カシュー

原料となる植物

学名
Anacardium occidentale L.(ウルシ科)
一般名
カシューナッツツリー、マガタマノキ
樹種概要

天然分布域は南米であるが、フィリピン、タイ、ベトナム、スリランカ、インドなど熱帯アジア各地やアフリカでも広く栽培されている早世な常緑高木である。条件が良ければ、胸高直径50cm、樹高20mにもなる。良好な成立地ははっきりした乾季、雨季の有る所で、気温は26~32℃、湿度は75~85%程度、年降水量は500~3,800㎜程度のところである。貧栄養土壌や石礫地でも育つが、壌土や砂壌土あるいは砂土のような排水の良い所が栽培適地である。他の果樹栽培には向かない地力の低下した平地林や緩い起伏のある二次林でも、耕転や灌漑、施肥などは特にしなくても生育できる。

産品の特徴

用途
カシューナッツが食用されていることは有名だが、その他にもカシュー殻から取れる油脂は塗料として漆塗料様の用途や車ブレーキ等の摩擦性向上剤に使われる。また、カシューアップルは、そのまま食用されるほか、ジュースやジャム等に加工される。
産地
カシューは熱帯地域では幅広く栽培されているが、カシューナッツの生産量の多い上位10カ国は、ベトナム、ナイジェリア、インド、コートジボワール、ベナン、フィリピン、ギニアビサウ、タンザニア、インドネシア、ブルキナファソである(FAOSTAT)。
産品概要

果実は石果で灰色、腎臓のような形をして2cm程度であり殻(中果皮)に覆われている。果実の殻を割って内部にある曲玉状の物は仁と呼ばれカシューナッツとして食用される。殻は柔らかく、コルク質でカシューナットシェルオイルと呼ばれる油脂を採取することができ、油脂そのものとして利用されるほか、耐水性の塗料の原料としても利用される。この油は体質によりかぶれることがある。花柄の肥大した部分は5~7cm位で黄色又は赤色のピーマンのような形をしていて、みずみずしくリンゴの芳香があり、カシューアップルと呼ばれジュースやジャム等に加工される。

カシューナッツ以外にも幅広い用途

カシューナッツは食用としてあまりにも有名だが、カシューはその他にも用途がある。例えば、果実の殻から採れるカシュー樹脂塗料は、昭和32年にカシュー株式会社が開発し、特許を取得した漆系の合成樹脂塗料である。カシュー塗料は漆に比べて塗装作業が容易であり、仕上がり感は漆に近似しており、鮮映性と耐久性も兼ね揃えている。仏壇・仏具、襖縁、雛具、高級家具などの工芸品や神社仏閣などの建造物の屋内にも使用あれており、日本の漆器工芸産業に幅広く用いられている。 カシュー樹脂塗料は、殻に含まれるカシューナッツシェル液(CNSL)を蒸留精製して得られる。CNSLはフェノール誘導体であり、アナカルド酸(C22H32O3)が主成分である。アナカルド酸は、搾油後に加熱処理され脱炭酸されカルダノール(C21H30O)になる。CNSLには、カルダノールの他にもカルドール(C21H31O2)というフェノール同族体が含まれているが含まれている。これらの成分が、漆の主成分であるウルシオール(C21H31O2)に酷似しているため、漆調の感性を発現できる。
カシュー殻由来のCNSLは、カシュー塗料以外にも、自動車、鉄道、各種産業のブレーキディスクパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシングなどの摩擦材に不可欠な材料として多用されている。その他にもゴムやフェノールレジンの改質(柔軟性付与等)に用いられる。
カシューアップルも、その独特な風味と共に、オレンジの5倍のビタミンCの他に、カルシウムや鉄を多く含んでいるとされ、ジュースやジャム等に加工され製品化している国がある。

輸出入動向と日本の需要

世界中で生産されるカシューは、その大部分が殻付きのままインドに輸入される。インドでナッツ(仁)の部分と殻の部分に分けられ、殻の部分からCNSLが抽出される。よって、日本に輸入されるカシューナッツやCNSLの大部分は、世界中で生産されたカシューナッツがインドを経由して来ている。また、ベトナムでも2012年から殻付きカシューを諸外国から輸入し、殻をむいた状態で輸出し始めている。
 カシューナッツの需要はアメリカを中心に伸びており、今後も先進国を中心に増加する見込みである。カシューの生産量は、需要の増加に伴い、生産量上位3か国であるベトナム、ナイジェリア、コートジボワールを中心に増加している。

図 1 カシューナッツ(殻なし)の輸入量上位10国の輸入推移(t)(出所:FAO)

図 1 カシューナッツ(殻なし)の輸入量上位10国の輸入推移(t)(出所:FAO)

図 2 カシューナッツ(殻なし)の生産量上位10国の生産推移(t)(出所:FAO)

図 2 カシューナッツ(殻なし)の生産量上位10国の生産推移(t)(出所:FAO)

日本の殻なしカシューの輸入量は、世界10位で2000年は5,660tであったのが、2013年は8,146tと増加している。殻なしカシューの80%以上はインドから輸入しているが、前述の通り全てインドで栽培・生産されたわけではなく、インドが世界中で栽培・生産された殻付きカシューの殻の取り除き作業を一手に行って輸出しているからである。

森林ビジネスの可能性

カシューは、乾燥した砂地でも生育可能であるため、西アフリカでもその栽培が広がっており、現在では、世界の殻付きカシュー生産の30—40%が西アフリカで行われており、土地生産性の低い貧困地域の貴重な換金作物になっている。しかし、それらのわずか10%が加工されているだけであり、残りは未加工(殻付き)のままインドに安価で輸出されている。殻付きのカシューの生産者からの販売価格は、殻なしカシューの小売店での価格のわずか15%程度とされている。もし、カシューを栽培する国が、インドを介さずに、殻を除去したカシューナッツを直接、アメリカ等の最終的な大消費地に輸出することができれば、その国のカシュー関連産業が発展し、大きな経済効果をもたらすことが期待される。例えば、タンザニアの遠隔地で十分な公共サービスが得られない地方では、農産物の多国籍企業が、手作業による殻むきの加工場設立と古くなったカシュー木の更新を行った。これにより、当初は1日4tものカシューを生産する350人の従業員雇用を生み出し、その後も生産量を伸ばし続け2009年には1日72t生産する4,500人に拡大している。モザンビークでも、政府が未加工のカシューの輸出を禁じることで、同国の雇用を生み出していた歴史がある。
カシューナッツの需要は、近年の傾向から見るとアメリカを中心に今後もさらに伸びるであろう。また、土地生産性の低い場所が広がる地域では、カシューを植えることで地域住民の生計向上や森林保全への貢献が期待される。しかし、これまでのようにインドが加工の一端を全て担ってしまうと、現地に還元すべき利益が適切に生まれない可能性があるので、如何に生産地で加工までできる体制を整えるかが重要である。これまでインドからカシューを輸入してきた企業にとっては、別の輸入先に変更するのはリスクが高いかもしれないが、これから結実最盛期を迎える15~22年生のカシューが多く栽培されているアフリカの国もあるので、それらの国と直接取引交渉しつつ、加工技術を移転・普及すれば、インドから輸入するよりも原料調達コストが抑えられるかもしれない。また、カシューナッツ以外にも様々な用途があるので、それらからも最大限利益が生まれるように工夫すれば、森林ビジネスは成り立つであろう。

参考情報
  • 桜井尚武(1996)20.カシュー(森徳典ほか編著「熱帯樹種の造林特性」第1巻)132-136頁
  • 東北化工株式会社のホームページ(http://www.tci-web.co.jp/common/download/outline_1611.pdf
  • カシュー株式会社、2005、油性漆塗料カシュー
  • Dewees, P., Place, F., Scherr, S.J. & Buss, C. 2011. Investing in trees and landscape restoration in Africa: what, where, and how. Program on Forests (PROFOR). Washington, DC, USA.
  • FAOSTAT(Cashew nuts with shellの生産量輸入量