ケナフ

原料となる植物

学名
Hibiscus cannabinus
一般名
ケナフ、俗称 洋麻、アンバリ麻、ボンベイ麻
キューバケナフ、アオイツナソ、アサアオイ、タイジュート
英名はKenaf
樹種概要

アオイ科フヨウ(ハイビスカス)属の一年生~多年生となる草本植物。生長が早く4~5カ月で成熟する。茎は高さ3~5m、直径3~5㎝、無毛でまばらに棘がある。直立してあまり分岐せず、木質の基部を持つ。葉は長さ10~15㎝で根に近い部分につくものは 3~7片に深裂するが、先端に近いものはほとんどきれこまず槍形になる。花は腋生で単生し、ほぼ無柄。がく状総苞は7~10個、赤くならず長さ6~8mm。がくは鐘形、長さ3cm、半分ほどの長さまで合着し、ビロード毛があり、被針形で5裂、先端部は1~2cmの尾状突起。花冠は直径 8~15cm ほどで、色は白・黄色・紫がある。白や黄色、紫花の花は、中心部分は赤~暗紫色となる。果実は球形で、直径1.5~2cm ほどの蒴果。棘を密生し、中に数個の種子を持つ。

生育環境は、畑地、樹園地、牧草地、路傍、荒地など。温度選好性で暖温帯~熱帯で生育する。両性花、虫媒花で、果(20年以上)は風、雨、動物、人間により伝播する。根茎でも繁殖可能。土壌の種類は選ばないが,過剰の水分条件下では生育しない。

産品の特徴

用途
繊維製品、産業資材
産地
西アフリカ原産。繊維としての利用を目的に、アフリカの一部の他、インド、バングラデシュ、タイ、ヨーロッパ東南部などで古くから栽培されてきた。現在は、南アジア、中国、東南アジア、南北アメリカ(キューバ、ブラジル、アメリカ)などで広く生産されている。品種改良も進み、現在、200種ほどの栽培品種が知られている。
産品概要

ケナフの生産地/生産方法

ケナフの主要生産国はインド、中国、タイで、世界の生産量の8割以上を占めている。ジュートより土壌を選ばず、他の作物の輪作作物として栽培することもできる。枝分かれを抑制し長い繊維を収穫するために、種子採取目的以外では、密集して栽培される。収穫物がかさばるため長距離輸送に向かず、比較的加工施設に近い地域で栽培されることが多い。収穫は開花期の始めに手作業で行われる。繊維は機械的に茎から分離することが多いが、水に浸しした後、手作業で剥ぎ取っているところもある。

ケナフの茎からは2種類の繊維が採れる。外側の靱皮繊維層は目が粗く、針葉樹の繊維に似ている。一方、内側の芯部は目が細かく広葉樹の木質繊維に似ており、様々な種類の製紙材料となる。靱皮部と芯部の割合は30~35%:65~70%程度。

繊維製品としての利用

ケナフの靱皮繊維はエジプトのミイラの着衣に用いられていたといわれるほど歴史が古い。西洋に広く知られるようになったのは18世紀後半といわれている。第二次世界大戦でジュートをはじめとする繊維素材が不足すると、ジュートの代替品としても使用されてきた。ケナフは他の麻類と同様、合成繊維の攻勢に押され需要が減少したが、その特徴ある特性から、近年、ケナフ織物の製品開発や市場開拓が進んでいる。ほとんどは同じセルロース系繊維である綿との混紡であり、リサイクル系ポリエステルとの混紡製品が開発されている。ケナフ製品は、綿100%に比べて軽く、吸水・放出性に優れている。またシャリ感のある肌触りと独特の風合い、野趣ある光沢性などの特徴があり、こうした持ち味を生かした製品開発が進められている。森林破壊につながらない「環境にやさしい」製品として、特殊市場向けの製品も供給している。生分解性のケナフ繊維を原料とした不織布は人工芝生や種子のベッドとしても有望である。

産業資材としての利用

非木材系繊維資源としてのケナフ繊維は、以前は既存材料の代替が中心だったが、近年、ポリ乳酸などのバイオプラスチックや他の石油系プラスチックとの複合物としての利用法が開発されている。以前は、自動車、建材等の圧縮成形によるシート用途に限定されいたが、射出成形による電子機器筐体としても利用されるようになった。

自動車用の有用化合物の生産

自動車関連製品としては、自動車の軽量化による燃費性能の向上、二酸化炭素排出削減につなげるため、ケナフ繊維を利用したドアトリム(ドアの内側の緩衝材)とシートバックボードの基材が開発、実用化されている。原料のポリプロピレンに、ケナフ繊維との親和性を高める添加剤を配合し、両素材の接合強度を高めることで、従来品比で20%の軽量化に成功している。従来品と比較して、曲げ強さや寸法安定性が高いと報告されている。

ケナフ繊維は軽く、対摩擦強度大きく、弾性率が高いことに加え、多孔質的な構造から、音響吸収効果もあるとされ、さらに乗り物への利用が期待されている。

ケナフ添加ポリ乳酸化合物の生産

ケナフ繊維は、植物由来のバイオブラスチック化合物の添加物にも使用され、電子機器筐体用として実用化されている。

石油資源枯渇対策や気候変動対策として、再生可能な植物由来のバイオプラスチックの有効利用が注目される中で、発熱を伴う電子機器筐体用に要求される特性(耐熱性、機械的強度、成形性、リサイクル性等)を達成できる可能性があるのは化学合成系であり、量産可能なポリ乳酸樹脂が最も期待されていた。しかし、ポリ乳酸の射出成形品は、機械的特性(耐衝撃性)と耐熱性で劣っており、また、成形サイクルが長くなるなど成形加工性にも課題があった。このポリ乳酸樹脂にケナフ繊維を添加することで、耐熱性が大幅に改善でき、長期耐久性のあるポリ乳酸組成物が生成された。ケナフ添加ポリ乳酸組成物は、ほぼ1分以内の成形サイクルを可能とするなど、成形加工性の大幅な改良も達成されている。

環境保全に役立つ非木材繊維資源/日本におけるケナフ栽培と環境への影響と留意点

ケナフは病害に強く、劣悪な環境に耐えて生長する。生長が早く、光合成速度が通常の樹木の3倍以上、炭素吸収能力も高いため、高密度で栽培すれは、熱帯雨林の樹木のほぼ2倍の二酸化炭素固定能力があるともいわれている。また、窒素やリンさんを吸収し水質を浄化する作用があり、さらに単位積当たりの繊維生産量が多いことから、森林パルプの代替資源として、様々な分野での利用が期待されている。

一方で、このように、森林保護に役立ち、温暖化防止に寄与できる作物としての利点ばかりが強調されたため、一時、日本では環境教育の教材として学校園などでの栽培が促進された。しかし、野外では一年草のケナフは年内に枯れ生分解される。また、環境教育等のイベント等でケナフの靱皮繊維で紙漉きをする場合、収穫後のケナフの80%が焼却され、二酸化炭素が放出される。このように、ケナフのライフサイクル全体で見た場合、二酸化炭素収支はゼロとなり、二酸化炭素固定には殆ど寄与しないことになる。

さらに、外来種であるケナフの安易な導入が在来種に及ぼす影響も懸念されている。日本では、ケナフは、オギ、ヨシなどの在来種と同様の環境条件で生育するといわれている。これらの在来種は、水鳥や小動物の重要な生息地であり、帰化したケナフがこれらの種と競合することで、在来の動物の生息環境が悪化する恐れも指摘されている。 https://www.iwanami.co.jp/kagaku/jiji200006-2.html

参考情報