タマヌオイル(テリハボク種子油)

Tamanu fruits
Tamanu leave
Tamanu flower

原料となる植物

学名
Calophyllum inophyllum L.
一般名
tamanu, ti(ソシエテ諸島)、kamanu, kamani(ハワイ)、fetau(サモア)、dolno, dilo(フィジー)テリハボク(日本)、bintangor(マレーシア、インドネシア。ただし、Calophyllum属の複数種を含む。) 等
樹種概要

樹高は10~20mで樹冠は大きい。塩分の多い砂地を好むという特徴を持ち、一般に海岸林を形成するが、地域によっては粘土土壌でよく生育する場合もある。海岸沿いに生育するタマヌ樹は、風に晒されて幹が地面と平行となるほどに傾く場合もある。内陸の砂質土に生育することもあり植林も行われているが、それらは通直である

塩分や風、痩せた土壌に強く、樹冠が密であることから、ソロモン諸島などではアグロフォレストリの一樹種として防風、防潮の目的で植栽もされる。地球温暖化に伴う海面上昇により進行するとされる海岸侵食の抑制に優れた樹種である。

また、熱帯の多くの都市部で街路樹としても利用されている。ただし、枝、根が広がることから大通りや広い公園での使用に限られている。

タマヌ樹は、爽やかな甘い香りの小さな白い花をつける。年に2回結実し、ハワイでは4月~6月と10月~12月に果実が得られる。非食用の緑色の果実は直径2~5cmほどの大きさである。種子の拡散は、果実が木からこぼれ落ちて海面を浮遊し、流れ着いた海岸で根付くか、果物を主食とするコウモリを通して行われる。IUCNレッドリスト(1998年版)には軽度懸念(least concern)と記載されている。植林する場合は、植栽現地への直播、または苗床での育成後移植する。

産品の特徴

用途

コスメオイル・伝統薬

種子から抽出されるタマヌオイル(ハワイではカマニオイルと呼ばれる)はポリネシアや東南アジアで古くから伝統薬として知られている。また、肌によく浸透するため、女性が肌の滑らかさ・柔らかさを保つために用いたり、乳児のおむつかぶれに使ったりもしている。毎日使う日用品というよりは、薬としてあるいは自分へのご褒美としてたまに使うものであるとされる。タマヌオイルは1990年代にはタヒチにのみ出回っていたが、2000年頃からは欧米諸国の化粧品市場にも浸透するようになった。オリーブオイルやシアバターと混ぜて商品化されることもある。 マダガスカルのタマヌ樹からのオイルも商品化されるようになっているが、マーケティングにおいてタヒチまたはハワイ原産というイメージ戦略が重要視されている。

その薬効に関する研究は1930年代から行われており、皮膚疾患の治療薬、神経痛治療薬、抗炎症薬、抗菌薬、酸化防止剤として有用であるとされている。タマヌオイルは太平洋の島々では民間薬として、切り傷、擦り傷、やけど、虫刺され、刺し傷、にきび、湿疹、乾燥肌などに幅広く使われている。さらに、咽喉炎や、神経痛・リューマチ・坐骨神経痛などの鎮痛にもよいとされる。タマヌオイルからの抽出物が抗HIV活性成分を有するという研究成果もある。ただし、これらの効用を証明する臨床試験はほとんどない。

その他の用途

タマヌオイルは石けんの原料としても非常に優れている。また、樹脂も含まれていることから、ハワイでは樹皮布であるカパ(kapa)を作る際のコーティングにも使われてきた。インドでは漁をするための木船の劣化防止を目的にこれを塗布し、ポリネシアでは古くから灯火用として使われてきた。 太平洋の島々ではタマヌ樹は地域の文化的な価値を持つ木として大切にされ、食器・工芸品・彫刻、キャビネット、カヌーやボート等の材料としても使われてきた。ハワイでは古くからお椀に加工されており、毎日の食事に欠かせないものであった。このほか、枕木、単板、合板、フローリング、パレット、芯棒、楽器等、用途は多様である。 また、タマヌの樹皮の煎じ汁は内服すると下痢止め、皮膚疾患や目の病気等への外用薬にもなり、葉も傷の治療や皮膚疾患等に効果があるとされてきたが、産地以外で広く知られている用途はオイルのみである。

産地
インド洋から太平洋にかけての熱帯の海岸沿いの地域(マダガスカルからインド、ポリネシアのマルケサス諸島)および北マリアナ諸島、沖縄諸島が原産地である。ただしポリネシアの最北端であるハワイ諸島のタマヌ樹はポリネシアの島々からの移民によって移植されたものである。また、モザンビーク、タンザニア、ケニア等にみられるタマヌ樹も外来種である。  インドでは海岸沿いに少なくとも10万本のタマヌ樹が分布し(2011年頃)、インドネシアでは約10万ha(その半分は西パプア)の分布(2000年代後半)があると推定されている。
産品概要

オイルの生産・価格

天然木から落ちた果実を収集して搾油に用いる。収穫の際に樹木に触れたり傷つけたりしないため、樹木の生理・生態に影響を与えない。また土壌や周囲の植生を攪乱することもない。原産国では、海岸に生育するタマヌの木の方が、内陸のものよりも化粧用途にはよいとされている。それを証明する研究はないものの、タマヌオイルの生産者は海岸に生育するタマヌからの種子を好んで使用する傾向がある。 オイルは、果実の殻を割って取り出した種子を1~2ヶ月程度の天日干し、または、機械乾燥により乾燥させチョコレート色に変色した後、冷温圧縮により搾油する。オイルは濃厚な感触で、緑がかった琥珀色をしている。

果実の収穫量は20~100㎏/本/年程度で、種子には50~70%のオイルが含まれており、成木の場合、1~10㎏/本/年のオイルを採ることが可能である(木の状態や搾油の効率の程度により幅がある)。海岸沿いに生育する約10万本分のタマヌ樹からは、伝統的な方法により120万ℓ/年のオイルが抽出可能(2011年頃、インド)との推計結果もある。海岸での果実の収穫は収穫する人々にとってよい収入源となっている。

オイル生産のための植林は一般的ではない。1haあたり400本の植栽の場合、4,680㎏のオイル生産が可能との調査結果もあるが、果実の生産量、オイル生産の生産性、タマヌ樹の集団の違いによるオイルの収量や品質の相違等についての情報はほとんど入手できない。なお製材向けの植林も行われてこなかったため、ローテーション期間や産出量については知られていない。

タマヌオイル(純度100%)のインターネットでの販売価格は、30ml入りビン1本につき4ドル~40ドル(ハワイでの店頭価格は約10ドル)である。

国際取引、日本の需要動向

タマヌオイルの国際取引の全体像は不明であるが、ベトナムの場合、国内のタマヌオイル大手製造会社の生産能力は5トン/月であり、国内で消費されるとともに、北米、EU、日本等にも輸出されている(原料はベトナム国内で調達)。 日本では、バヌアツ産やクック諸島ラロトンガ島産、タヒチ産、サモア産等のタマヌオイルがインターネット上で販売されている。他のオイルとブレンドして販売されている場合や、石けんの成分として使われている場合もある。

今後の展開:バイオディーゼルとしての需要

化粧品市場での価値は高いが、一方で近年の燃料高騰、エネルギー需要の増加、地球温暖化等を背景に、バイオディーゼルとしての需要も出てきている。タマヌオイルを燃料として使用した場合のエンジン性能、排出特性等についても研究がすすめられており、米国やEU等のバイオディーゼル燃料規格を満たし、鉱物性燃料と同程度の性能を有しているとの研究結果もある。今後はタマヌオイルからの燃料生産の経済性、効率性、バイオ燃料向けタマヌオイルの持続可能な生産の可能性等を評価する研究が必要とされている。 また、バイオディーゼル燃料としてオイルを生産する場合には、化粧品や薬剤向けにオイル生産と比較して大規模な植林およびオイル生産のための技術が必要となる。そのため、生産量の拡大のため植林に関する知見の蓄積が求められる。

タマヌ樹の減少への懸念

タマヌ樹が生育する国の一つ、インドでは、伝統的なタマヌオイルを含む在来種の果実を使った搾油業が廃れ、それに代わって在来種の用材としての需要が高まっている。加えて、外来種を使用した海岸域の植林が政府により奨励されていることから、タマヌ樹の減少が懸念されている。そうしたなかで、バイオ燃料向けタマヌ樹の保全、タマヌオイル生産体制の整備の必要性にも言及されている。

参考情報

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