サフォー/バターフルーツ

原料となる植物

学名
Dacryodes edulis (G.Don) H.J.Lam
一般名
Safou, African Pear, African pear tree, African Plum, Bush butter, Bush fruit tree, Bush butter tree, Butterfruit等
樹種概要

原産地は湿潤熱帯地域のギニア湾に面したリベリアからガボンに至る国々および中部アフリカであるが、シエラレオネ、ウガンダ、アンゴラ、ジンバブエ等でも栽培されている。常緑樹で、森林内では樹高18~40mに達するが、プランテーションの場合は12m程度である。幹の直径は50~170cm程度、クリーム色で香りのよい5mmほどの花をつける。実はオリーブのような楕円体で、大きさは4-12×3-6cmほどであり、色はピンク色から熟すと青緑、紫または、黒へと変わる。実の中には楕円体の種が一つ入っており、果肉は5mm程度の厚みである。

原産地では、もっとも広く利用されている果樹のうちの一つである。果実は重要な栄養源であり、多くの農民の収入源としても重要な樹種である。バターフルーツと同様、たんぱく質とオイルを豊富に含むアボカドが、50年のあいだに国際的な商品となったように、バターフルーツもそれに匹敵するような商品となる可能性を秘めている。

産品の特徴

用途
食品
産地
シエラレオネ、リベリア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア、カメルーン、ガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、ウガンダ、アンゴラ、ジンバブエ
産品概要

“バターフルーツ”

本樹種の果実には、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミン類が豊富に含まれ、優れた栄養源として広く栽培され、ここ数十年のあいだに生産量の増加、商品化がすすめられてきた。特に脂質が多く、ドライベースで30~60%含まれている。野生種から採取されるオイルの量は、同じ地域に分布する野生種のアブラヤシと比較して、2倍以上との調査結果もある。また、果肉に含まれる必須アミノ酸のリジン、ロイシン、トレオニンについては、卵、牛乳、肉類に含まれるものに匹敵するレベルとされる。
果肉は、アボカドやバターのように柔らかく、生のままあるいは調理して食べる。強い酸味があり、果物というよりは野菜として、蒸したり茹でたりして、とうもろこしの粉等を練って作るフフやプランテン(料理用バナナ)の付け合せとする。近年は製品化がされてきており、カメルーンではパンに塗るスプレッド、チップ、食用オイルとしても販売されている。さらに、オイルを用いた化粧品や薬(腫れ物や関節痛など)も開発されている。

生態学的な特徴

果実はかぐわしい香りがし、また、見た目も魅力的である。熟す前はオレンジ色、赤色、ピンク色、藤色をしているが、熟すと藍色、緑色、スミレ色、黒色等に変化する。果肉も同じようにカラフルで、ピンク、白、緑、淡黄色などがある。このうち、緑色のものがもっとも甘みがある。
果肉に含まれる脂肪酸は、パルミチン酸(30~62%)、オレイン酸(18~60%)、リノール酸(15~24%)、ステアリン酸(1.3~5.5%)、アラキドン酸などである。これらの含有率は、地域や実の地上からの高さによる。特にアラキドン酸は植物にはほとんど含まれていないため、重要である。
本樹種には、定期的に多くの実をつける雌株と、全く実をつけないか変則的に少量の実をつける雄性両全性同株(雄花と両全花の株)があり、その割合は、たくさんの実をつける個体が4分の1、食料向けにはなりにくい後者は4分の3を占める。

採集・栽培

西アフリカから中部アフリカにかけての地域では、村人の住居の周辺や休閑地によくみられ、カカオ畑にも日陰樹として多く植えられている。しかし、集約的な栽培はほとんどみられない。
果実の採集時期は地域によって異なる。カメルーンでは5月から11月頃まで採集可能である。採集は一般に男性(大人、子供)が行い、木に登り鎌のような道具で引き寄せて採集する。採集後は、乾燥した通気の良い場所では1週間程度保存することができるが、それ以上経過すると急速に傷みやすくなる。
樹木によって果実の大きさ、果肉の厚み、味、オイル含有率等が異なることから、品質をそろえて市場に出すのは容易ではない。
一方、小売を担うのは、多くの場合女性である。ナイジェリアでは、バターフルーツはココアやコーラナッツに比べると市場価値は低いが、かなりの程度の「副」収入が得られる。カメルーンでも、もっともよく取引されている非木材林産物の一つである。葉や茎、根の部分も国内市場で薬草として取引されている。

カメルーン等では、国内外でのバターフルーツの需要が増加し、また入手可能な野生種が減少したことから、栽培する農民が増えた。しかし、栽培にあたって、野生種が個体ごとに異なる特徴を持つという問題をクリアする必要があった。カメルーン、ガボン、ガーナ、ナイジェリア等において、1990年代半ば頃から他の組織と共同でバターフルーツを含む在来種の栽培を試みているICRAF(International Centre for Research in Agroforestry。国際アグロフォレストリー研究センター)は、この問題にも取り組んできた。これまで、農民が望む特徴を持つ野生種の特定、適切な繁殖技術である高取り法の支援が行われた。高取り法の場合、3年以内に結実する。
また、栽培のみならず、収穫後の加工プロセスの改善もすすめられている。ICRAF等がすすめるこれらの取り組みは、生存のために在来種をもっとも必要とする、自給自足農業を営む農民とともに実施されており、栽培が増加しているとされる。

その他の用途

果実以外の様々な部位も、幅広い用途で用いられている。樹皮は、傷薬(ガボン)、ハンセン病や扁桃炎の口内洗浄(コンゴ民主共和国)、痛み止めや皮膚病に用いられる。葉の部分は、制吐薬、解熱、頭痛薬として用いられる。樹脂は伝統的に寄生虫性皮膚病(ナイジェリア)に用いられているほか、食品業界、化粧品業界で増粘剤、香料、安定剤、乳化剤としての用途がある。
花は強い芳香を持ち、多くの授粉媒介者を集める。その8割以上がミツバチであることから、ハチミツの採集が可能とされている。また、材木としても有用で、マホガニーの代用にもなり得るとされる。
原産地では、宗教的でスピリチュアルな価値を持つ場合もある。果実や葉は豊作のシンボルであり、婚約の儀式では多産のシンボルとして婚約者の家族に提供される。ヨルバ語を話すナイジェリア南部では、樹脂や葉、樹皮、根を燃やした際の甘い香りは悪霊を追い払うと信じられ、お香として用いられる。

国際取引

バターフルーツの栽培拡大に資する科学的知見を高めることを目的に、カメルーンの国立農業開発研究所(Institut de Recherche Agronomique pour le Developpement, IRAD)がイニシアチブをとり、栽培や取引従事者等により、アフリカ・サフ・ネットワーク(African Safou Network, ASANET)が設立されている。
アフリカ内サブリージョンでの国際取引は増加しており、2000年に入り、中部アフリカでのバターフルーツの生産量・消費量は著しく増加している。
いまや果実はヨーロッパにも輸出される国際商品となっており、カメルーン、ナイジェリア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国等から、主にベルギー、フランス、イギリスへ輸出されている。中央アフリカからヨーロッパに輸出されるバターフルーツは1998年では105t/年で、このうち100tがカメルーンから、残りはコンゴ民主共和国およびコンゴ共和国となっていた。

今後の展望

栽培の増加により、子供・高齢者・貧困に苦しむ農民の健康や生活の改善が期待される。遺伝資源収集をはじめ、栽培化のための様々な調査研究が進められている。
収穫後、非常に傷みやすいという問題があるにもかかわらず、貯蔵設備が十分に整備されていない。商品作物として栽培を奨励していくには、貯蔵の問題は避けて通れない。より温度の低い場所での貯蔵が効果的であることから、冷蔵保存が一つの選択肢として考えられる。またピクルスにするなどの保存法も検討の余地があるとされている。これらが実現すれば、収穫期以外にも、特に栄養価の高い食料が入手しにくい時期にも食べることが可能となる。

参考情報