルは調理オイル、マーガリンやカカオバターの代用品、灯油として使われるほか、石鹸や蝋燭、日焼け止めクリーム、保湿クリーム、ヘアクリームなどの原材料となる。
シアーナッツの収穫と加工
一般的にシアーナッツの収穫は、農村の女性や子どもが農作業の合間にブッシュの中や農地周辺に自生するシアーノキの実を拾い集めて行われる。結実が雨季の農繁期に重なるため、女性たちに収穫が可能なのは農村周辺に自生するシアーノキに限定されることが多い。村から離れたシアーノキは、収集業者が農家の許可をもらって収集し、ローカル市場で販売するケースが多い。
収集したシアーナッツの加工には膨大な労力と時間がかかり、ほぼ全工程が手作業で行われる。まず、ブッシュから拾ってきた果実を茹でたり煎ったりして果肉と殻を取り除きナッツを取り出す。これを揚げたり、5~10日間天日乾燥したりすることで、水分含有率を15~30%程度にする。
乾燥したナッツを粉砕、粒状にした後、さらに細かく磨り潰してペースト状に捏ねあげる。このペーストを水に浸して洗い、脂肪分(バター)を分離させた後、バターを沸騰させ、上質な部分を抽出してオイルとバターを精製する。一部の工程(種子の粉砕や沸騰によるバターの抽出など)を機械化している企業もあるが、基本的に手作業の工程と変わらない。農家では、収穫が農繁期に重なるため、シアーの実をナッツにして乾燥・保存しておき、乾季にバターに加工することが多い。
サプライ/加工チェーン
元来、シアーナッツやバターは国内需要向けに家内生産されていた伝統的的産品であり、サプライ/加工経路は国や地域によって大きく異なっている。一般的には農村の女性グループが収集し、ナッツもしくは、一部シアーバターに加工したものをローカル市場に販売し、そのシアーオイルやバターを消費者が家庭内で用途に応じてさらなる加工を加えながら利用するのが普通であった。
農地周辺に自生するシアーノキは、女性が自由にアクセスできる数少ない自然資源であり、食用や化粧品、燃料など多目的に利用できるとともに、貴重な現金収入源と考えられているが、シアーバターの加工生産には時間と労力の他に水や燃料材、生産設備などのコストがかかる一方で、品質が均一でないためローカル市場の取引価格は低く抑えられている。フェアトレード市場など、高額で取引される認証市場にアクセスできる生産者グループは一部に限られる。また加工されたシアーバターは国内市場では供給過多であり、シアーナッツのまま輸出されることが多い。そのため、農村女性にとっては必ずしも優良な現金収入獲得手段とはいえず、シアーバターに加工せず、ナッツとして販売している農家も多い(Pouliot, M., Elias, M., Geoforum 2013)。
輸出市場の展望
シアーナッツの生産ポテンシャルが最も高いとされている国々は、ベニン、ブルキナファソ、コートジボワール、ガーナ、マリ、ナイジェリア、スーダン、ウガンダの8カ国で年間7万トン~30万トンの生産力があると考えられている(Bup, D. N., Mohagir, A. M., Kapeseu, C., Moulougui, Z., 2014)。最も生産量が多いのはナイジェリアで世界の生産量の60%近くを占めている。シアーノキは海外市場でも利用価値の高い樹木と考えられており、西アフリカ諸国からのシアーバターの輸出は、1998年から2018年までの20年で6倍に伸びており、2018年の年間輸出量は35万トンと報告されている(https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/shea-butter-market)。
今後も輸出が増加すると見込まれているが、これはカカオパウダーの代替品としてシアーバターを利用する企業が増えていることや、人口増加や中間所得層の伸びにより化粧品市場が拡大していることなどが理由として挙げられる。
主な輸入先はヨーロッパ連合(EU)、日本、インド、カナダ、アメリカなど。日本の企業の多くは、ヨーロッパ企業が輸入したシアーバター等を、日本の貿易会社、日本の製油会社等を通じて調達しており、間に4つの企業仲介が入っていることになる。これにより価格差が生じてしまうが、シアーナッツやバターの生産が農村レベルの小規模生産者によって行われていることから、直接買い付けを行うには、一定規模の原材料の安定供給を確保する上で、日本企業にとってのリスクが大きいすぎると考えられている。
今後の課題
シアーバター産業の今後の発展にあたっては以下の課題があると考えられている。
- 品質改善と付加価値の創出;伝統的な手作業によるシアーバター製品は品質が粗悪で付加価値低いため、加工技術の改善と製品開発が必要。一部のプロセスに機械化を導入するなど、労働の効率化を図るとともに製品改良指導による品質の均一化が求められる。
- 生産者の組織化と農業経営管理システムの導入;シアーナッツの収集加工には、多数の生産ユニットが個別に活動しているため、現状把握が難しいとともに、商業ベースのまとまった原材料の確保が困難となっている。生産者組合の設立などにより、最低販売価格の設定などによる生産者利益の確保、原材料の安定供給、生産・加工改善のための資本形成などが必要。
- シアーノキの栽培管理;シアーノキは自生による繁殖がほとんどでプランテーション化が進んでいない。自生するシアーノキは、果実の収穫ができるまでに時間がかかり、また間伐や無差別な野焼き、人口増加に伴う農地拡大等により生育域が減少、萌芽更新も減っている。適正な管理やプランテーション化の研究が必要である。
- 参考情報
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- 日本貿易振興機構(ジェトロ)2005年3月 「西部アフリカ油脂加工産業育成プログラム」ナイジェリア・ガーナのシアバター現地調査報告書
- Bup, D. N., Mohagir, A. M., Kapeseu, C., Moulougui, Z., 2014: Production zones and systems, markets, benefits and constraints of she (Vitellaria paradoxa Gaertn) butter processing
- Pouliot, M., Elias, M., Geoforum 2013:To process or not to process? Factors enabling and constraining shea butter production and income in Burkina Faso
- Shea Butter Market Analysis, Market Size, End-Use Industry Analysis, Regional Outlook, Competitive Strategies, And Segment Forecasts, 2018 To 2025 https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/shea-butter-market
- Jasaw, G.S., Saito, O., Takeuchi, K. 2015: Shea (Vitellaria paradoxa) Butter Production and Resource Use by Urban and Rural Processors in Northern Gahan
- Ugese, F.D., Baiyeri, P.K., Mbah, B.N. 2010: Agroecological variation in the fruits and nuts of shea butter tree (Vitellaria parasoxa C.F. Gaetrn.) in Nigeria