カラガナ飼料
原料となる植物
- 学名
- Caragana spp.
- 一般名
- ムレスズメ属、カラガナ、寧条(中国)、ハリガナ(モンゴル)
Caragana sinica (Buc’hoz) Rehder:ムレスズメ、Chinese peashrub、金鵲根
Caragana korshinskii Kom.:アオムレスズメ、寧条
Caragana arborescens Lam.:オオムレスズメ、Siberian peashrub、Caragana
- 樹種概要
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Caragana属(以下、カラガナ)は、約80-100種を含むマメ科の属である。アジアと東ヨーロッパ南部の温帯~亜寒帯域に自生する。高さ1mから6mの落葉性の低木(灌木)または小高木で、葉は偶数羽状複葉、小葉は小さい。葉腋に単独または群生の黄色(稀に白色や桃色)の蝶花を付け、線形の莢に種子をつくる。ヤガ科のAcronicta tridensなどチョウ目の幼虫のエサとなる。
カラガナは耐乾性が高く、窒素固定を行うため痩せた土地でも生育可能なことから、特に中央アジアの沙漠化が進行した地域における植生回復のための重要な植栽樹種となっている。この地域の草原は砂漠化の進行に伴ってカラガナの優占度が増すといわれることがあるが、放牧された羊や山羊が冬季に集中してカラガナを採食するので、過放牧になるとカラガナ群落の維持も困難になる。中国では近年、カラガナの人工飼料化の技術開発が進み、植林による植生回復の促進、人工飼料供給による牧畜の安定化、自然植生への放牧圧の軽減の並立が期待されている。
ムレスズメ(Caragana sinica)の根は、サポニン、スチルベン誘導体、caraganosidesなど多くの医薬的活性成分を含み、韓国では関節炎、下痢、骨脆弱性の治療に用いられているという。また、サッカロミセス(ムレスズメ根発酵エキス)は本種の根を基質として、酵母 Saccharomycesにより発酵して得られるもののエキスで、酸化防止剤としてボディケア液、化粧水、石鹸などに使用されている。また、Olennikovら(2012)は、ロシア産のCaragana bungei Ledeb.の花を付けた枝から16種類の成分を抽出し、Caragana属から初めてフェニルプロパノイド(Phenylpropanoids)と没食子酸(gallic acid)を分離している。
産品の特徴
- 用途
- 緑化樹、観賞用、家畜飼料、化粧品原料
- 産地
- 中国北部、モンゴル、ロシア、インド、ネパール、パキスタン、東ヨーロッパ南部
- 産品概要
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中国におけるカラガナ人工飼料の事業化
中国におけるカラガナ人工飼料の事業化の試みは、1990年代末に内モンゴル南端の寧夏回族自治区で始まり、2000年代初頭から生産を始め、今では同自治区内のカラガナの生育が良好な地域で、小規模ではあるが新たな産業として展開を始めている。
カラガナ人工飼料化の背景には、1990年代後期から放牧禁止政策が本格的に始動し始め、草食家畜(主に羊、牛、ヤギ)飼料の需用が大きく増えたこと、政府が1970年代初め頃から推進した国土緑化事業が約30年の歳月を経て成果が表れ、カラガナ灌木林が成立したが、十数年(特定樹種は数年)で衰退し始めるケースが少なくなく、定期的に刈取り、萌芽更新させることが、カラガナの維持に有効な手段であったことがある。
カラガナ飼料の栄養価値的な特徴として、Caragana intermediaを用いた分析では、粗タンパク質や粗脂質は一般的な乾草飼料の平均値に近いが、粗繊維は明らかに高く、家畜の「腹持ちが良い」ことがある。カラガナは一般の牧草に比べ木質成分の割合が高いため、嗜好性が懸念されたが、中国寧夏回族自治区農林科学院の羊における嗜好性試験では、直径1~3mmの顆粒状ないし糸状に粉砕すれば、羊、ヤギと牛は難なく摂食でき、トウモロコシ茎葉サイレージと比べ採食量は13.1%増加し、さらに牛はカラガナのペレット飼料を最も好むことが明らかになっている。
萌芽更新による持続的な収穫
収穫をした林分の萌芽更新による再生は、一般的に3年で収穫前のバイオマス量の80%以上になり、4年で100%以上に達する。3年で収穫した場合の飼料としての栄養価値はもっとも高くなる。新植による初めての収穫は5年後以降に行うが安全である。刈取り部位は、地表から5㎝以下が作業効率にも萌芽枝の成長にもベストである。
カラガナ林は防風など環境保全効果を最大限発揮させるため、一つの林分を3回ないし4回に分けて収穫する。なるべく縞模様状に、縞の幅は10m前後に刈り取る。これは樹高1~1.5mのカラガナ林の防風効果範囲は10m位であり、萌芽更新を風から保護するためである。
カラガナ飼料・加工生産設備
カラガナの収穫は林地の地形にもよるが、トラクターが走行可能な場所では自動刈り取り機械での作業になるが、機械の走行が困難な立地では背負い式のエンジン刈払機を使用する。中国では自走ないし牽引によるカラガナを含め灌木類収穫機械を多数開発している。刈取り、詰め込み、圧縮、運搬を一体化した大型機械もあれば、ただ刈り払う自走式機械もあり、自然条件や経営規模による選択肢はある。
飼料加工は収穫したカラガナをそのまま丸ごと粉砕し、必要に応じてさらにペレットに圧縮すると言った簡単な工程である。必要不可欠となる機械は粉砕機で、中国では農家個人による小規模生産(1日1.5~2トンの草飼料を生産)では主に従来の作物の茎葉粉砕機を改造(パワーアップ)して利用している。工場化生産になると、粉砕、ペレット製造、包装などがオートメーションになり、原料の補てんさえ続けられれば機械的な生産能力の課題は殆どない。
モンゴルでのカラガナ人工飼料化事業の検討
市場経済化で家畜頭数が急増したモンゴルでは、各地で草原の放牧圧による沙漠化が進 行さらに飼料不足に陥るという悪循環を引き起こしており、人工飼料の国内生 産・普及が急務となっている。このため、既に事業化が進んでいる中国・寧夏の カラガナ人工飼料生産を参考に、カラガナ植林による家畜飼料生産事業モデルを検討した。モンゴルにはカラガナが広く自生するが、羊・ヤギが冬に集中的に採食すること、砂漠化防止機能をもつカラガナの減少が危ぶまれていことから、カラガナの植林を前提とした。対象地は、放牧地の利用が低く、モンゴル政府が植樹緑化を推奨するゴビ砂漠周辺とし、輸入飼料よりも若干低い価格設定で設備投資、人件費等のコストを考慮すると、採算を得るには年間1,500t以上の原料木が必要と見積もられた。これらをもとに、一例として、カラガナ3年生収穫量3.5t/ha、萌芽更新 期間3年間として、面積1,500ha(500ha/年)の植林を行うことで7年目から投資を回収できる事業モデルを想定することができる。カラガナ飼料は、モンゴルの一般的な飼料の「ふすま」より栄養価も高く、ペレット化することで競走馬の飼料にもなるため、馬主等競走馬業界の投資も期待できると考えられる。
- 参考情報
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- https://en.wikipedia.org/wiki/Caragana
- http://www.pfaf.org/user/Plant.aspx?LatinName=Caragana+sinica
- http://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=10986
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