カラヤガム

原料となる植物

学名
Sterculia urens Roxburgh
一般名
カラヤガム(和名)、Gum Karaya、Sterculia gum, Indian tragacanth(英語)
Gulu, Kadaya, Karaya,Katera, Katilo, Kullo(ヒンズー語)、Tapsi(テルグ語)
樹種概要

カラヤガム(Sterculia urens Roxburgh)は主にインドとヒマラヤの熱帯高地を原産とするアオギリ科の落葉性の中高木である。主に標高300-750mの熱帯乾燥地帯の尾根、岩の割れ目、侵食された斜面などに群生している。成長は遅いが、樹高は10~15m、胸高直径は1m以上に及ぶものもある。現在ではスリランカ、オーストラリア、パキスタン、パナマ、マレーシア等にも分布している。葉柄は長く、枝の端に密集し、掌状に5葉、直径20〜30 cm。開花期は12月‐1月、結実期は4月‐6月。少数の両性花と多数の雄花が混ざり合っている。種子は楕円形で一つの小胞の中に3⊸6粒入っている。熟した果実は裂開し始めた段階で収穫される。種は35%のたんぱく質と26%の脂質を含み、ローストされて地元部族民の食料となる。

産品の特徴

用途
食品、医薬品・化粧品用、工業原料
産地
インド、スリランカ、オーストラリア、パキスタン、パナマ、マレーシア、セネガル、マリ
産品概要

サチャインチオイル普及の背景

ゴム(ガム)は一般にはパラゴムノキ(トウダイグサ科パラゴムノキ属:学名Hevea brasiliensis) から採取した乳液(ラテックス)を酸で凝固・乾燥させて出来た「原料ゴム」に、硫黄を加えて適度な弾性をもたせたものを示すことが多い。自動車タイヤとしての利用が70%以上を占める。

ここで紹介するカラヤガムはアオギリ科カラヤ(Sterculia urens Roxburgh)の他、同じ科のSterculia villosa Roxb.、Sterculia setigera Del.などの幹枝からの分泌液に由来する溶解性の多糖類である。吸水すると低濃度でも高い粘着性を示すが弾性は示さない。商用に利用される樹種は主にインドに分布するSterculia urensである(一部マリ、セネガルにも分布)。医薬品、食品分野で利用される他、繊維、事務用品(インク)等の幅広い工業分野で使用されている。

樹脂の採取・加工方法

インドの公的研究機関で推奨されているカラヤガムの浸出液の採取方法では、まず樹幹周囲3フィート(約91cm)以上の太さの木(Sterculia urens )に対して、同じく3フィートより高い位置の幹に傷を付けて樹皮を剥がす。樹皮の剥離は1回につき15 cm、幅10 cm、深さ0.5 cm(2回目以降は最大2.5~3.0㎝まで可能)に限定する必要がある。剥離作業は最低2週間の間隔を空け、連続16回まで可能。次の剥離箇所は前回分から2㎝以上離す。滲出液は軟らかなゼリー状で数日にわたって滲出する。剥離した箇所に滲出した液体が乾燥して塊となったものを採集し、さらに乾かした後、粉砕して粉状もしくは顆粒状にして樹皮などの不純物を取り除く。品質は3~5段階で示されるが、一般に高級なものは透明で淡い白色、白黄色で、低級なものは暗い茶褐色で、樹皮などの異物が含まれている場合がある。4月~6月の高温・乾燥期に採取されたものは粘度、透明性、溶解性、保湿性が高く良質とされる。この間を採取の最盛期として10回程度の収穫が行われる他、11月以降に2期目の収穫が数回行われる。一度、樹液採取を行った母樹には、6年ほどの休息期間が必要となる。

カラヤガムのようなコミュニティーに立脚した森林資源の利用には常に不適切な利用と収奪という問題が頻発し易い。過剰な頻度で浸出液の採取を行ったり、限度以上の範囲を傷つけると、液の質や種子の再生能力が劣化したり、場合によっては母樹自体が死に至ることもある。現在では浸出液採取の適切な頻度や休息期間、エセフォン(エチレン発生剤)を使った傷の再生促進に関する科学的な手法の研究が進み、地元住民による伝統的な手法に比べて最大で10倍以上の収量を得ることも技術的には可能となっている。グジャラート州でのエセフォンを使った実験では年間では4.32kg-7.2㎏/本、5月に月間最大で791グラム/本/月の収穫が得られている(表1)

表1
Source: M.N.B. Nair.,2004

インドにおけるカラヤガムのバリューチェーン

カラヤガムが重要な輸出品となっているインドでは、州政府がガムの収集、販売、マーケティングを管理し、ライセンスを発行し、認可された仲買人からガムを購入している。最大の産地はかつてグジャラート州であったが、現在はチャッティースガル州に移っている。バリューチェーンの最川上に位置するカラヤガムの採集作業は都市から離れた地域に住む最も貧しい少数民族の、とりわけ女性が担っており、貴重な生計獲得手段となっている。最近まで、彼らは改善された浸出液の採取方法に関する助言も、市場、価格、または林産物の使用に関する現地の法律に関する情報もなく、孤立した状態で採取作業に従事していた。例えばグジャラート州の例では、ライセンスを持たない女性が採集したカラヤガムを、ライセンスを持った仲買人に非常に安い価格で売ることを余儀なくされていた。しかし、採集に携わる女性達が組合を組織し、採集のライセンスを取得するようになって以降は、通常の販売先であるグジャラート州森林開発公社に対して価格交渉を行うだけでなく、一般市場へ高い価格で販売することにも成功している。デカン高原のほぼ中央にあるハイデラバード(テランガーナ州の州都)は、カラヤガムの主要集散地である。

国際取引

伝統的にカラヤガムの最大の生産国かつ輸出国はインドである。1960年代後半から1980年代半ばまでの輸出量(生産量もほぼ同じ)は年間4,000から6,000トンであった。しかし1975-1976年をピークに急激に落ち込み、1990-1991年で461トン、2015-2016年には100トン程度にまで減少した。2015-2016年の主要輸入国は多い順にフランス、日本、パキスタンであった(金額ベースではなく量ベース)。生産量減少の原因について明示している文献は少ないが、やはり浸出液の過剰かつ不適切な採取によってカラヤガム林の減少を招いたこと、主産地であったグジャラート州が工業化により生産が衰退したこと、アフリカ産との競合、代替品の登場等がその一端を担っていると考えられる(IRG 2004)

カラヤガムの性質、利用方法

カラヤガムは急速に水を吸収して低濃度で粘性粘液を形成する。カラヤガムの強力な接着特性を利用する医薬品、歯科、その他の医療用途が圧倒的に多い。ヨーロッパでは食品添加物番号E416が割り当てられている通り、食品用途にも用いられる。ごく少量が、製紙などのさまざまな産業用途で使用されている。

医薬品および関連用途

  • 粘着性や保湿性といった性質が利用され、人工的肛門(ストーマ)の皮膚保護剤として
  • 高い膨潤性を有しているため、膨張性の下剤として
  • 他の薬剤を胃から保護して腸内に薬剤成分を届けるコーティング剤として
  • 高い接着性を生かした義歯の安定化剤として

食品用途

  • 高い粘性とpH安定性が高いことから、サラダドレッシング、ソース、チーズスプレッドその他の添加物として
  • 氷結晶を安定化することで、食品の冷凍耐性を高める作用があり、冷凍食品やアイスクリーム等の増粘剤として
  • ハム・ソーセージの結着剤等

その他の用途

  • ヘアーコンディショニング、インクの増粘剤、製紙材料のパルプ繊維の接着剤、コーティング剤、として

今後の展望・日本との連携の可能性

カラヤガムはインドではバリューチェーンが確立しており、州政府の統制もある程度効いているため、日本の民間企業や援助機関、NGOによる収量増加、品質向上に向けた介入の余地はこれまで極めて限定的であった。しかし、主要産出国インドの輸出量は全体として落ち込み、世界に占める日本の輸入量のシェア(世界2位)は確実に上昇している。近年、インド国内のカラヤガム取扱い企業・団体等が、地元の採取者に科学的な樹液採取の合理的方法に関するトレーニングを施すことで大幅な収量増加と品質の向上に成功したケースがいくつか報告されている。日本の産業界から引き続きカラヤガムに対する確実な需要が見込まれ、併せて供給の安定確保が求められる中、インドの村落開発、女性の地位向上に貢献するカラヤガムの開発に官民一体となって取り組むことが大いに期待される。

参考情報
  • ALLAND&ROBERT, https://www.multivu.com/players/ja/8240951-alland-robert-introduce-karaya-gum/
  • Carr, M., M. Chen and R. Jhabvala, eds. 1994. Speaking out: women’s economic empowerment in South Asia. New Delhi: IT Publications, London and Sage.
  • Coppen, J.J.W., 1995. Non-wood Forest Products: 6-gums, resins and latexes of plant origin. FAO, Rome.
  • Donoghue, E.M. and Chamberlain, J.L., 2004. Sustainable Production of Wood and Non-wood Forest Products: Proceedings of the IUFRO Division 5 Research Groups 5.11 and 5.12, Rotorua, New Zealand, March 11-12, 2003 (Vol. 604). US Department of Agriculture, Forest Service, Pacific Northwest Research Station.
  • ICAR-Indian Institute of Natural Resins and Gums “Lac, Plant Resins and Gums Statistics 2016 : At a Glance”Namkum, Ranchi-834 010, Jharkhand (India)
  • International Resources Group.,IRG 2004), “REPORT ON THE GUM KARAYA SUB-SECTOR IN ANDHRA PRADESH, INDIA”, irgltd.com
  • Kumar, V.,2016, “Gum karaya (Sterculia urens Roxb.): A potential gum tree”, Van Sangyan (ISSN 2395 – 468X) Vol. 3, No. 10, Issue: October, 2016
  • Nair, M.N.B., 2004. Gum tapping in Sterculia urens Roxb.(Sterculiaceae) using ethephon. UNITED STATES DEPARTMENT OF AGRICULTURE FOREST SERVICE GENERAL TECHNICAL REPORT PNW, pp.69-74.