コパイバオイル

原料となる植物

学名
Copaifera spp.
一般名
Copaiba, copaipera, cupayba, copauba, copal, balsam copaiba, copaiva, copaiba-verdadeira, Jesuit’s balsam, copaibeura-de-Minas, cobeni, Matidisguate, matisihuati, mal-dos-sete-dias, aceite de palo, pau-de-oleo, básamo de copaiba
樹種概要

コパイフェラ属は47種存在し、主にブラジルのアマゾン地域、および乾季が長く続く中央ブラジル高原のセラード地域に分布しているが、ペルー・コロンビア・ボリビア・ベネズエラ、そしてアフリカ西部等にも分布する。そのうち、オイルが抽出されるコパイフェラ属は約10種で、なかでも重要な種はCopaifera reticulata,(以下、CopaiferaをC.と略す) C. multijuga, C. officinalis, C.martii, C. ducke(アマゾン地域)、C. langsdorffi(セラード地域)である。年間降雨量1700~3300mm、気温は22~30℃の熱帯地域で生育し、有機質の少ない粘土質の土壌を好む。分布密度は低く、1999年アクレ州での調査では0.2819本/haであった。

アマゾン地域のコパイバは、樹高が20~40メートルに達し、幹の直径も1mになるが、セラードではこのように大きくはならない。また、樹齢は400年ほどに達する。コパイバの植栽については、種子を採取して発芽させ、苗木を生育できる。ブラジルの林業技術局は種子銀行を運営しており、コパイバを含む種子を販売している。 主な用途は木の幹から抽出されるオイルであり、伝統薬(傷、虫刺され等)、石鹸や香水の保留剤として用いられている。果実は脂質が非常に豊富であり、先住民族は、コパイバの果実を求めてやってくる小動物を捕獲する。

産品の特徴

用途
バルサムまたはその蒸留物であるコパイバオイルとして利用される。
治療薬(傷の手当、止血、虫刺され・口唇ヘルペス・気管支炎・痔・下痢・尿管の炎症・皮膚がん等)
バブルバス・石鹸・化粧品・洗剤等の香気成分、香水の保留剤
忌避剤
産地
コロンビア、ブラジル、ベネズエラ、ペルーなど、アマゾン川やオリノコ川流域
産品概要

コパイババルサム(精油と樹脂の混合物)は複雑な混合成分からなり、その生育の土壌や気候によってその化学成分も変化する。主な成分はセスキテルペンであり、揮発性で程粘度、強い香りを有し、透明な黄色から茶色の色合いを持つ。

コパイババルサムは先住民族などによる自然採取によって採集される。幹の下方に20~50cmほどの深さまで小さな穴を開け、滲出してくるバルサムを採集する。その際、周囲長が150cm以上のものを選択する。分布密度が低いことから、地域によっては、またかつては、バルサムの収量を少しでも高めるためにコパイバ樹を切り倒したり斧で幹の中心まで切り込みを入れたりして採取する場合もあり、木が傷んだり枯死するなどで減少する原因となった。しかし、適正な抽出によれば、持続的にバルサムを採取することが可能である。 バルサムの採取可能量は1本あたり0.1ℓから60ℓと幅があり、土壌のタイプや樹齢により異なる。また、すべての樹木から採取されるとは限らない。コパイバ樹の探索および採取したコパイババルサムの運搬はボートによることが多いが、川の流量が少ない場合は採取や運搬が困難となるため、ブラジルの生産量は年ごとに変動がみられる。

治療薬、薬用オイル、忌避剤

アマゾン先住民族のあいだでは、傷・潰よう・破傷風の予防、止血、皮膚疾患、泌尿器系の疾患などに効能があるとして利用されてきた。傷を負った動物も幹から滲出するオイルをなめたり体にこすりつけたりして傷を癒すとされている。16世紀からの植民者は、上記のほかに、とりわけ気管支炎の治療薬として利用してきた。さらに粘膜の炎症や皮膚がんにも効果があるとされている。

このようにコパイバオイルは長年にわたって民間薬として知られており、研究機関による薬効の研究もされている。コパイバの薬用としての有効性の議論は科学者のあいだでは収束していないものの、その利用を推奨している。コパイバ製品は広く消費者の支持を得て、消炎・抗菌・皮膚軟化等の効用を利用したスキンケア・ヘアケア用品、洗剤などの芳香剤や香水、薬用オイル、サプリメント、虫除け等として販売されている。また、家禽産業での抗菌薬の代替としての可能性も研究されている。日本では近年、薬用オイルや害虫用忌避剤として商品化がすすめられている。

このほか、アマゾン地域では都市から離れた集落に住む住民のあいだでは、バイクなどの燃料不足に見舞われることがあり、その代替燃料としても利用されてきた。燃料としての利用可能性も検討されてきたが、価格やより有用性が大きいという点から薬用にするほうがよいとの考えがこれまで一般的であった。

さらにコパイバは木材利用もされており、ペルーの2013年のコパイバ(Copaifera reticulate)の丸太生産量および製材品生産量はそれぞれ57,840.12㎥、14,457.21㎥(農業潅漑省、2014)、2015年はそれぞれ59,118.50㎥、18,987.82㎥となっている。

生産、国際取引の動向

ブラジルが世界最大のコパイバオイルの生産国(主に北部地域)かつ消費国である。1990年代後半以降、その生産量は増加し、2000年頃には400t/年程度の生産量を維持していた(実際の生産量はこれを上回るとされている)。2009年には538t、2010年は580tと生産量は急増した後、生産量は減少傾向が続いているが、1㎏あたり生産金額は大幅に増加している(表1)。この2010年前後の生産量増加は社会全般にその治療効果が広まったことによるとされている。ただし、コパイバオイルは市場では多くがリットル単位での少量で取引され、採取ベースでも同様である。したがって売手・買手双方とも正確に売買の記録をとっておらず、その取引高は推定によらざるを得ない。

ブラジル周辺諸国ではほとんどが国内で消費されているが、1990年前後の主な輸出先はアメリカ、フランス、ドイツであり、年によって輸出量が50~100tとバラつきが激しくなっていた。これは取引が少量で行われるのが一般的であることによるものとされている。これらの国では主に香料製造用として使用されてきた。

表1.コパイバオイルの生産量および生産額(ブラジル)(出所:IBGE/SIDRA)
1996 2001 2010 2011 2012 2013 2014 2015
生産量(t) 279 414 580 214 127 153 164 153
生産額(千レアル) 534 1,056 4,908 2,178 1,725 2,514 3,420 3,432
単価(レアル/kg) 1.91 2.55 8.46 10.17 13.58 16.43 20.85 22.43

日本の需要

日本では、ブラジル、ペルー、エクアドルで自生するまたは栽培されたコパイバから抽出されたオイルが薬用オイル、石鹸、薬用歯磨き、ルームミスト等として販売されている。これらの商品については、コパイバ樹や生産者についての情報も取り扱い業者のウェブサイトにより明らかにされており、フェアトレード商品やナチュラル商品として取り扱われている場合が多い。また、忌避剤として、害虫(ハエ・ユスリカ・蚊・ダニ・アリ・ゴキブリ等)を寄せ付けないことを目的とする商品が開発されており、燻煙・蒸散、固形、噴霧タイプの忌避剤のほか、食品の包装用紙箱の表面に塗布するという使用例や、食品工場や製薬工場などのドア下部の隙間から侵入する害虫対策としてコパイバオイルをブラシに染み込ませるという使用例も実用化されている。

日本の殺虫剤市場の規模は約1000億円と高温多湿な気候と衛生意識の高さを背景に世界市場の1割以上を占めているが、近年は、虫を殺すのではなく虫が嫌う成分によって虫を寄せ付けない忌避剤があらたに開発されている。忌避剤は、健康影響への不安や虫に触ることへの抵抗感を持つ利用者のニーズを獲得して、2000年代半ば頃からその生産が伸びている。そのなかでも人体用虫除け剤は2000年代半ば頃に40億円の市場となっており、近年では100億円規模の市場が形成されつつある。今後、安全性の追求も含めた技術開発が行われていくと予想されており、そうしたなかで、コパイバ、シトロネラ、ヒマラヤスギ、ユーカリ、ハッカ等、天然成分である植物精油を忌避剤として利用する可能性にも注目が集まっている。

商品化の課題および展望

自生するコパイバ樹からのオイル採集効果を高めるには、樹木まで辿り着くのが距離的に困難なこと、それゆえ森林からのオイルの搬送距離が長いこと、(生産性の低い)手作業によること、特に採集者への報酬を十分にする必要があること、などの課題を克服する必要がある。

採取者が組合を設立して地方政府やNGOなどからの支援を受け、取引価格や販売の自由度を有利かつ高めている場合もあるが、バイヤーからは、品質向上や安定した遅滞のない供給等の問題について指摘がある。NGOの支援についてはたとえば、SOS Amazoniaは、ブラジル・アクレ州の自然保護区での火の使用と森林伐採を減らすために、地域住民によるコパイバオイルの商品化を促す取り組みを行っている。

一方、ブラジル・パラ州では国立アマゾン研究所(IMPA)の支援を得て地域住民によるコパイバの栽培も試みられている。ただ、コパイバの生育の条件や理想的な土壌のタイプについては明らかでない部分も多く、今後の展開が求められる。

参考情報

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