ケニア共和国(Republic of Kenya)

国際緑化推進センター(JIFPRO)柴崎一樹、田中浩
(2023年5月時点)

1 森林の概況

図1の通りケニアの国土の80%以上は乾燥・半乾燥地帯であり(MENR1, 2016)、湿潤地を中心に森林が分布している(図2)。

図 1 ケニアの気候帯(出所:Agro climatic zone map of Kenya 1980, Braun, H.M.H, 1982)

FAO(2020)によると、2018年時点の森林面積は約360万haで、国土の約6%(森林率)に相当する。また、半乾燥地を中心に、森林の定義(0.5ha以上、樹冠率5-10%以上)を満たさないもの木本植物が生えておりかつ農業が主用途でない「その他の林地」が、国土の約57%を占めている(表1)。

表1 2018年時点のケニアの森林とその他の土地利用(FAO, 2020)
 林地(Forest land)その他の林地(Other wooded land)その他(Other land)
政府所有天然林私有天然林政府所有植林地マングローブ
面積(万 ha)117.8221.915.36.13,227.12,103.1
国土面積割合(%)2.073.900.270.1156.7036.95

1990年から2018年の間で、「林地」と「その他林地」の面積は、それぞれ約1.4万ha/年、14万ha/年のペースで減少している。2015年からは減少スピードは鈍化してきている。森林減少・劣化の要因は、農地転用、薪炭材採取、違法伐採等である(MENR, 2016)。

2 植林関連基礎情報

2.1 既存の植林面積

既存の植林面積は、2010年の衛星画像による分析によると、186,716ha、国土の0.32%にあたる。その内訳は、公有林が53%(98,323ha)、私有林が47%(88,393ha)である(MENR, 2016)。

2.2 植林のタイプ

ケニアの植林のタイプは以下の2つに分類される。

1)産業植林(Commercial plantation)

主に木材生産・販売を目的とした植林。公有地、私有地、コミュニティ所有地で行われ、図2-1の通り降水量が1,000mm以上の西部に集中しており、その面積は合計で20万haに及ぶ(MENR, 2016)2

図2ケニアの2010年時点の天然林と人工林(産業植林地)Commertial plantationの分布(MENR, 2016)

2)農地植林(farm forestry)

農家の耕作地に植林するアグロフォレストリーのような植林タイプ。農地植林をした場所は、通常、森林の定義である樹幹率10%に満たないことが多いため、FAOや政府の統計上では、森林ではなく、「その他の林地」として分類される(前述)。ケニアの1人あたりの農地面積は、0.2ha程度(FAO, 2010)と狭いのと、所有者によって、植栽密度や樹種が異なるため、「その他の林地」は農作物が植えられている農地や居住区が混じったモザイク状のランドスケープになっていることが多い(図3)。

図3 ケニアの農地植林(farm foresry)の様子(筆者撮影)

2.3 主な植栽樹種

ケニア西部の湿潤地での「産業植林」では、Cupressus lusitanica, Pinus radiata, Pinus patula, Eucalyptus spp., Vitex keniensis, Polyscias kikuyuensis, Juniperus procera等の在来及び外来種が植栽される。「農地植林」では、ケニアの中央部、東部ではGrevillea robusta、西部ではEucalyptus spp.、半湿潤地では Cupressus spp.が植えられている(MENR, 2016)。ただし、気候帯によって樹種は大きく異なる。各地域の植栽樹種については、WWFやMENR(2019)のサイトでに、より詳細に整理されている。

3 植林ポテンシャル

3.1 植林可能エリア(Atlas of Forest Landscape Resoration Opportunities3より)

ケニア国土の80%以上は乾燥・半乾燥地であるため、植林できる場所は限られている。ケニアにおける潜在的に森林修復可能な(植林)エリアは図4の通り、湿潤地か半乾燥地に限られ、そのほとんどは、居住地や農地が既にあるところであるために、モザイク状での修復が可能なエリアである。北部と東部の乾燥地は、乾燥が厳しすぎて植林(修復)できない。後述する政策目標の森林率30%達成には、これらの場所ほぼ全てで植林し、FAOの定義以上の樹冠率を達成しなければいけないことになる。

図4 ケニアのおける潜在的に森林修復(植林)可能なエリア

3.2 ケニア政府の植林政策

2008年に策定されたKenya vision 2030において、2030年までに森林率10%達成を目指してきたが、2022年に、新大統領に就任したWilliam Ruto氏は、2032年までに国土の30%を森林にすると宣言した。2022年時点で6~7%の森林率を2032年に30%にするためには、国土の約20%以上、約1,000万ha以上(北海道と岩手県を足した面積が987万ha)の植林が必要になる。これまでの目標値を大幅に上方修正したことになるが、現在、政府はそれを達成するために、キャンペーンやポット苗の無料配布を行っているようである。

3.3 今後見込まれる植林形態

ケニアの国土全体の土地所有形態としては、国有地(国土の約13%、国立公園等)、私有地(国土の約18%)、信託地(国土の約67%)の3種類が存在する(Repblic of Kenya, 2004)。一番面積割合が大きい信託地(Trust land)とは、国による開発の管理・規制の影響を受けず慣習法が適用されてきた土地であり、地方自治体(County council)の管轄下で、慣習法のもとに土地が共有管理されており、この信託地の大部分が農家の農地にあたる。特に、小規模農家(Government of Kenya(2010)では、3ha未満を小規模農家と定義)の占める割合が高い。もし、ケニアが2032年までに森林率30%の達成を目指すとしたら、小規模農家の農地でのアグロフォレストリを含めた農地植林の促進が重要になってくるだろう。実際、政府は、農家に、自分の農地での植林を行い、樹冠率を10%以上(林地の定義)に維持・増加させるルールを定めている(Minister for Agriculture of Kenya, 2009)が、これは、もともと農地や「その他の林地」であったところを「林地」にし、森林率をあげようとしているためだと考えられる。政府の植林推奨のキャッチコピーには、“10年間で150億本、国民1人あたり300本植林が必要”と謡われているが、1世帯4人だとすると、1,200本/世帯、植えることになり、おそらく1ha以上の農地が必要になってくる。

3.4 木材・薪炭需要

ケニアの国民の70%以上が薪炭材をエネルギー源として薪炭を利用しており、森林減少・劣化の要因の一つとして天然林からの薪炭の過剰摂取がとされている(MENR, 2016)。特に、炭生産については、70万人が炭生産・取引に関与し(Mutimba and Barasa, 2005)、年間生産量250万t、年間売り上げ11億USD(MENR, 2016)との報告もある。政府は2018年に天然林由来の炭の生産と売買を禁止したが、依然として天然林からの薪炭採取は続いており、今後も人口増加の影響で、木材、薪炭材の需要は高まり、天然採取だけでは賄えなくなることも予想される。伐採を想定しない環境造林も重要ではあるが、現存する天然林への圧力を軽減し保護していくためには、いかに小規模農家の土地で、効率よく、植えて伐採し、また再植林するような植林システムを構築できるかが重要になってくるだろう。実際、KOMAZAという林業プラットフォームでは、小規模農家の土地での材木目的に成長の早い在来種であるMelia volkensiiを用いた林業ビジネスを実施しており、小規模農家に苗木を配布し、自身の農地で植林してもらい、それを買い上げて、木材として販売するシステムを確立している(前述の「農地植林」に企業が関与)。それと同時にVCSのボランタリークレジットの創出も行っている。

3.5 森林関連のカーボンクレジットプロジェクト

世界で一番流通量が多いボランタリーカーボンクレジットプログラムであるVCS(Verified Carbon Standard)の森林プロジェクト(植林・REDD4)は、ケニアにおいて表2の通り行われている。TISTもKOMAZAも、数万ha規模の植林を実施しているが、その形態は前述の農地植林である。他のアフリカ諸国に比べると、その数が多く、ケニア内でのカーボンクレジットに対しての認知度が高く、クレジット申請やモニタリングができる組織・人材が見つけやすいことが予想される。

表2 VCS下の森林プロジェクト(Verraウェブサイトより筆者作成)
プロジェクト名プロジェクトIDプロジェクト申請団体実施地域(County)分野面積開始年
TIST Program in Kenya 1~8594, 595, 596, 597, 737, 899, 996, 2338Clean Action Corporation (アメリカ)Kirinyaga, Laikipia, Meru, Nyeri, Tharaka Nithi植林
KOMAZA SMALLHOLDER FARMER FORESTRY KENYA2623KOMAZA(アメリカ)Kilifi, Kwale, Nyandarua植林
2002
Chyulu Hills REDD+ Project1408Chyulu Hills Conservation TrustMakueni, Taita Taveta, and KajiadoREDD

The Kasigau Corridor REDD Project 1~2562, 612Wild works LLC(アメリカ)
REDD

またケニアはJCM5加盟国であり、2022年2月には、「製塩工場における太陽光発電プロジェクト」によるJCMクレジットが発行された。しかし、2023年1月時点で、森林分野のJCMプロジェクトはまだ実施されていない。

3.6 植林にあたっての課題(半乾燥地での植林)

降水量が1,000mm以上の湿潤地では、植林が進んでおり、前述のTISTやKOMAZAなどの VCS植林プロジェクトも、湿潤地において農地植林を行っている。しかし、半乾燥地では、以下のような技術的な課題があるため、農地植林が進んでいないのが現状である。前述の森林率30%達成のためには、国土の大部分を占める半乾燥地での植林の推進が必要不可欠である。

1) 不安定な降水パターンによる植栽直後の枯死

半乾燥地での植林の課題としては、乾季が4か月以上と長いために、植栽後の枯死率が高い(Magaju et al., 2020)ことと、枯死を防ぐための措置として、潅水等を行うと植栽コストが高くなることがあげられる。また、植栽時期が雨季の初めと限定されているうえ、降雨が不安定であることから、植栽時期を逃しやすいといったこともある(ケニア森林研究所(KEFRI)からの聞き取り)。

2) 硬い土壌

主に乾燥地のフェラルソル(Ferralsol)が分布するような場所ではペトロプリンサイト(Petroplinthite)と呼ばれる硬い土壌層が点在し、表層1m以内の比較的浅い部分にそれがあると、根系発達が妨げられ、植栽してから数年後に一斉に枯れる現象(ダイバック)が報告されている(図5)。

白の石のようなのがペトロプリンサイト(現地ではMurram)。通常、土中では層になっている。

ペトロプリンサイトにぶつかると、トラクターエンジンでも掘削に時間を要する
植栽して5年後に急に枯死(ダイバック)したTerminalia brownni

図5 ケニアのペトロプリンサイト

図6 ケニアの土壌分布(出所:Sombroek et al., 1982)

3) 植林後のモニタリングの煩雑性

ケニアにおける潜在的に森林修復(植林)可能なエリアは、湿潤地か半乾燥地に限られ、そのほとんどは、既に居住地や農地があるため、モザイク状での植林ならば可能なエリアである。また、居住地や農地としての土地利用がないように見えても、放牧等に利用されているケースもある。たとえ政府から土地をリースし植林の許可を得しても、住民の慣習的な土地利用と競合してしまうと、植林後の維持・管理が難しくなるリスクがある。そのため、ブラジルやインドネシアのように、数10ha以上のまとまった面積を確保し、画一的に大規模植林することは難しい。今後、ケニアで主流になる植林形態は、前述の「農地植林」の可能性が高いと考えられる。実際、前述の TIST、KOMAZA などのVCS植林プロジェクトも無数の小規模農家の農地で植林することにより、数万ha規模の植林面積を確保している。しかし、農地植林は、植林地がモザイク状に広がるため(図7)、プロジェクト実施者が単独で全ての植林地のモニタリング(生残確認、生育状況確認)をすることは難しいと予想される。こういった植林地では、ドローンや衛星画像等を活用しながら、植栽地の状況(情報)をいかにリモートかつ自動で効率的に把握できるかが鍵になってくるだろう。

図7 TISTの「農地植林」一部(VCSに報告されたKMZファイルを筆者修正)

3.7 半乾燥地での農地植林

半乾燥地でも、適切な植栽密度で植栽し、確実な活着とその後の適切な管理によれば、潅水等をしなくても、図8で示すような「農地植林」により、成木まで育てることは可能である。

5年生Melia volkensii
牧草栽培と養蜂が共存する農地植林
7年生Melia volkensii

図8 半乾燥地(Kibwezi sub county)での農地植林、植栽して5年程度のMelia voklensii

4 ケニアで植林を実施している民間企業・NGO

ケニアにて植林を実施している主な団体は以下の通りである。

表3 ケニアで植林を実施している民間企業・NGO
団体概要活動エリア(Country)
KOMAZAアップルや三井物産から資金を得て、小規模農家の農地に材用の樹種(Melia volkensii、ユーカリハイブリッド)を植林している。ケニア南東部(Kilifi, Kwale)やケニア中部(Nyandarua)
Clean Air Action CorporationTISTと呼ばれる小規模農家の農地に植林するプログラムを実施。伐採は想定していない模様。56万ha以上の植林をすでに実施。Embu, Meru, Mara, Nanyuki, Machakos, Nyamira, Nandi, Trans-Nzoia, Taita taveta, Muranga
Better globe forestryクラウドファンディング等によって植林資金を獲得し、小規模農家の農地に材用の樹種(Melia vokensii, Melia azedarach)を植林。Embu, Lamu, Kitui
KAKUZIケニアで農作物を栽培する会社だが、材用の産業植林地も1,215ha保有。Muranga
One Acre Fund東アフリカの小規模農家に対して、飢餓と貧困を減らすための資産ベースの融資と農業トレーニングサービスを提供する社会企業。植林も実施。ケニアの西、中央、南西部
Drylands Natural Resources Centre (DNRC)NGOであり、寄付を基に、ケニア乾燥地で農家にアグロフォレストリ―を普及。Makueni
international tree foundationNGOであり、ケニアの農家グループや女性グループをパートナーとして植林活動を支援。不明
KEFRI環境・気候変動・森林省の下にある森林研究所。全国
JICA1985年からケニアの森林保全のための技術協力プロジェクトや無償資金協力を実施。2022年からは「持続的森林管理・景観回復による森林セクター強化及びコミュニティの気候変動レジリエンスプロジェクト」が実施中。Nyeri, Tharaka Nithi, Embu, Kitui, Makueni, Taita Taveta, Kilifi, Kwaleにて、Commertial forestryの普及・実施体制強化を支援
JIFPRO2021年からKEFRIと共同で半乾燥地での緑化を促進するため長根苗の技術開発を実施中。乾燥地(Kitui, Makeni)

5 ケニアにおける植林に関する参考資料リスト

5.1 ケニアの森林概況・政策等

  • Kenya Ministry of Environment and Natural Resources (MENR). 2016. National Forest Programme of Kenya.  (ケニア全体の森林の状況や政策等を掲載)
  • FAO FOSA Country Report – Kenya  (ケニア全体の森林の状況や政策等を掲載)
  • FAO Global Forest Resources Assessment 2020 (ケニア全体の森林の状況や政策等を掲載)
  • Kenya Ministry of Environment and Natural Resources (MENR). 2019. National Starategy For Achieving and Maintaining Over 10 % Tree Cover By 2022.  (樹幹被覆率10%を達成するためにどのような植林を実施するかが記載)

5.2 ケニアの自然条件・生業等

  • Farm management Handbook of Kenya Easeten and Westen Province and Kenya. 2006. GTZ (ケニア全体の農作物の栽培状況等が掲載)
  • Government of Kenya. 2019. Kenya Population and Housing Census Volime II Distribution of Population by administrative unit. ・Kenya National Bureau of Statistics. Nairobi (ケニアの地区毎の人口、世帯数、面積の情報が掲載)
  • Sombroek, W.G., Braun, H.M.H. and van der Pouw, B.J.A. (1982) Exploratory Soil Map and Agro-Climatic Zone Map of Kenya, 1980. Scale: 1:1,000,000. Exploratory Soil Survey Report No. E1. Kenya Soil Survey Ministry of Agriculture, National Agricultural Laboratories, Nairobi.  (ケニア全土の土壌やAgro-Climatic Zoneの地図が掲載)

5.3 VCS下の植林プロジェクトのドキュメント

各VCSプロジェクトのProject description(PD)やMonitoring report(MR)は、VERRAのサイトURL(https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/…)の…の部分に各プロジェクトID(3桁or4桁)を入力すれば手に入れることが可能。

  • TIST Program in Kenya 1~6,9~10:プロジェクトIDは、「594, 595, 596, 597, 737, 899, 996, 2338」
  • Komaza Smallholder Farmerr Forestry Kenya:プロジェクトIDは、「2623」
  • Chyulu Hills REDD+ Project:プロジェクトIDは、「1408」
  • The Kasigau Corridor REDD Project 1~2:プロジェクトIDは、「562, 612」

  1. Minisry of Environment and National Resources(ケニア環境・天然資源省)の略。2023年時点では、Minisry of Environment, Climate Change and Forestryに再編され、その中にケニア森林公社(KFS)やケニア森林研究所(KEFRI)が設置されている。
  2. 前述の植林地面積18万haと2万ha程の誤差があるのは、対象年が違うのもあるが、前者が衛星画像によるもの実際の植林面積であるのに対して、後者は土地利用として植林地とみなしている土地であり、伐採後に裸地になっているものも含まれるからだろうと考えられる。
  3. IUCN,WRI,メリーランド大学が提供するWebサイトであり、世界の森林修復(植林)可能なエリアが把握できる。
  4. Verified Carbon Creditの略、世界で一番流通量が多いボランタリークレジット認証システム 
  5. 森林保全による排出削減(植林とは異なる)
  6. JCM(Joint Crediting Mechanism, 二国間クレジット制度)は、途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用するもの。