ココナツ材

ココヤシの幹
ココヤシの丸太

Photograph by: Meursault2004 / Original file ライセンス表記 CC BY-SA 3.0

ココナツ材を利用した建物

原料となる植物

学名
Cocos nucifera L.
一般名
ココヤシ
樹種概要

起源と地理的分布

ポリネシアから熱帯アジア原産とされるが、現在では世界中の熱帯域の北緯26度~南緯26度の、内陸アフリカと内陸南米を除くあらゆる地域で広く栽培されている。天然性のココヤシは確認されていない。大きくは厚い外殻を持ち角張った形状の果実を付けるniu kafaタイプ、もう一つは薄い外殻と丸い形状で胚乳の割合が高い果実を特徴とするniu vaiIタイプの2主要品種に大別される。また、ココヤシは背の高いtypica種と矮性のnana種に区分され、遺伝的にも全く異なり、矮性種は観賞目的やより早期の発芽・結実を目的に人為的に選抜されたもので、高樹高の種は他配であるのに対し矮性種は自配であるため遺伝的多様性は前者ではるかに大きい。

形態的特徴

樹高は大きいもので約30mまで成長する。幹は通直であるが直立せずやや斜めに伸び、途中で屈曲するものも少なくない。葉の長さは4-6mにもなる羽状複葉で、基部から先端まで60–90cmの細長い小葉を両側に着ける。葉は幹の先端部に集まり、その部分には葉の付け根とそこから出る繊維が密集する。それより下では比較的滑らかな樹皮が露出している。雌雄同株で大きな円錐花序を着け、その先端部は雄花で、基部に雌花をつける。果実は熟すと大きいものでは30cm程にもなり、やや先がとがった楕円形で、緑色。その外側は丈夫な繊維を含む厚い層からなり、その内側に非常に固い殻に包まれた種子がある。果実は海水によく浮かび、遠距離への種子の散布が可能である。

成長と発育

 ココヤシは砂質土壌でも生育可能で高塩分濃度にも高い耐性を示すことから熱帯域の海岸沿いに長く伸びる群落を形成する。日射が豊富で規則的な降雨(1500-2500mm/年)のある地域が適地で、夏季の気温が28℃と37℃の間で最も成長が良く、ある程度の季節変化に耐え、冬期の気温が4-12℃の範囲であれば生残可能である。0℃でも短時間なら耐えるが、寒冷な気候下では生育できず、通常は降霜によって死亡する。ココヤシはまた、最適成長のためには高湿度(70-80%+)が必要で、このことが低湿度乾燥地域でココヤシが見られない理由である。しかし一方で、パキスタンのカラチなど、年降水量は少ないが(カラチは250mm)一貫して温暖で湿潤な地域には生育している。また、若いココヤシは直射日光を必要とするため、頭上に他の樹木の樹冠がほとんどもしくは全く存在しない環境が必要である。土壌的にはかなり広範な土壌で生育可能であるが、壌土質~砂質の通気・排水の双方が良い土壌が適地で、特に海岸地帯で旺盛に成長するが気候条件を満たせばかなり内陸部まで生育する。ただし、岩石質土壌やラテライト、停滞水土壌は生育に適さない。

生態的特徴

果実は非常によく海水に浮くので、海に落ちれば海流に乗ってかなり遠方まで流され、砂浜に打ち上げられればそこで発芽することで分布を広げる。自生北限はケッペンの気候区分で熱帯気候区と温帯気候区の境界とされる最寒月平均気温18℃のラインとほぼ一致する。

産品の特徴

用途
建材、家具材、工芸品
産地
東南アジア、熱帯アメリカ、熱帯アフリカ
産品概要

ココナツ材は一見マホガニー材を連想させるが、木目はマホガニーよりもはるかに繊維質で、マホガニーにみられる真珠様光沢を欠く。色調と色相は黄金色から黒檀色に近いもいのまで広範にわたり、暗褐色の斑点を持つ。木材の密度によって色が異なる三つの部分に分かれる。暗褐色の部分は高密度、中程度の褐色部分は中密度、明黄金色部分は低密度である。ココナツ材は年輪、放射組織、心材、枝を持たず、節やその他の欠陥がない。ココナツの幹は、外縁部が最も硬く高密度で、樹木はこの部分で強度を維持し、高いシリカ含量によって柔軟性を獲得している。幹の中心に向かって材の硬さは低下してゆく。JANKA法によるココナツ材の硬さは、112.5-154.7 kgf/cm2 (1600 – 2200 psi)で、カシ(70,3 – 84,4 kgf/cm2)やダグラスファー(35,9 kgf/cm2)よりも硬い。ココナツ材は材密度によって下記のように3区分される。

  • 高密度材(外皮部):硬(600–900 /m3
  • 中密度材(内皮部):中硬(400–600 kg/m3
  • 低密度材(中心部):軟~中硬(200–400 kg/m3

ココナッツ材は構造材ならびにインテリア材として多くの用途があり、より硬く高密度の材は、柱、トラス(梁)、垂木、家具、窓枠やドア枠、床、デッキおよび根太など、一般的な構造用途に適している。ただし、一般則として密度400 kg/m3未満のココナツ材は構造枠組みには適さない。また、高密度のココナツ材を構造部材として用いる場合、釘打ち製が悪く割れやすい欠点を持っている。 中密度のココナツ材は、壁、野縁等に使用できる。大寸法の構造用製材が求まられる場合は集成材に加工することで求めるサイズを得ることができる。中密度の板材は壁、天井根太、窓・ドア枠などに効果的に利用可能である。一方、低密度のココナツ材は、木製パネル、内装材や天井、家庭用品などの荷重のかからない用途に使用される。近年における実績としては、アブダビのマスダール市開発の際に、フィジーのパシフィック・グリーン社が供給したココナッツ材が、エントランス・ゲート、外壁、ドアなど外装用途で広範に用いられている。門柱や電柱など野外でのココナツ丸太の使用も可能であるが、適切な防腐処理が必須となる。建築用の利用に加え一方でココナツ材は、独特の美しい木目と自然な風合いを活かし、高価値の家具、室内装飾壁、寄木床材、杖、エッグカップ、皿、鉢、壺など様々なノベルティー製品、工芸品の材料として有望視され、適切なプロモーションにより域内のみならず国際マーケットでも受け入れられる潜在性を持っている。その他、ココナツ材ならびにその鋸クズは木炭やそのブリケット炭、更には活性炭や工業材料用のカーボンとしての利用も可能で、その製造技術はすでに確立している。

資源の状況

2011年時点のココヤシの栽培面積は全世界で約1200万haほどであり、アジア太平洋地域に関するFAOの報告書によれば、アジア太平洋地域で一貫して1000万ha を維持しており当該地域に資源が集中している。アジア太平洋地域のココヤシ植栽地のうち経済的価値を喪失した老齢植栽地は400万ha、本数では4億本弱、製材換算で1億m3に達し、改植ローテーションの期間を20年-40年とすれば、2015年以降、毎年1000万本のココナツを木質資源として利用できるポテンシャルが存在する。これは、ココナツ一本の製材歩留まりを0.30 m3 と仮定すれば、毎年300万m3の製材生産ポテンシャルに相当する。老齢に達しもはや実を付けず伐倒・改植されることになるココナツ植栽地の面積はインドネシア、フィリピンに次いでインド、パプアニューギニア、タイで大きく、インドネシアや太平洋の島嶼では老齢もしくは生産寿命を終えたココナツ植栽地の面積が全体の50-60%を占めると推定されている。特に太平洋州諸国の中では、パプアニューギニア、バヌアツ、フィジーでは極めて多くのココナツが改植を必要としており、その分ココナツ材産出のポテンシャルが高い。

また、ココナツは基本的に零細農家による栽培作物であることから、公的ならびにプライベートセクターからのインセンティブや適切な施策によって老齢木の改植を進めることが求められており、ココナツ材の商品化はこれを支援する重要な方策となる。 しかし、実際に利用可能な資源量は生産国におけるココナツの伐採/改植プログラムの規模に依存することに注意する必要がある。フィリピンでの経験によれば、ココナツの伐採量は幹の販売価格に大きく影響を受け、販売価格の上昇は小委規模農家による果実生産可能なココナツの無差別な伐採を促す。このため、フィリピン政府は老齢木、病虫被害木、台風被害木のみを伐採対象とする政策を設けている。ただし、アジア太平洋地域全体で見ると、多くの国でココナツの伐採/改植の進展は極めて遅れている。伐採/改植の促進策と適切なインセンティブを設定できれば、天然林に依存した木材供給の逼迫と相まって、大規模なココナツ木の伐採が進み、製材用途としてのココナツ材の供給が飛躍的に拡大する可能性がある。

国際的な資源・生産・取引の状況

建設産業には膨大なココナツ材需要がある。大型建築物では大量のココナツ材が足場材や型枠材として使用される。選抜・等級付けされたココナツ材は住宅の柱、梁、桁、ドア枠、壁材として使われる。またパレット用材としても使用できることがわかっている。フィリピンでは、政府による耐価格住宅プログラム、政府関係建造物ならびにリゾート施設などに多量のココナツ材が使用され、その量は年間100万~200万m3に及ぶ。ココナツ材の生産者ならびにディーラーの数の増加もこれを需給の増加を示している。またアクセスや品質によって価格は変動するものの、需要ならびに価格は上昇傾向にある。それでもなおココナツ材は、アピトン(Dipterocarpus grandiflorus)やレッドラワン (Shorea polysperma)など主要な木材に比べて大幅に安価である。

ココナツ材の実需、潜在需要は国内的ならびに国際的な住宅、高層ビルなど大型施設、畜産業施設(養鶏場、畜舎)の建設動向、パレット、家具、小物などの生産動向に依存して変動する。仮にアジア・太平洋域のココナツ栽培国の1.5億人の1%が1千500万棟の住宅建設を必要とし、一戸あたり15m3のココナツ材を用いるとすれば2億2千600万m3のココナツ材の需要が存在する計算となり、これは供給量を上回る数字である。またその自然な風合いと独特の木目から、欧米諸国ではココナツ材の家具や比較的安価なノベルティーグッズに対する嗜好が高まりつつある。

我が国における需給・取り扱い実態と今後の見通し

我が国へのココナツ材の輸入量はごく限られているが、ココナツ材は枕木に使用される程の硬度があり、一部でカウンターテーブルやフローリング、デッキ材として少量が販売されている。価格はウリン(ボルネオ鉄木)の6割程度で取引されている。一方欧米においては、ココナツ材を使ったフローリングやデッキ、家具はすでに市民権を得ていることから、我が国においても、品質の向上ならびにデザイン洗練度の向上を進め、併せてココナツ材の森林保全的側面を訴求することによって、一定規模のマーケットを形成できる可能性があるものと考えられる。

技術的・商業的課題

ココナツ材への需要拡大の傾向は、ゴムノキ材(ラバーウッド)やマンゴー材利用の商業化で達成された成功例と同様の成果につながる可能性がある。ゴムノキ材は、原材料供給に係る技術的問題・制約を解決することによって、世界的に重要な家具材としての地位を獲得することが可能となった。このため、ココナツ材の商品化にあたっては官民の両分野において下記の点に留意する必要がある。

  • 継続的で持続的な原材料の確実な供給体制の構築。
  • 技術的問題点の継続的解決と魅力的な商品ラインアップの拡大。
  • 乾燥・製材業者ならびに利用者を対象としたキャパシティー・ビルディング、ならびに必要数の投資家・企業家の誘致活動。
  • ココナツ材の多面的有用性を関係者に周知するためのキャンペーン支援活動。
参考情報
  • Coconut Wood Processing and Use; Food and Agricultural Organization (FAO) of the United Nations (1985)
  • State of the Art: Cocowood Utilization; R. Palomar (1990)
  • Asian and Pacific Coconut Community (APCC), 1995 – Proceedings of XXXIV COCOTECH Meeting, on Technology Transfer and Application in Relation to the Coconut Industry, Kuala Lumpur, Malaysia, pp. 119-143.
  • Asian and Pacific Coconut Community (APCC), 1989 – CORD, Vol. V, No. 1, 80p.
  • Asian and Pacific Coconut Community (APCC), 1990, Proceedings of the Workshop on Coconut Wood Utilization for Policy Makers, 17-21 April 1990, Zamboanga City, Philippines, 170p
  • Asian and Pacific Coconut Community (APCC), 1991-1995 – Country Studies on the Coconut Industry, APCC Occasional Publication Series.
  • Asian and Pacific Coconut Community (APCC), 1995 – Statistical Yearbook, 275p.
  • Economic and Social Commission for Asia and Pacific (ESCAP), 1995, Asia Pacific in Figures, 55pp.
  • Food and Agriculture Organization (FAO) of the United Nations, 1985, Coconut Wood Processing and Use, FAO Forestry Paper No. 57. 58pp.
  • Food and Agriculture Organization/United Nations Development Programme /United Nations Industrial Development Organization, 1983. Regional Coconut Wood Utilization Programme (RAS-81-110). Training Hand-Outs on Coconut Wood Utilization-Managerial Training Course.
  • Forest Products Research and Development Institute, Department of Science and Technology, Philippines, 1988. Coconut Wood Utilization Research and development: The Philippine Experience, 127pp.
  • Forest Products Research and Development Institute, Department of Science and Technology, Philippines, 1996. Proceedings of the Regional Experts’ Meeting on Coconut Wood Utilization, 1-7, February 1996. (Unpublished)
  • Philippines Recommends for Coconut Timber Utilization, 1985. Philippine Council for Agriculture and Resources Research and Development. Technical Bulletin Series No. 60. 93pp.
  • Henri Bailleres, Gary Hopewell, Adam Redman, Lesley Francis, Johannes Fehrmann, Susan House; Cocowood processing manual. From coconut wood to quality flooring, An outcome of ACIAR project FST/2004/054: Improving value and marketability of coconut wood. Department of Employment, Economic Development and Innovation, Brisbane (2010)
  • 山田範彦;ココヤシ材とオイルパーム材、木材工業、Vol.65、363-366(2010)
  • 山田範彦、横尾国治、山口秋生、土屋 敦、森 光正;ココヤシ材を用いたフローリング材の開発、木材工業、Vol.66、156-160(2011)

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