カポック繊維

原料となる植物

学名
Ceiba pentandra (Linn.) Gaertn.
別名: Bombax pentandrum L., Ceiba anfractuosa (DC.) M.Gómez
一般名
カポック(kapok、kapuk)、パンヤ(panha)、ホワイトシルクコットン(white silk cotton)、ヌン(nun)
樹種概要

本種は中米、カリブ諸島、南米北部、西アフリカ熱帯からインド、東南アジアまで世界中に広く生育し、原産地は熱帯アメリカ/熱帯アフリカとされるが、東南アジアの特にジャワ島、スマトラ島、マレーシア、フィリピンなどを中心に、種子から採れる繊維(綿毛)を利用する目的で広く栽培されてきた。一般に樹高は20~30m程度であるが、大きなものは樹高40~60m直径3mほどの巨木となる。熟果期には少雨が必要であるため、明瞭な乾・雨季のある気候下に適し、多くが民家の周辺で栽培される。播種ならびに挿し木による繁殖が極めて容易で、5年生位から綿毛の採取が可能となる。

数百個の長さ10~15cmほどの紡錘形の革質の蒴果を付け、中に入っている100-150個の直径4-6mmの種子は綿の実と同様に綿毛で包まれている。綿毛は白~灰色で絹の光沢を持ちリグニンとセルロースから構成され繊維長は2-7cmほどである。このためシルクコットンツリーとも呼ばれる。
同じ様に蒴(さく)果中の綿毛を繊維材料として利用する樹種としてBombax buonopozense (アフリカキワタ)、B. malabaricum(赤木綿樹、南アジア)が知られる。

また種子からは綿実油に似た黄色で芳香あるカポック油が搾油され、石鹸、塗料の材料、潤滑油として利用され生物燃料の可能性もあるとされる。搾りかすは飼料や肥料となる。花は重要な蜜源となる。

産品の特徴

用途
マットレス、枕、縫いぐるみ、クッション等の詰め物用繊維・油吸収材・新タイプ混紡布
産地
東南アジア、熱帯アメリカ、熱帯アフリカ
産品概要

綿毛採取は一般に人の手で行われ労働集約的である。蒴果が割れて繊維が飛び出す前に収穫し、農家で種子繊維を取り出して加工場でブロアーの風によって選別し等級分けされる(種子及び屑、ノッペン、プライム、スーペリア、スーパーファイン)。綿毛は軽く浮揚力が大きく耐水性があるが可燃性を持つことからかつては救命胴衣に広く使われてきたが、近年は合成材料に置き換わっている。羽毛の代替品としても使われ、マットレス、枕、クッション、家具詰め物、座布団、縫いぐるみ、断熱材などに利用される。近年、この毛綿が親油性に優れ大量の油を吸収することが知られ、現在オイルキャッチャーやオイルフェンスとしても使用されている。

天然詰め物素材

カポックは樹木を伐採することなく実から採取され、しかも栽培に農薬や化学肥料を使うことがないため環境負荷の小さい素材として知られる。また上記のように労働集約的産品であるため、コストがかかる半面、地域コミュニティーの生計手段としてのポテンシャルが大きいと言える。こうした特徴から、カポックの生産・利用拡大は森林域コミュニティーでの生計向上を通じた森林の保全・修復への貢献を期待できる。カポック繊維は中空率が極めて大きく(70-80%)圧倒的に軽く(綿の1/8)、エアパック効果で熱伝導率が小さいため断熱効果が高く、また天然の絹のような光沢、ヌメリ、柔らかさを備えている。また弾性が大きく毛玉に固まりにくく、洗濯後も復元力がある。大きくカポックの枕はエステル綿おり重量感があり頭が逃げにくい、縫いぐるみやクッションに用いればポリエステル綿より触り心地が良く存在感があるなど、その特徴を生かした天然素材として現在も利用されている。更に、従来カポック繊維は原糸生産には不向きとされてきたが、近年の技術開発によってカポック糸の紡績や織布が可能となり指定外繊維に分類され、複数の繊維企業が製糸・織布・衣料製造を行われている。綿やポリエステル等の繊維素材とカポック繊維を混紡した織物は、柔らかで軽くしっとりとした風合を持つ着心地のよい快適素材とされ「自然に優しく心地よい天然素材」として商品化が行われている。近年ではカポックの混率を50~60%まで高めた商品も開発されている。またカポックの不燃化技術も開発されている。このように、従来の主用途である詰め物用天然素材としての利用のみならず、新しい織物等への利用拡大への関心が世界的に高まりつつあり、カポックの利用増大による、熱帯域の森林保全の進展への貢献が期待できる。

輸出入動向と日本の需要

1990年前後には主にタイとインドネシアから年間2400トン前後、4億千円前後のカポックが輸入されていたが、1990年代中盤から輸入量は急減し2000年には300トン前後、2000年代中盤には現在の100トンレベルまで減少している。カポック単独での近年貿易統計はないが、カポックが含まれる品名「主として詰物として使用する植物性材料(例えば、カポック、ベジタブルヘア及びイールグラス。支持物を使用することなく又は支持物を使用して層状にしてあるかないかを問わない。)」の2007年~2015年の我が国への輸入量は年間100~150トンで2000万円~3000万円相当と貿易規模は大きくない。この間、輸入量に年変動は見られるものの、一貫した変化傾向は求められず、安定したマーケット需要が存在すると推定される。また2015年の輸入元についてみれば、インドネシアとフィリピンの2カ国のみで、全体の約98%をインドネシア産が占めている。我が国への輸入関税は無税。なお、上で述べたカポック繊維を混紡した織物は日本国外で生産されて輸入されており、上記の貿易統計には含まれない。

マーケットの展望

東南アジアではかつて、マットレスや枕、家具などの詰め物の主力がカポックであったが、そうした用途の多くがポリエステル等化学繊維やウレタンフォーム等の化成素材にとって代わられたことから、カポックの木の価値も低下し、伐採が増加し、近年資源量の減少が進んでいる例が多い。また一方、現地生産国でも天然素材であるカポックの良さが見直され需要が増大すると共に労働単価の上昇も加わり、この10年弱で輸入価格は50%ほど上昇している。

詰め物材料としては、現在では圧倒的に化成品が占めると思われ、カポックは限られた用途にしか用いられていないと考えられるが、天然素材の心地良さに加えて環境負荷が小さく森林の保全や修復、森林周辺域の地域コミュニティーの発展にも役立つ点をアピールしつつ、自然嗜好の消費者に向けたカポックを用いた商品開発を行えば、一定の安定したマーケット形成の可能性があると考えられる。

参考情報
  • Chinea-Rivera, J.D. 1990: Ceiba pentandra (L.) Gartn. ITF Tropical Silvics Series No.29, 4pp
  • 石塚和裕 1997:カポック(Kapok)、森徳典ほか編「熱帯種種の造林特性:第2巻」、199-202、国際緑化推進センター
  • 農林省熱帯農業研究センター 1978:セイバ Ceiba、「熱帯の有用樹種」、508-510、熱帯林業協会
  • https://en.wikipedia.org/wiki/Ceiba_pentandra
  • http://www.wildfibres.co.uk/html/kapok.html

この産品についてさらに詳しい情報を入手したい方へ