ネパール

1. 森林概況

1.1 自然環境概要

ネパール連邦民主共和国(以下、ネパール)は、国土面積1,470万ha(北海道の約1.8倍)の国である。国土の大きな特徴は、狭い南北幅の中で、南部のテライ低地で最も低い約70mから世界で最も高い標高にあるエヴェレスト(8,848m)までの著しい高度変化がみられることである。行政区画は7州(Province)、77郡(District)、753市町村、6,680区(Ward)の4層構造である。また、自然地理においてテライ(Terai)、チュリア(Churia)、ミドルマウンテン(Middle Mountains)、ハイマウンテン(High Mountains)、ハイヒマラヤ(High Himal)に大別される(表1、図1)。この地理区分は、亜熱帯気候から高山・ツンドラ気候までを含んでおり幅広く、このような気候環境の違いは、地形や水環境、生態系などの環境の多様性をもたらす要因となっている。

自然地理区分自然地理特性気候
テライ(Terai)国土総面積の13.7%を占める。ヒマラヤ山脈南麓に広がる緩やかな傾斜の第四紀末期および更新世後期の沖積堆積物からなる山麓平野を構成する。標高は63mから330mである(Land Resource Mapping Project, 1986)。亜熱帯気候帯に位置し、暑く湿潤な夏と、激しいモンスーン降雨、乾燥した冬が特徴的である。年間降水量は東テライから西テライにかけて次第に減少する。年間総降水量は1,138mmから2,680mmの範囲で、月平均降水量は8mmから535mmである。
チュリア(Churia)テライの直北に位置し、ヒマラヤ山脈の南斜面を迂回しながらネパール南部を東西に横断する。この地域は国土総面積の12.8%を占める(Department of Survey, 2001)。標高は93mから1,955mである。亜熱帯から温暖温帯に位置し、暑く湿潤な夏と、激しいモンスーン降雨、寒冷で乾燥した冬が特徴的である。降雨量の変動が大きく、東部および中央で年間降水量が多い。年間総降水量は最小1,138mmから最大2,671mmである。
ミドルマウンテン(Middle Mountains)チュリアの北側、ヒマラヤ山脈の南麓に沿って位置する。ネパール国土の29.2%を占める。標高は河川下流域の約110mから3,300mである。河川下流域の亜熱帯・亜湿潤気候から、谷部~中腹の温暖温帯気候、丘陵部の冷涼温帯気候まで変化に富む。年間降水量は東西で異なり、西部で最高値(1,898mm)を記録する。
ハイマウンテン(High Mountains)高山地帯は国土総面積の20.4%を占める。標高は河川下流域の543mから4,951mである。地形は険しく、急斜面が特徴的である。地域内の低標高地で温暖温帯、高標高地域では冷温帯、最上層部では寒帯となる。降水量は地域内の東西で異なり、中央が年間総降水量2,185mmと最も多い(図2)。トランス・ヒマラヤ地域(ヒマラヤ山脈の北側)は降水量が極めて少なく、寒冷砂漠としても知られている。
ハイヒマラヤ(High Himal)ヒマラヤ山脈の最高峰群を含み、ネパール国土の23.9%を占める。標高は1,960mから8,848mである。
表1 自然地理区分の特性と気候
出典:Ministry of Forests and Environment(2026)およびNepal Department of Forest Research and Survey (2015)をもとに作成
図1 ネパール自然地理的区分
図1 ネパール自然地理的区分
出典:Ministry of Forests and Environment(2026)をもとに作成

図2にネパールの気候帯の概観を示す。ネパールの気候は、南北に急激な高度差を持つ地形の影響により、きわめて多様で帯状の分布を示す特徴がある。国土最南部のテライ低地は主に温暖湿潤気候(Cfa)が広がり、高温多湿で農耕に適した環境が形成されている。その北側の丘陵地帯から中部山岳にかけては、冬乾燥型温暖冬季少雨気候(Cwa)や高地型温暖冬季少雨気候(Cwb)が帯状に分布し、標高の上昇に伴い夏の涼しさが増す。さらに標高が高くなる中部〜北部山岳地帯では、冷帯冬季少雨気候(Dwb・Dwc)や冷帯湿潤気候(Dfc)がモザイク状に現れ、冬季の厳しい寒さと短い夏を特徴とする気候が支配的となる。ヒマラヤ山脈の高標高域に達すると、ツンドラ気候(ET)が局所的に分布し、植生は貧弱で高山環境特有の厳しい気候が支配する。(表2)

ネパールは、低地の温暖湿潤帯から高地の亜寒帯・ツンドラまで、わずか数百キロの南北距離で多様な気候帯が連続的に並ぶ。季節変化も明瞭で、夏季モンスーンによる降雨が南部から山岳部にかけて気候に強い影響を与える一方、冬季は乾燥し気温が大きく低下する。高度と地形条件に応じた気候の急変が、農業、生態系、居住環境に大きな地域差を生む国であると考えられる。

図2 ケッペン気候区分によるネパールの気候帯の概観
図2 ケッペン気候区分によるネパールの気候帯の概観
出典:Climate Change Knowledge Portal (World Bank, web site)
記号気候帯名称特徴
Am熱帯モンスーン気候12か月すべての平均気温が18℃以上であり、かつ平均年間降水量が25×(100-Pmin) mm以上である地域。ここで、Pminは最小雨月降水量を指す。 熱帯雨林が広がる地域が多く、高温多湿な環境に適応した多様な植物が生育している。特に、常緑広葉樹が優占することが一般的。
Cwa温暖冬季少雨気候 (冬乾燥型)最も寒い月の平均気温が-3℃以上18℃未満で、冬が乾燥している気候。夏は高温で湿潤なのが特徴で、通常は大陸の内陸部や東海岸に見られる。 主に広葉樹林や草原が広がる。特に温暖な地域では、常緑広葉樹が見られることが多い。
Cwb温暖冬季少雨気候 (高地型)最も寒い月の平均気温が-3℃以上18℃未満で、乾燥した冬と雨の多い夏の差が顕著な気候。通常は熱帯諸国の高地で見られる。 多様な植生が見られ、特に、広葉樹林や針葉樹林が広がり、森林の生態系が豊かである。
Dfc冷帯湿潤気候少なくとも1か月の平均気温が−3℃未満となり、年間を通して降水量がほぼ一定の気候。この気候は、より高緯度側にも分布し、通常は緯度45〜55度付近に見られるが、緯度60度付近まで広がることもある。 針葉樹主体の亜寒帯林が発達し、トウヒ・モミ・マツ類に加えて白樺などの広葉樹が混交する。
Dwb冷帯冬季少雨気候少なくとも1か月の平均気温が-3℃未満となり、冬は乾燥し夏は多雨となる気候。この気候は通常、東アジアの緯度45〜55度付近で見られるが、緯度60度付近まで広がることもある。 寒冷で冬乾燥の気候下、針葉樹主体の亜寒帯林と一部広葉樹が混じる植生が発達する。
Dwc冷帯冬季少雨気候少なくとも1か月の平均気温が−3℃未満となり、冬は乾燥し夏は多雨となる気候。この気候は通常、東アジアの緯度55~65度付近で見られるが、緯度70度付近まで広がることもある。 寒冷で冬乾燥の下、カラマツなど耐寒性針葉樹林が広がり、所により白樺など冷涼地広葉樹が混交する。
ETツンドラ気候最暖月平均気温が0℃以上10℃未満となる気候。この気候は一般的に、南極大陸やグリーンランド内陸部で見られる。 極寒で年間通じ氷雪に覆われ、地衣類・蘚苔類以外の植物はほぼ育たず、植生は極めて貧弱である。
表2 各気候帯の名称とその特徴
出典:Köppen-Geiger Climate Classification – Category Descriptions (The GLOBE Program, web site)をもとに作成

また、ネパール全体および特徴的な州の、月平均最低気温、月平均気温、月平均最高気温および月降水量(1991-2020)を図3に示す。いずれの地域も雨季は6月から9月にかけての1回で、ネパール北西部の高地に位置するカルナリ州は年間降水量が国全体平均値の半分程度と極めて少ないこと、カルナリ州に加え同じく高地に位置するガンダキ州では冬の月平均最低気温が零度を大きく下回り寒冷な気候であること、逆に国の南東部の低地に位置するマデシ州は冬の月平均最低気温が0℃を下回らず温暖な気候であること等が読み取れる。

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ネパール全体ガンダキ州
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カルナリ州マデシ州
図3 ネパール全体と主要な州の月平均気温(日平均気温、日最低気温、日最高気温)と月降水量グラフ
出典:Climate Change Knowledge Portal (World Bank, web site)

1.2 森林の定義

ネパールでは、面積が0.5ha以上あり、樹高が5m以上で林冠被覆率が10%を超える土地、または当該地においてこれらの基準を満たす能力を有する樹木が生育している土地を指す。また、主に農業用地または都市用地として利用されている土地は含まない(Ministry of Forests and Environment, 2026)。

1.3 森林概況

表3にネパールの土地被覆別面積の推移、図4にネパールの森林分布を示す(Ministry of Forests and Environment , 2026)。2022年の森林面積は約640万haで、国土の約40%を占めており、2000年以降で森林面積は増加傾向にあると考えられる。ネパールでは、2019年植林キャンペーン以前には大規模な植林活動が確認できていない(Banko Janakari, 2019)。2000年から2022年にかけての森林面積増加の主な要因として、森林の約4割を占めるコミュニティフォレスト(Community Forest, CF)で住民グループによる植林や森林保全が進められたことや、薪炭エネルギーの代替品としてガスが普及したこと、などが考えられる。

土地被覆200020192022
ha%ha%ha%
水域66,0870.4571,8340.4960,2370.41
氷河449,3713.05448,7813.04450,7193.06
雪氷568,9133.86919,3536.23557,2123.91
森林5,901,75940.016,152,80641.716,399,34143.38
河川域170,9071.16163,9891.11114,0240.77
市街地25,3950.1778,1530.53475,8773.23
農地3,900,45826.443,590,49224.343,332,56622.59
裸地1510.0014,0100.031,8850.01
岩石地1,083,4167.34830,6955.63722,3605.24
草地2,058,86013.961,957,46513.272,169,46214.71
その他の樹木被覆地526,2813.57534,0223.62397,9162.7
合計14,751,60010014,751,60010014,751,600100
表3 土地被覆面積の推移
出典:Ministry of Forests and Environment  (2024)をもとに作成
図4 2017年ネパール土地被覆図
図4 2017年ネパール土地被覆図
出典:Ministry of Forests and Environment (2026)をもとに作成

また森林は、所有形態別に国有林および私有林、ならびに公有地(地方自治体所有)に分類され、ほぼ全ての森林が国有林である。さらに、国有林には政府が直接管理する政府管理林や森林保護林などと、政府以外の者が管理するコミュニティフォレスト、パートナーシップフォレストなどに分けられる。一部の管理形態別の森林面積がNational REDD+ Strategy(2024)に示されている(表4)。

No.区分箇所数面積 (ha)所属世帯数
1コミュニティフォレスト(Community Forest)23,6012,508,3263,168,449
2貧困対策賃貸林(Leasehold Forest (Pro-poor))3175,654812,870
3商用賃貸林(Leasehold Forest (Commercial))7,73144,39974,495
4私有林(Private Forest)22640
5宗教林(Religious Forest)2,4582,360
6森林保全区域(Forest Conservation Area)1792,809
7コミュニティフォレスト緩衝帯(Buffer Zone Community Forest)11194,156
8賃貸林緩衝帯(Buffer Zone Leasehold Forest)1,067240,870168,071
9宗教林緩衝帯(Buffer Zone Religious Forest)88548.7581
10保全管理森林(Forest managed by Conservation)787
11共有林(Area Management Committee)85277,14033,685
合計35,2803,346,9904,258,151
表4 管理形態別の森林面積
出典:Ministry of Forests and Environment (2024)

1.4 森林減少・劣化の要因(直接要因と基礎的要因)

ネパールの森林面積は近年、増加傾向にあるが、森林は長年にわたり森林減少と森林劣化の影響を受けてきた。森林減少・劣化の要因は、住民の生計活動と密接に関係しており、直接的、間接的要因の両方の側面を有すると考えられる(表5)。

また、近年の森林減少の主な直接的要因として、無秩序なインフラ開発や農村道路建設、農地・居住地の拡大による用地転用が挙げられている。森林劣化の要因としては、森林火災、違法で非持続的な森林資源の利活用、無秩序な放牧、採石・土砂採取などが挙げられる(図5)。さらに、森林減少・劣化の間接的要因として、法執行や環境影響評価の脆弱性、政策や制度上の課題、部門間連携の不足といったガバナンス上の課題が挙げられる。

加えて、近年は気候変動・異常気象の影響を受けて、土砂崩れ、洪水、森林火災、干ばつ等の自然災害が頻発しており、森林減少・劣化に繋がっているとされる。

直接的要因間接的要因
無計画かつ無秩序なインフラ開発農地の拡大居住地の拡大と都市の拡大頻繁な森林火災規制のない農村道路の建設採掘および掘削(石、砂、巨礫)違法かつ非持続的な林産物の採取無秩序な放牧外来侵略種の急速な拡散洪水地滑り人口動態的要因:特定地域における移住と人口増加ガバナンス関連の要因:法執行の不備(環境影響評価、環境影響調査、およびモニタリング)、政治的干渉の多さ、および政治的コミットメントの欠如。政策・制度的要因:部門内および部門横断的な政策・法的規定の不整合、林業当局(内部)および非林業当局間の連携の弱さ。社会経済的要因:林産物への高い需要、森林への高い依存度、限定的な生計手段、集団行動の減少。気候変動:長期化する干ばつによる森林火災の発生頻度と激化、極端な降雨による洪水および土砂崩れ。
表5 主な森林減少・劣化の要因
出典:Ministry of Forests and Environment (2024)をもとに作成
cid:5EAC67CD-A9FA-418E-BE3A-8AEFA2698C88
無計画な道路開設森林火災
図5 ネパールにおける主要な森林減少・劣化の要因事例
出典:アジア航測株式会社

2. 植林関連基礎情報

2.1 植林政策

森林法(The Forests Act, 2019 (2076) )では、開発事業で森林を転用する場合に代替植林が求められ、同一の植生地域において同面積の植林、あるいは植林に必要な経費と5年間の育成・維持費の負担が必要とされる。また、賃貸林(Leasehold Forest)は、樹冠率20%未満の荒廃地を企業、協同組合、貧困層グループ等へ貸し付け、植林やアグロフォレストリーを通じて森林再生と生計向上を両立させる制度である。コミュニティフォレスト、パートナーシップフォレストにおける収入の少なくとも25%は森林の保全・再生(植林を含む)に充当する義務が課されており、地域住民主体の持続的な植林(投資)を制度化している。

コミュニティフォレストは、森林法の規定に基づき1993年から導入され、現在、森林全体の4割弱(約250万ha)を占める。コミュニティフォレストは森林保全と地域住民の生計向上等のために国有林の管理・利用を地域の住民グループに任せるもので、コミュニティフォレストを中心に植林や森林保全が進められた結果、国土を覆う森林の被覆率が、1994年の29.7%から2020年には41.6%まで回復した(尾上, 2024)。

国家アグロフォレストリー政策(National Agroforestry Policy, 2019)は、農業・畜産・林業を統合した土地利用として植林を制度的に位置づけた。同政策では、農地や私有地への樹木導入を通じて、生産性向上、環境保全、雇用創出、気候レジリエンス強化を図ることが明確にされている。また、未利用地・休耕地・周縁地における植林、自然地理条件に応じたアグロフォレストリーモデルの取り組み、果樹・薬用植物・非木材林産物の植栽促進などが、政策的な支援対象とされている。

2019-20年にYear of Plantation(植林年)キャンペーンが実施されており、政府が1年間で樹木5,000万本植栽を掲げる全国運動を展開した。

2.2 ネパールの植林・森林に関係する行政機関

森林法(2019)は、国有林の管理区分を明記するとともに、連邦、州、地方の三層の役割分担する体制を規定した。とくに、コミュニティフォレスト利用者グループ(Community Forest User Groups, CFUG)への移管と自立的経営を認め、価格決定やエコツーリズム等の事業化も可能とするなど、住民主体の管理を制度的に位置づけている。植林活動に関係する主要な機関と主な役割を表6に整理する。

レベル機関名主な役割
連邦森林・環境省(Ministry of Forests and Environment, MoFE)森林政策、保全、植林、環境規制を所管する中核省庁で、植林政策、森林増加目標、REDD+戦略、NDC(国別温室効果ガス削減目標)といった国家的枠組みを所管し、国全体の森林増加および再生に関する基準と指針を策定している。
連邦森林・土壌保全局(Department of Forests and Soil Conservation, DoFSC)森林の保護、管理、植林、森林火災対策、森林犯罪取締り、野生動物管理(保護地域外)などを担当する。植林・苗畑運営、森林管理計画、GIS等も行う。
連邦環境局(Department of Environment: DoE)森林伐採や植林を含む開発事業全般の環境影響評価(EIA/IEE)の審査と監督を行う。植林地の環境基準設定や影響管理の観点から、間接的に植林事業に関与する。
連邦国立公園・野生動物保全局(Department of National Parks and Wildlife Conservation, DNPWC)国立公園・保護区・バッファゾーンの管理、生物多様性保全、野生動物保護を担当する。
連邦森林研究・研修センター(Forest Research and Training Center, FRTC)森林調査、生態系データ整備、森林被覆モニタリング、研究、植林技術の開発を担当する。また、最新の森林データ管理(NFIS)システムも運用する。
連邦大統領チュレ・テライ・マデシュ保全開発委員会(President Chure–Terai Madhesh Conservation Development Board)侵食が深刻なチュレ丘陵およびテライ低地の流域を対象とし、河畔林形成、治山植栽、砂礫地の緑化、緑地帯造成など大規模な植林・回復プロジェクトを推進する特別機関である。国家の優先事業(National Pride Project)として設置されている。
州産業・観光・森林・環境省(MoITFE)州内の森林管理・植林計画・コミュニティフォレスト支援・都市林施策の実施を統括する。州単位での土地選定、植林事業の計画化、技術指導、予算配分を行う。
地方地方森林事務所(Division Forest Offices: DFO)DFOは、DoFSCの地方出先機関であり、植林事業の現地管理の中心的役割を果たす。苗木の生産・供給、植林実施の指導、森林モニタリング、コミュニティフォレストの監督および技術支援を担当する。
地方自治体(Municipality)コミュニティフォレストの承認・支援、森林火災対策、公園・街路樹・公有地緑化・都市林の整備、学校植樹活動の支援など、地域密着型の緑化事業を実施する。植林地の確保や住民との合意形成、維持管理の役割も担う。
地方コミュニティフォレスト利用者グループ(Community Forest User Groups, CFUG)森林法に基づく準公的組織であり、250万ha以上の森林を管理する最大の植林実施主体である。
表6 ネパールにおける植林活動関係機関と主な役割

2.3 植林面積(森林増加としての把握)

ネパール政府機関が年度(年次)ごとの植林面積を直接、示した公的データは確認できていない。FAO(2025)は2000年、2010年、2015年、2019年の植林地面積が、それぞれ370,310ha、370,450ha、370,300ha、370,010haとして、植林地面積は横ばいで推移していることを示している。

2.4 植林タイプ

ネパールの植林タイプは、法制度や自然地理区分などを反映して大きく5つに大別できる。

  1. コミュニティフォレストでの再植林で、劣化林の補植、伐採跡地の更新、侵入種の代替植生導入といった小規模な活動実績の積み上げが、国全体の森林回復に貢献している。
  2. テライーチュリア流域保全型植林で、河畔・法面・砂礫地における土壌流亡と洪水リスクの低減を目的に、緑地帯造成や公有地の樹林化を進めている。
  3. 公有林(Public Land Forest, PLF)の共同植林は、自治体・コミュニティ・流域機関が連携して回復と利用を両立させている。
  4. 賃貸林では小規模貧困層グループが在来牧草や燃料木・竹類を組み合わせ、植林と生計向上を同時に実現している。
  5. 都市部では街路樹や公園緑化、公共空間の樹林(都市林)化が進められ、森林研究・研修センターの都市林標準(2021)に沿って種選定や維持管理の指針が整備されつつある。

各植林タイプの植林プロジェクト事例を以下に記載する。

1) コミュニティフォレストの再植林

事例: Hariyo Ban Program(WWF/USAID)

ネパールの2大景観であるタライ・アーク景観(TAL)とチトワン–アンナプルナ景観(CHAL)を対象に、コミュニティフォレスト利用者グループを中心とした取り組みとして進められた。森林再生、生物多様性保全、気候変動への適応、さらにREDD+の実施準備といった要素が一体的に進められていたのが特徴である。このプログラムは段階的に進められ、第1期は2016年に終了し、第2期は2021年まで実施された。

2) 流域保全型植林(侵食対策)

事例: ネパールにおける強靭なチュリア地域の構築(FAO) 

テライーチュライの河川流域で実施された「ネパールにおける強靭なチュリア地域の構築」事業は、公有林を対象として共同植林と生態系再生を進めた代表的事例である。衛星画像や地形解析を用いて26河川系で公有林の植林適地を評価し、そのうち18河川系・3,244haの公有林が共同植林に適した区域として選定された。地域住民が参加するアグロフォレストリー型の植林により、河岸浸食の軽減、洪水リスク低減、炭素貯留、生物多様性回復が進んでいる。特に、公有林が地域の気候変動適応能力を高め、貧困層を含む住民の参加・利益共有を強化した点が成果として評価されている。同事業は、3)公有林での共同植林にも該当する。

3) 公有林での共同植林

事例: Trees Outside Forestsによる公有地共同植林

ネパール南部のテライ平野では、自然林への圧力軽減と森林資源不足への対応として、公有地・学校敷地・行政用地などの公有林を活用した共同植林が進められている。住民参加型の植林により、薪・飼料・建材の供給が改善し、遠方の森林へ依存せずに生活資源を得られるようになった。また、公有林での植林活動を通じて、地域組織の運営能力向上、住民収入の増加が報告されている。一方で、土地権利の不明確さや法制度の不足が課題として指摘されている。

4) 賃貸林(Leasehold Forestry)

事例:Hills Leasehold Forestry and Forage Development Project(HLFFDP)(International Fund for Agricultural Development, IFAD)

ネパール中部丘陵の貧困世帯を対象に、荒廃林地を40年リースで小規模グループへ貸与し、貧困削減と森林再生を両立させた代表事例である。放牧禁止・家畜の舎飼い転換・在来草本の導入により、劣化林地が急速に回復し、7,400ha の森林が再生、1,800グループ・12,028世帯が参加した。環境面では、森林の回復と飼料供給の改善が進み、社会経済面では、ヤギ飼育数の増加や草・種子販売による収入向上が報告されている。貧困層への直接的な土地アクセスを実現した点が大きな成果である。

5) 都市林(Urban Forestry)

事例: Ranibari Community Forest, Kathmandu

対象地は、カトマンズ市内に位置する都市型コミュニティフォレストで、住民組織によって管理されている6.95ha の森林である。研究では、都市住民が森林を散策・利用しやすい環境が整備され、空気質改善や都市の生態系保全など環境面で大きく貢献していることが指摘されている。また、地域行事や共同作業を通じて住民同士のつながりが強まり、都市生活における社会的結束や景観向上にも寄与している。都市化が進むカトマンズにおいて、都市林が環境・社会・経済面で多面的な価値を生む事例として評価されている。

2.5 主要な植栽樹種(自然地理区分別の傾向)

植栽樹種は、自然地理区分と植林目的に応じて選択が可能である(表7)。テライの亜熱帯域では、自然更新力が高く経済的価値が高いとされるShorea robustaに加え、河畔や侵食地に適したDalbergia sissooAcacia catechu (Senegalia catechu)、早成樹のNeolamarckia cadambaなどが用いられる。チュリアの侵食地では、Shorea robustaのほか、Terminalia anogeissianaを含むTerminalia属、竹類(Bambusa spp. 等)を混植して土壌保持と生計利用を両立させる設計が一般的である。ミドルマウンテンでは、地域に代表的なSchimaCastanopsis混交林の構成樹種を用いた再生・植林が多く、侵食地には窒素固定と早期被覆に優れるAlnus nepalensisが有用である。また、非木材林産物としての価値が高いDaphne bholuaも、地域産業(紙)と結びついて植栽対象になる。高山帯では、ヒマラヤマツPinus wallichianaやシャクナゲ類、ビャクシン類(Juniperus spp.)などが、寒冷・貧栄養条件を前提に選ばれる。

自然地理区分主要な樹種用途
テライ(Terai、亜熱帯)Shorea robusta経済的価値が高く、自然更新能力が高い。
Dalbergia sissoo河畔・侵食地で植林が可能であり、早成樹
Acacia catechu (Senegalia catechu)乾燥地向け。土壌保持力が高い。
Neolamarckia cadamba早生樹
チュリア(Churia、亜熱帯から温暖温帯、侵食が激しい丘陵)Shorea robusta耐乾性に優れる主要造林樹種
Anogeissus latifolia (Terminalia anogeissiana)乾燥・痩せ地で植林可
Terminalia tomentosa (Terminalia elliptica) / T. alata (T. paniculata)急傾斜地の土壌保持。
Bamboo(Bambusa spp., Dendrocalamus spp.)侵食防止と生計用に利用。
ミドルマウンテン(Middle Mountain、温帯)Schima wallichiiミドルマウンテンで広く植林される主要種で、成長が早く、土壌保持力が高い。
Castanopsis indica / C. tribuloides森林再生において汎用性が高く、薪炭材・飼料用途においても有用である。
Alnus nepalensis早成・窒素固定樹。侵食地に適する。
Daphne bholua非木材林産物(紙)として価値が高い。
Pinus roxburghii特に乾性立地での植林に多用される。
ハイマウンテン/ハイヒマラヤ(High Mountain / High Himal、高山帯)Pinus wallichiana高標高の植林に用いられる。
Rhododendron spp.土壌保持・景観保全
Juniperus spp.亜高山帯の植林に用いられる。
表7 地形帯別の主要な植林樹種

3. 植林ポテンシャル

3.1 植林可能地域(優先ターゲット)

植林可能なエリアは、ヒマラヤ山麓の下部(チュリアからハイマウンテン)にモザイク状に存在する。その他は現存の森林が多く分布していることや、標高が高く植林に不適であることから植林可能エリアは少ない。

図6 ネパールの潜在的森林回復(植林)可能エリア
図6 ネパールの潜在的森林回復(植林)可能エリア
出典:World Resources InstituteがWeb上で提供しているデータベースを活用して作成

3.2 植林に当たっての課題(技術・制度・社会)

(1) 植林技術

植林活動においては、乾期の水分ストレス/雨期の強雨による植栽木などの流亡が課題として挙げられる。活着率に影響を与えるこれらの事象については、マルチング、土壌保水材、微地形整形(マイクロキャッチメント)等の導入を必要に応じて導入することが重要である。また、チュリアなどで確認される礫質土壌の植林においては、根系発達の早い広葉樹や、へき地牧草(Vetiver等)の混播が有効。

また、森林火災や過放牧などによる植栽木の食害等が懸念される地域では、防火帯や、防護柵の設置により予防策を検討する必要がある。

(2) 土地・権利・ガバナンス

公有林や河川敷では、境界が不明瞭で、移入者等の不法占拠が問題であり、長期保全に向けては関係者間の合意形成が課題である。自治体とコミュニティフォレスト利用者グループ、関係機関との協定が必要と考えらえる。

また、連邦制移行後は州(Division Forest Office)と地方政府の所掌が一部重複し、役割の不明確さや協働不足が現場運用の停滞を招くとの指摘もある。

(3) 社会環境

移住、労働環境の変化から、コミュニティフォレスト利用者グループでは活動の参加者の減少、植林・保育作業における労力不足が指摘される。特に、成人男性の若年層が都市部に流出して、森林管理等において労力の負荷が多い作業の担い手確保が困難な状況にある。機械化や、作業の省力化・簡略化等を検討することが重要と考えられる。

3.3 森林関連の炭素クレジットプロジェクトの動向

ネパールでは、環境保護法に基づき炭素取引の取り組みを進めており、具体的には炭素取引規制(2025 Carbon Trading Regulation)で規定される。炭素取引規制は、VCS(VERRA)やART-TREESなどの国際基準に準拠して、ネパール国内の炭素クレジットプロジェクトの承認・登録を行うことで国内の炭素クレジット取引を管理する。炭素取引規制には、政府の承認制度のほかに、国家炭素登録による二重計上の防止や、便益配分などが規定されている。なお、ネパール独自の認証制度や市場の整備は確認できていない。

ネパールにおける森林に関係するVCS申請は一件で、申請は2025年8月に却下された。却下の通知から1年以内に再申請されない場合は、管理者によりプロジェクト申請は抹消される(表8)。

プロジェクト名申請者プロジェクトタイプ対象地域対象面積
IMPROVING LIVELIHOOD OF FARMERS VIA CARBON FINANCE PROJECT IN NEPAL(申請却下)Varaha ClimateAg Private Limited農林業およびその他の土地利用(植林、再植林、森林再生)44District7,000ha
表8 ネパール国内のVERRA(VCS)プロジェクト申請状況

また、2026年1月に、ネパール政府がLEAF Coalitionと排出削減購入契約(ERPA)を締結したことが報道されている。プロジェクト対象はガンダキ・バグマティ・ルンビニ3州のJ‑REDD+(管轄域REDD+)で、最大400万tの認証済み排出削減(VERs)を販売して、最大5,500万USD規模の資金流入が見込まれる。

4. 植林を実施している民間企業・NGO

ネパールで植林を実施している団体(民間企業・NGO)等を表9に示す。

No.団体名活動地域活動概要
1NPO法人ピーク・エイドサマ村(ガンダキ州)2006年からヒマラヤに学校をつくろうプロジェクトを開始し、2015年から新たに森林再生プロジェクトを立ち上げた。
2山田養蜂場カトマンズ(チャカンドール地区)1999年から植林活動を開始して、これまでに47万本以上を植栽してきた。
3ヒマラヤ保全協会 Institute for Himalayan Conservation (IHC)ガンダキ州(西部ネパール・6サイト)地域住民の生態知識を活用し、76haに131,186本の在来種植林を実施。NDVI分析で樹冠密度回復を確認。
4WWF Nepal全国(Terai Arc Landscape(TAL)、Sacred Himalayan Landscapeなど)コミュニティフォレストと協働し森林再生・回復植林を実施。REDD+(FCPF ER プログラム)開発・森林炭素インベントリ実施、森林回復プロジェクトを継続。
5FAO Nepal(BRCRN:Churia Resilience Project)チュリア地区(26河川システム・18流域、3,244ha)土壌流亡地・河畔域の公有林の植生回復、アグロフォレストリー導入、気候レジリエンス型植生回復を展開。
6コミュニティフォレスト利用者グループ全国(特にテライ、チュリア、ミドルマウンテン)23,601のコミュニティフォレスト利用者グループが250万ha以上の森林を管理し、伐採跡地・劣化林の植生回復、侵入種除去後の補植などを実施。ネパール最大規模の植林実施主体。
7Leasehold Forestry Groups(リースホールド林グループ)39県・43,994ha貧困層の小規模グループが荒廃国有林(リースホールド林)で植林・牧草アグロフォレストリーを実施し、森林回復と生計改善を達成。
8President Chure–Terai Madhesh Conservation Development Board(チュレ保全開発委員会)テライ、チュリア国のナショナルプライド事業として、植林・緑地帯造成・河川沿いの緑化を展開。
9ICRAF / IFAD(Leasehold Forestry and Livestock Programme)ミドルマウンテンリースホールド林7,457haで植林+牧草植え付けによる森林回復を促進。
10Local municipalities(都市林・都市緑化プロジェクト)カトマンズ、ダンガディ等の都市部都市林(Urban Forestry)として、街路樹・公園・公共空間での植樹・緑化を推進。自治体×森林局協働。
表9 ネパールで植林を実施している団体一覧

5. 植林に関する参考文献リスト

6. 植林に関するその他情報収集リスト

6.1 【植林政策】

6.2 【ネパールの植林・森林に関係する行政機関】

6.3 【植林面積】

6.4 【植林タイプ】

6.5 【主要な植栽樹種(自然地理区分別の傾向)】

6.6 【植林に当たっての課題(技術・制度・社会)】

6.7 【森林関連の炭素クレジットプロジェクトの動向】