地域住民便益への貢献

地域住民便益とは

地域住民便益の重要性

海外で森づくりの活動を実施する際に、その活動が地域住民やそのコミュニティに対してネガティブな影響を及ぼさないこと/ポジティブな影響を与えることは、森づくり活動の成果として非常に重要なものとなっています。地域住民の権利を侵害していたり、彼らにとっての利益が感じられないという状況はSDGsの観点からも健全ではありませんし、地域住民の理解と協力を得られなければ森づくり活動を持続的に行っていくことは難しくなります。こうした社会的なリスクの回避や地域住民とそのコミュニティに対する好ましい影響について、ここでは「地域住民便益」と呼ぶことにします。

地域住民便益に貢献し、増大させることは、前述の通りSDGsの観点からも活動自体の持続性の観点からも非常に重要なポイントです。このため、炭素や生物多様性を主目的とする活動においても、地域住民便益への配慮が強く求められています。

地域住民便益に関連する国際的な枠組み

地域住民便益への配慮については、「森林減少・森林劣化からの排出の削減(REDD)プラス」メカニズムの議論の中で提唱された「セーフガード」のコンセプトが基になっているといえます。REDDプラスは森林減少・劣化の抑制や森林保全により気候変動の緩和に貢献するような途上国の取り組みに対して経済的利益を提供するというメカニズムです。その過程で地域住民の権利の侵害や生物多様性の喪失といったリスクを回避・軽減(” No Net Harm”)し、社会面・環境面に好ましい相乗便益“co-benefit”を増大させることを目的として施策がセーフガードです。

前述の通り、幅広い国際的イニシアティブで地域住民便益への配慮が議論されてきた中で、当初は、炭素などの主たる活動目的に対して社会面でのリスクを回避してネガティブな影響を与えないことを担保するまさに安全装置のようなものが主流でした。現在では、それに加えて好ましい相乗便益“co-benefit”を増大させるようなポジティブな影響を評価するものについて活発な議論・開発が進んでいます。

地域住民便益に関連する国際的な枠組みとして、企業活動の視える化に関連して参照できるものとして、まずはプロジェクト単位での活動を評価するプロジェクト認証が挙げられます。例えば、現在世界の炭素市場において増加傾向にあるボランタリーな炭素クレジットの中で最も発行量の多いVCS(Verified Carbon Standard)認証は、社会面(及び環境面)においてもネガティブな影響を与えないことを担保するものです。一方で、森林分野に限らず土地利用分野の炭素プロジェクトを対象とするCCBS(Climate, Community and Biodiversity Standard)やコミュニティや小規模農家が主体となった土地利用分野のプロジェクトを対象としたPlan Vivoといった認証プログラムは、地域住民便益や生物多様性の向上を第一の目的としており、地域住民便益へのポジティブな影響を積極的に評価する認証であるという特徴があります。

そのほかにも、ITTO(国際熱帯木材機関)やJICA(国際協力機構)といった国際機関が、当該機関自身が管理実施するプロジェクトが環境・社会面のネガティブな影響を及ぼしていないかをチェックするガイドラインを発行しています。また、森林が持続的に経営・管理されていることを証明する、FSC®やPEFCなどの国際的な森林認証の中でも地域住民便益への配慮が重要な項目として挙げられています。

地域住民便益の評価手法や評価ツールについて

前述の通り、企業活動や個別の森林プロジェクトが地域住民便益に与える正/負の影響を視える化するための方法論やツールの開発が進められています。JIFPROが発行する「海外の森林と林業」に掲載されている以下の記事では、こうした枠組みを整理するとともに、CCBS認証の評価手法について紹介しています。

※なお、発行2年以内の「海外の森林と林業」の記事のオンライン閲覧には海外林業研究会への入会が必要です。

視える化のためのツール集

考え方などを整理したガイダンス、方法論やツールについて、以下のページでご紹介していきます。

 

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