インド

森林の概況

一般情報

インド共和国(以下、インド)は、28の州(State)と8つの連邦直轄領(Union Territories)、合計36の行政区で構成される連邦共和制国家である。人口は13億9,300万人(2021年時点)、1人当たりGDPは2,100米ドル(2019年時点)である。

北東部にはカラコルム山脈やヒマラヤ山脈等の大山脈地帯が広がり、中部はガンジス川やインダス川が流れる沖積平野地帯が広がる。西部には岩石や砂からなる砂漠地帯があり、南部のインド半島はデカン高原と呼ばれる高原地帯となっている。さらに、アラビア海のラクシャディープ諸島と、ベンガル湾のアンダマン・ニコバル諸島の2つの主要な島嶼群がある。

気候は、乾燥砂漠気候(インド西部、主にラージャスターン州)、高山性ツンドラ氷河気候(インド北端部)、熱帯性湿潤気候(インド南西部や島嶼部)、温帯性湿潤気候、ステップ気候の6つに分類される。また、季節は冬(12月~2月)、夏(3月~6月)、南西モンスーン季(6月~9月)、モンスーン後(10~11月)の4つの季節がある。年間降水量は地域によって大きく異なり、南部の西ガーツ山脈、北東部のヒマラヤ近郊やメガラヤ州地域は年間2,500mm以上の降雨があるが、インド最北端のカシミール州や西部ラージャスターン州の年間降水量は400mmに満たない。特に、ラージャスターン州、グジャラート州、ハリヤナ州、パンジャブ州の一部には60mm未満の地域がある。

図1 インドの地域区分および地理的特徴
出典:森林を活用した防災・減災の取組Country Report2021年度インド共和国(森林総合研究所、2022)

農業・農民福祉省による2022年時点のインドの土地利用区分毎の面積を表1に示す。耕作地が約1億4,100万ha(約43%)と最も大きく、次いで森林が約7,200万ha(約22%)である。

土地利用区分面積(万ha割合(%
国土面積32,874.7 
土地利用の報告面積30,648.693.23
森林7,200.021.90
耕作不適地4,409.313.41
牧草地・放牧地1,028.13.13
多年性作物・果樹301.30.92
耕作可能な荒廃地1,192.03.63
現在の休耕地以外の休耕地1,091.73.32
現在の休耕地1,325.54.03
純耕作面積14,100.742.89
表1 インドの土地利用区分面積(2022年時点)
出典:India State of Forest Report 2024 

森林の定義

インドにおいて、森林定義は樹冠被覆率10% 以上で面積が1.0ha以上の全ての土地とされており、果樹、竹、ヤシを含む。また、森林は樹冠密度によって密林(Very Dense Forest)、閉鎖林(Moderately Dense Forest)、疎林(Open Forest)の3つに分けられる(図2)。森林の他に、樹冠被覆率10%未満の土地で主に灌木が生育する低木林(Scrub)、単木の樹木被覆(Tree Cover)がそれぞれ定義されている。樹木被覆には、村落内の樹木、屋敷林、道路/運河/外堤沿いの樹木、都市部の街路樹等の樹木、さらには点在する樹木等、森林の定義を満たさない樹木の小さなパッチなどが含まれる。

図2 森林の状況
出典:India State of Forest Report 2024

インドはヒマラヤ高山林や砂漠地帯の灌木、乾燥地域の落葉樹林や湿潤地域の常緑林、沿岸域のマングローブ林等の多様な生態系に、固有種を含む多種・多数な生物が生息しており、生態的メガダイバーシティ国家とも呼ばれる。このような多様な生態系タイプに基づき、インドの森林は221の森林タイプに分類され、各森林タイプは16の森林タイプグループに整理される。各森林タイプの面積および分布を表2、図3に示す。

グループ森林タイプグループ(Forest Type Group :FTGFTG面積(万ha蓄積量(百万m3 単位面当たり積蓄積量(m3/ha
1 熱帯湿潤常緑林(Tropical Wet Evergreen Forests)238.9379.0158.7
2熱帯半常緑林(Tropical Semi-Evergreen Forests)638.9442.369.2
3熱帯湿潤落葉林(Tropical Moist Deciduous Forests)1,331.91057.979.4
4沿岸および湿地林(Littoral and Swamp Forests)56.120.937.3
5熱帯乾燥落葉林(Tropical Dry Deciduous Forests)2,805.81067.638.1
6熱帯有刺林(Tropical Thorn Forests137.618.813.7
7熱帯乾燥常緑林(Tropical Dry Evergreen Forests)8.02.935.8
8亜熱帯広葉樹丘陵林(Subtropical Broadleaved Hill Forests)310.2210.868.0
9亜熱帯松林(Subtropical Pine Forests)181.1175.296.7
10亜熱帯乾燥常緑林(Subtropical Dry Evergreen Forests)1.42.3163.9
11山地湿潤温帯林(Montane Wet Temperate Forests)194.5295.9152.2
12ヒマラヤ湿潤温帯林(Himalayan Moist Temperate Forests)298.2736.6247.1
13ヒマラヤ乾燥温帯林(Himalayan Dry Temperate Forests)44.985.8191.2
14亜高山林(Sub Alpine Forests)125.0371.0296.8
15湿潤高山低木林(Moist Alpine Scrub)5.36.2115.5
16乾燥高山低木(Dry Alpine Scrub)20.824.7118.5
 合計6,398.34897.7 
表2 インドの森林タイプグループ別面積と蓄積量(2023年時点)
出典:India State of Forest Report 2024
図3 インドの森林植生
出典:India State of Forest Report 2019

森林面積

2023年時点におけるインドの森林面積は7,153万haで、国土面積の21.76%を占める。表3は2023年時点の森林被覆状況を示す。また、図4はFAOのGlobal Forest Aseessment Reportによる森林面積の推移を示す。森林面積は1990年の約6,400万haから、2020年には約7,200万haまで増加しており、30年間で約800万haの森林が造成・回復されたことになる。図5にインドの森林分布を示す。

区分区分2面積(万ha)割合(%)
森林 7,153.421.76
密林(Very Dense)樹冠被覆率 70% 以上(1,025.0)(3.12)
閉鎖林(Moderately Dense)樹冠被覆率40- 70%(3,076.7)(9.36)
疎林(Open)樹冠被覆率 10- 40%(3,051.7)(9.28)
低木林(Scrub)樹冠密度10% 以下436.21.33
樹木被覆(Tree Cover)1,120.13.41
その他24,164.973.50
合計 32,874.7100.00
表3 森林被覆面積(2023年時点)
*括弧書きは森林の内数を示す。
出典:India State of Forest Report 2023
図4 森林面積の推移
出典:Global Forest Resource Assessment 2020 Report India(FAO, 2020)
図5  2023年時点の森林被覆
出典:India State of Forest Report 2023

森林減少・劣化

インドの森林減少・劣化は1970年代以降で顕著に発生していたことを受け、インド政府は1980年に森林保全法を制定し、政策の重点ポイントを木材生産から森林保全に移行させた。1988年に導入された共同森林管理(JFM :Joint Forest Management)をはじめとする様々な森林政策の取り組みにより、直近20年以上は森林被覆面積が増加傾向にある。

一方で、インド北東部の州や少数民族が居住する地域では、人口増加や地力収奪的な焼畑農業などの非持続的な農法、その他の開発活動が続いており、森林被覆率の継続的な減少が見られ、森林保全の必要性は依然として非常に高い。また、動植物の生息地の消失と分断、在来植物と競合するメスキート(Mesquite)やランタナ(Lantana camara)等の外来植物の侵入と拡大により、生物多様性の低下がみられる。

また、インドは世界で三番目に二酸化炭素排出量が多い国であり、二酸化炭素排出量削減においても大きな課題に直面している。その他にも、2020年に西ベンガル州とオリッサ州でサイクロン・アンファンによって合計3,890万人が被災しており、気候変動・異常気象に伴う自然災害が深刻化しており、防災減災対策も急務となっている。さらに、インドが直面する多くの環境問題の一つに慢性的な水不足があげられる。インドの一人当たりの年間水利用可能量は、1951年の5,178 m3から、1991年の2,210 m3、2011年の1,651 m3、2021年の1,486 m3まで顕著に減少している。

インドの主な森林減少・劣化要因

  • 薪炭生産および農地転用:立木の伐採を伴い、過去数世紀にわたって森林減少を引き起こしてきた。
  • 家畜放牧:家畜の森林への侵入と採食とともに、併せて移動耕作も確認されており、森林劣化の最大要因と考えられている。森林面積の75%以上に影響を及ぼす。
  • 開発事業(鉱業、道路等):直近15年間で約5.8万haの森林が鉱業開発、4.5万ha以上が道路建設を要因としてそれぞれ減少している。

森林政策

1968年に制定されたインド連邦共和国の憲法によると、森林に係る行政手続き等は中央政府と州政府の共通管理事項とされており、中央政府では環境・森林・気候変動省Ministry of Environment, Forests and Climate Change(MOEFCC)が担当する。MOEFCCは森林管理、野生生物保護、公害防止、環境アセスメント、動物福祉などの様々な環境に関連する事項を所管する。

各州政府には、森林管理等を担当する組織として森林局(Department of Forests)がある。各州政府によって組織の呼称、組織構成、担当業務が異なる。連邦制のため各州政府の独自性があり、森林管理等の基本的な制度や理念は中央政府の指導や公務員制度などにより共通に定められているが、その態様は州の歴史的背景や、自然条件などによって大きく異なる。このため、州政府における森林管理の実施状況が州ごとに大きく異なり、非常に進んでいる州もあれば、遅れている州もある。中央政府への資料の提出・作成状況にもばらつきがあり、国全体の森林管理・経営の状況等を概括して把握することをかなり困難にさせている。

インド森林法(1927年)では保存林(Reserved Forests)、保護林(Protected Forests)、村落林(Village Forests)の区分が設けられ、所有者のいない森林は基本的には政府の管理下に置かれるものとし、現在のインドの国有林制度(州有林制度)の基盤が形成された。森林管理は地域住民を排除した施業計画に基づくものであったため、現場では様々な軋轢が生じていた。1988年には森林政策の転換が図られ、森林資源の排他的な管理・経営を改め、地域住民などが参加して州森林局などと共同して、森林の管理・経営を行う共同森林管理(JFM)が導入された。現在では、JFMの推進がインドの森林・林業政策の柱となっている。

インドの森林管理に関連した政策と法律を表4に示す。北東7 州は森林の所有形態や地方自治制度が異なるため、各州政府での法令・規則の確認が必要となる。また、NTFPの採取・取引については各州で異なる規則が適用される。

法令・政策概要
インド森林法(1927 年)森林保護、林産物規制、林産物の徴税に関する先行森林法を統合 し、保存林、保護林、村落林の指定 や 違反行為とそれに対する罰則を定義
野生動物保護法(1972 年)保護区(野生生物保護区、国立公園、保全地域、コミュニティ保 全地域)を指定 し、野生動物の狩猟と動物の商取引を禁止 した。 国家トラ保護局、インド野生生物評議会などの設立を定めた。
森林保全法(1980 年)森林以外の利用目的(non-forest purpose)のために森林を利用する場合に、中央政府からの事前承認の取得を州政府に義務付けた。
森林保全および森林開発計画規則(Van Sanrakshan Evam Samvardhan Adhiniyam)(1980年/2023年改定)森林保全法に則り、森林の保護解除や特定の非森林目的での林地の利用制限について規定。2023 年規則では、中央政府によるプロジェクトの承認、補償植林、違反に対する手続きと各種手続きに係る必要事項等が規定されている。
国家森林政策(1988年)木材生産より、森林保護を優先することが位置付けられた。森林・樹木の被覆率33.3%(国土の1/3)を国家目標として掲げ、特に丘陵地や山岳地帯は、流域保全や土壌保全のために、土地の2/3を森林・樹木で被覆するとした。
JFM に関わる環境森林省通達(1990 年)JFM の制度化 および森林に依存するコミュニティへの森林へのアクセスと用益権の承認
パンチャーヤト・ラージ(指定地域適用)法(1996 年)非木材林産物に対する包括的な管理権限の、村民総会とパンチャーヤト(伝統的な村落レベルの統治・自治組織)への付与
JFM に関するガイドライン(2000 年/2002 年改定)JFM に関する基本事項の明確化:村落単位で設立される共同森林管理委員会(Joint Forest Management Committees:JFMC) の法的裏付け、女性の参加、 良好な森林への JFM の適用拡大、マイクロプランの準備、紛争解 決、自主活動グループの認知など
2006 年国家環境政策森林に依存するコミュニティの伝統的権利の法的承認 荒廃した森林や荒地の植林を通じた森林・樹木被覆の増大と、私有地・公有地の樹木被覆の拡大 保護区面積の拡大と生物多様性ホットスポットの保護
気候変動に関する国家行動計画(National Action Plan on Climate Change:NAPCC)(2008 年)自然資源保全と調和のとれた経済発展の必要性を述べ、8つの具体的なミッションを掲げた。このうち、持続可能なヒマラヤ生態系ミッションと緑のインドミッション(GIM)の2つは、森林管理や保全等を通じた気候変動への対応ミッションとなっている
指定部族およびその他の森林居住者(森林権利認定)法(2006 年)森林に居住する指定部族、その他の伝統的森林居住者の森林に関する権利の承認と付与 森林に関する権利の性質と範囲を決める機関としての村民総会の設置
国家植林プログラム(NAP)(2002年)劣化した森林の生態学的回復と、森林周辺地域の特に貧困層の生活向上を目的とした、住民参加型の植林プログラム。
グリーン・インディア・ミッション(GIM)(2014年)JFMCを通じた保護、再生、拡大の取り組みを通じて、インドの森林被覆を強化することを目的としている。植林や生態系修復の取り組みのため、これまでに17の州と1つの連邦直轄領に約944.5億ルピー1が充てられた
補償植林基金管理計画局CAMPA森林保全法および森林開発計画規則に沿って、森林以外の利用目的(non-forest purpose)による森林の転用によって引き起こされる森林被覆と生態系サービスの損失を補償する
マハトマ・ガンジー全国農村雇用保証制度The Mahatma Gandhi National Rural Employment Guarantee Act (MGNREGA)労働を志願する成人がいるすべての世帯に対し、会計年度毎に少なくとも 100 日の賃金保証雇用を提供することにより、国の農村地域の世帯の生活保障を強化した。この雇用によって広く植林が実施されている
都市緑化推進政策Nagar Van Yojana(NVY)(2020年)都市部および都市周辺部の緑地の開発に焦点を当てたスキーム。約431.8億ルピーが割り当てられ31の州および連邦直轄地で546のプロジェクトが承認された。
国家アグロフォレストリー政策(2014年/2024年改定)世界に先立って導入されたアグロフォレストリー政策。2024年に改定され、2030年までに2,600万haの劣化した土地の回復を目指している
Mangrove Initiative for Shoreline Habitats & Tangible Incomes (MISHTI) (2023-2028年)インドの海岸線に沿ったマングローブの再生と促進を目指し、沿岸の生息地の持続可能性を高めることを目的としたイニシアチブ。アンドラプラデーシュ州、グジャラート州、ケララ州、オリッサ州、西ベンガル州、ポンディシェリー工科大学などに約18億ルピーが割り当てられた。
表4 インドの主な森林関係法令・規則

インドは国家森林政策(1988)を策定して、森林・樹木の被覆率33.3%(国土の1/3)を国家目標として掲げ、植林や森林保全活動に取り組んでいる。特に丘陵地や山岳地帯は、流域保全や土壌保全のために、土地の2/3を森林・樹木で被覆するとしている。この目標は現在のインドの国家計画である「新インド戦略@75(Strategy for New India @75)」にも継承されている。

植林関連基礎情報

植林に関する政策

国家植林プログラム(National Afforestation Programme:NAP)

国家植林プログラム(NAP)は、劣化した森林の生態学的回復と、森林周辺地域の特に貧困層の生活向上を目的とした、住民参加型の植林プログラムである。環境・森林・気候変動省(MOEFCC)が4つの類似する植林・森林回復プログラムを統合した事業(Samnavit Gram Vanikaran Samridhi Yojana、SGVSY)を拡充したもので、2002年に開始された。州森林開発庁(State Forest Development Agency、SFDA)、州森林区レベルの森林開発庁、および村落単位で設立される共同森林管理委員会(JFMC)が連携して実施する。2010-11年には、28州に州森林開発庁が設立された。事業開始から2014-15年末までの累計で約209万haの植林が実施された。また植林活動の他に、植林地の維持管理、土壌と水土保全、フェンス設置やモニタリング・評価などの補助的な活動も含まれる。

インド緑化活動(The National Mission for a Green India、GIM)

気候変動に係わる国家行動計画(National Action Plan on Climate Change、NAPCC)の下に形成された8つのミッションのうちの一つで、2014 年に開始された。GIM は、森林保全、回復、森林被覆の増加を目指す。さらに、気候変動における温室効果ガス削減のために、森林炭素蓄積量が増加する緩和・適応策を併せて実施することになっている。2024年時点まで、約16万haで植林・森林再生の取り組みが実施されてきた。

GIMミッションの目標
  • 森林・樹木被覆を500万haまで拡大し、さらに500万haの森林および森林に区分されない低木林・樹木被覆の質を改善する。
  • 燃料、飼料、木材、非木材林産物(NTFP)などの供給と併せて、炭素固定、水源涵養、生物多様性などの生態系サービスを改善・強化する。
  • 森林資源に依存する約300万世帯の生計向上を目指す。

植林の歴史

イギリスによるインド植民地時代において、18世紀半ば以降、イギリスはインドから綿花、ゴム、お茶を輸送するための鉄道建設(枕木)や造船に大量の木材を必要とした。1865年のインド森林法により、チーク、サル、デオダーなどの高収量の木材が生い茂る森林は国有財産となった。これら森林からの木材生産を確保するため、イギリスは地域住民の森林資源利用を制限し、牧畜の放牧も禁止した。

チークは、インドの高温多湿な気候によく適応し、魅力的な木材の供給源として積極的に植林された。開けた草地や低木林は、チークの単一植林地に転換された。ヒマラヤ地方の広大なプランテーションでは、樹脂の供給源としてヨーロッパや北アメリカ産のマツ類が植林され、木材、飼料、燃料の供給源としてオーストラリア産のアカシアが植林された。また、ワトル(Acacia mearnsii)は1861年に初めて苗木が導入され、数十万本の苗木が西ガーツ山脈のニルギリス地区に植えられた。 チークは中央インドで在来樹種のサルを駆逐しており、マツ類は在来樹種であるオークを駆逐してヒマラヤの大部分に広がった。オークとサルはどちらも有用な森林資源であり、燃料、飼料、肥料、薬、油として地域住民に利用されてきた。これらの在来樹種の衰退は、同樹種を含む森林に生計を依存する地域住民の貧困を招いた。また、1861年にワトルが導入されたニルギリス地区は、生態学的に生物多様性のホットスポットであり、生物種が豊富な世界的にも珍しい生態系である。しかし、ワトルが同地区に導入されて以降、ワトルは侵略種として山岳地帯の草原の大部分を占有するようになった。

植林実績

政府は植林面積(実績)を公表していない。FAOのGlobal Forest Assessment Reportでは、1990年で約600万haだった植林地面積は、2020年で1,300万haに増加しており、30年間で約700万ha植林地面積が増加したことになる。これは1990年から2020年までの森林増加面積800万haの約9割に該当する。

 図6 植林地面積の推移
出典:Global Forest Resource Assessment 2020 Report India(FAO, 2020)

植林のタイプ

補償植林

補償植林とは、ダムや道路建設、鉱業・産業などの開発に伴う森林の転用により発生する損失等を補填するため、代替用地で実施される植林である。森林保全法(1980年)により、森林以外の利用目的(non-forest purpose)で森林を転用する開発事業者は、補償植林に必要となる経費を政府に支払う必要がある。徴収された経費は、補償植林基金管理・計画庁(Compensatory Afforestation Fund Management and Planning Authorit、CAMPA)によってCAMPA基金として管理され、補償植林だけでなく自然再生支援、森林の保全・保護、野生生物の保全・保護、その他の関連活動、およびこれらに関連または付随する活動に徴収した資金が活用される。

アグロフォレストリー

インド政府は2014年に、農村世帯、特に小規模農家の生産性、雇用、収入、生活機会の改善を目的とした国家アグロフォレストリー政策(NAP)を策定した。2016年から2017年にかけて、農地での植林を奨励し拡大することを目的に、持続可能な農業のための国家ミッション(National Mission for Sustainable Agriculture:NMSA)の中の一つとして、アグロフォレストリーに関するサブミッション(Sub-Mission on Agroforestry:SMAF)が発足された。SMAFは「一本の木を植えよう(Har Med Par Ped)」をモットーに掲げており、キビの普及、参加型環境保護、ミッション・ライフ(環境のためのライフスタイル)の選択、国家が決定する貢献(NDCs)および持続可能な開発目標(SDGs)に向けた森林面積、森林地上部および土壌炭素貯留量の増加を目指している。

アグロフォレストリーの樹木被覆面積、2013年106.3万haからから2023年127.6万haに変化しており、21.3万ha、20%増加した。州別にはマハラシュトラ州が樹木被覆の増加率が最も高く、次いでラージャスターン州、ウッタルプラデーシュ州の順となる。

マングローブ植林

沿岸生息地と具体的な収入のためのマングローブイニシアチブ(Mangrove Initiative for Shoreline Habitats & Tangible Incomes:MISHTI)の下、政府は州および連邦直轄領でマングローブ植林活動への財政支援を実施している。MISHTIには、マングローブの重要性とその役割について人々を啓発する意識向上キャンペーンも含まれる。植林活動は、地域住民の自主性と活動の持続性の確保を重視して、地域社会やNGOを巻き込んだ参加型で行われている。MISHTIはインドの脆弱な沿岸地域の持続可能な開発と保護に向けた重要な取り組みである。

図7 マングローブ植林の状況
出典:India State of Forest Report 2023

インド植林技術情報

近年、インドの森林被覆面積は全般的に増加傾向を示しており、様々な植林技術の導入が進んでいる。インドでの実践が確認された植林技術事例は以下のとおり。

宮脇方式

日本の生態学者である故宮脇明氏(横浜国立大学名誉教授)が提唱した宮脇方式植林は、高木性の郷土樹種から、多樹種を用いて混植・密植型植林を行うことで、短期間での自然植生回復を目的としたものである。様々な在来種を密植することで共存競争を促し、成長が早く、耐性の高い森林生態の構築を目指している。また宮脇方式の植林は、密集した林分を造ることで、二酸化炭素の固定、気温の低下、湿度の向上に役立ち、熱波の影響を軽減し、気候変動における生態系レジリエンスにも貢献できると考えられている。初期投入を多く必要とし、植林に必要な苗木本数の確保等が課題となる。

インドでは、都市部と農村部で宮脇方式が広く採用されている。ムンバイ、ベンガルール、チェンナイなどの都市では、都市のヒートアイランド対策と大気質の改善のために、宮脇方式による植林を導入している。宮脇方式による植林は、3年以内に自生する生態系の造成を目指しており、急速に開発が進む都市部での生態系の劣化対策に有効と考えられている。

バイオミミクリー法 Biomimicry Method

バイオミミクリーとは、自然のプロセスや生態系を模倣して人為起源の環境問題の解決を図る手法である。植林においては自然林の構造・構成・機能を模倣した植物群落の創出に繋がるとされる。バイオミミクリーに基づく植林は、土壌の保全、保水力、気候変動に対するレジリエンスを向上させると考えられている。参考とする自然植生の正確な把握とともに、詳細な計画制定とモニタリングを必要とする。

インドでは、劣化した景観の回復と生物多様性の向上を目的とした植林活動が実施されている。例えば、アラバリ生物多様性公園では、本来の自然植生を参考にして在来種を再造林して、生態系の回復を図っている。

な植栽樹種

インドにおける始めての生産林植林は、1840年のケララ州のニランブル(樹種はチーク)とされている。その後、チークを主体とした植林が中央および南部の州で実施された。土壌保全や燃材、用材等生産林、飼料生産を目的とした植林は、1950 年代の後半から開始された。インドにおける代表的な植林樹種特性は以下のとおり。また主要な樹種一覧を表5に示す。

  • チーク(Tectona grandis):インドの高温多湿な環境に適応しており、木材は耐久性があり利用価値が高い。
  • サル(Shorea robusta):容積密度が高く、耐久性があることからインドの林業において重要な役割を果たしてきた。
  • デオダー(Cedrus deodara):国有林の森林プランテーションで利用されてきた。
  • ニーム(Azadirachta indica):薬用成分や防虫効果がある。
  • バニヤン(Ficus benghalensis):インドにおいて文化的・宗教的に重要な樹種であり、遮光効果(日陰)や環境保全のためにも用いられる。
  • ピーパル(Ficus religiosa):インドにおいて文化的・宗教的な重要な樹種で、環境保全にも用いられる。
  • マンゴー(Mangifera indica):果実は食用になる。遮光効果(日隠)と土壌保全にも用いられる。
樹種名和名
Eucalyptus spp.ユーカリ類
Tectona grandisチーク
Accacia niloticaニロティカアカシア (gum                   arabic tree)
Accacia auriculiformisカマバアカシア
Bambooタケ
Accacia catechuアセンヤクノキ
Pinus roxburghiiヒマラヤマツ
Dalbergia sissooインドシタン(ローズウッド)
Shorea robustaサラノキ
Gmelina arboreaキダチョウラク
Anacardium occidentaleカシュー
Casuarina equisetifloliaモクマオウ
Pinus kesiyaカシアマツ
Cedrus deodaraヒマラヤスギ
Populus spp.ポプラ類
Bombax ceibaキワタ 
Accacia mearnsiiモリシマアカシア
Picea smithiana, Abies pindrowヒマラヤトウヒ、ニシヒマラヤモミ
Hevea brasiliensisパラゴムノキ
Santalam albumサンダルウッド
表5 インド内の主要な植林樹種一覧

植林ポテンシャル

植林可能エリア(Atlas of Forest Landscape Restoration Opportunitiesより)

World Resources Instituteが自然環境要因、社会的要因を考慮したうえで、今後の森林植生の回復見込みがあるとする森林再生可能エリアを図8に示す。インドは、降雨が一定量以上期待できる等の潜在的植林可能エリアが国土の大部分を占める一方で、人口や農地分布等の土地利用を除いた森林再生可能エリアは多くない。

図8 インドの森林再生可能エリア
出典:Atlas of Forest Landscape Restoration Opportunities  https://www.wri.org/applications/maps/flr-atlas/#

また、インド国家森林インベントリ(National Forest Inventory、NFI)では、樹冠被覆率40%以下の森林区域における植林の可能性を評価している。植林の可否は現地調査において、半径60mの円形プロットの斜面傾斜、土壌深度および、植生や気候要因等で判断して評価される。斜面斜度が40度以上、土壌深度が15cm以下の条件は植林不可と判断される。また、樹冠被覆率40%以上の場合は、植林の適用外とされる。India State of Forest Report 2023では、森林区域内の33.2%で植林の可能性があると評価し、植林不可は13.2%、適用外は53.6%と報告されている。

植林活動における課題

人口増加に伴い、森林資源を活用する産業や農業の拡大によって、森林利用の圧力が増大している。森林の維持・保全による生態系サービスの提供と、森林転用による開発・発展という相反する土地利用計画が、森林管理における大きな課題となっている。また、土地利用計画の他に、インドにおける植林、森林管理において、以下のような課題がある。

  • エリアの特定と利用可能性:森林再生に適した土地の選定
  • 試験研究成果の不足地域環境と生態系を考慮した森林再生方針を決定するための試験研究の不足
  • ステークホルダー間の利益相反異なるステークホルダーが競合する利益創出を求めるために引き起こされる森林保全活動等の阻害
  • 違法な樹木の伐採          違法伐採による森林再生の阻害
  • 人為的圧力(耕作)      移動耕作、輪作およびその他の耕作活動による森林減少
  • 気候変動         気候変動の影響による乾燥地域の拡大や砂漠化、同環境における植林技術の向上
  • 貧困と資金調達               森林保全活動により制約を受ける森林に依存するコミュニティの財政的制約と貧困

これらの課題を抱えながらも、インドでは多様な植林政策の施行(木材生産から森林保全への転換など)や植林支援により、森林面積の拡大に繋がる植林活動を推進している。

図9 インドのテランガーナ州の植林の写真
出典:Forest restoration: challenges and opportunities for India (Priyanka Shankar)

森林炭素クレジットの取り組み

インドにおけるVCS(Verified Carbon Standard)登録状況一覧で、森林関係プロジェクトは合計125件が確認される。125件の内造林・再造林・植生回復活動を含む活動が118件、森林管理改良が2件、REDD+が9件、確認される(複数活動を含むプロジェクトは重複して計上する)。登録が完了している主な森林関係プロジェクトを表6に示す。

IDNameProponentProject TypeAFOLU ActivitiesMethodologyEstimated Annual Emission Reductions
3892RESTORATION OF HOMESTEAD LAND OF POOR RURAL COMMUNITIES IN ASSAM & MEGHALAYAMultiple ProponentsAgriculture Forestry and Other Land UseALM; ARRAR-ACM0003170,282
2404Reforestation of degraded land by MTPL in IndiaMangalam Timber Unit of Mangalam Cement LimitedAgriculture Forestry and Other Land UseARRAR-ACM0001146,998
1704Agricultural Land Management  project in Beed District, India implemented by Godrej Properties Ltd.Godrej Properties LtdAgriculture Forestry and Other Land UseREDDVM001733,764
1328Araku Valley Livelihood ProjectLivelihoods Fund SICAV SIFAgriculture Forestry and Other Land UseARRAR-ACM000380,660
1463India Sundarbans Mangrove RestorationLivelihoods Fund SICAV SIFAgriculture Forestry and Other Land UseARRAR-AM001451,249
表6 インドにおける森林関連のVCSプロジェクト

植林を実施している民間企業・NGO

インドでは、植林活動に積極的に取り組む民間企業やNGOが複数ある。これらの組織の多くは地域社会、政府機関、およびその他の利害関係者と協力して、環境の持続可能性を促進し、森林減少・劣化対策を進めている。インドで植林活動を実施する団体の事例を表7に示す。

No.団体名地域概要
1ラー財団ナシクリグリーン・ネイション(ReGreen Nation)という森林再生プロジェクトを2022年から開始する。荒廃した森林に、耐乾性の強い樹種とともに、換金樹種(レモン、マンゴーなど)、薬用樹種や稀少樹種の植林を行い、森林再生を目指す。2024年現在までに10.5万本を約243haに植林しており、将来的には2030年までに約2万haの森林再生を目指す。
2パナソニックホールディングス株式会社ダウラットプール(Daulatpur)苗を育てる畑の管理や植林およびアフターケアの分野において、現地のコミュニティに生活の糧を生み出す。はじめに、1エーカーの土地に苗木を植えて、それらが確実に成長するよう管理する。
3東京海上日動火災保険ヴァドガム2009年からNGO国際マングローブ生態系協会(ISME)、現地NGODaheda Sanghとともに、インドマングローブ協会の協力を得ながら、ヴァドガム村の住民とともに植林事業を進める。2023年度の植林面積は70ha、累積面積は1,125ha(未確定)となる。
4JICA全国参加型森林管理手法である共同森林管理の普及拡大支援を中心に、1990年代から森林管理の協力を実施している。これまでに大規模植林、森林周辺住民の生計向上、生物多様性保全等の協力を実施してきた。
5ネイティブ グリーン財団Native Green Foundationアッサム (Assam)グワハティに拠点を置き、植林、廃棄物管理、天然資源の保護に関する意識啓発を目指す。
6植林 エコ サークルPlant Eco Circleビハール (Bihar)ワークショップ、講義などの意識啓発活動と合わせて植林活動を行い、積極的な若者を育成する。
7ムクル マダブ財団Mukul Madhav Foundationマハラシュトラ と グジャラート (Maharashtra & Gujarat)2003年からの植林活動を通じて約1.9万本を植栽した。
8ハイドラ グリーンズ財団Hydra greens Foundation全国デリー、グルガオン、ノイダ、プネーなどの都市部で森林の造成、湖の再生に取り組む。
9グリーン ヤトラ Green Yatra全国2030年までに1億本の木を植えることを目指しており、アグロフォレストリーで農家を支援し、都市の生物多様性保全に取り組む。
10セイトゥリーズ SayTreesバンガロール (Bangalore)環境保護、特に植林と森林再生プロジェクトに取り組む非営利団体である。 植林とともにコミュニティが環境保全に関与する意識啓発を実施する。また、環境保護の重要性を強調する研究、教育、啓発、および保全活動を行う。
11セイブ グリーン Save Greenバンガロール (Bangalore)インフラ開発による森林破壊を防ぎ、森林の重要な役割についての認識を高めるため、植林と保全活動を行う環境団体である。これまでに9.5万本以上の植林を行い、4,000人以上のボランティアが参加した。
12アアワハン Aahwahan全国180万本以上の植林実績があり、国内外で認知される。サタラ、ジャイプール、アーメダバード、デリー、ハイデラバード、ムンバイ、チェンナイ、プネー、バンガロールなど、インド内のさまざまな都市で複数の植林活動が進行中である。サタラで75万本の植林した他、複数の都市で1万本から10万本の植林を目標に都市緑化を進める。
13ワン ステップ トゥワード ピース One Step Toward Peace全国2025年6月までに50万本の苗木を植えることを目指す。地球温暖化の緩和のため、二酸化炭素排出量を削減し、森林再生プログラムを実施する。
14デラ サチャ サウダ Dera Sacha Sauda ((DSS))全国ハリヤナ州、パンジャブ州、デリー州、ウッタルプラデーシュ州、ラージャスターン州、ウッタラーカンド州、ヒマーチャルプラデーシュ州、マハラシュトラ州、グジャラート州、ビハール州、カルナータカ州、マディヤプラデーシュ州など、インド内のさまざまな州で合計約73.9万本の植林を実施している。
15シルツリ SiruThuliコインバトール (Coimbatore)コインバトール地域の環境回復に取り組む。Clean KovaiとGreen Kovaiを中心に、30以上の水域のシルト除去、800万m3の貯水容量の強化、750以上の雨水貯留構造物の創設、70万本の植林を実施する。
16フォレスト クリエイターズ Forest Creators全国2014年に設立され、非営利団体Enviro Creators Foundationを通じて、インド全土に宮脇方式で100万本以上の植林を実施している。マネクプールのハリット・ミヤワキ・フォレスト・プロジェクト、アポロ・タイヤ環境イニシアチブ、デリーのカロルバーグのユニティ・グループのプロジェクト、タタ・グループのグリーン・ディワリ・イニシアチブ等を実施している。
17サンカルプタル SankalpTaru全国全国での植林の促進を目的とした環境NGOである。GPSタグなどの革新的な技術を使用し、デジタルプラットフォーム上で実行されているプランテーションドライブで、進捗状況の追跡を可能としている。2013年以降、これまでに何百万本もの植林を実施した。
18ドホラキア 財団 Dholakia Foundation全国環境を保護し、持続可能な成長を目的としたインドの環境・社会福祉団体である。これまでに2,500万本以上の植林を実施した。
19プロジェクト ネルダ Project Neldaプネー (Pune)インド内での炭素排出量削減の一環として、プネーでの植林と森林再生の取り組みを支援する。
21-インダスインド バンク IndusInd Bank, -バラト ペトロリアム Bharat Petroleum, -バラト ペトロリアム Publicis Groupe India, -ティーエルジー インディア TLG India, -ビエヌピー パリバ インディア ファウンデーション BNP Paribas India Foundation全国インド全土の都市緑化活動を実施する民間団体である。
表7 インドにおける植林活動事例
出典:Top 12 leading tree planting organizations in India – AZ Big Media

植林に関する参考資料リスト

植林に関するその他情報収集リスト