ジェルトン・ラテックス

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原料となる植物

学名
Dyera polyphylla (Miq.) Steenis.
Synonym: Alstonia polyphylla Miq., Dyera borneensis Baill., Dyera lowii Hook.f.
一般名
ジェルトン・サワ(Jelutung sawa、Swamp Jelutung)
樹種概要

インドネシアのスマトラやカリマンタン、マレーシアのサバ、サラワク、ブルネイ等の泥炭湿地帯ならびに地下水位の高いヒース林(ケランガス)に分布し、樹高60mに達する。製材用木材として過伐され、また高価値ラテックス採集が行われてきたため天然資源量は減少しIUCNはThreatened (valunerable)に分類し、サラワクでは絶滅が危惧されている。本種より内陸に分布するD. costataに比べ、資源実態に関する情報は少ない。

世界泥炭湿地の53%がインドネシアとマレーシアに分布しており、排水を伴う泥炭湿地林の開発は膨大なCO2排出を伴うため、近年では再度水位を上げ(rewetting)泥炭の酸化を抑制することで気候変動へのインパクト低減を図る政策が進められている。一方で湿地における非木質林生産の選択肢は極めて限定されている中、排水を行なわず湿地条件下でも生育し加えてラテックス生産が可能な本種の栽培は、泥炭湿地周辺に散在するコミュニティーにとって生計手段の重要な候補となっている。コミュニティーを主体とする泥炭湿地域での本種の栽培とラテックスの採取・販売は、これを通じた泥炭湿林の保全・修復と適正な管理に繋がるものとして期待され、インドネシアのジャンビ州や南スマトラ、中央カリマンタン、南カリマンタンなどではジェルトンの産業植林や試植林の造成、コミュニティーによるジェルトン苗木の生産などが始められている。かつてはラテックスはもっぱら天然林の大径木から採取されたが、天然資源の減少から近年では胸高直径15cm以上で通常25cm程度の植林木からの採取が行われるようになっている。幹の肥大成長は1.7cm~2.4cm/年程度であるため、ラテックス採集が可能になるサイズまで成長するには10-15年を要する。更にラテックス採取を30年間行った後は、樹木を伐採し木材としての利用も可能である。ジェルトン材はクリーム色で肌理が細かく木目がまっすぐでなめらかな木肌で、家具材、彫刻、鉛筆、合板、パルプなどに広く利用され、1970年代以降、多くの天然木が伐採され急速な資源減少が起こったとされる。

チューインガム用の天然素材

ジェルトンの幹を傷つけると乳白色の樹液が滲出する。ジェルトン樹液のpH4~5で含水率40%前後で、残りの固形部分はシスイソプレン重合体のゴム(10~15%)、トリテルペンのエステルからなる樹脂(40~60%程度)、残部は灰分、多糖類から構成されるが、組成は産地によっても変動するとされ、組成によって弾性・伸縮性が変化する。

産品の特徴

用途
チューインガム用のラテックス
産地
インドネシア、マレーシア、タイ
産品概要

ジェルトンから作られるラテックスはチューインガム、医療機器用のパイプやホースの材料、絶縁素材、タイヤコンパウンドなどに使用される。また、禁煙治療用のニコチンガムなどのような咀嚼用ガム医薬品のベースとしての利用も検討されている。

輸出入動向と日本の需要

ジェルトンラテックス単体での我が国への輸入統計は明らかでないが、ジェルトンが分類されると考えられる「バラタ、グタペルカ、グアユール、チクルその他これらに類する天然ガム(HS 4001.30-000)」の輸入推移をみると、2000年に938トン(約4億4千万円)であったものが漸減し2005年は584トン、2010年には443トンまで減少し、2015年には139トン弱(約1億7千万円)まで減少している。2015年時点の輸入のうち約88トンがインドネシアから、約44トンがメキシコからの輸入となっている。本分類品名の関税は無税である。一方、ジェルトンの主な使用先であるチューインガムの我が国における生産量は2000年43.6万トン、2005年44.3万トン、2010年37.6万トン、2014年19.0万トンであり、漸減傾向にある。なお現在チューインガムの大部分は(ポリ酢酸ビニル)やポリイソブチレンなどの合成樹脂を主原料として製造される。

1996年~2006年の10年間のインドネシアにおけるジェルトンラテックス生産量は年間600トンほどで、中央カリマンタンや南カリマンタンでの生産は年間800トンに達したとされる。これらのジェルトンラテックスは大部分がシンガポールへ輸出され、その後欧州や米国へ更に輸出され、日本や韓国のガムメーカーへも供給される。かつて中央カリマンタンのジェルトン生産企業から日本への直接輸出が行われたが、必要量を確保できず頓挫した。2002年~2012年の10年間に中央カリマンタンからのジェルトンラテックス輸出額は96.2万ドルに達し、南カリマンタンの2011年~2012年(2年間)の輸出額は16.6万ドルであった(インドネシア政府統計)。ジェルトンラテックスの価格は1kg当たり~20ドルで、近年スマトラのジャンビやカリマンタンにおいてジェルトンの植栽が進んでおり、今後10年は年間1500トンの生産・供給ポテンシャルがあると推定されている。世界のチューインガム生産は多国籍企業のWrigley(35%)とCadbury(26%)で60%のシェアを占め、ロッテが14%ほど、残りは200~250の小規模なチューインガムメーカーからなる。

マーケットの展望と課題

世界全体での2012年のチューインガム販売総額は260億ドルに達し、その前3年間についてみれば毎年14%以上の伸びを示したとされる。また、例えばチューインガムの大消費国である米国での販売額は20億ドル前後で大きく変動することなく推移しており、一定規模の安定したマーケットが存在する点でジェルトンラテックスの生産・販売ビジネスの展望は必ずしも悲観的ではないと考えられる。ただし、我が国では上述のようにチューインガムの消費は漸減傾向にあり、またインドネシア等でのジェルトン人工林造成によって生産が拡大すればマーケットの飽和による価格の下落が起こるリスクも想定される。こうしたリスクを低減するため、医薬分野等で付加価値を付けた製品の開発を進め、チューインガム以外への用途多角化を進めることが、ジェルトンを基幹とする森林保全・修復を進めるための課題と考えられる。

参考情報
  • Hesti L. Tata, Bastoni, M. Sofiyuddin, Elok Mulyoutami, Aulia Perdana, dan Janudianto, 2015: Jelutung rawa -teknik budidaya dan prospek ekonominya, 62pp, World Agroforestry Centre (ICRAF)
  • Wim Giesen, Euroconsult Mott MacDonald, 2015: Cultivation of Dyera polyphylla (swamp jelutung) Tanjung Jabung Timur District, Indonesia(1º20’S, 104º05’E), 4pp, FAO
  • Hesti L. Tata . Meine van Noordwijk . Jasnari . Atiek Widayati, 2015: Domestication of Dyera polyphylla (Miq.) Steenis in peatland agroforestry systems in Jambi, Indonesia, Agroforestry systems, DOI 10.1007/s10457-015-9837-3
  • http://www.iucnredlist.org/details/33243/0
  • http://www.chewing-gum.org/
  • http://www.statisticbrain.com/chewing-gum-statistics/

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