SBT
概要
SBT(Science Based Targets)は、パリ協定の「世界の気温上昇を、産業革命以前と比べ1.5℃に抑える」という目標に向けた、企業の温暖化ガス削減のための「気候関連の科学に基づく目標」です。またその目標の設定方法を定めた基準(ガイダンス)を指す場合もあります。
カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)、国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4つの団体で構成されるSBTi(SBTイニシアティブ)が、この目標の運営母体です。
SBTイニシアティブは、企業独自の基準によるネットゼロ宣言の増加に対して、気候科学に基づく「共通基準」による評価・認定を行うために2015年に設立されました。TCFDとは設立母体が異なりますが、TCFDの目標設定のためのツールとして推奨されています。
SBTイニシアティブでは、SBTの基準に沿った温室効果ガス削減目標に対し、SBT認定を出しています。SBTへ取り組むかどうかは任意ですが、2024年3月時点で、SBT認定を取得した企業は全世界で4,779社、そのうち日本は904社を占めており(環境省, 2024)、国際的なスタンダードといえます。
SBT認定には、次のような種類があります。
通常版SBT認定
短期目標認定
申請時から5~10年後を目標年とした削減目標を認定するもの
長期目標認定
自社サプライチェーンの上流・下流も含む排出量を2050年までにネットゼロにする目標を認定するもの。目標達成までの道筋を示した「移行計画」を含みます。再生エネルギーの導入やエネルギー効率の見直しなどの企業努力により、サプライチェーン内でCO2を90%以上削減することを求めています。そのためカーボンクレジットを利用しサプライチェーン外で削減した量を目標達成に充てること(オフセット)は認めていません。ただし、どうしても削減が難しい、サプライチェーンの上流・下流から排出されるCO2の10%についてのみ、カーボンクレジットを利用することができ、これはオフセットと区別し「中和」と呼んでいます。
FLAG認定
林業や農業等の土地集約型セクターは、「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」ガイダンスに基づき、土地由来の排出量等について、非土地由来排出量とは別に温室効果ガス削減目標を設定することが、通常版SBT認定の取得に必要です。対象となる企業は、「SBTに取り組み、土地集約型の事業活動が自社のバリューチェーンに関連する企業」 つまり林業、木材・紙製品、食料・飲料品などの製造業、もしくは総排出量の20%以上が FLAG該当の活動から発生する企業です。FLAGに関連する排出量は、土地利用の変化に伴う排出量(森林伐採や森林劣化、泥炭地の転換など)と農業等の土地管理に伴う排出量があります。また大きな特徴として、排出だけでなく、バリューチェーン内の炭素吸収量も算定に加えることができます。植林などによるCO2吸収量は2024年11月現在、GHGプロトコルの「土地セクター・炭素除去ガイダンス(ドラフト版)」に基づき算出することになっています。最終版は2025年に公表される予定で、公表後はこれに基づき算出します(FLAG認定済企業は最終版に基づき再提出が必要)。バリューチェーンとしてどこまでの範囲の森づくりが含まれるのかについては、今後のSBTの方針を注視する必要があります。
中小企業向けSBT認定
中小企業向けの簡易版認定で、サプライチェーンの上流・下流の排出量削減は含まないため、取り組みやすくなっています。
植林の成果の視える化との関係と実際の活用事例
自社の森づくり活動をSBTで活用するには、次の3つが考えられます。
1)FLAG認定を取得
バリューチェーン内の森づくり活動が対象です。例えば、原料調達において、農園周辺に植林をしたり、シルボパスチャー(林間放牧)やアグロフォレストリーを導入したりする場合などが含まれます。
活用事例:Nestléでは、コーヒー農園におけるアグロフォレストリーの導入、植林によるランドスケープ保全などを行い、認定を取得しています。
ネスレ、2023年に温室効果ガス排出量を削減、温室効果ガス実質ゼロという長期的な目標に向けて大きく前進 | ネスレ日本 (nestle.co.jp)
2)2050年にGHG排出量90%削減に到達した後に残るどうしても削減できない10%についてカーボンクレジットを取得し中和に利用
バリューチェーン内外どちらの森づくりも対象ですが、カーボンクレジット取得による定量化が必要です。
3)バリューチェーンを超えた緩和(Beyond Value Chane Mitigation: BVCM)として主張
SBTiでは、企業のバリューチェーン内の排出削減だけでは、パリ協定の定める「1.5度目標」に到達できないため、バリューチェーンを超えて植林活動に取り組むことを企業に強く推奨しています。SBTによる検証はありませんが、SBTの短期・長期認定を取得した上で、植林活動を行うことで、世界的な気候変動緩和への取り組みへ貢献しているということを企業は主張することができます。なお、カーボンクレジット取得による定量化までは求めていませんが、何らかの方法で可視化すると対外的にPRしやすいです
例:AstraZeneca社(英・製薬)では、SBT短期・長期認定を取得しており、さらにBVCMとして、2030年までに2億本を植林する目標を掲げています。
https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2023/2023070601.html
関連用語
参考URL
- SBT HP
https://sciencebasedtargets.org - 環境省 SBT(Science Based Targets)について(2024)https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20240301.pdf
- SBTネットゼロ基準version1.2(2024.3)https://sciencebasedtargets.org/resources/files/Net-Zero-Standard.pdf
- SBTi FLAGガイダンスhttps://sciencebasedtargets.org/blog/sbti-flag-project-new-implementation-timelines-announced
- FLAG目標設定ガイダンス(2023, ver1.1)https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTiFLAGGuidance.pdf
- GHGプロトコル「土地セクター・炭素除去ガイダンス」策定状況https://ghgprotocol.org/land-sector-and-removals-guidance
- バリューチェーンを超えた緩和(BVCM) に関する報告書: 深掘りウェビナー(SBTi, 2024)https://sciencebasedtargets.org/resources/files/Japanese-BVCM-Reports-Webinar.pdf