マルーラオイル/マルラオイル

原料となる植物

学名
Sclerocarya birrea (ウルシ科)
一般名
Marula、Elephant tree、マルーラ、マルラ
樹種概要

マルーラ(Sclerocarya birrea)はウルシ科の高木であり、エレファントツリーとも呼ばれる。サブサハラ地域およびマダガスカルのウッドランドやブッシュなど、標高0-1,800m、年間降水量が約200-1,500mmの暑く乾燥した気候帯に分布している。砂質やローム質の土壌でよく成長する。その使用用途は豊富で、果肉を絞ったジュースとそれを発酵させたアルコール飲料、幹を利用した伝統薬や木材工芸品など生産地域での限られた利用に加えて、ドライフルーツ、リキュールとして世界中で販売されている。
近年では、マルーラの仁から搾油されできるマルーラオイルがビタミンC・Eやオレイン酸などを多く含むため、アンチエイジングに効果がある機能性オイルとして期待され、欧米を中心に高付加価値商品として販売されている。

成長と発育

マルーラは平均高さ7-17mまで成長する。種子から発芽させた場合は果実が結実するまでに8~10年かかり、接木を行った場合は4~5年かかる。果実は成熟する前に地面に落ちるが、落ちた段階では外皮はまだ緑色で果実も硬い。その後熟すと濃い黄色に変わり、半透明のやや白っぽい果肉になる。また、野生の樹木よりも栽培樹木の方が早く成長し、より多くの果実を結実させる。ただし、これは”Macro-micro catchments”と呼ばれる降雨の土壌への利用方法を利用した場合であり、この方法によって成長が50%以上促進させることができる。接木を行うにあたってはその不親和性にも注意が必要である。

産品の特徴

用途
化粧品、食品
産地
サブサハラ地域、マダガスカル
産品概要

多様な用途

マルーラは多様な用途をもち、食品・飲料、伝統薬の原料、化粧品などに利用されている。ボツワナではマルーラは果肉を絞ったジュースやそれを発酵させた“beer”と呼ばれるアルコール飲料が好まれ、世帯ごとに作られたものが村内などで販売されている。またマルーラの樹皮は下痢やアレルギー症状のための薬として、伝統的に利用されている 。その他、ナミビアではマルーラオイルが訪問客のもてなしなど特別な機会に食用として伝統的に利用されてきた。一方、産業ベースの利用としては、南アフリカ共和国でSouthern Liqueur Company社が”Amarula”と呼ばれるリキュールを販売している。近年では、美容用オイルとして日本を含む世界各国で販売されており、オイルを配合したシャンプーやボディークリームとしても商品が販売されている。

機能性オイル

マルーラオイルは脂肪酸が豊富で、オレイン酸(70%)、パルミチン酸(13%)、ステアリン酸(8%)、リノール酸(7%)を含む。
最も多く含まれるオレイン酸は、一価不飽和脂肪酸のうちオメガ9に分類され、不飽和脂肪酸のなかで最も酸化しづらい脂肪酸である。また、人間の皮脂成分に近く、保湿力が高い。さらに、他の美容成分が肌に浸透するのをサポートすることから、古くから美容オイルに利用されている。
ステアリン酸及びパルミチン酸は飽和脂肪酸のうち長鎖脂肪酸に分類される。ステアリン酸は、一般的に動物・植物性資質のなかで最も多く含有される飽和脂肪酸であり、体内酵素によって、融点の低いオレイン酸に変換される。一方、パルミチン酸は細胞の持つ本来の力を活性化させ、ビタミン類(特にビタミンC)を吸収しやすくする作用がある。
リノール酸は多価不飽和脂肪酸のうちオメガ6系に属し、体内で生成できない必須脂肪酸で血中コレステロール値や中性脂肪を一時的に低下させる。
オメガ9は代謝をよくし抗酸化作用があり、オメガ6は肌状態をよくする。これらの成分は肌から直接吸収できるため、マルーラオイルの様に肌に塗ると浸透しやすくハリや潤いを与えると言われている。

マルーラオイルの特徴①:抗酸化力(エイジングケア)

エイジングケアに必要不可欠である抗酸化力は、マルーラオイルの大きな特徴の一つである。オレイン酸をはじめとした抗酸化物質の含有量が非常に高いため、オリーブオイルやアルガンオイルとよりも高い抗酸化力があるといわれている。オレイン酸に加えて、抗酸化力を高める言われるビタミンE(トコフェノール)も多く含む。ビタミンEは「若返りビタミン」と言われており、シミ、シワやニキビの解消、育毛効果などが期待される。その他にも、美白効果が期待されるビタミンC、シミの原因となるメラニンの発生を抑制すると言われるプロアントシアニジン(ポリフェノールの一種)を含む。

マルーラオイルの特徴②:抗ヒスタミン作用

マルーラオイルは抗ヒスタミン作用がある唯一のオイルとも言われている。上述のプロアントシアニジンは、かゆみや炎症をともなうアレルギー性皮膚炎などの鎮静化が期待できるとも言われ、抗ヒスタミン作用があると考えられる。さらに、皮膚の修復にマルーラオイルは効果があるため、やけど、アトピー、ニキビなどのケアにも利用可能である。そのため、赤ちゃんや肌が弱い敏感肌の人でも安心して使える優しいオイルであると言われている。

マルーラオイルの特徴③:高保湿力・高浸透力

マルーラオイルはオレイン酸の含有量が高いことから、他のオイルに比べて肌への浸透力が早く、保湿にも優れていると言われている。そのため、オイルののびがよく数滴で肌に馴染み、ベタつきがない。

日本市場の動向

日本国内の化粧品市場は成長傾向にある。2016年度は前年比3.3%増の2兆5,294億円であった。この背景には化粧品が免税対象となった2014年10月以降のインバウンド需要もあるものの、景気回復を背景とした化粧品全般への需要増加や新商品開発など国内需要の開拓がある。
マルーラオイルはスキンケア商品としての取り扱いに加えて、農薬等を使用しないマルーラの木の仁から抽出されるため、自然派の化粧品市場にも分類することができる。自然派・オーガニック化粧品市場は、安全安心志向の高まり、敏感肌の女性、エコやLOHASなど環境を意識したライフスタイルを追求する消費者の増加を背景に拡大してきた。このようなオーガニック市場に加えて、卸ルートやオンラインショップ等の販路拡大、ファッション雑誌等の販促により、市場は拡大すると見込まれる。

本事業における聞き取り調査の結果、近年化粧品販売会社におけるマルーラオイルへの関心は増加傾向にあり、それに伴い供給量も増加していることが明らかになった。2017年時点では、マルーラオイルの日本国内取引量は10t/年程度と推測される。マルーラオイルは現在供給量が少ないため、需要に対して供給量が見合っていないとの指摘もあった。
マルーラオイルの主要な生産国は南アフリカ共和国であるものの、ボツワナも新規供給地としての可能性が高まっている。ボツワナには十分なマルーラ資源が存在し、一部はボツワナ産マルーラオイルがアメリカおよびヨーロッパ地域には輸出されている。したがって、すでにボツワナ国内でマルーラオイルの生産体制やサプライチェーンは整っていると考えられる。今後、日本企業による買取が実現すれば、より一層のサプライチェーン強化が期待される。詳細については、下記ビジネスモデルを参照。

参考情報
  • Lombard, C., 2013. Marula Oil Value Chain Analysis Final Report., Millennium Challenge Account Namibia with funding from the Millennium Challenge Corporation
  • Maghembe, J.A., Simons, A.J., Kwesiga, F., Rarieya, M. 1998. Slecting indigenous trees for domestication in southern Africa: priority setting with farmers in Malawi, Tanzania, Zambia and Zimbabwe. ICRAF, Nairobi, Kenya.
  • Mokgolodi, N.C., You-fang, D., Setshogo, M.P., Chao, M. ,Yu-jun L., 2011 The importance of an indigenous tree to southern African communities with specific relevance to its domestication and commercialization: a case of the marula tree., Forest Studies in China, Volume 13, Issue 1, pp36-44.
  • Shackleton, S.E., Shackletn, C.M., Cunningham, A.B., Lombard, C., Sullivan, C.A., Netshiluvhi, T.R. 2002 Knowledge on Sclerocarya birrea subsp. caffra with emphasis on its importance as a non-timber forest product in South and southern Africa: A summary, Part 1: Taxonomy, ecology and role in rural livelihoods. Southern African Forestry Journal, Volume 194, pp27-41.
  • Peters, C.R., 1988 Notes on the distribution and relative abundance of Sclerocarya birrea (A.Rich.) Hochst. (nacardiaceae). Monograph in Systematic Botany of the Missouri Botanical Garden., Volume 25, pp403-410.
  • Wyk, B.V., Wyk, P.V., 2013 Field Guide to Trees of Southern Africa: An African Perspective., Penguin Random House South Africa