バランゲラン材

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原料となる植物

学名
Shorea balangeran (Korth.) Burck.
別名: Hopea balangeran Korth., Parahopea balangeran Heim,
Parashorea balangeran (Korth.) Merr.,
Shorea balangeran var. angustifolia Boerl.
一般名
バランゲラン(Balangeran)、カホイ(Kahui)
Borneo: Balangiran, Kahoi, Kawi, Kelandan, Kelansau, Lempung nasi.
Sumatra: Melangir (Bangka, Belitung).
樹種概要

バランゲラン(Shorea balangeran)は、フタバガキ科に属し、樹高30mに達する中高木性の広葉樹である。板根は1.2m程度。沈木で耐久性があり、建築用材として需要がある。インドネシアのカリマンタン島およびその周辺のバンカ島やブリトゥン島等の小島に天然分布する。有機質土壌の泥炭湿地及び硬質土壌でも生育可能な樹種であり、中部カリマンタンの泥炭湿地林では、ドーム構造の縁、水位が最も高まる立地条件に天然分布する。国際自然保護連合(IUCN)が指定する“絶滅危惧IA類 (Critically Endangered)”に登録されており、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いとされている。

バランゲランは、フタバガキ科のなかでも比較的成長が早く、開放地の強光・高温条件に耐性があるという先駆性の生態特性を持つ。さらに土壌湛水に対する耐性が高く、樹体の完全沈水でも1ヶ月以上の生存が可能である。また地表火により地上部が消失しても萌芽更新での再生が可能で、比較的火災耐性も強い。また、バランゲランは、開花結実が毎年あるため種子の採取が容易である。種子は非休眠タイプであることから長期保存はできないが、約10日以内に播種すれば発芽とその後の生残率が高く、苗木生産が容易である。苗木の植栽では裸苗での運搬・植栽も可能なため扱いやすく、活着率も80%以上で高い。このような特性から造林樹種としての利用が可能である。さらに、種子の直播きによる造林も可能であるため、造林の省力省コスト化が見込まれる。成長速度は15年から20年で胸高直径30cm程度に成長することが予測され、用材生産において伐期15年から20年での施業計画が立てられる。

産品の特徴

用途
建築用材(柱材、板材)
産地
インドネシア(カリマンタン、バンカ及びブリトゥン)の泥炭湿地
産品概要

バランゲラン材は、木材流通の分類ではレッドメランティ(赤み色のメランティ)と呼ばれる優良な木材である。材密度は含水率15%で730-990 kg/m3の重硬材であり、国際取引価格も最高級ランクである。インドネシアの中央カリマンタンでは、古くから住民が建築用材(柱材、板材)として利用している。カリマンタンでは、最高級の耐久性を持つ材であるウリン(Eusideroxylon zwageri)は硬質土壌のみに生育するが、バランゲランは硬質土壌ならびに有機質土壌の泥炭湿地にも生育可能であり、ウリンに次いで2番目に耐久性を持つ材とされる。

カリマンタンにおけるバランゲラン材の取引価格

バランゲランは、建築用材として需要がある。2015年の現地調査時点では、中央カリマンタン州パランカラヤ周辺の主要幹線道路脇で、天然林から伐採された小径木(丸太径15~20cm)の4m柱材が、約5百円/本の価格で販売されていた。また、同地域の中小規模の製材所では、中径材(直径30cm程度)の工場着の買取り価格は、約7千円/m3であった。ジャワ島や南カリマンタン州等の他地域の合板工場へ輸送する際、バランゲランを含む湿地林材の船積み価格(FOB)が、約1万2千円/m3程度であることから、工場着の価格は、約1万6千円/m3と予想された。

この合板工場着での買取り価格(約1万6千円/m3)を用いて、バランゲランの植林事業施業計画について、20年伐期で胸高直径30cmの材が800本/ha収穫できると想定し、収益性を分析した結果、採算ラインを上回る収益性が得られ、事業化の可能性が示された。

課題

一般に泥炭湿地は、酸性かつ貧栄養で地下水位も高く植物の成長に向かない。この泥炭湿地に耐性を持ち比較的成長の早いバランゲランは、建築用材を生産する植林樹種として有望である。今後、精英樹の選抜育種や直播造林技術の開発により、事業の採算性も高まるだろう。

しかしながら、インドネシアのスマトラ及びカリマンタンの広大な荒廃泥炭地においては、森林伐採や農地開発により土地の乾燥化が進み、地域住民の焼畑やパーム農園の火入れ延焼等により、大規模な森林火災が頻発している。植林事業化に当たっては、この火災リスクを低減することが必須であり、企業が管理するコンセッションにおいては適切な水位管理、防火・消火対策、地域住民が利用権を保有している土地においては、地域住民がオーナーシップを持って植林し、植林木を火災から守るインセンティブを地域住民に持たせることが課題である。このような方式で火災リスクを低減することによって、バランゲランを用いた泥炭湿地における用材生産、森林回復並びに残存する天然林の保全がはじめて可能となると考えられる。

前例として、ジャワ島において、合板用材として市場価値のあるセンゴンラウト(Paraserianthes falcataria)を用いて、住民の私有地における住民植林が普及した。この前例のように、泥炭湿地におけるバランゲラン植林事業に一定の収益性があれば、住民による植林が爆発的に進む可能性もある。

参考情報
  • Suryanto, Tjuk Sasmito and Endang Sabitri ed. (2012) Budidaya Shorea balangeran di lahan gambut. Balai Penelitian Kehutanan Banjarbaru, Badan Penelitian dan Pengembangan Kehutanan, Kementrian Kehutanan. (in Indonesian)
  • PROCEA (1994) I. Soerianegara and R. H. M. J. Lemmens ed. Shorea balangeran (Korth.) Burck. Plant Resources of South-East Asia No.5, (1) Timber trees: Major commercial timber. 392-393, Bogor Indonesia
  • Pl@ntUse. Shorea balangeran (PROSEA) http://uses.plantnet-project.org/en/Shorea_balangeran_(PROSEA) (2016年3月閲覧)
  • The IUCN Red List of Threatened SpeciesTM Shorea balangeran. http://www.iucnredlist.org/details/33103/0 (2016年3月閲覧)
  • Plants of Southeast Asia Shorea balangeran (Korth.) Burck, Ann. Jard. Bot. Btzg. 6 (1887) http://www.asianplant.net/Dipterocarpaceae/Shorea_balangeran.htm (2016年3月閲覧)