アラビアガム

原料となる植物

学名
Acacia senegal (L.) Willd.(以下、セネガル種)
Acacia seyal Delile(マメ科 Leguminosae)(以下、セヤル種)
一般名
[セネガル種]
Driehaakdoring (アフリカーンス語), Kontir, Sbansagirar(アムハラ語), Tur, Hashab, Harheyr, Alloba(アラビア語), Umukonji(キニヤルワンダ語), Kikwata, Mgunga(スワヒリ語), Ethad-geri, Adad(ソマリ語), Dakwara(ハウサ語), Khor, Goraduja baval (ヒンディー語), Gum arabic tree, Gum acacia, Senegal gum, Sudan gum arabic(英語), acacia Sénégal, gommier blanc, acacia à gomme arabique (仏語), アラビアガム(日本語)等

[セヤル種]
Shittim, shittimwood, red acacia, shittah tree, thirty thorn, whistling tree (英語)等
樹種概要

アラビアガムは、1000種以上が知られるマメ科アカシア属のうち、Acacia senegal (L.) Willd.(セネガル種)およびAcacia seyal Delile(セヤル種)の2樹種から採取される樹液を乾燥させたものである。
両樹種は、サハラ以南のアフリカのなかでも北緯12~16度の地域-「ガムベルト」と呼ばれる地域―に主にみられる。
セネガル種は岩がちな傾斜や砂地でよく育つが、粘土質の土壌でも育つ。一方、セヤル種はアフリカ西部のセネガルからスーダンにかけてのサヘル地域が原産である。河川敷、泉の周辺、黒綿土の氾濫原などによくみられ、粘土質の土壌を好むが石の多い場所や逆に重粘土でも生育する。

セネガル種およびセヤル種のいずれも落葉性であり、棘を持つ。樹高はセネガル種では7~15m程度、セヤル種は17m程度である。セネガル種は5~10cmの円筒状で黄白色の花を、セヤル種は塊状で山吹色の花をつける。 両樹種の繁殖に関しては、家畜の排泄物を通した種子撒布の可能性は低い。両樹種の葉や鞘は家畜が好んで食べるが、消化の過程で種の多くが破壊されてしまい、糞に混じって排泄される種はウシの場合には33%に過ぎず、羊やヤギに至っては1%に過ぎない。そのため、種から発芽に至る確率はこれらの数字よりもさらに低くなる。

産品の特徴

用途
乳化剤、増粘剤、結合剤等
産地
セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、チャド、エジプト、スーダン、エリトリア、エチオピア、ウガンダ、ケニア、タンザニア、マラウィ、ザンビア、アンゴラ、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク、南アフリカ共和国、パキスタン、インド、オーストラリア、プエルトリコ、ヴァージン諸島 等
産品概要

食品・食品添加物としての利用

アラビアガムは、両樹種ともにガラクトース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸の4種の糖から構成されている。また、生葉の成分では、たんぱく質がセネガル種で15~33%、セヤル種で11~20%含まれている(乾重量)。鞘にもたんぱく質が豊富に含まれている。
セネガル種のアラビアガムは、水に容易に溶解する、酸性溶液でも安定である、各種の飲料成分に対しても比較的安定である、さらに飲料中で沈殿を起こさない等の利点を持っており、乳化剤として広く使用されている(表1)。 
また、アラビアガムに含まれるアラビノースを原料とした甘味料、L-アラビノースは、血糖値の上昇を抑制する効果を期待した食品添加物等として利用されている。

表1.アラビアガムの用途と機能
分野 用途 機能(主な製品)
食品 菓子 砂糖の結晶化防止(ガムシロップ等)、
フィルム形成(チョコレート菓子、ナッツ、チューインガム等)、
食感の改質(グミキャンディー)、
気泡安定化、結着性
冷菓 乳化性、氷晶防止
飲料 乳化性(油に溶ける性質を持つ色素を含有した飲料)、気泡安定化
乳化香料 乳化性
粉末香料 乳化性、カプセル化
機能性食品 食物繊維、歯の再石灰化促進
野菜 保存性(野菜にコーティングして保存性を高める)(研究段階)
医薬品/美容用品 錠剤、整髪料 フィルム形成、結着性
工業用品 接着剤 結着性(切手の接着面の糊等)
インク・絵の具 保護コロイド性、フィルム形成

出典:井戸隆雄、片山豪(2011)「アラビアガムの特性とその利用」『応用糖質科学』第1巻第3号 表2、Lois Parshley(2015) アフリカ産の原料を使った食品コーティングで食品ロスを削減(Mongabay記事 2015年7月6日付け)をもとに作成

生産および生産の現場

アラビアガムは、樹皮の一部を剥ぎ取って、大きな傷をつけ、その傷口から樹液を滲出させるタッピングが行われたのち、2週間程度そのまま乾燥させたものが採取される。この方法は幹に大きなダメージを与えるため、毎年続けて生産することはできない。年間採取量は若樹齢の場合188~2,856g、高樹齢(7~15年生)で379~6,754g程度である。採取量は土壌が痩せていたり樹木がストレスに晒されていたりする状況にあると増加する。 アラビアガムの採取は落葉後、乾季の2月から5月にかけて行われる。セネガル種からのアラビアガムの採取は4~5年生から可能で、20年生まで採取する。なお、セヤル種のアラビアガムは、セネガル種の代替品として使用される。

スーダンにおいては、セネガル種が主にアグロフォレストリー・システムで栽培されており、機械化が進んだ農場のなかには、近年、この栽培の大規模化を図るところもある。
また、マリでは日本のNGOが家畜よけの生垣に利用するため、セネガル種の苗木栽培の支援を行ってきた例がある。

国際取引

スーダン、チャド、ナイジェリアの3カ国で、世界のアラビアガム輸出量の95%を占めている。なかでもスーダンは、世界最大の生産国かつ輸出国である。
このうちスーダンの輸出量は、2000年代には2万t~4万tのあいだで推移していたが、2010年代に入って増加傾向が続いており、2017年は例年と同水準の6.5万t程度になる見通しである。なお、政府の統計によると、スーダンから年間4.5万t以上のアラビアガムが近隣諸国に密輸されていると言われる。
アメリカは、1997年以来2017年まで20年間にわたり、スーダンに経済制裁を課していたが、アラビアガムはその対象外であった。これはアラビアガムがアメリカの製造業にとって不可欠な原料であることの証左である。

近年、アラビアガムの需要は世界的に増加しており、生産量が少ないカメルーン、ニジェール、セネガル等は、国際市場でのシェアを高める好機を迎えているはずであるが、生産・商品化の段階で様々な課題を抱えており、これらの国の市場シェアは減少しているのが現状である。なお、スーダンは、アラビアガムの品質を向上・維持するための体制が整っているとされる。

日本の需要動向

近年の日本のアラビアガムの輸入量は2,000~2,500t/年前後で推移している。用途別には、食品分野での需要が多くを占め、輸入先はスーダンが中心となっている(2016年は全輸入量の58.5%がスーダンからの輸入であった)。

出典: 貿易統計から作成

今後の展開

今後、生産量や品質の改善が求められている。例えば、スーダンでは、小規模農家による採取プロセスを近代化し、マーケティング力を高めることでアラビアガムの生産量を増やすことが必要とされている。また、カメルーンでは居住地から採取地までの距離がかなりあるため、居住地周辺での栽培も試みられてきたが、栽培技術に関する知識が乏しく、アグロフォレストリーへの組み込みはすすんでいない。栽培技術の普及が今後の課題となっている。
また、生産の増加だけでなく、アラビアガムの品質の維持および改善も求められている。セネガルでは、需要側の求める品質の詳細について採取者・商人が理解すること、そして森林管理・市場取引の場面で品質に関するルールを設定することが必要とされている。

一方で生産増加の結果による資源の劣化も危惧されている。樹液の滲出を容易にする装置を使用した採取が行われた結果、採取が過剰となり、樹木の劣化を招いている。そのため、セネガルでは、樹木の管理、採取技術に関わる技術等の改善が求められている。
さらに、カメルーン、ニジェール、セネガルでは、セネガル種は慣習地に分布する誰もが利用可能な共有資源であるために、滲出させておいた樹液を乾燥させているあいだに他人に採取されてしまうというトラブルが生じやすくなっている。こうしたことから、樹木の持続可能な管理のためには、共有資源となっている樹木をどう管理するかも課題となっている。

アラビアガム以外の用途

アラビアガムノキには、アラビアガムの採取以外にも用途がある。
セネガル種は、乾燥させた種が人間の食用として用いられるほか、脂肪分を含むことから薬や石けんを作るためにも使用される。また、セネガル種とセヤル種ともに、葉と鞘は家畜の飼料として用いられている。また、薪としても使われ、一部の乾燥地帯では薪として利用可能な唯一の樹種である。
その他、生態系サービスも豊富である。砂丘固定や風よけとして砂漠化防止、劣化した土地の植生回復にも有用である。スーダンでは、アラビアガム採取に加えて、地力回復のためにセネガル種が栽培されている。伝統的な輪作では、まず5年間はアワ・ヒエ・ゴマ等を栽培し、それに続く15年間にセネガル種を育成する。ただし最初の5年間はアラビアガムの採取は見込めない。また、キビ・アワ・モロコシ・ゴマ・ピーナッツ・スイカなどの作物と組み合わせたアグロフォレストリーにも非常に適した樹種である。
セヤル種の樹木は、薪、炭、工芸品の材料、柵(棘を持つため)としても使われる。

参考情報