マレーシア

国際緑化推進センター(JIFPRO) 山下一宏
(2024年8月時点)

1 森林の概況

マレーシアの国土は、東南アジアに位置し、地理的にはマレー半島の中部から南部の半島部、ボルネオ島の北西部および周辺の島嶼部から構成される(図1)。ケッペンの気候区分では熱帯雨林気候(Af)に属する。国土は、マレー半島の11州と、ボルネオ島のサラワク州、サバ州、さらに連邦直轄領で構成されている。

図 1 マレーシアの領土(出所:Google map)

マレー半島マレーシア領では、図2に示すように森林が分布している。森林は、山地林、高地フタバガキ林、低地フタバガキ林、マングローブ林および泥炭湿地林に区分されている。

図 2 マレー半島の森林タイプ(Hamdan et al. 2017をもとに作成)

ボルネオ島マレーシア領では、西部のサラワク州及び北部のサバ州から構成される。地形的にはクロッカー山脈がマレーシア領の中央を南西から北東に走り、キナバル山がその北部に聳える。図3に示すように森林が分布している。

図 3 マレーシア ボルネオ島の森林タイプ(Langer et al. 2015をもとに作成)

マレー半島の11州と、ボルネオ島のサラワク州、サバ州においては、各州政府が土地や森林などの所有権を有し、州法の下で管理している。森林行政については、マレー半島は、各州の林業局を統括する半島マレーシア林業局(Forestry Department Peninsular Malaysia: FDPM)、サラワク州はサラワク森林局(Forest Department Sarawak: FDS)、サバ州は、サバ林業局(Sabah Forestry Department: FDS)が管轄し、それぞれ独自の林業関連法を施行し、管理している。FAO(2020)の区分によると、2016年時点の林地面積は約1,930万ha(ゴム植林も林地に含まれる。)で、国土の約59%(森林率)に相当する(森林の定義(0.5ha以上、樹冠率5-10%以上))(表1)。

ボルネオ島北部は、かつては豊富な森林資源に恵まれた土地であったが、第二次大戦後の商業伐採・輸出の増加や農地開発等により森林資源が減少した。そのため、持続的な森林管理の必要性から、1993年に原木丸太の輸出が禁止された。

 林地(Forests)その他の林地
(Other wooded land)
その他(Other land)
永久林州有林保護林/国立公園および鳥獣保護区ゴム植林
面積(万 ha)1,111.8388.8317.2107.31,354.0
国土面積割合(%)34.0411.839.653.2741.21
表 1 2016年時点のマレーシアの森林とその他の土地利用(FAO 2020)

マレーシア政府の森林区分では、私有林が法的にはなく、森林保全区(Forest Reserve)および永久森林区(Permanent Forest Estates)もしくは永久林(Permanent Reserved Forest)、保護地域(Protected Forest)や完全保護地域(Totally Protected Areas)、州有地(State land)、州政府が開発のために割り当てた州有地である譲渡地(Alienated land)等に区分されている(林野庁 2022)。

2  植林関連基礎情報(マレーシア サバ州)

2.1 植林のタイプと面積

サバ州の森林は、森林保全区、保護地域、その他州有地、および譲渡地に区分される(FAO FRA 2020によると、サバ州林業局、半島マレーシア林業局およびサラワク森林局それぞれの区分があり、マレーシア全体については、整合性を合わせて報告されている)。サバ州林業局によると森林区分は表2の通りである。

区分機能など
森林保全区Class I保護林土壌保全、水源保全等。伐採禁止[i]
Class II商業林持続的に管理され、林産物を供給。
Class III地域林地域コミュニティ利用の小規模の林産物生産。
Class IVアメニティ林レクリエーション利用。
Class Vマングローブ林林産物を含む多目的利用。
Class VI原生林生物多様性保全等。伐採禁止[ii]
Class VII野生生物保護林野生動物保護。
保護地域  サバ州国立公園局が管理する国立公園。
その他州有地   
譲渡地  州政府から所有権が発行される開発用地
表 2 サバ州の森林区分(出所:林野庁 2022、サバ州林業局 2023をもとに作成)

サバ州林業局(2023)の報告による持続可能な森林管理における植林のタイプは以下の3つに分類される。

2.1.1 森林修復(Forest Rehabilitation)

持続可能な森林経営の実践の主要な要素であり、劣化した森林の健全さと生産性を修復および改善するために行われる。行われる活動には、林内植栽(Enrichment planting)と育林作業(Sylvicultural treatment)がある。どちらも、州のSustainable Forest Management: SFMプロジェクト、SFMライセンス[iii]所有事業者により実施され、林内植栽に関しては、その他、各種機関や共同プロジェクトによっても行われる。

2.1.2 産業植林(Forest plantation[iv]

サバ州の木材産業を持続的に進める活動として重要なものである。実施主体は、SFMライセンス所有事業者、小規模ゴム農園所有者、民間会社などによる。

2.1.3 アグロフォレストリー(Agroforestry)

サバ州林業局の2017年年次報告書によると、SFMライセンスを用いて行われる森林管理の土地利用分類からは、経済と環境の両方の便益を最適化して、農作物と樹木の保全を強調させた開発とされる。森林修復のための植栽・修復と同時にパームオイルの植栽・収穫が行われるケースが多い(図4)。その実施にあたっては使用料を州に支払う必要がある。

図4 アグロフォレストリー方式でのパームオイル農園の例(出所:サバ州林業局 2017)

サバ州林業局による2023年年次報告書によると、各植林タイプの植林面積と、サバ州の全森林面積(約468万 ha)に対する割合は表3の通りである。

和訳英訳面積(ha)サバ州全森林面積に対する割合(%)
林内植栽Enrichment planting68,7601.5
産業植林Forest plantaion398,5168.5
育林作業Sylviculture treatment461,9329.9
アグロフォレストリーAgroforestry86,7831.9
表3 サバ州の2023年における各植林タイプ別の植林面積(出所:サバ州林業局 2023をもとに作成)

2.2 主な植栽樹種(サバ州)

サバ州林業局の2023年年次報告書によると、SFMライセンス所有事業者の植栽樹種は、Neolanmarckia cadamba (Roxb.).Bosser(現地名Laran)、Eucalyptus pellita(和名ユーカリペリタ)Albizia falcataria(現地名Batai、和名モルッカネム、ファルカータ)、Hevea brasiliensis(現地名Getah)、Hopea sangal(現地名Gagil、和名メラワン) 等となっている。またAcacia mangiumAcacia auriculiformisの交雑種であるAcacia hybirdの植栽例がある。

3  植林ポテンシャル

3.1 植林可能エリア(Atlas of Forest Landscape Restoration Opportunities[v]より)

森林再生可能なエリアは、マレー半島とボルネオ島(サラワク州とサバ州)の沿岸部を中心にモザイク状に存在する。内陸部は森林が現存しており、沿岸部や平坦地は居住地や開発済みの土地が入り組んでいるため、大規模に森林再生可能なエリアはほとんどみられない(図5)

図 5 マレーシアのおける潜在的に森林修復(植林)可能なエリア(出所:Atlas of Forest Landscape Restoration Opportunitiesより)

3.2 サバ州の植林政策

2018年に承認されたサバ州森林政策2018(Sabah Forest Policy 2018)のPolicy Statementでは、「サバ州は、環境保護、生物多様性の保全、社会経済的福利のために、サバ州の土地の少なくとも50%が持続可能な森林利用と樹木被覆のために指定および保護されることを約束する。」としている。また、2021年に出されたマレーシア林業政策(Dasar Perhutanan Malaysia)においても、マレーシア国政府、サバ州政府では、同様の政策を打ち出している。

3.3 今後見込まれる植林形態(サバ州)

サバ州森林政策2018では、持続可能な森林経営の実施方向づけがなされている。サバ州林業局の2023年年次報告書によると、サバ州ではこの政策が示す森林修復(Forest Rehabilitation)、および産業植林(Forest Plantation)等を推し進めたことが明記されている。同じ方針は、マレーシア政府をあげて実施されており、サバ州では、劣化した森林の修復がプロジェクトおよびSFMライセンス所有事業者等のもとで進められることや、持続可能な森林経営のための植林がSFMライセンス所有事業者のもとで引き続き行われることが今後も見込まれる。

3.4 森林面積の変化

FAO FRA2020におけるマレーシアのカントリーレポートによると、マレーシア全土の森林減少(Deforestation)面積の純変化量は、1990年から2010年にかけて減少していたものの、2010年から2015年にかけては、プラス(約10万ha)に転じ、以後直近の2020年までの5年間においては、約70haの減少となっている。

Yong et al.(2014)の報告によると、森林減少の直接的なドライバーは、主に森林資源を劣化させる合法および違法な産業伐採であると報告されている。また植林のための天然林の皆伐や森林の転用(オイルパーム農園等の農地への土地利用転換を含む)等もドライバーとされる。森林減少についてはサバ州も同様の傾向であると考えられる。

3.5 森林関連の炭素クレジットプロジェクト

近年、インドネシアやフィリピンでは、国独自の炭素クレジット認証制度や炭素クレジット市場を創出する動きが見られる。マレーシアにおいても、マレーシア森林基金(Malaysia Forest Fund: MFF)による森林保全認証(Forest Conservation Certificate: FCC)や森林カーボンオフセット(Forest Carbon Offset)基準に準拠した林業プロジェクトから炭素クレジットを創出し、その市場拡大を図っているところである。具体的には、MFFとVERRAが、国内基準とVERRAのVCS要件との整合性を図るための情報の共有を行っており、将来的には、国内林業プロジェクトが、VCSプロジェクトとしても認められるような体制を整えている(2024年に両者がMoU締結)。これによって、国内林業プロジェクトから生まれる炭素クレジットへの需要が国内だけでなく海外でも高まることが期待される。

なお、これまでにマレーシアで行われているVERRAのVCSプロジェクトは、表4に示した3件であり、サバ州で2件、サラワク州で1件、マレー半島では0件となっている。

プロジェクト名分野プロジェクト申請団体実施地域対象面積 (ha)
INFAPRO Rehabilitation of logged-over dipterocarp forest in Sabah, Malaysia(登録済)森林経営の改善(再植林、伐採圧の軽減)Face the Futureサバ州25,000
KUAMUT RAINFOREST CONSERVATION PROJECT(登録済)森林経営の改善Permian Malaysia SDN. BHDサバ州83,381
Marudi Forest Conservation and Restoration Project(登録中)新規植林・再植林, REDD, 湿地修復・保全SARACARBON SDN BHDサラワク州39,167
表 4 VCS下の森林プロジェクト(Verra関連情報より筆者作成)

このうち、サバ州で行われている、森林保全型の民間部門向けの炭素クレジットを扱うPERMIAN Malaysia 社による熱帯雨林の保全プロジェクトKuamut Rainforest Conservation Projectは、VERRAのVCSやClimate Community and Biodiversity (CCB) Standardの科学的評価のもと進められている。この森林プロジェクトでは、森林保全区の商業林とされる83,381 haを対象地域として、保護および修復を行っている。便益を受ける対象は3,000 人の地域社会のメンバーとなる。

サラワク州では、SARACARBON社によるマルディ森林保全・修復プロジェクトが現在登録中である。同プロジェクトは森林保全、保護、修復などのNbSアプローチにより、UNFCCC REDD+のガイドラインやVCSプログラムに沿ったデザインとなっている。

3.6 植林にあたっての課題

近年、東南アジアにおいて、セラトシスティス萎縮・癌腫病(Ceratocystie wilt and canker disease)がアカシア・マンギウムの人工林において蔓延している(Nasution et al. 2019)。また、アカシア・マンギウムを親系統にもつアカシア・ハイブリッドの植林地においても、同じセラトシスティス萎縮・癌腫病が原因と考えられる林木の枯死が始まっている。この状況を打破するために、ユーカリ等への樹種転換やパームオイル農園への土地の転用も見られる(現地企業へのヒアリングによる)。アカシア・ハイブリッド植林地等の持続可能な森林経営に向けては、この病害への対策の検討が必要である。

4 植林を実施している民間企業・NGO等(サバ州)

サバ州にて植林を実施している主な団体は表5の通りである。 

団体区分概要活動エリア(County)
Perusahaan Kosinar Sdn. Bhd. (越井木材工業株式会社)民間アカシア産業植林、合板製造、集成材製造Kota Kinabalu、Sook(植林地)、Keningau(工場)
Sabah Forestry Development Authority: SAFODA民間伐採跡地・放棄地の植林Kota Kinabalu(プロジェクト管理部署等もあり)
Sabah Softwood Berhad民間木材生産(植林地あり)、オイルパーム製油所、チップ生産Tawau
OISCANGOコミュニティーフォレスト、森林再生(子供の森プロジェクト)Ranau
Rhino and Forst FundNGOオイルパーム農園からの植林による森林再生、哺乳動物のための緑の回廊づくりTabin等(事務所所在地ドイツ ケール)
FRIMその他天然資源環境省管轄の森林研究所Kepong, Selangor Darul Ehsan
JIFPROその他2023年から越井木材工業株式会社と共同で炭素蓄積・生物多様性にかかる可視化プロジェクトを実施中。Sook(試験地)
表 5 サバ州で植林を実施している民間企業・NGO等

5 マレーシアおよびサバ州における植林に関する参考資料リスト

5.1 マレーシアおよびサバ州の森林概況・政策等

  1. FAO Global Forest Resources Assessment 2020 (マレーシア全体の森林の状況や政策等を掲載)
  2. 令和3年度林野庁委託事業「クリーンウッド」普及促進事業のうち違法伐採関連情報の提供(生産国における現地情報調査). 4章マレーシア
  3. サバ州林業局2023年年次報告書
  4. サバ州林業局森林政策2018

5.2 VCSにかかる植林プロジェクト等の関連情報

各VCSプロジェクトの関連資料は、VCSのサイト(VERRA Project Search)から入手可能。

  1. Face the Future (2007) Verified Carbon Standard Project Description Template, INFAPRO Rehabilitation of logged-over diterocarp forest in Sabah, Malaysia.
  2. Marudi Forest Conservation and Restoration Project
  3. Permian Global: Kuamut Rainforest Conservation Project

6  引用文献

  1. Hamdan et al. 2017. Appl.sci. 2017, 7, 675; doi :10.3390/app7070675
  2. Langner et al. 2015. Land. 2015, 4,656-669; doi :10.3390/land4030656
  3. Nasution et al. 2019. Australian Forestry. doi : 10.1080/00049158.2019.1595347
  4. 林野庁 2022. 令和3年度林野庁委託事業「クリーンウッド」普及促進事業のうち違法伐採関連情報の提供(生産国における現地情報調査)報告書
  5. Yong et al. 2014. Deforestation Drivers and Human Rights in Malaysia.

[i] https://forest.sabah.gov.my/index.php/discover/forest-resources.html

[ii] 同上

[iii] 持続可能森林管理ライセンス協定(SFMLA)は、森林保全区(Forest Reserve)に発行され、ライセンス所有事業者は森林管理計画を策定し、サバ林業局の承認を得る(林野庁 クリーンウッド生産国報告 2021年)。

[iv] サバ州林業局の年次報告書によると、木材産業を持続的におよび実現する植林の展開をさす。

[v] IUCN,WRI, メリーランド大学が提供するWebサイト(https://www.wri.org/applications/maps/flr-atlas/#)であり、世界の森林修復(植林)可能なエリアが把握できる。