モンゴル国

アジア航測株式会社 海外プロジェクト部海外技術課 黄 勝澤
(2023年5月時点)

1 森林の概況

1.1 自然地理と土地利用の概要

モンゴルは、ユーラシア大陸の中央に位置する内陸国である。気候的には、気温と降水量の変化が大きく極端であることが特徴としてあげられる。年平均気温は-8℃から6℃と寒冷時期が長い。年間降水量はゴビ砂漠の50mmから北部山岳地帯の400mmまでとさまざまであるが[1]、基本的には乾燥・半乾燥地帯となっている。156万km2という広大な国土を有し、何千年も伝統的に遊牧民のライススタイルを支えてきた草原が国土の大部分を構成している。図1のとおり、モンゴルの国土は高山(High mountain)、シベリア針葉樹林(Taiga forest、タイガ林ともいう)、森林草原 (Forest steppe) 、草原(Steppe)、砂漠草原 (Desert steppe、ゴビともいう) 、砂漠(Desert)、水域 (Water body) と河川(River)に区分されている。国土の34.6%が乾燥地であり、そのうちゴビ草原が28.4%、砂漠が6.2%となっている[2]

図1 モンゴルの土地区分
(出所:Dr.D.Jugder and E.Munkhjargal Information and Research Institute of Meteorology, Hydrology and Environment,2016)

モンゴルの環境・観光省のレポート「Mongolia’s Forest Reference Level submission to the UNFCCC,2018」によると、同国の近年の土地利用状況は表1に示したとおりであった。森林は10年間で約5万haが減少していた。

表1 モンゴルの土地利用の概要(2005~2015年)
 草原森林農地居住地水域その他
2005年面積(ha)12,4341,5511391331551,219
割合(%)79101118
2010年面積(ha)12,4361,5471381361551,219
割合(%)79101118
2015年面積(ha)12,4311,5461391391541,219
割合(%)79101118
(出所:MINISTRY OF ENVIRONMENT AND TOURISM_ Mongolia’s Forest Reference Level submission to the UNFCCC,2018)

1.2 森林の定義

 モンゴルで使用されている森林の定義は表2のとおりである。ただし、Forest Resource Assessmentは樹高について、カバ類(Betula exilis Sukacz.や B. humilis Schrank.)やハイマツ(Pinus pumila/Pallas/Regel.)及び低木など樹高が5m以上に到達できない樹種は生育環境の状況に合わせて調整できるようになっている[1]

表2 モンゴルで使用されている森林の定義
出処面積被覆率樹冠高さ備考
Collect Earth1.0ha
1.0ha以上
10%以上
4%以上
2m以上に達する可能性があるもの(低木を含む)
N/A
亜寒帯林(北方林)
サクソール林
National Forest Investory1.35ha10%以上2m以上
Forest Resource Assessment0.5ha以上10%以上5m以上
(出所:MINISTRY OF ENVIRONMENT AND TOURISM_ Mongolia’s Forest Reference Level submission to the UNFCCC,2018)

1.3 森林の区分

モンゴルの森林生態系は北部の北方林と南部のサクソール林に大別できる。同国ではこの2つ林分は「森林」と定義されている。北方林の面積1,420万haで全国森林の87%を占める。優勢樹種はカラマツ(larix sibirica)とシラカバ(Betula platyphlla)となっているが、シベリアアカマツ(Pinus sibirica)、ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris)、ヨーロッパヤマナラシ(Populus tremula)、ポプラ・ディバシフォリア(Populus diversifolia)、シベリアトウヒ(Picea obovata)が主要な構成樹種である。北方林はシベリア針葉樹林帯(タイガ林)と森林から草原の移行帯の標高800m~2500mの山岳地帯(森林草原)に主に分布している。山岳地帯に見られる広葉樹は主にシラカバ、ヨーロッパヤマナラシとポプラ・ディバシフォリアである。サクソール(Haloxylon ammodendron)林は主に南部のゴビ砂漠地帯に分布し、面積は200万haで全国森林面積の13%を占めている[1]

図2 モンゴルの主な森林タイプ
[左上:落葉広葉樹林(シラカバ)、右上:針葉樹林(カラマツ)、左下:針広混交林、右下:サクソール林]
(出所:MINISTRY OF ENVIRONMENT AND TOURISM_ Mongolia’s Forest Reference Level submission to the UNFCCC,2018)

1.4 森林資源の減少と劣化の要因

モンゴルは森林資源が少ない国の一つでありながら、森林資源の減少と劣化の問題を抱えている。表3は森林資源の面積の推移である[3]

表3 モンゴル森林資源の推移
FRA区分 面積(万ha)
1990年2000年2010年2015年2020年
  森林天然林1,4351,4251,4171,4171,416
人工林0.40.90.80.8
1,4351,4261,4181,4181,417
その他樹木のある土地265265265265265
その他の土地1億38361億38451億38531億38531億3854
総土地面積(ha)1億55361億55361億55361億55361億5536
(出所:FAO_Global Forest Resources Assessments 2020_Report_Mongolia)

モンゴルの森林は成長性と生産性が低く、干ばつ、火災、害虫の影響を受けやすい。このような外部の撹乱が度重なると森林の生態学的バランスが容易に崩れる可能性が比較的に高い。反対に、森林のない地域への拡大能力が比較的低い。これらは、北半球の寒冷な森林地帯の南端に位置する北方林が過酷な環境にあることに起因する。森林火災、害虫の蔓延、放牧、薪の採取などいくつかの要因が長期的に複合的に作用し、土壌水分の損失によって悪化することが多いため、永続的な森林破壊に至る可能性がある。一度撹乱された森林はますます劣化し続け、最終的には高木や低木がほとんどない草原になる可能性は否定できない[1]。表4はモンゴルにおける森林減少と劣化の主な直接的・間接的要因を列挙したものである。

表4 森林減少と劣化の諸要因
森林減少の駆動要因森林劣化の駆動要因
森林から他の土地利用への土地利用変化森林生態系機能の持続的な減少、あるいはREDD+の場合における炭層ストックと樹冠被覆の持続的な減少。この時主な土地利用は依然として森林である。
直接的な駆動要因
鉱業と土地利用の変化 継続的な劣化による最終破壊森林火災 持続不可能な伐採とそれに伴う劣化 害虫の発生による被害 放牧・薪の採集
間接的な駆動要因と根底にある原因
デモグラフィック要因社会・経済的要因制度とガバナンスの要因環境要因政策・法規の 問題
(出所:MINISTRY OF ENVIRONMENT AND TOURISM_ Mongolia’s Forest Reference Level submission to the UNFCCC,2018)

2 植林関連基礎情報

2.1 既存の植林面積

FAOのGlobal Forest Resources Assessments 2020 Report Mongoliaによると、1990年から2020年の植林実績は表5のとおり、年間の約5,020~9,200haであった。一方、同時期の森林面積増減の正味の変化を統計したデータでは、表6のとおり、植林残存面積は110~300haに止まっていた。なお、1980年~1990年の期間中では、年間植林面積は610~4,400haで、延べ植林面積は28,643haとなっていた[3]

表5 モンゴルにおける年間植林面積の推移
FRA区分面積(ha/年)
1990~2000年2000~2010年2010~2015年2015~2020年
植林面積5,0207,9009,2006,500
(出所:FAO_Global Forest Resources Assessments 2020_Report_Mongolia)
表6 モンゴルの年間森林面積増減の推移
FRA区分面積(ha/年)
1990~2000年2000~2010年2010~2015年2015~2020年
森林の増加自然再生140100100100
人口植林110150300300
250250400400
森林減少9,0608,2501,5201,520
森林面積の増減-8,810-8,000-1,120-1,120
(出所:FAO_Global Forest Resources Assessments 2020_Report_Mongolia)

2.2 植林タイプ

モンゴルにおける植林事業は、苗畑の建設も含めて1970年代に始まった。主な植林樹種はカラマツ、ヨーロッパアカマツ等で主にロシアとの国境付近の森林地帯で行われた[5]。この政府植林計画の目的は森林資源の保護と回復であった。1980年以降は防風林、農地保護林、砂漠化対策として森林草原地帯や砂漠草原地帯でも環境植林が進められた。1990年の民主化以降、個人による土地使用権の取得が認められ、個人経営の果樹栽培が北部地域や西部地域を中心に始まったが、木材生産・販売を目的とした民間による産業植林はまだ現れていない。

 環境植林は政府主導で行われている。その代表的な植林事業は以下のとおりである。

  1. クリーンベルト国家プログラム:ゴビ砂漠と砂漠草原帯の過渡地帯が主な対象地で、2005年から実施し、2035年まで約600mの幅で東西を結ぶ2,500kmの緑化帯(緑の壁)を造成する計画である。植林面積目標は15万haとなっている[4]。この事業において韓国政府が大きく協力している。2007 年に韓国山林庁がモンゴル政府と協力して「モンゴル・韓国共同グリーンベルトプロジェクト」が開始された。これまでに草原、砂漠草原とゴビ砂漠地帯に約3,000ヘクタールhaに植林を行い、今後も継続する予定。表7の「防風林造成」はこのグリーンベルト事業における植林実績である。
  2. 国家植樹の日:2010年に大統領令で「国家植樹の日」が宣言され、その後2013年の「都市環境ガーデニング計画」も発令され、市民参加による国土緑化活動が全国で実施されている。2019~2020年にかけては、6,777の法人と223,947の個人が植樹活動に参加し、延べ1,675,159本の植樹が行われた。面積は136.8haに達していた。
  3. 10億本植樹国民計画:2021年6月に就任したオフナー・フレルスフ大統領は第76回国連総会で気候変動と砂漠化対策に最適な方法は植林である強調し、2030年まで10億本の植樹キャンペーンを実施すると宣言した。この「10億本植樹国民計画」は2021年10月から正式にスタートした。自然環境協・観光省森林政策調整局インタビュー調査によると、10億本植樹国民計画を支援するため、モンゴル全国21の省と首都ウランバートル特別市が6億8000万本の植樹を分担し、21の主要鉱業企業が6億850万本を、銀行、金融機関、その他の企業が886万本を植樹すると公表している。実際、2021年と2022年の2年間で、21の県で実施された植樹活動で植えられた樹木の本数は380万本、鉱業企業の出資による植樹活動で植えられた樹木の本数は340万本に達していた。

 近年のモンゴル森林再生事業の実績は表7に示したとおり、2015年以降は減少していた。自然環境・観光省森林政策調整局でのインタビュー調査では、その主な原因は政府の財政状況が一時的に困窮に陥ったことである解釈された。また。10億本植樹国民計画の実施により、今後のモンゴルの森林再生事業は大きく発展するだろうと期待していた。

表7 2011年~2020年におけるモンゴル森林再生事業の実績
事業区分2011201220132014201520162017201820192020
苗畑整備(ha)202525505050986990990
種子生産(kg)55032333642161247746031417665
植樹本数(百万本)36334047463035353942
通常植林(ha) *7,9896,4176,4035,8505,2403,1632,3822,3822,3933,089
防風林造成(ha) **5968568573993921722242241,878372
天然更新促成(ha)2,3421,12681040851001,0671,0674,684582
森林再生合計(ha)10,9278,3998,0706,2895,7173,4353,6723,6728,9544,042
* グリーンベルト事業以外の植林/** グリーンベルト事業で実施された植林
(出所:モンゴル国自然環境・観光省森林政策調整局提供(担当者:技官Ms.Tseepil)資料より整理)

2.3 主な植栽樹種

モンゴルの主な植栽樹種はヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris var. mongolica)、シベリアアカマツ(Pinus sibirica)、シベリアカラマツ(Larix siberica)、シベリアトウヒ(Picea obovat)、シベリアモミ(Abies siberica)、ニレ類(Ulmus spp.)、ポプラ類(Populus Spp.)、ヤナギ類(Salix spp.)、サクサウール(Haloxylon ammodendron)、ギョリュウ類(Tamarix spp.)などである。針葉樹は主に北部の森林地帯と都市部街路樹や公園緑化樹として用いられている。ポプラ類やヤナギ類は北部の森林地帯でも植栽されているが、その他の広葉樹とともに草原地帯、砂漠草原とゴビ砂漠でよく植栽されている。ただし、森林地帯以外の地域での植林において、サクソール以外は潅水が不可欠である。特にゴビ砂漠や砂漠草原では潅水が長年にわたり必要であり、潅水を植え付け時や植栽当年のみに必要とするサクソール植林と比較すると約30倍のコストがかかると言われている[4]

3 植林ポテンシャル

3.1 植林エリア

モンゴルの国との約8割は森林草原 (Forest steppe) 、草原(Steppe)と砂漠草原 (Desert steppe、ゴビともいう)であり、四季に亘り家畜の放牧地として地域の牧民に利用されている。気候的には基本乾燥・半乾燥地に属し、標高の高い(800m~2500m)山岳地帯や河川沿いなど地下水が高い局部のみに森林が生育可能である。一方、これらの地域は砂漠化の進行が最も危惧される地帯で、植林による砂漠化防止の必要性と重要性が最も高い地域になっている。しかし、これらの地域における高木類を用いた植林は一般的に家畜侵入を防ぐ植林地保護柵の設置と地下水や地表水を利用した恒常的な潅水が不可欠となっている。 森林地帯(国土面積の約12%、主に中央北部の集中)における植林は主に火災跡地や病虫害被害地の森林資源の回復が目的であり、森林再生に用いられている手法は主に苗木の植え付け、タネの直播、天然更新の補助(林床落下種子発芽環境の改善や自生稚樹の保護など)があげられる。

3.2 政府植林政策

モンゴルの林業分野では以下の法律、政策、国家プログラム、アクションプランが施行されている[6]

  1. 森林関連法
    • モンゴル国環境保護法(1995年)
    • 河川の源流、ダム保護区、森林地帯での鉱物探査・採掘行為禁止法案(2009年)
    • 森林改正法
  2. 森林関連の政策、国家プログラム、行動計画
    • モンゴル長期開発政策ドキュメント「ビジョン2050」(2021~2050年)
    • モンゴル国政府行動計画(2021~2024年)
    • 土壌保護と砂漠化防止に関する国家行動計画(2010~2030年)
    • グリーン開発方針(2014~2030年)
    • 生物多様性国家プログラム(2015~2025)
  3. 森林に焦点を当てた政策、国家プログラム、行動計画
    • 森林に関する国家政策(2015~2030年)
    • 国家森林政策中期行動計画(2017~2021年)
    • REDD+国家戦略と行動計画(2021~2025年)
    • クリーンベルト国家プログラム(2005~2035年)
    • 10億本植樹国民計画(2021~2030年)

 森林の回復と保全対策、気候変動緩和の取り組みにおける国家目標は以下にあげたとおりである[6]

  • 2030年までに森林(モンゴルの森林定義を満たした立木地)被覆率を国土の9%に引き上げる(2021年の実質森林被覆率は7.85%)。
  • 2030年時点で森林火災の平均被害面積を70%減少させる。
  • 2030年までに森林の病虫害の発生地を完全に制御されるものとする。
  • 森林生態系及び生物多様性の保全と保護が改善される。
  • 森林減少および森林劣化による温室効果ガス排出量を2030年に5%削減する。
  • 自然再生と植林による森林面積を2030年に15万ha増加させる。
  • 一次木質材料の使用率を 80%まで引き上げ、人々の木材・木製品に対する需要を十分に満たす。
  • 非木材林産物(特用林産物)利用の改善により、地域住民食料供給と家計所得を増加させる。
  • 持続可能な森林管理方法をモンゴルの森林部門に導入し、森林保全と持続可能な利用、森林資源回復の質的向上を図り、生態学的に健全な森林を確立する。
  • 牧草地、鉱山、森林地帯、農地など30~40万haの荒廃地を総合的に回復させる。

3.3 モンゴルの植林事業の形態

モンゴルにおける植林の主要形態は政府主導による環境植林がメインであると考えられる。「10億本植樹国民計画」では政府はこの計画に毎年最低でもGDPの1%の資金を充填するとしており、金融機関や鉱山会社など資金力がある民間協力も約束されている。また、2022年3月には「10億本植樹全国運動支援基金」が新設され、モンゴル銀行協会の会員組織は年間最低8千万円(2023年5月15日現在の換算レート1円≒25モンゴルトゥグルグで換算)を基金に寄付し、さらに、銀行業界でのグリーンローンを2030年までに10%に増額し、約2千100億円のローンを貸し出すことになっていた[7]

モンゴルでは個人の宅地以外の土地所有権は国家にあり、工場や農場などの生産活動に資する土地には条件付きの使用権が与えられているが、森林地帯や草原地帯は国有地であり、その土地における植林は政府の許可が必要となる。個人や民間団体あるいは海外NGOがモンゴルで環境植林を行うためであれば、土地の使用は無償で提供される。国土緑化推進政策等により、果樹園など経済活動を伴う植樹・植林に資する土地では、地方政府によって管理方法が異なり、ごく少額の管理費を収めるケースもあるが、基本は無償で使用できる。

モンゴル環境・観光省森林政策調整局のインタビュー調査によると、2020 年現在、同国では1,342 の団体・組織(森林パートナーシップ)が 4542万haで森林病害虫対策、森林整備、植林等事業に携わっている。また、131 の企業が 63万 ヘクタールの森林保護区を委託方式でその保護と管理を行っている。 「10億本植樹国民計画」では、事業実施期間中に針葉樹として、シベリアカラマツ3億6,690万本、ヨーロッパアカマツ2億1,970万本、シベリアアカマツ4,440万本、シベリアトウヒ3,100万本、シベリアモミ510万本と広葉樹として、ニレ類1億2,464万本、ポプラ類1億7,850万本、ヤナギ類1億1,720万本、サクサウール1億3,400万本、ギョリュウ類8,900万本、その他広葉樹1億9,560万本、果樹類120万本を植えることになっている。

また、直近の植林プロジェクトとして下記の事業が行われていた。

  1. モンゴル国・韓国共同グリーンベルトプロジェクトフェーズⅡ(2019~2021年、900万米ドル)
  2. モンゴル乾燥地域における黄砂被害軽減と防止プロジェクト(2020~2022年、52万米ドル、UNCCD資金支援)
  3. モンゴル国・韓国共同グリーンベルトプロジェクトフェーズⅢ(2022~2026年、800万米ドル)

モンゴルの環境植林プログラムにおいては、アジア森林協力機構(AFoCO)、持続可能な森林管理と再生のためのアジア太平洋ネットワーク(APFNet)、国連砂漠化対処条約(UNCCD)、欧州連合(EU)、ドイツ国際協力機構(GIZ)から支援を受けている。(以上はモンゴル環境・観光省森林政策調整局のインタビュー調査により整理)

日本が過去に森林・林業分野で行った協力活動は下記のとおりである[5]

  • セレンゲ県森林管理計画(1994~1997、JICA開発調査の事前調査事業)
  • 黄砂対策植生回復実証調査事業(2004~2008、林野庁補助金事業)
  • ウランバートル市植林技術支援事業(2013~2016、JICA草の根技術協力地域提案型)
  • その他 NGO 団体や地方公共団体による植林活動(第4節で詳述)

3.4 木材・薪炭需要

モンゴルの木材用途として、産業用建材、個人の家屋用建材、燃料材の3つの区分に類別されている。このうち、もっとも多く消費されているのは燃料材である。2001年~2006年のデータでは政府が承認した全体伐採量うちのほとんどの年において9割以上が燃料材であった[8]。その詳細は表8に示した。

表8 モンゴル国自然環境保護省(2006年当時)が承認した木材伐採量(単位:m3
産業用建材家庭用建材燃料材間伐/立枯木除伐由来合計
200172.600N/A603.500N/A676.100
200239.000N/A580.000N/A619.000
200339.50010.000571.0002.000620.500
200444.30018.500585.0005.000647.800
200539.900570.000609.900
200632.50014.000570.700N/A617.200
(出所:World Bank Document in Mongolia (2006)[8]

一方、違法伐採も存在しており、その量は伐採量全体の36~80%を占め、そのうちの65~80%は薪炭材採取が目的であると推定されている[4]。モンゴルにおける違法伐採は、それぞれが発生する社会経済状況に応じて、大きく3つのタイプに分類できる[8]

3.5 植林にあたっての課題(乾燥地・半乾燥地での植林)

モンゴルの森林草原、草原、砂漠草原地帯(年間平均降水量50mm以上400mm未満)における植林では、高木類を植栽する場合は潅水が不可欠な前提条件となっている。また、その地域の年間降水量によっては恒久的な潅水が必要である。筆者の一調査例であるが、ボルガン県ダシンチレン郡(草原地帯、年間平均降水量200mm前後)で韓国の支援で行われた植林事業(2005~2015年)で植栽されたポプラ、ニレなど高木の場合、その年の天候にも左右されが、成長期間中14~21日間に1回の程度で潅水が続けられていた。また、同郡のサジー(現地名「チャチャルガン、Hippophaerhamnoides L.」)園では自動散水システムを導入して、28haのサジー栽培地に対して7~14日間1回のペースで潅水を恒常的に行っていた。このようにモンゴルの乾燥・半乾燥での植林において、潅水にかかる膨大なコスト負担が最大な課題である。「2.3」の節でも述べたように、特にゴビ砂漠や砂漠草原では潅水が長年にわたり必要であり、潅水を植え付け時や植栽当年のみに必要とするサクソール植林と比較すると約30倍のコストがかかると言われている[4]

低木類では樹種によって、無潅水でも植林は可能であるが、活着率を上げるためには少なくとも植え付け時の潅水は必要であり、その後も活着率を維持するために植栽当年においての少なくとも数回の潅水が効果的である。筆者のかつて所属した団体が2019と2020年に上述のボルガン県ダシンチレン郡で延べ25haのカラガナ(Caragana microphylla Lam.)を無潅水で植林[9]したが、苗木植栽の活着率は57%と63%で、直播種子の発芽率46%と58%に止まった。

植林予定地の周りが家畜放牧地である場合、家畜侵入を防ぐ保護柵の設置も現状では必要不可欠である。この保護柵の設置にも大きなコスト負担になる。

上述の課題に対して、モンゴル環境・観光省森林部局の専門家インタビュー調査では、日本に期待する技術援助として、モンゴルの乾燥・半乾燥地域の植林において、干ばつに強い育種・育苗技術、潅水植林地の節水保育技術などが上げられた。

4 モンゴルにおける民間企業・NGOの植林活動

 モンゴルでの民間企業・NGOによる植林活動は表9の通りである。

表9 モンゴルにおける民間企業・NGOの植林活動
団体概要対象地
東アジア環境協働行動よこはま事業名:第32学校育苗・育林・エコ学習プロジェクト
実施期間:2008~2011年
育苗本数:18,000本
ウランバートル市ハンノール区
東アジア環境協働行動よこはま事業名:バガノール区民による自立的な育苗・育林・エコ学習事業運営体制の構築
実施期間:2008~2011年
育苗本数:33,000本
ウランバートル市バガノール区
特定非営利活動法人エコアライアンス21事業名:デンデゲル村落防風植林事業
実施期間:2009~2013年
植栽面積:108ha
トゥプ県
特定非営利活動法人日本モンゴル親善協会事業名:モンゴル国首都空港道路街路樹植林事業・およびそれに伴う植林技術訓練・苗床事業
実施期間:2010~2018年
植栽面積:長さ約7km/幅約10m
ウランバートル市ハンオル区
東アジア環境協働行動よこはま事業名:モンゴル ゴビ植生樹林再生・砂漠緑化実験プロジェクト
実施期間:2011~2016年
植栽面積:10ha
バヤンホンゴル県 シンジンスト村
(一社)国際善隣協会事業名:ウランバートル市学校緑化モデル造林
実施期間:2015~2017年
植栽面積:2.5ha
ウランバートル市
公益財団法人オイスカ事業名:ブルガン県セレンゲ区植林プロジェクト
実施期間:2016~2021年
植栽面積:10ha
その他活動:2,000haの森林の整備・管理
ブルガン県セレンゲ区
アジア航測株式会社事業名:モンゴル国の劣化した放牧地における飼料木を用いた保全林育成
実施期間:2019~2020年
植栽面積:25ha
ブルガン県ダシンチレン郡
グリーンアジアネットワーク(韓国NGO)2010年から砂漠化防止と黄砂被害軽減を目的に、これまで4県7郡で延べ800haの植林を実施。植栽樹種のうちサジーが約60%であり、その果実を加工する工場も建設し稼働。ドンゴビ県、トゥプ県、ブルガン県、アルハンガイ県
(出所:JIFPRO_NGOデータベース, モンゴル国自然環境・観光省森林政策調整局インベントリ調査)

5 モンゴルにおける植林に関する参考資料

5.1 参考文献

[1]MINISTRY OF ENVIRONMENT AND TOURISM_ Mongolia’s Forest Reference Level submission to the UNFCCC,2018
https://redd.unfccc.int/files/mongolia_2018_frl_submission_modified.pdf

[2]The 4th Session of East Asia winter Climate Outlook Forum, (EASCOF-IV) Ulaanbaatar, 8-9 November, 2016_A severe dust event over the Mongolian Gobi in 3-5March, 2016_ Dr.D.Jugder and E.Munkhjargal Information and Research Institute of Meteorology, Hydrology and Environment
https://ds.data.jma.go.jp/tcc/tcc/library/EASCOF/2016/1-5_dss2016.03.03-04.pdf

[3]FAO_Global Forest Resources Assessments 2020_Report_Mongolia
https://www.fao.org/forest-resources-assessment/fra-2020/country-reports/en/

[4]平成 24 年度(2012 年度)CDM 植林総合推進対策事業(途上国の情報収集・整備)報告書_平成 25 年(2013 年)3 月_林 野 庁https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/cdm/pdf/h24cdmreport-info-1.pdf

[5]穂積玲子 モンゴルの森林と林業 海外の森林と林業105 巻 (2019)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjjiff/105/0/105_3/_article/-char/ja/

[6]アジア森林協力機構(AFoCO) ウェブサイト  Mongolian forestry in a changing environment_Contributed by Maralgoo Ganbat, 2021 AFoCO Fellowship Official from Mongolia (閲覧(2023年5月15日)
https://afocosec.org/newsroom/news/forestry-news/focus-mongolian-forestry-in-a-changing-environment/

[7]モンゴル通信社ホームページ (閲覧2023年5月15日)https://montsame.mn/jp/read/293627

[8]World Bank Document‗Wood Supply in Mongolia:The Legal and Illegal Economies(2006)
https://documents.worldbank.org/en/publication/documents-reports/documentdetail/237991468124167810/wood-supply-in-

[9]黄 勝澤 モンゴル国の劣化した放牧地における飼料木を用いた保全林育成の試み 国際農林業協力 Vol.44, No. 4 通巻201 号 (2021)

5.2 その他の文献

 本稿の参考資料以外、下記の資料も参照されたい。

  1. 久間一剛 モンゴルの土壌 ペドロジスト第45巻第1号(2001)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/pedologist/45/1/45_KJ00007984854/_article/-char/ja
  2. Structure and Productivity of Haloxylon ammodendron Communities in the Mongolian Gobi (2012)
    https://digitalcommons.unl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1036&context=biolmongol
  3. SAXAUL FOREST IN MONGOLIA Ecosystem, resources, values (2018)
    https://reddplus.mn/eng/wp-content/uploads/2018/09/Saxaul-forest-in-Mongolia-and-its-ecosystem-value-ENG-2.pdf
  4. 花田重義 モンゴル国セレゲレンにおけるモデル防風林実証プロジェクトの紹介 沙漠研究27-3, 111 -118 (2017)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jals/27/3/27_111/_article/-char/ja