ラオス人民民主共和国

アジア航測株式会社 社会インフラマネジメント事業部 海外プロジェクト部 海外技術課(2024年2 月現在)

Ⅰ森林の概況

1 自然地理と気象の概要

ラオスは、東南アジアのインドシナ半島に位置する内陸国で、国土面積は2,368万haと、日本の国土面積の約63%に相当する。国土の約70%が高原や山岳地帯によって占められている。北は中国、東はベトナム、南はカンボジア、南西はタイ、西はミャンマーと、7ヵ国と国境を接している。国土の西側を南北に貫いてメコン川が流れており、タイとの国境線の3分の2を占めている。メコン川の東側には小さいながらも平地が広がり、ラオス中部・南部の大都市はその平野を中心として栄えてきた。他方、ベトナムと国境を接する東部は安南山脈が南北に走っており、急峻な山岳地帯が国境沿いに続いている。また、国土の北部には中山間地帯が広がっている。

気候は、国土が南北に細長く地形の変化にも富むことから、ケッペンの気候区分の3つのカテゴリーにまたがっている。ベトナムとの国境線の南半分は熱帯モンスーン気候帯(Am)に属し、それを除く中部・南部地域はサバナ気候帯(Aw)に、北部中山間地帯が温暖冬季少雨気候帯(Cwa)に属している。いずれにしても乾季が存在し、冬(1-3月)に降水量が極端に少なくなるのが特徴である。

2020年の人口は約728万人で、人口の半分以上がラオ族によって占められ、その他は50程度の少数民族によって構成されている。

2 生物多様性

ラオスの国土は南北に細長く気候の変化に富み、東側に安南山脈につながる急峻な山岳地帯、西側のメコン川流域に広がる平原地帯、北部の中山間地帯と地形にも変化に富む中で、未だに比較的高い森林率が維持されていることから、生物の多様性も高い状態で残されている。

現地の研究によると、ラオスの植物相は確認されているだけでも、野生のラン485種を含む188科1,373属5,005種で構成されている。動物相については、ラオス農林省の2010年の報告によると、少なくとも150から200種以上の爬虫類と両生類、鳥類が少なくとも700種、コウモリが90種以上、大型哺乳類が100種以上、魚類が約500種いるとされている。昆虫類については包括的な調査結果は公表されていないが、蝶だけでも約1,000種類がいるとされ、そのうちの828種が1999年に発行された「ラオス蝶類図譜」に掲載されている。また、2012年にシジミチョウ科の新種1種が、甲虫類ではハネカクシ科の新種が3種、日本人によって発見されるなど、比較的大型の昆虫類であっても調査がまだ十分になされていないのが実情である。

3 植生

ラオスの国土が南北に細長く、その地形も変化に富むことから、ラオスの森林は複数のタイプの植生により構成されている。常緑広葉樹林(Evergreen Forest)、落葉広葉樹林(Mixed Deciduous Forest)、乾燥フタバガキ科林(Dry Dipterocarp Forest)、針葉樹林(Coniferous Forest)及び針広混交林(Mixed Coniferous and Broadleaved Forest)に区分され、植生ごとに森林面積の増減等がモニタリングされている。それぞれ以下のような特性を持っている。

植生タイプ特性
常緑広葉樹林 (Evergreen Forest)常緑樹の割合が50%以上を占める多層林と定義されている。ほとんどの樹木が長い円筒形の通直な主幹を持ち、その多くは大きな板根を発達させる。通常、上層木の樹高は30メートル以上に達する。ラオスの植生全体に占める割合は2割弱程度である。
落葉広葉樹林 (Mixed Deciduous Forest)落葉樹が林分全体の50%以上を占める森林であり、林相は常緑広葉樹林ほど密ではなく下層植生の発達が旺盛である。ラオスの植生全体に占める割合は7割弱程度と最も大きく、人間がアクセスするのに容易な地域に分布しているため、森林面積の減少量が最も大きい植生である。関連性は明確ではないが、落葉広葉樹林の面積の減少分と同等の面積がその他の農業地(コメやプランテーション以外の農作物の生産に使用されている農地)で増加している。
乾燥フタバガキ科林 (Dry Dipterocarp Forest)厚い樹皮を持ち耐火性に優れた、Shorea obtusaS. siamensisDipterocarpus intricatusD. obtusifoliusD. tuberculatus等のフタバガキ科の樹木が優占する林であり、時にシクンシ科のTerminalia tomentosaが優占種の一翼を担っている。樹木の直径は比較的小さく、樹高は8~25mで樹冠はあまり広がらない。通常、土壌が浅く岩盤が地上に露出しているような場所やラテライト土壌下で見られる。ラオスの植生全体の1割程度を占めている。
針葉樹林 (Coniferous Forest)標高が高く寒冷な気候下で成立している。マツ科のPinus kesiyaP. merkusiiKeteleeria davidiana及びヒノキ科のCunninghmia sinensisを優占樹種として成林する。通常は単層林であるが、次世代の若木によって密な第2層(二層構造)が形成されることもある。ラオスの植生全体に占める割合は1%弱程度である。
針広混交林 (Mixed Coniferous and Broadleaved Forest)一般的に、針葉樹混交林は針葉樹林と広葉樹林の間の遷移タイプであると見做されている。標高の高い場所にも見られる。ラオスの植生全体に占める割合は1%弱程度である。
表1 ラオスの植生タイプ一覧
(出典:Global Forest Resources Assessment 2020 Report Lao People’s Democratic Republic, FAO, 2020)
図1 ラオスの植生タイプ
(出典:Wildlife in Lao PDR, Duckworth, J. W., Salter, R. E. and Khounboline, K. (compilers), 1999)

4 森林の定義

2018年1月にラオス国農林省からUNFCCCに提出された「Lao PDRs Forest Reference Emission Level and Forest Reference Level for REDD+ Results Payment under the UNFCCC」の記述によると、森林とは、面積が0.5ha以上あり、胸高直径10cm以上の木によって、最小樹冠被覆率が20%以上を占められている土地であるとされている。

一方で、ラオス国内での公式森林分類では、森林とは面積が0.5ha以上あり、構成木の上層高が5m以上あり最小樹冠被覆率が20%以上ある土地であると定義しているとのことであり、そのことが2020年にFAOによって確認されている(What is the forest area of Lao People’s Democratic Republic?, FAO, 2021)。

定義の種類示されている基準
ラオス国内基準 (UNFCC提出版)面積が0.5ha以上あり、胸高直径10cm以上の木によって、最小樹冠被覆率が20%以上を占められている土地
ラオス国内基準 (国内用公式分類)面積が0.5ha以上あり、構成木の上層高が5m以上あり最小樹冠被覆率が20%以上ある土地
FRA(FAO)の基準面積が0.5 ha以上あり、樹高5メートル超となる樹木が生育し、 樹冠率が10%以上ある土地
表2 森林の定義

どちら定義においても、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations) がFAO Global Forest Resources Assessments(FRA)で定義されている最小樹冠被覆率10%以上よりも高いため、FAOの定義に基づけばラオスの森林率は7割弱だが、ラオス国内部での定義に基づいた値になると約4割と少なくなり、これが各種の文献ではよく用いられている。

2021年World Bankの調査がFRA方式での最新のデータであり、それによるとラオスの森林面積は1,656.1万haで、国土面積2,368万haの69.9%、現在ラオス森林局のHPに掲載されている地図情報での森林面積は1,130万haで、国土面積の47.7%となっている。

5 森林の区分

ラオスの森林は、保護林(Protection Forest)、保全林(Conservation Forest)、生産林の(Production Forest)3つに区分され管理されている。

用語定義
保護林 (Protection Forest)  日本の場合の保全林にあたり、人間の生活を保護するために設定されている森林区域である。水源涵養、河川堤防や道路脇の保全、土壌浸食の防止、土壌の質の保全、自然災害からの保護、環境保護などの機能を発揮させることを目的に設定された森林区域であり、さらには国防上の戦略地域を含んでいる。2021年の時点で47地域790万ha(森林全体の約51%)が保護林に指定されている。(ラオス方式では470万ha、約42%)
保全林(Conservation Forest)日本の場合の保護林にあたり、自然保護、動植物種の保存のために必要な区域であるとともに、自然的、歴史的、文化的、観光的、環境的、教育的、さらには科学的研究を行う上で価値のある森林に対して設定されている。国有の保全林地域と 州、県、村レベルの保全林地域から構成されている。2021年の時点で24の国立生物多様性保全地域と2つのコリドーが指定され、面積は450万haと森林全体の29%を占めている。(ラオス方式では350万ha、約31%)
生産林(Production Forest)生産地域及び木材・林産物の生産とその利用を目的として区分された天然林及び人工林であり、そこで行われる生産活動等が、国家の社会経済発展及び国民生活を充足させることを前提として設定されている。51地域310万ha(森林全体の20%)が生産林に指定されている。(ラオス方式では310万ha、約27%)
表3 ラオスの森林機能区分(出典:Law on Forestry (Revised), DOF, 2021)

6 森林資源の減少と劣化の要因

ラオスの森林減少・劣化の主な要因は、大規模なダム開発に伴う伐採、不法伐採を含む商業用伐採、住民による焼畑移動耕作であるとされている。

ラオスは国土にメコン川やその支流を含む水資源の豊かな国であり、水力発電による自国だけでなく、ASEANの電力供給源を担うことが期待されているが、ダム開発によって、水没予定地区の樹木の伐採が数多く発生している。

また、内戦や市場開放による森林の商業用地や農地等への土地利用転換による森林減少にもかかわらず、ラオスは近隣のASEAN諸国に比して依然として高い森林率を維持していた。残存した森林の中には、商業的に有用な樹種も数多く含まれていたことから、ラオスがそれら樹木の供給源として注目され不法伐採を含む商業用伐採が活発化し、森林の減少を加速させた。

ラオスで伝統的に行われてきた焼畑耕も、従来は5~10年以上の休耕期間を設けて再生した樹木を焼き払って農地として再利用する手法が伝統的にとられてきたが、人口の増加に伴い、焼畑対象地の拡大を余儀なくされ天然林への圧力が高まってきている。また、焼畑の技術に未熟な民族の新たな焼畑耕作への参入が失火による森林火災を起こす事例も多く発生し森林減少の一因にもなっている。

ただし、焼畑耕作については耕作地で生産される農作物のみでなく、休耕地で樹木が再生される過程で様々な非木材林産物の供給源となり住民の生活基盤を支えていることから、単純にその行為を否定することはできない。住民の生計を確保するため、必要に応じて代替の生計手段を提示しながら天然林への負荷を軽減していく活動の実施が望まれる。

森林セクターを担当する組織

農林省(Ministry of Agriculture and Forestry, MAF)の森林局(Department of Forestry, DOF)が、ラオスの森林行政を担っており、森林資源の管理、保護、利用及び持続可能な開発に関する林業の法的枠組の策定と実施、及びその有効性の調査、監視、評価等を行っている。

各県には県農林事務所(Provincial Agriculture and Forestry Office, PAFO)が、その配下に郡農林事務所(District Agriculture and Forestry Office, DAFO)が設置され、DOFにより策定された森林セクターに係る法的枠組みの実務的な運営を担っている。

また、政府の政策に沿った戦略立案に役立つ技術情報、規範、成果を提供するため、統合的な農林水産研究を行うことを目的として、ラオス国立農林研究所(National Agriculture and Forestry Research Institute, NAFRI)が1999年に設置され、土地利用計画や森林被覆とバイオマスの変化の評価などの業務にも携わっている。

なお、インフラ開発等のための天然林の転換に対する承認にあたっては、天然資源環境省(Ministry of Natural Resources and Environment)の天然資源環境政策局(Department of Natural Resources and Environment Policy)がその任を担っている。

8 森林関連政策

1986年に開催された第4回人民革命党党大会において「チンタナカーン・マイ」と称されるラオスの経済改革が提起され市場が開放されたこと、内戦の復興のために国内資源需要が増加したこと等に伴い、森林の商業用地や農地等への土地利用転換が進み、1940年代には7割程度あったとされる森林率は、1980年代には4割強まで減少した。森林率については、1940年代と現在とで同じ尺度を用いて比較されているかは不明であるが、土地利用転換等による森林減少が生じていたことは確実である。

この状況を危惧したラオス政府は、1989年に第一回森林会議を開催して「Topical Forest Action Plan」を策定し土地と森林の管理に関する方針を打ち出すとともに、民間の経済活動を活性化させ森林保全・再生に結び付けることを目的として、土地と森林の利用権の配分を国民に対し行っていくことを計画した。

その後、1996年に「森林法」が制定され、2007年、2012年及び2019年の改正を経て、2021年に更なる改正が行われ、現行の「森林法」(Law on Forestry (Revised))として機能している。

2005年には森林の保全回復及び貧困削減への森林セクターの貢献を目標とした146項目の具体的な行動提案からなる「森林戦略 2020」(Forestry Strategy to the Year 2020 of the Lao PDR)が採択され、2020年までに森林率を70%まで回復する計画が立てられた。現在、ラオス政府は「森林戦略2020」に続いて「森林戦略2035」を策定中であり、同戦略案では森林率を70%まで回復させるための試みを継続し、回復した森林を継続的に管理・開発し、生物多様性、流域保全、環境の質の向上、地球温暖化のインパクト軽減等を成し遂げることをビジョンとして掲げている。この「森林戦略」が、森林関連の現時点での上位政策となっている。

Ⅱ植林関連基礎情報

1植林政策

「森林戦略 2020」において、植林活動を推進していく上での課題とその対策について以下のように整理されている。

■国家植林開発計画の策定

樹木の育種から植林地の管理までを包括的にカバーし、明確なターゲットグループとインセンティブを設定した国家植林開発計画を策定すること。

■植林地の収益性の向上 植林技術の向上

樹種(種子や苗床の要件、在来種の利用を含む)、適地適木、伐採、間伐、枝打ち手法、立地と土壌の準備、施肥プログラム、植林後の管理等に関する応用的で適応性のある研究を実施すること。
研究結果をPAFOとDAFOに提供し、潜在的な生産者にも周知すること。そのために、DAFOが適切な能力を発揮できるよう支援すること。
植林地所有者、特に北部のチーク植林地所有者に、種子の選択、適切な密度での植林、品質向上と販売価格向上のための間伐・剪定などの技術を提供すること。

■より良い販売価格の確保

市場調査を実施し、人工林生産木の販売条件、品質の定義とその確認方法、価格、付加価値や割引額の設定方法について研究すること。
小径木の加工技術を開発・促進すること。

■法的・規制的枠組みの改善

地域住民による慣習的な土地や森林の利用を尊重し、商業植林地の開発に伴う損失を補償する手順を確立すること。
植林から伐採、輸送、輸出まで、植林管理のあらゆる側面に関する規制を簡素化すること。
小規模所有者に過度の負担をかけることがないよう、一時的な土地使用権を長期的な権利(土地所有権)に転換する手続きを確立すること。
環境保護と地域利用との調和を図りながら、国内外からの気候変動対策のための大規模な植林投資に備えること。

■資金とインセンティブの改善

地域住民が継続的な収入を得られるよう、世帯レベルでの農林業を促進すること。
植林のための既存の融資制度、特に小規模農家向けの融資制度について、財政的実現可能性、持続可能性、補助金の妥当性などの観点から見直すこと。
利益分配システム(PSS)を含む進行中の取り組みを検討することにより、零細農家の植林を支援する方法と手段を模索すること。

■マーケティング開発

国内及び国際市場における木材価格に関する情報を収集し、その共有を行うこと。

2 既存の植林面積

1989年の「Topical Forest Action Plan」を策定以降、さまざまな施策が打ち出され、その都度、植林面積の増加につながっている。2015年までに、植林を推進するために打ち出された施策、施行令、法整備の状況は表3に整理したとおりであり、図1に示すような植林面積の伸びを見せている。

年度政策・施工令・法整備名称
1989年Topical Forest Action Plan, Land/Forest Allocation Program
1994年Allocation of Land and Forests for Tree Planting
1996年1st Forestry Law
1999年Directive on Plantation Registration No 1849/MAF
2000年Plantation Regulation No 196/AF
2003年Land Law enables concession; Plantation Promotion Decree No 96/Pm
2005年FS2020, Forest cover target 500,000 ha and 2nd Forestry Law
2007年Current Forestry Law
2009年Decree on State Land Lease or Concession No. 135/PM
表4 植林を推進するために打ち出された施策、施行令、法整備一覧
図2 ラオスにおける植林面積の推移
(出典:Tree Plantations in Lao PDR – Policy Framework and Review)
   (元となっているのはDOFの内部資料)

なお、2006年から造林面積が急増しているが、これについては、そのほとんどがゴム林とのことであり、2012年に発令された「鉱業、ゴム、ユーカリの新規コンセッションの一時停止令」(Order on New Concession moratorium No.13/PM)の影響を受けて植林面積の伸びが一時的に鈍化した。

3主な植栽樹種

経済的価値のある樹種としてラオスで植林実績のあるものは、チーク(Tectona grandis)、アカシア類(Acacia mangiumA. auriculiformis)、ユーカリ類(Eucalyptus camaldulensis)等があり、特にチーク植林に対する住民の関心は高く、政府もその植栽を推奨している。チークはラオス北部を自生地の一つとする郷土樹種であり、特にラオス北部のルアンパバーン県、サイニャブリー県において盛んに植栽が行われている。

1990年頃からは中国へのゴムの輸出を念頭に置いたパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)の植栽が、中国からの技術指導もあり盛んに行われてきている。ゴム植林は森林コンセッションを活用し、資本投入による大規模な植栽も行われてきたが、単一樹種による大面積植林による土壌劣化や住民への裨益がそれほど高くないこと等を憂慮した政府によって、2012年に鉱業、ゴム、ユーカリの新規コンセッションが一時停止されている。

郷土樹種であり、環境再生に資する樹種として、タキアン(Hopea odorata)やローズウッド(Dalbergia cochinchinensis)の植栽実績はあるが、チーク等に比して成長が遅いため、環境再生を目的としたプロジェクトや植樹祭等でないと用いられることは少ない。

また、日本により紹介された製炭技術を用いた炭生産が近年盛んになっており、その製品は日本にも輸入されている。炭材の持続可能な供給を目指して、炭材に適したオトギリソウ科のマイ・ティウ(Mai Tiew, Cratoxylum cochinchinense、C. formosum、C. pruniflorum)が炭の流通・販売に係る関係者の働きかけで植栽されている。

その他、特殊なものとしては、ラオス北部(特にルアンパバーン県)において、ジンコウ(Aquilaria malaccensis等)やエゴノキ類(Styrax subniverus等)の植栽が樹液等の特用林産物を産出する樹木として植栽されている。

 また、住民の生計の向上を目指したプロジェクトでは、果樹が用いられることも多く、ランブータン(Nephelium lappaceum)、サポジラ(Manilkara zapota)、レイシ(Litchi chinensis)、マンゴー(Mangifera indica)、タマリンド(Tamarindus indica)、ライム(Citrus aurantiifolia)、グァバ(Psidium guajava)、ザボン(Citrus maxima)、ナツメ(Ziziphus jujuba)、リュウガン(Dimocarpus longan)、パラミツ(Artocarpus heterophyllus)、チェリモヤ(Annona cherimola)、パパイア(Carica papaya)、カジノキ(Broussonetia papyrifera)等が植栽に用いられている。ただし、果樹園の造成は森林面積の増加には加算されない。

4植林地の所有権

森林法の第1章の第4条(改正)の規定によると、「天然林及び林地はラオス国民の財産であり、国家は法律に基づき、森林および林地の管理、保護、利用において、全ての組織および国民の参加を得て、全国一律に森林および林地を集中管理する指定権限を有する。」とされ、「個人、法人、組織、投資家が自らの労働力または資金を用いて指定地域に植林・植栽した木の所有は、森林・林地管理局によって法的に認められる。」とされている。すなわち、指定地域で植林された木は、当該個人または団体の所有物として利用できることになる。

Ⅲ植林ポテンシャル

潜在的森林回復(植林)可能エリア

ラオスの土地利用区分の1つである“Regenerating Forest”は、「以前は森林に覆われていたが、焼畑等による人為的な伐採・撹乱により、樹冠密度が20%未満になった場所」であり、森林法により「再び豊かな自然林となるよう再生させることが指定された古い休耕林や若い二次林」と位置付けられている。なお、FAO(2020)によると、2015年時点のRegenerating Vegetation(= Regeneration Forest)の面積は617万ha(国土の25%)と報告されており、FRAではその半分を「森林」、残りを「その他の林地」とみなしている。ラオス政府は、「Regenerating Forest」を森林劣化・減少の発生地域として認識していることからも、「森林戦略2020」に掲げられた森林率70%達成にあたっては、「Regenerating Forest」の植生回復が重要視され、植林のニーズも高くなることが予想される。

「World Resources Institute」がWeb上で提供している「Atlas of Forest and Landscape Restoration Opportunities」で示される潜在的森林回復(植林)可能エリアによると、そのエリアは全国的に散在していが、特に、ラオス南部の平野部に多くあることが分かる。

図3 潜在的に森林回復(植林)可能なエリア

2植林にあたっての課題

植林実績が比較的長いチークであっても、近年のラオスを対象とした研究では、植栽箇所や植栽間隔を工夫することによって飛躍的に成長量を増進できることが確認されている。そのことが示している通り、植林に関する適切な技術の開発とその普及がいまだ不十分な状態であり、その改善が「森林戦略 2020」の中でも目標として掲げられている。技術開発とその蓄積・情報提供は「ラオス国立農林研究所(NAFRI)」がその任を担っており、適宜アドバイスを受けることが肝要である。

また、2012年に鉱業、ゴム、ユーカリの新規コンセッションが一時停止される等、単一植林による大規模一斉植林に対してラオス政府は慎重な姿勢を示している。大規模植栽を計画する場合は、その時点での政府の動向を注意深く確認することが肝要である。

3植林を実施している民間企業・NGO

団体名概要対象地
日本ハビタット協会事業名 ラオス国における学校を中心とした持続可能な植林活動による環境保全 内容 学校での環境教育や、住民への植林技術指導を行いながら環境保全のための植林活動を実施 その他 環境再生保全機構の「地球環境基金助成金」や日蓮宗の「あんのん基金」からの支援も受けながら活動を展開ルアンパバーン県、サイニャブリー県
アジア農村協力ネットワーク岡山事業名 ラオス北部ルアンナムター県「ナムハー地区」における農林業を通じた村おこし 内容 生物多様性保護区への負荷を減らし自然・生物を保護するため、地区内の少数民族の生活改善を図るための果樹園の造成に取り組んだ その他 環境再生保全機構の「地球環境基金助成金」からの支援も受けながら活動を展開ルアンナムター県
日本国際ボランティアセンター (JVC)内容 直接的な植林活動は行っていないが、住民主体の自然資源の管理と利用を目指した活動を1980年代から実施サバンナケット県
高尾グリーン倶楽部事業名 日本-ラオス友好の森展示林造成事業 内容 JICAの支援によりナム・グム・ダム湖の北側に設定された展示実証林区域を、「日本-ラオス友好の森」として、その植生回復を図るための植林活動を実施 その他 日本山岳会高尾の森づくりの会が2016年度から6年に亘って実施してきた活動を引き継いで実施  国土緑化推進機構の「緑の募金一般公募事業」からの支援も受けながら活動を展開ビエンチャン県
特定非営利活動法人 ラオス国薪炭林造成協会事業名 ラオスにおける荒廃地の薪炭林再生 内容 政府から提供を受けた90haの土地に2017年から5年間で25万本の植栽による薪炭林を造成 その他 国土緑化推進機構の「緑の募金一般公募事業」からの支援も受けながら活動を展開ボリカムサイ県
特定非営利活動法人 炭の木植え隊事業名 ラオス国カムアン県ポンサイ村小学校林造成事業 その他 国土緑化推進機構の「緑の募金一般公募事業」からの支援も受けながら活動を展開カムムアン県
王子製紙株式会社とその協賛企業内容 ラオスにおける製紙原料の安定的な確保を目指した「二国間クレジット・メカニズム」を活用した植林を、2005年から7年間で、カムムアン県・ボリカム県で計5万ha、南部のサバナケット、サラワン、チャンパサック、セコン、アタプー県で計3万ha実施 その他 二国間クレジットについては、その適用を見送ることとなったカムムアン県、ボリカムサイ県、サバナケット県、サラワン県、チャンパサック県、セコン県、アタプー県
表5 ラオスでの民間企業・NGOによる植林活動例

 また、九州電力の子会社である九電みらいエナジーが、タイやラオス企業と合弁で、木質ペレットの生産工場の建設を南部のチャムパサック県で進めている。ラオス国内で植林を行い、木質ペレットを自社生産して日本のバイオマス発電所へと輸出することを計画している。

4 二国間クレジット

二国間クレジット制度(JCM)については、2013年に日本政府とラオス政府の間での合意が得られ、2019年にはREDD+実施ルールが採択された。それに合わせて、日本政府はラオス政府との間でガイドライン類を策定しており、それに基づいて日本の民間企業や NGO による JCM-REDD+プロジェクトが進められてきている。

現在、具体化しつつある事例として、学校法人早稲田大学が、ラオス北部の「ルアンパバーン県における焼畑耕作の抑制によるREDD+」事業に対して2015年から3年間、公益財団法人地球環境センターの支援を受け、ルアンパバーン県ポンサイ郡の一部(30,000ha 程度)を対象として、森林資源への過度な圧力を軽減するための代替生計の導入等の活動を進め、その成果として GHG 排出削減効果の定量化を行った。その成果を基に方法論が作成され、2022年1月にJCM(Laos-Japan)事務局によって公開審査にかけられ、2022年3月に方法論が承認された(方法論番号LA_AM004)。その承認を受け、「ルアンパバーン県における焼畑耕作の抑制によるREDD+プロジェクト」(REDD+ project in Luang Prabang Province through controlling shifting cultivation)が提案され、2023年10月に公開審査にかけられている。プロジェクト実施者には、早稲田大学に加え、丸紅株式会社が名を連ねている。

V 植林に関する参考資料リスト

【参考文献】

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