
マレーシアにおける産業植林地の貢献度可視化:生物多様性-産業植林地は生物多様性の保全にどう貢献できる?-
背景と目的
- 越井木材工業は、サバ州における原木資源の減少に対応し、安定した木材原料を確保するため、2005年からAcacia hybridの産業植林を進めている。
- 事業地は森林火災後の荒廃地に位置し、周辺ではオイルパーム農園が拡大している。一方で、事業地746.5haのうち572.1ha(76.6%)をアカシア植林地として利用しながら、天然生二次林、渓畔林、ケランガス林、湿地などの既存植生を保全している。
- 本実証調査では、単一樹種による産業植林が木材生産を行いながら、炭素蓄積や生物多様性の保全にどのような役割を果たしているのかを評価することを目的とした。
- 特に、アカシア植林地そのものの価値だけでなく、保全区域を含む事業地全体を対象として、生物多様性保全への貢献やランドスケープレベルでの機能を明らかにすることを目指している。
産業植林地の概要
- 実施場所:Sook, Sabah, Malaysia
- 期間:2005年~(産業植林、継続中)
- 森づくりのタイプ:産業植林および保全ゾーニング
- 調査実施体制:越井木材工業/KM Hybrid Plantation/サバ大学/JIFPRO
- 樹種:Acacia hybrid(単一樹種植林)
- 事業地面積:746.4 ha(うちAcacia hybrid林:約572.1 ha、保全林:約174.3 ha)

生物多様性評価の考え方-「植林地」と「事業地全体」を分けて評価-
本実証では、産業植林地の生物多様性を評価するため、ほ乳類、鳥類、チョウ類、ハチ類の4分類群を指標として選定し、森林タイプごとの生息状況を調査した。
結果は、次の2つの視点から整理した。
- アカシア植林地の役割の評価
荒廃地に造成したアカシア植林地が、野生生物の生息環境としてどのような機能を果たしているかを評価
- 保全区域を含む事業地全体の役割の評価
アカシア植林地に加え、ゾーニングによって保全した天然生二次林、渓畔林、ケランガス林などを含め、事業地全体としてどのような生物多様性保全機能を担っているかを評価
このアプローチにより、植林地単独の価値だけでなく、保全区域を組み合わせたランドスケープ全体としての生物多様性保全への貢献を評価した。
生物多様性評価の結果
- 本事例紹介では、公開可能なデータが得られたほ乳類、鳥類、チョウ類の調査結果を紹介する。
- 調査の結果、事業地全体でほ乳類20種、鳥類28種、チョウ類36種が確認された。ほ乳類では、アカシア植林地でのみ確認された種が6種あり、その中にはロリスなどの絶滅危惧種も含まれていた。これは、荒廃地に造成されたアカシア植林地が、一部の野生生物にとって生息環境として機能していることを示している。

ほ乳類|カメラトラップ:各森林タイプに自動撮影カメラを設置し、確認種を比較

鳥類|定点観測:森林タイプごとに定点を設け、観察された鳥類を記録

チョウ類|ライン調査:一定の直線を歩きながら、観察されたチョウ類を記録
- 一方で、鳥類21種とチョウ類17種はアカシア植林地では確認されず、天然生二次林、渓畔林、ケランガス林などの保全区域でのみ確認された。この結果は、木材生産を行う植林地だけでなく、多様な自然環境を残すゾーニングが生物多様性の維持に重要な役割を果たしていることを示唆している。
- また、既往文献との比較では、ほ乳類の確認種数は事業地全体で天然林と同程度の水準であった。一方、鳥類とチョウ類の確認種数は大面積の天然林を下回った。ただし、調査手法や調査面積が異なるため、これらの結果は参考比較であり、単純に優劣を示すものではない。
- 今回の調査結果は、アカシア植林地そのものが生物の生息場所として機能していることに加え、天然林や湿地などを保全するゾーニングによって、事業地全体としてより多様な生物を支える環境が形成されていることを示している。

将来の展開:種数から「状態変化」のモニタリングへ
本調査は、アカシア植林地と保全区域を一体的に評価することで、産業植林事業が生物多様性の維持・保全に果たす役割を示す第一歩となった。
今後は、サバ大学との連携のもと、アカシア植林地における生息環境の改善や、ケランガス林など重要な生態系の保全を進めるとともに、CR(絶滅危惧IA類)、EN(絶滅危惧IB類)、VU(絶滅危惧II類)に分類される希少種の保全にも継続的に取り組む。
また、同一地点で同一手法による調査を継続することで、単なる「確認種数」の把握にとどまらず、種の出現状況や個体数の変化を長期的に追跡することが可能となる。こうしたモニタリングにより、生物多様性の現状評価から、その変化や保全効果の評価へと発展させ、事業の成果をより客観的かつ継続的に示していくことが期待される。
詳細
詳細は下記報告書および技術雑誌投稿をご覧ください。
