レセルピン・アジマリン(インドジャボク)

原料となる植物

学名
Rauvolfia serpentina (L.) Benth. ex Kurz  (family Apocynaceae キョウチクトウ科)
一般名
Bomayaza(ビルマ語)、Chandmaruwa(ネパール語)、Chhota Chand(ヒンディー語)、Chivan Amelpodi(タミル語)、Chuvannavilpori(マラヤーラム語)、Paataalagani(テルグ語)、Rauwolfia root(英語)、Serpentine root(英語)、Serpentine wood(英語)、Snakewood(英語)、インド蛇木(インドジャボク)(日本)等
樹種概要

インドジャボクは常緑の低木で、樹高15~45cm程度であるが、90cmほどになる場合もある。根はほぼ垂直に伸び(50cm程度まで)、塊状に肥大する(塊根)が、複数の小さな塊根が発達することもある。根の色は、外部は灰黄色、内部は淡黄色である。生の状態では刺激の強い匂いを発するが、乾燥すると無臭となる。大変苦い。根全体の40~60%を占める根皮は、アルカロイドの一種であるレセルピンを豊富に含む。葉は3輪生~5輪生である。2月から10月にかけて白、ピンク、赤色の花をつける。実は卵型で熟すと紫がかった黒色となる。

インドジャボクは年降水量が2500mm以上の場所を好み、海抜2100m以下の空地、水はけのよい熱帯林、やぶ、落葉樹林に生育する。
分布域はアジアの広い範囲に及ぶ。国別にみると、中国南部(広東省・広西チワン族自治区・海南省・雲南省)、インド全域(ただし海抜1000m以下の地域)、インドネシア(カリマンタン・ジャワ・スマトラ・小スンダ列島)、ラオス、ミャンマー中部・北部地域(カヤー州・シャン州・ザガイン管区・バゴー管区・マンダレー管区の湿潤落葉樹林)、ネパール東部・中部(ただし海抜1500m以下の地域)、タイ(海抜800m以下の常緑樹林または空地)等にみられる。
インドジャボクの資源量は、インド南部および中部では、生育地の減少と薬草としての過剰採取により「絶滅の危険性が極めて高い」、「近い将来、絶滅の危険性が高い」、「絶滅の危険が増大している」などと見なされている。具体的には、バングラデシュ、ミャンマー、ベトナムでは絶滅の危険性が高く、ネパールではすでに絶滅寸前と言われている。 1990年以降、CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:ワシントン条約)附属書Ⅱに掲載されている。 https://www.speciesplus.net/#/taxon_concepts/18974/legal 

インドジャボクはその自然乾燥させた根が医療目的で利用される。60種以上のアルカロイド化合物(インドール・アルカロイド)により構成されており、そのなかに不整脈に用いるアジマリンや、高血圧に用いるレセルピン、レシナミンがある。アルカロイドの含有率は1.4~3%である。
インドでは、数世紀にわたって様々な中枢神経の疾患(不安神経症、躁状態)や、腸の病気の治療にインドジャボクの根が用いられ、駆虫薬にもなった。また、他の薬草抽出物と混合してコレラの治療にも役立てられていた。1990年代には、インドジャボクを含む12の薬草が治療薬として製品化されていた。
西洋医学では1952年にインドジャボクの根から初めてアルカロイドが抽出され、レセルピンと名づけられた。それ以来、高血圧や精神疾患の治療として重宝されたが、その後、副作用があることから使用量が減少していった。発がん性があるとも言われている。現在では、レセルピンの生産には合成品が使用されるようになってきている。

産品の特徴

用途
高血圧や精神疾患の治療薬
産地
バングラデシュ、ブータン、中国、インドネシア、インド、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、スリランカ、タイ、ベトナム等
産品概要

収穫について

15ヶ月で収穫できるほどの太さになるが、通常、3~4年後の収穫がよいとされている。ミャンマーでは、インドジャボクは主に伝統薬として国内で需要されている。根は通常乾燥させるが、地元の治療師は生のまま使うのを好む。収穫に携わる人々は少ないと考えられているが、インドジャボクの収穫が専業となっているわけではないため、その人数を把握するのは困難である。採取は計画的に行われておらず、また、地元に供給する他の林産物も同時に採取する。国内での需要があるにもかかわらず、供給を増加させるための特別な対策は行われていない。ちなみに2001年~2004年に森林局は国内向けに約68tの収穫(生の状態)を許可している。
ネパールでは、開花時期が終わり、落葉する冬に収穫するが、この時期はアルカロイドの含有量が最大になるとされる。根皮に根全体の40~60%のアルカロイドが含まれているため、根皮を傷めないように注意深く取り出す。付着した土の除去および天日干しは採取者が行う。採取者は採取量に応じて森林利用料を請求され、また、未加工の生の状態で輸出することを禁じられている。森林利用実績によれば、1999年~2004年のインドジャボク収穫量は52.5kgと非常に少ない。地元の商人が乾燥させ、詰め替えを行い、輸出業者が品質管理を行っている。

栽培について

商業栽培に向けて、1990年代に行われていたインドジャボクの栽培化の試みでは発芽率は低く、アルカロイドの含有量は一定していなかった。そこで挿し木・根挿し・スタンプ苗等の他の繁殖法も行われており、それによると成長はよくなるが、アルカロイドの含有量は種からの栽培よりも低くなるという点の改善が課題となっていた。また、組織培養による増殖も行われており、栽培法は年々改良されている。なお、日本でも温暖な場所で研究用に栽培されており、種子島産種子では(すでに1970年代の研究で)発芽率は90%前後と高い水準を達成しており、発芽率は問題とはなっていない。ただし、種子が古くなると発芽率は急激に低下する。根に含まれるレセルピンやレシナミンの含有量についても、日本産はインド産と同等の水準とされる。

インドでは、インドジャボクを含む、根の部分を利用する薬草の商業栽培は、2000年代半ば頃で25~30ha程度と報告されている。ネパールでは、2000年代半ばに、約3haの栽培地で生の状態で平均2,000~2,500kg/haの根が収穫された。バングラデシュや中国、マレーシア、ミャンマー、タイ、ベトナムなどでも、栽培化に向けた試みがされてきたが、インドをはじめその他の国々での需要を満たしているとは考えられていない。

インド・アッサム州、カルビ・アングロング県内のSinghason Hillsでの調査(2012~2015年実施)によると、この地に住む先住民族のあいでは、インドジャボクは、毒を持つ生き物による咬傷や月経困難症の薬として貴重なものであり、樹皮、葉、根の部分が利用されていた。インドジャボクは自家消費用に栽培され、余剰分が販売されていた。森林には野生種がまだ十分にみられるにもかかわらず栽培している理由は、主に、森林で野生種を採集する時間を節約して他の家事に充てるためであり、そのほか、現金収入を得るため、家で観賞するため、あるいは文化的な行為としても栽培していた。また、商品として売れるとの見込みから、栽培により収量を増やしている野生種もあったが、インドジャボクについてはそのような試みはみられなかった。このような野生種の栽培は、森林内に分布する野生種を保全することにもつながっていた。

産出国の国内市場

アーユルヴェーダ製薬業協会によれば、インドでは1999年に、800tのRauvolfia属の生薬が生産されたが、そのうちの160t(20%)のみがインドのアーユルヴェーダ関連業界で消費されたとされる。また、ダブール研究財団によれば、1990年代後半には、インドでの年間総需要量60tに対し、アーユルヴェーダ関連業界の年間需要量は11tと推定されていた。
インド政府による推計では、インドジャボクを含む薬草の需要量は2001~2002年の423.6tから、2004~2005年には588.7tへと増加している。原料に植物を用いているインド国内の製薬会社において、インドジャボクが広く利用されているとの指摘もある。1990年代後半のインド国内での市場調査では、インドジャボクはもっとも取引されている薬草の一つであり、容易に入手可能であった。

国際取引

1950年代にレセルピンを原料とする製薬が発展して以来、インドジャボクの需要が増加したが、その主要な供給源はインドであった。インドジャボクの国際的な需要は1980年代初期には年間100~150tと推定されていた。一方、2000~2001年のインド国内での需要量は400t以上に上っていた。1993年のFAOの調査によると、年間400~500tのインドジャボクの根が、主にインド、タイ、バングラデシュ、スリランカで採取されていたとされる。

CITESのデータによると、1999~2003年のインドジャボクの根の国際取引(再輸出も含む)をみると、33tが輸出されており、国別ではタイ、ミャンマーからの輸出がそれぞれ18.5t(1999~2002年の実績)、14.3t(1999年のみの実績)と大部分を占めていた。また、タイからはドイツに輸出され、その一部がスイス、アメリカ、南ア等に輸出されていた。また、ミャンマーからは全量がインドに輸出されていた。一方、インドの税関のデータによると、1999/2000~2003/2004年にミャンマーからインドに輸出されたインドジャボクの根は151.6tと、CITESのデータを大幅に上回っている。
また、インドの税関のデータによると、Rauvolfia属の抽出物およびその随伴製品の輸出量は1999/2000~2003/2004年のあいだに266.77tにのぼり、主要輸出国はロシアおよび東欧諸国(主にウクライナ)となっていた。これらインドの輸出量のうち、インド国内で採取されたものは何割か、ミャンマー等周辺国から輸入されたものは何割なのか、また、この中にアフリカのRuvolfia vomitoriaはどのくらい含まれているのか、それは栽培されたものか、ミャンマーから輸入されたものなのか等に関してのデータは得られない。ただ、入手した情報源に基づけば、(Rauvolfia属のなかで)インドジャボクおよびアフリカのRauvolfia vomitoriaの2種のみが、レセルピン製造のために大量に消費されているのではないかと考えられ、また、後者がミャンマーやネパールで栽培されているという情報も確認されていない。なお、インドは1960年代に、インドジャボクの根から抽出されたアルカロイドの輸出が増加したことを理由に生の状態での根の輸出を禁止している。

輸入国、アメリカについてみると、2001年当時、アメリカにはレセルピンを生産する企業は12社存在したが、このうちインドジャボクを原料としているのは数社にとどまると見なされていた。欧米諸国ではレセルピンの需要は減少傾向にあり、インドからの輸出先は東欧諸国や中東諸国に移行している。一方、アジマリンについては、Chemical Bookによると、インドジャボクから抽出したものを供給する企業は、中国、イギリス、アメリカ等の58企業となっているが日本企業は挙げられていない。
インドでは、ほとんどすべての州および連邦直轄領で、薬草の採取、輸送、取引に関する規制が敷かれており、森林からの採取を禁じる植物の一覧表が作成されているが、インドジャボクに関しては、違法採取・違法取引に関する情報もあり、規制されていないターメリックと偽ったり、栽培されたものと偽って販売したりするケースもあったとされている。また、2000年代後半頃まで、インドはCITESによるインドジャボクの輸入に関する規制措置を実施していなかったと言われており、インドの税関で記録している輸入量は合法となっていた。さらに、中国等、医薬品業界でのインドジャボクの需要増を背景に、ミャンマーから、隣接する国々(中国、タイ、インド)への密輸も疑われていた。

日本での取り扱い

医薬品情報データベースhttp://database.japic.or.jp/is/top/index.jspによると、インドジャボクから抽出した、レセルピンを成分とする薬を製造している国内企業が確認される。また、アーユルヴェーダの理念に基づき、ナチュラルヘルスケア製品を製造するインドの会社による高血圧治療のためのサプリメントが、日本語の通信販売サイトで購入可能となっている例がある。

課題

インド、ミャンマー、ネパール、タイ等の産出国政府には、個体群の状態の把握、減少要因の特定、採集・輸出量調査、栽培状況の把握、地域住民による持続可能な収穫に対する支援、産業界の持続可能な原料調達に対する支援等が求められている。

参考情報