ジェトロファ

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原料となる植物

学名
Jatropha curcas
一般名
ナンヨウアブラギリ、ジャトロファ、ヤトロファ、Physic nut
樹種概要

生育

トウダイグサ科(Euphorbiaceae)の多年生の落葉の低木で、樹高は3~6m。広範な気候や土壌条件で生育が可能で、北緯25度~南緯30度の熱帯・亜熱帯地域に分布する。気温に対する適応能力は高いが、良く生長するには20℃以上が必要。多肉植物であるため乾季の間、葉や根に多くの水分を保存でき、乾燥地域でも幅広く栽培が可能。年間降雨量200mm~1,500mmのかなり乾燥した地域でも育つが、年間降雨量は平均480mm~2,380mmの地域が適している(IEEJ, 2008)。荒地・痩せた土地でも育ち、水、肥料、管理をあまり要求せず、含油率も高いと言われている。

利用

バイオディーゼル燃料の原材料として注目され生産輸出されているが、生産地の農村では大航海時代から民間薬(下痢止めや解熱剤)としての他、多目的に利用されてきた。毒性を利用した生垣や防護柵の他、乾燥地では土壌侵食防止のためにも植栽される。種の搾りかすは固形燃料や肥料として、若芽や葉は過熱することで食用できる。種子もメキシコの一部で食用にされるが多量摂取は下痢を起こす。

産品の特徴

用途
燃料
産地
原産地は中南米とされているが、世界各大陸の熱帯地域から亜熱帯地域に広く分布する。アジア地域に生殖するようになったのは、大航海時代にヨーロッパ人により持ち込まれたためと考えられている。
産品概要

環境に優しいバイオ燃料

ジャトロファの種子は含油率が高く、軽油代替燃料となる油脂が取れる。そのため原油価格の高騰や地球温暖化に対応するためのバイオディーゼル燃料の原材料としての用途が注目されるようになり、2000年代に急速に栽培面積が拡大した。パーム油など他の食用植物由来のバイオ燃料は、食料生産を圧迫し、プランテーション造成のため森林破壊につながると批判される中、ジャトロファ油は毒性があるため食用に用いられず、乾燥耐性、害虫耐性で農業や植林に適さない乾燥地や荒地でも生育できる。未利用の荒地を緑化し、土壌浸食防止、土壌二酸化炭素の固定に貢献しながら軽油代替燃料を生産するので炭素排出削減に貢献できるとされた。

またバイオ燃料の原材料として注目される以前から、ジャトロファは生活燃料を供給するとともに収入向上、雇用創出につながるとして、国連機関などがアフリカ農村部の貧困対策として栽培を奨励していた。

ジャトロファ栽培と油の生産

ジャトロファは、種の直播や挿し木で容易に増殖できる。生長が早く1年程度で実をつけはじめ、600mg前後の黒褐色の種子の仁は約60%が脂質である。開花から種子の収穫まで90日を要する。5年目くらいから安定した収穫期に入る。気候と管理条件により、年間3~12トン/haの種子を生産すると言われているが、商業ベースで経営するには、気候、土質、栽培技術、適正管理などの条件をそろえる必要がある。植物としての寿命樹齢は約50年で、経済生産期間は約25年~30年と推定される。

果樹から果実を採取し、果皮・果肉と種子の分離、種子の乾燥、搾油、濾過を経てジャトロファの粗油が出来上がる。一粒の種子は殻と核・仁から成り立っているが、直接種子を用いて搾油するケースが多く、種子の絞り粕(70-75%)と粗油(25-30%)が生成される。重量比で約30%の油が搾油でき、精製油をディーゼル発電用の燃料とする。未精製の粗油でもディーゼルエンジンの燃料として利用できる。

搾り粕には高い蛋白質と窒素、リン、カリウムなど植物の生長に必要な栄養素が含まれており、肥料または飼料として加工できる。しかし有毒蛋白質のクルシン(Curcin)も含まれているため、有機肥料や固体バイオマス燃料ペレットにして利用することが考えられる。

ジャトロファ栽培の状況

ジャトロファをバイオ燃料として利用する取り組みはインドが最も早く、2003年にバイオ燃料開発委員会を設立し、外資系企業の投資を誘致して大規模な栽培計画を推進した。中国、インドネシア、ミャンマーなどでも、中央政府のエネルギー政策の一環として、また農村開発、国内雇用対策などの社会問題解決の目的でもジャトロファ栽培が推進され、大規模プランテーション造成などで栽培面積が拡大した。主要企業では自動車、石油大手などがこうした国々のジャトロファ開発事業に投資した他、航空各社もバイオジェット燃料開発に着手し、2008年には一部ジャトロファ油を利用した試験飛行に成功している。

一方で、実際の油の生産性が期待よりも低かったため、当初の計画通りに栽培面積が広がらなかった国もある。インドネシアでは、市場に出回る種子の量が少ない一方で、各地での栽培が拡大したため、栽培用の種子の需要の方が高くなり、油の生産用に種子が回らなくなる事態が発生した。バイオ燃料の原材料としてジャトロファ種子を安定供給するにはまだ生産規模が小さく、栽培面積拡大速度が落ち着くまで時間がかかり、市販されるジャトロファ油も少なくなっている。

農地との競合

非食用で荒地でも生育できるジャトロファは、食料生産と競合せず、森林破壊にもつながらないという利点が強調され、急激に栽培地が拡大した。一方で、発電用燃料の安定供給のために一定規模以上のプランテーションを造成するとなると、既存の農地からの転用や熱帯雨林などが伐採される可能性も指摘されている。

ガーナでは、地域住民が慣習的利用権を持つ農地を、多国籍企業やバイオ燃料投資家が所有者のない土地として買収した結果、農家、伝統的首長、投資家の間で紛争になった事例が報告されている。土地を失った農民は食料生産確保に支障をきたし、休耕期間の短縮や、より条件の悪い土地を新たに農地として開墾する必要に迫られている。ジャトロファは生産性の高くない土地でも育成されるといわれているが、実際に投資家が買収するのは生産性の高い肥沃な土地である。

ケニアの事例では、NGOなどが支援して、貧困対策として小規模農家によるジャトロファ栽培が奨励されたが、初期費用や土地と労働力の機会費用が高いことから栽培を断念する農家が多かった。荒地で手間をかけずに生産できるとされていたが、一定の収穫量を確保し収益をあげるためには施肥や病害虫防除などの管理が必要で、栽培技術などの情報が確立・普及されておらず、安定した市場の確保も課題となっている。また、比較的小規模の農園経営であっても、既存の畑作地における食料作物から切り替えにつながるとも予想されている。結果として、プロット栽培よりも、垣根や間作作物として植栽する方がリスクは少ないと報告されている。

バイオ燃料としてのジャトロファの持続的生産の課題

ジャトロファは油糧作物としてのポンテンシャルが非常に高いことは認められるが、商業生産に向けた栽培技術、品種改良、管理技術、生産技術などはまだ研究の途上であり、種子の生産性曲線や収益性も不明である。これまで農家の垣根としての栽培か、薬用としての伝統的製法のみに限られていたため、単位面積当たりの種子の収穫量増加を目的とした品種改良もおこなわれて来なかった。技術面経済面での検証以前に、収益性が高いという情報だけが先行することによる性急な投資活動は、結果としてジャトロファ産業の拡大の障害となりかねない。大規模なプランテーションとして開発するには、現在のノウハウでは困難であり、燃料市場の主要な原料として普及するにはもう少し長い実証期間が必要である。

また、食料生産を圧迫せず荒地であまり管理せずに生育できるとはいえ、商業ベースに乗せた量産のためには、より条件の良い土地で適正管理が必要となり、生産地が拡大すれば、最終的には既存の食糧作物からの転作が進むことになる。大規模な土地買収時には、環境や地域住民に配慮するため、環境・社会面でのセーフガード基準づくりが必要である。

参考情報
  • Useful Tropical Plants: Jatropha curcas
  • 日本エネルギー経済研究所(IEEJ)2008:新規バイオ燃料用の油糧作物の開発 ジャトロファ・クルカス(Jatropha curcas Linn.)
  • Mogaka, V., Ehrensperger, A. , Iiyama, M., Birtel, M., Heim, E., Gmuender S., 2014: Understanding the underlying mechanisms of recent Jatpropha curcas L. adoption by smallholders in Kenya: A rural livelihood assessment in Bondo, Kibwezi, and Kwale districts
  • Acheampong, E. and Campion, B. B. 2014: The Effects of Biofuel Feedstock Production on Farmers’ Livelihood in Ghana: The Case of Jatropha curcas
  • Achten, W.M.J., Trabucco A. Maes, W.H., Verchot. L.V., Aerts, R. Mathijs, E. Vantomme, P., Singh, V.P. Muys, B. 2012: Global greenhouse implications of land conversion to biofuel crop cultivation in arid and semi-arid lands – Lessons learned from Jatropha
  • Ariza-Motobbio and Lele, S. 2010: Jatropha plantations for biodiesel in Tamil Nadu, India: Viability, livelihood trad-offs, and latent confilict
  • Kumar, N. and Sharma, P.B. 2005: Jatropha curcus – A sustainable source for production of biodiesel