ニクジュヨウ

コウバクニクジュヨウ By OISKA

ニクジュヨウの植え付け作業 By OISKA

原料となる植物

学名
Cistanche deserticola Y.C. Ma(コウバクニクジュヨウ)、 Cistanche salsa C.A. Meyer(ホンオニク)、 Cistanche tubulosa Wight (カンカニクジュヨウ) (ハマウツボ科)
一般名
ニクジュヨウ

ここでは、コウバクニクジュヨウ、ホンオニク、カンカニクジュヨウの総称として「ニクジュヨウ」を用いる。

樹種概要

ニクジュヨウは、中央アジアから中国やモンゴルの砂漠地帯に生息するハマウツボ科の寄生植物である。ニクジュヨウは、鱗片の付いた肉質茎に滋養強壮や不妊症に効く成分が含まれると言われている。日本では厚生労働省により生薬や医薬品として認められれる種類もあり、既に様々な製品に使われている。ニクジュヨウには3種類あり、カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa)、ホンオニク(Cistanche salsa)、コウバクニクジュヨウ(Cistanche deserticola)がある。日本で主に流通しているニクジュヨウはカンカニクジュヨウで、これは生薬としては認められているが医薬品には認可されていない。一方で、ホンオニクとコウバクニクジュヨウ は医薬品として認可されている。しかし、これら2種類は資源量の減少が深刻であり、特にコウバクニクジュヨウは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストおよびワシントン条約付属書IIに記載され、中国国家保護Ⅱ級にも指定されている。ワシントン条約付属書Ⅱとは、輸出入が制限されるレベルで輸出には輸出国政府が発行する許可証が必要となる。そのため、天然物の流通量は極めて少なく、今後も価格が高騰することが予想される。
ニクジュヨウは多年生植物である。葉は多肉質で長円形または卵状被針形で、退化して鱗片化し茎の周囲を覆う。茎は多肉質で直立し、ホンオニクは高さ10~45cm、コウバクニクジュヨウは40~160cmまで成長し、地上部にでてくる。地上部の花序はパイナップル状の形をして茎頂につき、ホンオニクは薄紫色または紫色、コウバクニクジュヨウは黄色をしている。ニクジュヨウは春季もしくは秋季に収穫されるが、秋に収穫されるニクジュヨウは品質が高く収量が少ないため高価である。

産品の特徴

用途
食品(生薬)
産地
中国、中央アジア
産品概要

ニクジュヨウ栽培を通した砂漠緑化の可能性

ニクジュヨウは、砂漠地帯に生息するアカザ科の灌木であるサクサウール(Haloxylon spp.)に寄生する。サクサウールは、中央アジアの砂漠などの砂地や粘土質の土壌で生息し、樹高1~8mまで育ち多く枝分かれする。年間降水量100mm程度の土地が最も適した生育環境と言われ、植林する場合は初年度に3回程度灌水すれば、その後は管理が不要で乾燥や塩害に強い。また、植林や管理の手間がかからないため、砂漠地域に居住する農牧民の既存の生計手段と競合しない。そのため、ニクジュヨウを寄生させたサクサウールを砂漠地域にて栽培することにより、農牧民の植林インセンティブを喚起し、積極的な植林が進むことが期待される。
実際に、中華人民共和国の内モンゴル自治区では、公益財団法人オイスカが農牧民とともにサクサウール植林を2001年より開始し、これまでの累計で1,683,000本(約1,333ha)植えている。活動開始当初は、農牧民の平均年収が3,000元(50,000円)ほどと貧しく、そのために経済的な余裕がなく自発的な参加が見込めなかった。しかし、コウバクニクジュヨウの栽培と販売を開始した結果、2,300円〜3,000円/kgの収入となり、多い場合には20万元(300万円)を稼ぐ農牧民も出てきた。こうしてサクサウール植林とコウバクニクジュヨウ栽培が収入になると農牧民が分かると、積極的な参加が増え植林の需要が増えたとの報告がある。

ニクジュヨウの人工寄生技術の確立

自然界においてニクジュヨウがサクサウールに寄生する確率は、1,000本に7本以下と非常に低い。しかし、前述の中国内モンゴル自治区で活動するオイスカ阿拉善砂漠生態研究研修センターの調査研究の結果、人工寄生技術が確立した 。その結果、寄生率は9割にまで上がっている。

ニクジュヨウの人工寄生は、サクサウールを植林する場合は、植林から3年後に行うことがのぞましい。植え付けは手作業で行うが、重労働となる。ニクジュヨウの植穴の深さによって、収穫時期と収穫量が異なる。植穴が深い方が、茎が地上部に到達するまでに時間がかかるため、収穫にかかる年数と収穫量が大きくなる。例えば、植穴の深さが60cmの場合は、ニクジュヨウ植え付けから3年後に生重量で3kg(寄生率100%の場合)の収穫量が期待できる。植え付けコスト、収穫までの期間、収穫量などの生産計画に従って、植穴の深さを決めなければならない。ただし、寄生させすぎると親木であるサクサウールが弱るため、植穴の数は1個体につき2つにまで留めることがのぞましい。

ニクジュヨウの収穫

ニクジュヨウは、植え付けから3年後ないし4年後に収穫する。収穫時期は植穴の深さによって異なる。①大規模かつ列状に植生している場合はユンボを用い、②小規模やまばらに植生している場合は手作業で収穫する。①の場合は、ニクジュヨウの根ごと収穫するが、②の場合はニクジュヨウの根の一部を残す。根の一部が残っていれば、再び成長し、3~4年後に収穫することができる。したがって、①のように根こそぎ収穫する場合には、収穫ローテーションなどの工夫が必要となる。
なお、②の手作業で収穫する場合には、1回の収穫で生重量60kgの収穫が見込まれる。労働者1人あたりが1日2回作業を行い15日間従事すると、60kg/回/人×2回/日×15日=1,800kg/人(生重量)の収量が見込まれる。

ニクジュヨウの加工

収穫したニクジュヨウはまず乾燥させ、それを蒸熱もしくは湯通した後さらに乾燥させる。乾燥工程の結果、水分が抜けるため、乾燥量は生重量の1/5から1/7にまで減少する。乾燥させたニクジュヨウをスライスし、パックしてから出荷する。生で買い上げる場合、ニクジュヨウが腐っていたり虫が入っていたりして、ロスが発生する可能性がある。また、見た目では内部の腐りや虫食いなどを判断できないため、購入の際には目利きがいる。
これらの工程に資機材は不要である。乾燥は軒先などの自然乾燥でも対応でき、簡単な指導を行えば、農家でも対応することができる。

ニクジュヨウの消費動向

中国は中医学や漢方医学が盛んで、漢方薬治療の需要がある。ニクジュヨウはその中でも農薬を使っていない漢方である緑色漢方としての需要が高く、現在の需要量は5,380トンと予想されるが、これに対して2015年の生産量は2,560トンと少ない。2021年には10,699トンにまで需要量は膨れ上がると予想されており、112.92億元の市場規模予測がされている 。
また、中国の北京大学ではニクジュヨウを活用した脳機能改善や予防の研究がされており、抗老化のSOD活性や脂質過酸化抑制作用、脳内神経伝達物質の増加による脳機能改善や脳海馬のアポトーシスの抑制による脳細胞の保護作用、脳梗塞やアルツハイマー病に対しての予防作用について検証されている。
このような需要増加に伴い、野生のニクジュヨウの資源数は急速に減り、すでに輸出が規制されつつある。将来的には甘草や麻黄のように輸出規制品として取り扱われる可能性が指摘されている。

中国に代わる新規生産地への期待

このように中国国内の需要増や輸出規制の可能性があるなか、日本はニクジュヨウの輸入を中国に依存している。そのため、供給地の多角化が求められており、代替生産地としてウズベキスタンへの期待が高まっている。ウズベキスタンは、中央アジアに位置する二重内陸国で、年降水量が100~300mmと非常に少なく、国土の約80%が砂漠となっている。放牧や薪炭材採集など過剰利用による森林減少・劣化対策として、ウズベキスタン政府はサクサウールによる植林の努力をおこなっている。さらに、ニクジュヨウ生産を通したサクサウール植林を実現するため、ニクジュヨウ生産に関する行政的な取り組みも検討している(2017年現在)。
今後、ウズベキスタンにおける安定的な生産体制が整えば、より安定したニクジュヨウサプライチェーンの構築が期待される。詳細については、下記ビジネスモデルを参照。

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