タナカ

Limonia acidissimaの果実
By Dinesh Valke, CC BY-SA 2.0, Link

原料となる植物

学名
Hesperethusa crenulataLimonia acidissima
一般名
Hesperethusa crenulata
ตะนาว(タナーオ)(タイ語)、(tha.nap-hka=タナッカー、thanatka, thanakha)(ミャンマー語)

Limonia acidissima
wood apple, elephant apple(英語)、ทานาคา (ターナーカー)(タイ語)、(thi-thi-ping), thanatkha, thanaka(ミャンマー語), belingai(マレー語)等

本データベースで参照したこの化粧品に関するミャンマーの情報源には、学名が記述されていないことが多い。その場合は樹種の記述として「タナカ」のみを使用する。

樹種概要

タナカは、Hesperethusa crenulataLimonia acidissimaの樹皮の粉末をペースト状にして顔に塗布し、日よけ・化粧用とする。ミャンマーでは、これらの樹種およびこれらの樹皮粉末を使った化粧品をタナカ(thanakhaまたはthanaka)という。また、Limonia acidissimaの果実はこげ茶色の果肉をもち、種が多く粘り気があり、甘酸っぱく香りがよい。果肉をそのまま食べるか、アイスクリーム、ジュース、ゼリー、ジャム、チャツネなどに加工される。スリランカではこれら加工食品に対して安定した需要があり、国内の食品加工業界(果物)ではこの果実は重要な素材である。

Hesperethusa crenulataは、1~3cm程度の棘を持つ7~9mほどの小木である。白い小さな花を咲かせる。果実は直径6mmほどの球形で、非常に酸っぱい。Limonia acidissimaは樹高7mほどの小木で、枝には1~4cmほどの大きさの棘がある。乾燥した土地に容易に適応し、礫混じりの赤色土や小石混じりの砂質土、あるいは雨がほとんど降らない地域での緻密な土壌で生育する。

産品の特徴

用途
化粧品、食品
産地
パキスタン西部からミャンマー、中国南西部、カンボジア南部の乾燥した地域(Hesperethusa crenulata)。バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ミャンマーなど、インド半島および東南アジアの乾燥した温暖な地域(Limonia acidissima)。
産品概要

ミャンマーの日焼け止め

ミャンマーでは伝統的に、タナカの樹皮をペースト状にした「thanakha(タナカ)」が、14世紀から化粧品として使われてきた。5~10cm長さに切った幹皮や根を研磨石の上ですりつぶした粉末に水を加え、乳白色のペースト状にして使われる。肌につけるとひんやりとした感触があり、日焼けから肌を守る。さらに、ミャンマーの女性たちのあいだでは、タナカを塗ると、にきびがなおり肌がなめらかになると考えられている。タナカはビャクダンに似た香りを持つ。現在では、石けん、化粧水、香水、シャンプー、洗顔フォームなどにもタナカを添加した商品が販売されている。
ミャンマーでのタナカ(Limonia acidissima)の近年の消費量は、1296万~2592万本/年と推測されている。ミャンマーでは9割の女性がタナカ化粧品を日常的に使用しているといわれ、国内でのタナカ製品の人気は根強い。しかし、若い世代はタナカ製品を時代遅れと感じ韓国等海外の化粧品を求めるようにもなってきており、タナカ製品の需要は減少しているとのレポートもある。一方、海外に目を向けると、近年、タナカ化粧品の海外での需要が高まっており、ミャンマーの村人にとってタナカ(Limonia acidissima)は換金作物となる見込みが高いとされている。

タナカの栽培・収穫

ミャンマーでは長らく、農業潅漑省(MOAI)により地域ごとに許可される商業栽培が決められていたため、タナカは自宅の庭で栽培されていた。しかし1988年以降、農業振興を目的にこの政策が一部変更されたことから、タナカを畑地で栽培できるようになった。
タナカ(Limonia acidissima)は8~9月に果実を採集して種を取り出し、播種には十分な水分が必要となるため雨季にあたる翌年の6~7月に植え付けを行う。多くの場合、種の植え付けから7~8年後、直径が7cm以上になると伐採される。価格は、1本あたり2万チャット(1,600円程度。2018年3月現在)ほどである。
収穫の際には、根元から伐採し、その後萌芽更新が行われる。これは、より樹齢が長いタナカは品質がよいと考えられているためである。ただし、萌芽更新によって3度目、4度目の収穫が可能かどうかは、栽培法と固体の良し悪しによる。
また、タナカの栽培は短期間で収穫可能な穀物とともに行われる。タナカ(Limonia acidissima)の播種後、枝葉が広がる前の3~4年間は、植えつけた苗木と苗木のあいだでゴマ、緑豆、ササゲ、とうもろこしなどを栽培することが多い。

タナカの販売

タナカは、栽培農家が木状のものをパゴダ(仏塔)や市場で販売する。ローカルマーケットでの販売価格は、20㎝長のもので3,000チャット(約240円。2018年4月時点。)程度である(Baganの市場での例)。木の部位によって価値が異なり、根(下部)部分のほうが、幹や先端部分よりも価値が高い。
タナカ(Limonia acidissima)が高値で売れる条件は、堅くしっかりしていること、通直であること、樹皮が厚いことであり、これらの条件を満たすためには、適切な植栽密度と植栽間隔、適切な時期での枝打ちが必要である。乾燥した高地で生育したタナカは香りがより強いが、肥沃な土地に生育したものは幹は太いが樹皮が薄いために品質が低いとされる。国内では質の悪いタナカや偽物も多く流通していることから、その対策として仲買人が正規ルートのタナカであることを示す印を押印する場合がある。
タナカ(Limonia acidissima)栽培により、伐採可能となる大きさになるまでは利益は得られないものの、他の作物に比べてはるかに高い価格で販売される。このタナカの収益は、栽培農家にとっては子供の大学進学資金、宗教等の寄付金、土地や家屋・牛・オートバイの購入資金となり、他の栽培作物が不作の場合の保険ともなる。
なお、前述のとおりミャンマーではタナカは古くから栽培されてきたが、森林局は、タナカ(Limonia acidissima)を「野生の非木材林産物」として分類しているため、その取引には森林局が発行した運送許可証が必要である。

その他の用途

Limonia acidissimaは伝統的に、根や果実、樹皮等すべての部位が、様々な病気を治療するための生薬として使われてきた。アーユルヴェーダの治療では、慢性の下痢、赤痢、しゃっくり、歯茎・喉の病気、虫刺され、胆汁異常、ヘビ咬傷に、果実や樹皮、葉の部分を用いる。
薬効は、果肉の抽出成分が動物実験(ラット)により抗糖尿病作用があり、傷の治療や肝損傷の治療にも効果的であると考えられる。このほか、ヒトの乳がん細胞を使った実験により、抗がん作用があることが明らかとなった。また、樹皮や葉の抽出物から抗酸化成分が抽出されるほか、利尿作用(葉)、抗菌(葉)・防カビ作用(果肉)、精子形成を抑制する作用(果肉)、抗ヒスタミン効果(樹皮)等があるとされる。廃棄される果実殻(fruit shell)は、水質浄化の分野で染料の吸着剤として有効とされている。
Hesperethusa crenulataの樹皮の抽出成分には、強い抗炎症作用、著しい抗酸化作用、軽度のチロシナーゼ(メラニンの合成に関わる酵素)抑制、軽微な抗菌作用が認められている。また、動物の飼料としても利用される。

スリランカでの利用

スリランカでは、Limonia acidissimaは、他のほとんどの果物と同様、自宅の庭で育てられており、自然に落下した果実が採集される。売値は1キロあたり15~20スリランカ・ルピー(10~15円。2018年4月現在。)と低く、価格は仲買人によって決められる。仲買人には3種類あり、地元の仲買人、実が成る季節になると生産地に出向く中規模の仲買人、規模が比較的大きい加工工場(飲料、ジャム、クリーム等)に登録している大規模仲買人が存在する。なお、タナカのプランテーションを所有している加工工場は存在しない。スリランカ国内の製造業においてLimonia acidissimaは、パッションフルーツに次いで活用が十分でない果物であり、国内外の市場でシェアを伸ばせる見込みがあるとされている。

国際取引

タイではタナカブームが起きており、周辺諸国にもブームが伝播しつつあるとされる。タイのパーソナルケア用品のメーカーは、タナカを材料に新商品のボディーパウダーを発売した(2017年7月)。近隣諸国への輸出も目指す。タイの化粧品メーカーも、石けんやファンデーションなどタナカのスキンケア商品を扱っており、タナカ製品の売り上げは、2014年以来毎年倍増しているという。
タイのタナカ製品は、タイへの出稼ぎ労働者により、彼らの母国であるラオス、カンボジア、ミャンマーにも伝わっている。ベトナムでもタナカ化粧品が紹介されている。なかにはタナカ製品をミャンマーに輸出するメーカーもあり、ラオスにも販売網を広げつつある。 一方、ミャンマーも、フィリピンやタイに向けてタナカの輸出を開始している。
日本では、ミャンマー産タナカの粉末やタイ製のタナカファンデーションがインターネット通販で扱われている例がある。

事業化の課題

ミャンマーでは、海外市場の需要もでてきたことから、タナカが乾燥地での換金作物として非常に有望となっている。しかしながら、非食用作物であるため、政府による栽培規制がある上、栽培地から町までの交通手段や通信手段の整備が十分ではないことも、商業栽培のボトルネックとなっている。
タナカ化粧品は乾くと肌に白く残るため、海外での需要開拓を目指すには、タナカを塗っても肌に残らない使用法を検討したり、タナカの成分を抽出し、その有効成分を含む化粧品を開発することも求められる。
スリランカにおいてタナカを商品化するための課題としては、品質管理、十分な供給量の確保、育苗プログラムの導入、垂直統合によるサプライチェーン管理、製品の多様化等が挙げられている。

参考情報