金花茶

C. chrysantha(Hu) Tuyama_tea
C. chrysantha(Hu) Tuyama_flower

原料となる植物

学名
Camellia chrysantha (Hu) Tuyama及びCamellia nitidissima Chi (ツバキ科)
(以下、CamelliaC.と省略する。)
(C.nitidissima ChiはC.chrysantha(Hu) Tuyamaと同一種とされることもある。)
一般名
Trà hoa vàng(ベトナム)、金花茶(中国、台湾、香港、日本)、Yellow camellia、 Golden camellia
樹種概要

Camellia chrysantha (Hu) Tuyamaに限らず、黄花種のツバキには薬効があると考えられ需要がある。そこで、本データベースでは、Camellia chrysantha (Hu) Tuyamaを含む黄花種についても言及する。その場合には、「黄花種」と記述する。また、中国語および日本語の参考文献で「金花茶」と記載されている場合には、この通り記述している。

Camelliaは、ツバキ科(Theaceae)のなかで最大の属であり、120~300種を数える。このうち約80%は中国南部に分布し、残り20%のほとんどはベトナム北部に分布するとされてきた。ところが近年、ベトナム南部で数十の新種が発見されており、この地域もツバキ属の分布の中心地と目されている。黄花種もこれらの地域に分布するものの、その多くは個体数が少なく限られた地域の固有種である。

黄花種は、C. chrysantha (Hu) Tuyama(金花茶)、C. dormoyana (Pierre) Sealy(実果山茶)、C. flava (Pitard) Sealy(黄花茶)、C. euphlebia Merril(顕脈金花茶)をはじめ、50種ほどがある。
このうちCamellia chrysantha (Hu) Tuyamaは、高度500m以下の湿潤な森林に生育する、2~5mほどの常緑低木で光沢のある黄色い花を咲かせる。

ツバキ属の園芸品種には長い間黄色の花のツバキは存在しなかったことから、1980年代以降にはC. chrysantha (Hu) Tuyamaを日本や米国に持ち込み、黄色い花の園芸種を育成するための交配が盛んに行われるようになった。しかし、観賞用としてだけでなく花のエキスが薬効を持つ飲料としても貴重であることから、中国では「植物界のパンダ」、「茶の女王」などと言われている。

黄花種は生育地の減少および乱獲により個体数が激減しているとされる。C. chrysantha(Hu) Tuyamaについては、IUCNレッドリスト(1998年版)に絶滅危惧Ⅱ類(Vulnerable)として記載されている。

産品の特徴

用途
食品、工芸品
産地
中国南部、ベトナム北部
産品概要

多様な用途

健康茶のほか、金花茶のエキスを含んだスキンマスクやクレンジングムース、クリームなどの化粧品が開発されている。また、食用色素、木質が硬いため彫刻用素材、種子から食用・工業用の油が得られる。

期待される健康効果

葉や花等には亜鉛、セレン、バナジウム、有機ゲルマニウム、サポニンやポリフェノール、ビタミン類等、様々な成分が含まれている。葉と花の煎じ汁は血圧の調節に用いられ、抗酸化作用があることからガンの予防、免疫システムの強化、利尿作用、抗アレルギー、消炎等の効果もあるとされる。また、葉には、脂肪分解、肝臓・腎臓の機能改善、血糖値の安定化の作用がある。さらに悪玉コレステロール値を下げ、善玉コレステロール値を上げる効果もある。根にも薬効があるとされる。

とくにC. chrysantha(Hu) Tuyamaの花の部分には、腫瘍の成長を抑制し、血中コレステロールを減少させる成分が含まれていると考えられる。また、アテローム性動脈硬化症の症状の軽減、血圧の安定、心臓病や糖尿病、このほか、慢性的な便秘等の慢性病の改善が期待されている。

その他、かつて広西チワン族自治区の人々のあいだでは、病気の牛が金花茶を食べると病状が回復することが知られていた。

黄花種の分布地域の現状

ベトナムの生育地では、地域住民による燃料用木材の収集、商品作物(カシューナッツ)の栽培等耕作地の拡大、道路やダム建設等による生育地の減少が続いてきた。近年では、C. chrysantha(Hu) Tuyamaをはじめ黄花種の薬効の経済的な価値が注目されるようになり、健康茶の需要急増による乱獲がすすんでいる。多くの中国の取引業者がベトナムと中国の国境にまたがる道路を使ってベトナムに入り、黄花種のつぼみを購入している。花が咲く9月から12月にかけての時期には、ベトナムの到る所で黄花種が販売される。売り値はそれほど高くないが、ベトナムの少数民族は、少しでも生計の足しにするため山林に入り収集する。ハノイの北70kmに位置するTam Dao国立公園内でも同様に、周辺に住む住民によって、1日一人当たり250g~500gのつぼみが摘み取られ、中国の取引業者の手に渡り国境を越えている。つぼみの需要が特に高いが、あらゆるツバキ種の苗木、花も取引されている。
一方、広西チワン族自治区のNonggang国立自然保護区等において、C. nitidissima Chiの花と苗木の違法な採集が報告されていた。

野生の黄花種の減少から栽培の開始へ

ベトナムでのC. chrysantha (Hu) Tuyamaの栽培は、北部のクアンニン省(北は中国・防城区と接している)をはじめ、同じく北部のトゥエンクアン省、ヴィンフック省、イエンバイ省、ニンビン省、南部のラムドン省等で行われている。これらのほとんどは中国の取引業者の手に渡り、買い取り価格は多くの場合、取引業者に依存している。クアンニン省・Ba Che地区の栽培農家によれば、中国の取引業者が花や葉を購入するようになったのは2006年であった。当時の買い取り価格は摘み取った花1kgあたり0.6USドルであったが、2年後には手に入りにくくなったため価格は1kgあたり90USドルに上昇した。そのため地域住民はこぞって花を摘むようになり、根こそぎ抜いて売る場合もあった。
そこで、枯渇を心配した農家が2009年に山林から実生苗を集めて栽培を開始した。花を収穫できるようになるまでの4年間を経て、4haの栽培地で年間2.2万USドルの収入を得るようになった。生花はキログラムあたり57~66USドル、乾燥させた花は669USドルの値がつく。2016年1月7日付けベトナム・ニャンザン紙の記事によると、クアンニン省・Ba Che地区では、栽培面積は100haほどに拡大しており、2020年までに500haまで増加すると見込まれている。

また、中国・防城区においても、金花茶の栽培面積は拡大しているとみられる。2015年2月4日付けチャイナデイリーによると、金花茶の栽培総面積は1,300ha以上であったが、2017年1月9日付け防城港日報によれば、3,300haを超えている。こうした栽培面積の拡大は、金花茶の産品開発を行っている企業による精力的な事業拡大の結果と考えられる。ある企業は、総計1,300ha以上の栽培地に36,000本の黄花種を植栽し、種苗生産も手がけている。他の企業は栽培地660haを造成中である。

ただし、栽培面積の拡大により、野生黄花種の減少に歯止めがかかったとは言い難い。2010年以降、広西チワン族自治区・防城区の企業が、乾燥させた野生の黄花種の花を医薬品として1,607ドル/㎏以上の値をつけて販売している。栽培されたものを原料として使用しているというが、開花時期に野生種の花の需要があることは周知の事実であるとされる。

産品開発・国際取引の現状

2017年1月9日付け防城港日報によれば、広西チワン族自治区・防城区において、金花茶の産品開発を行っている企業は8企業にのぼり、金花茶の栽培・加工は、防城区の主要産業に成長している。国内市場はもとより米国、日本、シンガポール、香港、台湾でも金花茶産品は販売されており、今後はインターネット販売にも力を入れていくと考えらえる。
インターネット上では、金花茶濃縮液の場合、100ml瓶3本で66.97USドルで販売されている例がみられる。
なお、日本語のインターネットサイトで、観賞用としての苗木やお茶が販売されているが、多くはない。

こうした金花茶生産の増加を背景に、中国・広西チワン族自治区の防城区において、金花茶産品の振興のため、2015年1月に業界団体によって、第5回金花茶祭りが開催されている。一方、ベトナムでも2016年1月にC. chrysantha(Hu) Tuyamaの産品の販売促進を目的に、クアンニン省においてはじめて祭典が開催されている。

今後の展開

野生黄花種の生育地の減少、乱獲の問題に対処するため、ベトナム・Tam Dao国立公園では、住民の公園内への立ち入り制限、挿木を試みており、また、海外、とくに中国からの保全のための支援を要請している。挿木に関しては生育の経過が順調であったことから、植え替えをして育成天然林の施業も計画された。一方、広西チワン族自治区においては、中国科学院広西植物研究所およびGlobal Trees Campaign(BGCI <Botanic Gardens Conservation International>とFFI <Fauna & Flora International>の共同イニシアチブ)が、在来の黄花種を使った生育地の回復を地域住民とともに試みている。これまでに黄花種の栽培に関する調査研究、地域住民への栽培方法のトレーニング等を実施しており、110世帯以上の地域住民と6,000本の黄花種の苗を植栽し、さらに2万本の苗を苗床で育成している。地域住民が栽培した黄花種の花や葉を、地元の製茶工場等に買い取ってもらうことで、彼らの生計が向上すると期待されている。

参考情報

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