カンボジア

アジア航測株式会社 社会インフラマネジメント事業部 海外プロジェクト部 海外技術課

(2024年3月時点)

Ⅰ 森林の概況

1自然地理と土地利用区分の概要

 カンボジア王国(以下、カンボジア)は、東南アジアのインドシナ半島南部に位置し、国土面積は18,16万haである。チベット高原に源流を発する国際河川メコン川が国土の東部を北から南に縦断して流れ、その周囲にカンボジア平原(メコン川下流平野)を形成している。国土の中央西部には、東南アジア最大の淡水湖であるトンレサップ湖があり、その周辺に沖積平野が広がっている。山地はそれぞれの平野を取り囲むように、南部のカルダモン山脈や東部のモンドルキリ高原等が発達しており、それぞれ森林地帯を形成している。

 気候は、平野部の殆どがサバナ気候帯に属し、南部のカルダモン山脈を含む沿岸地域が熱帯モンスーン気候帯に属している。どちらの気候帯も雨季と乾季が明瞭に分かれているのが特徴で、プノンペンでは年降水量(1,455mm)の9割弱の1,277.3mmが雨季(5-11月)の7か月間に集中して降っている(2023年)。なお、年間降水量は平野部や高地、山岳地域、沿岸部によって差があり、その差がそれぞれの土地で成立しうる植生タイプに影響を与えている。

2森林の定義

カンボジアは森林を以下のとおり定義している(表 1)。

用語定義
森林森林とは、湿地、低地、乾燥地などの自然生態系または植林地の単位であり、少なくとも0.5haの面積に高さ5m以上の自然樹木または植林樹木で覆われ、樹冠率が10%以上のものをいう。ゴム、アブラヤシ、チーク、アカシア、ユーカリなどの植林地も森林に分類される。
表 1 森林の定義

この定義はUNFCCCのREDD+プログラムのものと、ほぼ同一のものであり、ゴムとアブラヤシのプランテーションも森林として認めている点のみが異なっている。

3森林の区分

2018年時点におけるカンボジアの森林面積は、851万haで、カンボジアの総面積の46.86%を占めている。植生は各地域の年間降水量によって常緑樹林や半常緑樹林、落葉樹林が成立する。また、南西部の海岸沿いにはマングローブ林が分布する。さらに、雨季には増水したメコン川の水が上流のトンレサップ湖に逆流し、湖の規模が拡大する。この浸水域には「浸水林」(Flooded Forest)呼ばれる独特な形態の植生が分布している。図1に森林分布域を含む土地利用/被覆図を示す。

図 1 2018年時点のカンボジアの土地利用/土地被覆図(出典:MoE, 2020)

表2にカンボジアの森林植生の区分と、その概要、面積を示す。

森林タイプ概要・分布域等面積(ha)国土に占める割合(%)
常緑樹林常緑樹によって被覆されている植生28015.41
半常緑樹林常緑樹と落葉樹が混交している植生1045.72
落葉樹林乾燥落葉混交樹林と乾燥フタバガキ林からなる植生32117.65
浸水林トンレサップ湖に現れる植生。ほとんどの森林は低くて荒廃しており、モザイク状にしか残っていない。472.6
再生森林択伐、農地利用、人為的火災等、人間の活動の痕跡が明確に確認できる場所で自然再生した森林。 ✓植林か自然再生か区別が難しい森林を含む ✓自然再生と植林や播種木が混在するが、成長後は自然再生林が森林蓄積の50%以上を占めると予想される森林を含む ✓放棄された森林や、10年以内に森林に再生しうる裸地を含む180.97
竹林タケが優先種となっている植生120.67
マングローブ林海岸沿いのマングローブからなる植生30.17
内陸性マングローブ林海岸エリアのマングローブ林の内陸側に現れる植生30.14
マツ林マツが優先する植生10.05
マツ植林植栽されたマツが優先する植生00.02
植林地チーク、ユーカリ、アカシア40.22
オイルパーム植林植栽されたオイルパームが優先する植生50.29
ゴム植林ゴム植林の実施もしくは実施予定の土地542.96
合計 85146.86
表2.2018年時点のカンボジアの森林植生(出典:MoE, 2020)

行政上の土地分類

2001年に制定された土地法(Land law)では、カンボジアにおける土地及び不動産は土地管理・都市開発建設省が管轄すると定めている。土地は国有地と先住民地、宗教地、私有地に分類され、国有地はさらに公有地と民有地に分類される。森林は土地法15条において国家及び法律上の公共団体の公共財産に属すると定められている。ただし同法16条にて、その公共財産が「公益的用途」を失った場合は、国有地の公有地(State Public Property)から国有地の民有地(State Private Property)に再分類することが可能であるとされる。表3に土地法による土地の分類を整理した。

土地分類区分概要
国有地公有地(State Public Property)国民の公益につながる土地であり、国が管理する。第三者への移譲は認められないが、一時的、若しくは無効または取り消すことのできる占有権利書及び使用権限の付与は認められる。
民有地(State Private Property)国が管理するが、公益にはつながりにくいことから、第三者へ移譲された土地。劣化した森林や経済的土地利用権が付与された土地が含まれる。
先住民地 (Indigenous Land)先住民族コミュニティが存在する場所および彼らが伝統的農業を行う農地である。これらの土地に関して先住民族が集団土地所有権を獲得する場合は、内務省での登録手続きが必要になる。
宗教地 (Monastery Land)仏教徒の僧院を含む土地及び建造物は仏教徒の世襲財産であり、その信者はパゴダ委員会による管理のもとこれを利用する。これらの土地は、収入を宗教的業務のために使用する場合に限り、賃貸や小作ができる。
私有地 (Private Land)カンボジア国籍を持つ人及び法人のみ、適法な占有によって土地を所有することができる。
表3 カンボジアの土地分類(出典:林野庁, 2021)

なお、土地法16条では森林を含む公有地の譲渡を禁じているが、公有地を対象として一定の条件のもと、暫定的で取り消し可能な占有権及び使用権を付与することは認められている。

5森林資源の減少と劣化の要因

図3にカンボジアの森林被覆率の変化を示す。1965年で約73%あった森林被覆率は、2018年には約47%まで低下した。森林減少・劣化の主な要因分析において大きく二つが挙げられており、一つは森林の大規模な農産業用地(水田、その他の一年生作物用地、ゴム農園)やインフラ設備(道路、水力発電ダム建設)に関連する経済的、計画的な用地転換である。もう一つは無秩序な伐採や森林の他の土地利用への転換であり、これらは貧困、低雇用・所得、農村人口の増加など、社会経済や人口動態の根底にある要因に関連していると考えられている。

図3.森林被覆率の変化(1965―2018年)(出典:MoE, 2020)

また、図4に森林種別の森林面積の推移を示す。特に、常緑樹林(Evergreen Forest)と落葉樹林(Deciduous Forest)の減少が顕著で、2005年から2016年までの約11年間で、それぞれ約100万haの森林面積が消失した。一方、経済的土地利用権の付与に基づいて造成された天然ゴム植林地(Rubber Plantation)のみ面積が増加した。

図4.森林種別森林面積の推移(出典:FAO, 2020)

6 木材生産

カンボジアの木材生産量は、1990年代の内戦からの復興期に一時的に生産量が増加し、ピーク時には丸太生産量だけで120万m3/年近くまでなったが、1998年以降は減少の一途をたどり2010年頃には30万m3/年程度に安定した。2016年以降、一旦は減少に転じたものの、2022年には2013-2014年を大幅に上回る割合で増加している(図5)。

これらの木材生産量の増減には、ELC(Economic Land Concessions)と称される経済的土地利用権の付与が大きく関係している。国家REDD+戦略(2017-2026)によると、2014 年までにカンボジアでは約202万haの森林に対しELCが付与されたが、ELC 契約の管理計画に基づいた再植林や保全活動が実施されず、森林資源を伐採後、放置されるELCが増加したため、2012 年にELCの新規付与の一時停止と既存のELCの見直しがなされ、2016年以降の木材生産量の減少につながった。その後、2022年3月に新たに5,000haに及ぶ大規模なELCの付与が行われことにより、木材生産量の急激な増加につながっている。1996年から2012年までにELC制度により土地利用権が付与された案件の情報の一部は、インターネット上で公開されている[1]

図5.カンボジアの木材生産量の推移(出典:ITTOデータベース[2])

[1] https://opendevelopmentcambodia.net/profiles/economic-land-concessions/

[2] https://www.itto.int/ja/biennal_review/


7 森林・林業に係る法制度

カンボジアでは上位の法律にて全体の方向性や目的を示し、下位の政令、省令、規則等で細則を定めている。カンボジアの森林は2002年に改正された森林法にて、恒久林、浸水林とマングローブ林、保護区に分類され、保護区は環境省、残りの3つは農林水産省の管轄であるため、区分によって適用される法律が異なる。表4にカンボジアの森林の分類と、それらを管轄する部局、適用される法令を示す。

管轄法令森林分類
農林水産省(MAFF)森林局 (FA)森林法(2002)恒久林 (PFE)恒久保全林 (PFR)生産林-森林コンセッション -コンセッション下にない生産林 -回復中の森林 -植林のための保全林 -森林再生のための保全林 -劣化林地 -契約下のコミュニティフォレスト
転換林
私有林
水産局 (FiA)漁業法(2006, 2017年一部改訂)保護区外の浸水林とマングローブ林コミュニティ漁地
釣り場
漁業保護区および保全区
環境省(MoE)自然保全保護局 (GDANCP)保護区法 (2008)保護区 (PA)-保護区  -国立公園  -自然遺産  -海浜公園 -野生動物保護地 -多目的利用区域  -保護景観区 -生物圏保全区   -ラムサール条約サイト
保護林-特別な生態系のための保全林 -調査林 -水源林 -流域保護林 -植物園 -レクリエーション林 -宗教的な森林
コミュニティ保護林
保護区内の浸水林とマングローブ林
表4.カンボジアの森林の分類と管轄(出典:林野庁, 2021)

7.1 森林法(2002年改定)

現行のカンボジアの森林法(Law on Forestry)は2002年に改定・公布されたものである。森林法は同国における生物多様性の保全と文化の保全を含む社会、経済および環境的利益をもたらす持続可能な森林管理を確立するための、恒久林における森林の管理、収穫、利用、開発及び保全に関する権限や手続き、罰則等の枠組みを規定している。

7.2 漁業法(2006年制定、2017年一部改訂)

保護区以外の浸水林、マングローブ林の取扱い等に関する規定は、2006年に制定された漁業法(Fisheries Law)に定められている。漁業法の中で、漁業資源に関連する浸水林、マングローブ林は農林水産省の漁業局に管理されることとしている。なお、漁業法28条では浸水林及びマングローブ林における営利目的の木材の収穫、輸送、保管行為の禁止が明記されている。

7.3 保護区法(2008年)

保護区法(Protected Area Law)は、1996年に公布された環境保護及び天然資源管理に関する法律によって定義される保護地域について、保護地域における管理、生物多様性の保全、および天然資源の持続可能な利用を確保することを目的として2008年に制定された。保護区内の森林を含めた天然資源について、その利用権限や手続き、規則を定めている。

なお、保護区法では、保護区を4つの区域(ゾーン)に区分し、区域ごとにアクセスや利用の制限を規定している(表5)。保護区内で土地利用転換が許可され、植林や樹木の伐採等が許可される可能性があるのは、4つのゾーンのうち、持続可能な利用ゾーンである。

種類概要
コアゾーン絶滅危惧種や脆弱な生態系を含む最も保全価値の高い管理地域。基本的に立ち入りは禁止されている。
保護ゾーンコア区域に隣接し、天然資源、生態系、流域及び自然景観を含む、保護価値の高い管理地域。自然保全保護局の事前の許可を得た時のみ立ち入りが可能。また、区域内の生物多様性に悪影響を与えない限り、地域の少数民族の生計手段としての非木材林産物(NTFPs)の利用が、厳格な管理下で許可される。
持続可能な利用ゾーン国家経済の発展と管理のための経済価値が高い保護区の保全管理地域。天然資源の自然特性は変化させない範囲で、地域コミュニティや少数先住民族の生計改善のために管理される。環境省からの要請に応じて、関連機関や法令等に基づいた協議を経て開発や投資活動が許可されることがある。
コミュニティゾーン地域コミュニティや小数先住民族の社会経済開発のための管理区域で既存の住宅地や水田、畑、移動耕作地等が含まれることがある。この区域は地域住民の利用のみ管理が許可される。この土地所有権もしく利用権の発行には土地法に従って事前に環境省の合意を得る必要がある。
表5.保護区のゾーンとその規定(出典:Protected Area Law)

また、他に保護区域での森林活動に参加する可能性については、保護区法の第7章「保護地域の教育、普及、再生、改善及び資金援助」の第29条に、市民、僧侶、学童、公務員、軍隊の構成員及び地方公共団体は、保護地域内の自然資源の保護、保全及び再生に参加する義務を負うと定められているとともに、第31条には、環境省は、地域社会、少数民族、国内機関及び国際機関並びにNGOと協力して、保護地域内の劣化した地域の環境の回復及び修復を行うと定められている。

なお、保護区法の第3章「保護地域の設定と変更」(Establishment and Modification of Protected Areas)の第7条により保護地域は8つに区分される(表6)。

No.区分設定数機能区分
1国立公園(National park)12保全を目的とした自然公園
2野生生物保護区(Wildlife sanctuary)19野生動植物の保全保護
3景観保護区(Protected landscape)9レジャーや観光のために保護される景勝地
4複合利用地域(Multi-purpose-use management area)5水資源、森林資源、野生生物資源、漁業資源の持続可能な管理された、経済開発とレジャー活動の利用可能地域
5生物圏保護区(Biosphere reserve)1生物多様性を保全して、持続能な開発と活動を支援する地域
6自然遺産(Natural heritage site)2貴重な生態系、景観または文化史跡を残す自然、半自然地域
7海洋公園(Marine park)1歴史的または文化的価値のある野生動植物、魚類が生息する沿岸地域
8ラムサール条約地域(Ramsar site)4野生生物、生息地、生態系を含む、湿地帯とその周辺環境の重要性が認められている地域
表6.保護区域の設定状況(出典:Protected Area Raw)

8 森林・林業に携わる管轄組織

8.1 農林水産省 (Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries ; MAFF)

農林水産省は1996年の農林水産省設立法によってカンボジアの農林水産業に関する政策を担う機関として設置された。農業総局、恒久林を管轄する森林局及び浸水林や沿岸域のマングローブ林を管轄する水産局、天然ゴム総局の4つの外局の統括機関となっている(図6)。

図6.農林水産省(MAFF)の組織図(出典:林野庁, 2021)

8.2 森林局 (Forest Administration ; FA)

森林局は農林水産省の外局に位置し、森林法によって、恒久林を、社会的、経済的、環境的な利益とカンボジアの文化的価値を最大化するために、持続可能な方法で管理することが定められている。森林局が管轄する恒久林には恒久保全林(Permanent Forest Reserve: PFR)と私有林(Private Forest)がある。森林局によると、恒久林(PFE)における私有林の割合は小さく、また、恒久保全林(PFR)には生産林と転換林があるが、2002年以降、2020年時点まで転換林のコンセッションが停止していたため、転換林に分類されている森林は少ない。このため、2020年12月時点では、PFRの生産林に該当する約306.5万haの森林の管理が森林局の主な管轄区域となっている。2020年時点における森林局が管轄する生産林の詳細を表7に示す。

区分数(個所)面積(ha
恒久林(PFE)恒久保全林(PFR)生産林コミュニティフォレスト(登録申請済)636516,817
森林拡大及び再植林地域80407,495
プノンタモア動物公園と野生動物保護センター2,285
国家種子保全地域62,231
官民パートナーシップ林業地891,618
その他の森林被覆地882,633
ELC2291,162,159
生産林合計3,065,237
転換林N/A
私有林N/A
表7 恒久林の区分(2020年時点、出典:林野庁, 2021)

森林局は、2002年の森林法及び2003年の政令79号によって、中央本部とその地方組織が統一され、中央集権的な組織体制として再構築された。現在、森林局は中央本局と、4つの地方森林統括事務所(Inspectorate)、25の州森林管理事務所(Cantonment)、55の森林管理署(Division)、170の出張所(Triage)からなる階層構造となっている。

8.3 環境省(Ministry of Environment ; MOE)

環境省は、環境保護、生物多様性の保全、天然資源の適切かつ持続可能な利用を主導・管理する機関として1993年公布の「保護区の設置と指定に関する王室令」によって設立された。2016年に法令第135号によって再編成され、現在は6部局と、持続可能な開発のための国家開発協議会(NCSD)の事務局が配置されている。なお、MOEは天然資源の一部として保護区(Protected Area, PA)を管轄している。2020年時点で保護区は725万ha(12ヶ所の国立公園、19ヶ所の野生生物保護区、14ヶ所の景観保護区、8ヶ所の複合利用地域、5ヶ所のラムサール条約地域、11ヶ所の国家遺産公園、及び保護区内の生物多様性回廊)で、カンボジア国土の約40%を占めている。なお、保護区が存在している州には州レベルの環境局が設置されている。

8.4 自然保全保護総局(General Department of Administration for Nature Conservation and Protection ; GDANCP)

自然保全保護総局は環境省の下で、保護区の自然保全、生物多様性の保全及び持続可能な天然資源の利用の管理・調整を行う目的で2008年に設立された機関である。2016年の政令第69号によって森林局管轄の区域の一部が環境省の管轄の保護区に組み込まれるとともに、森林局からGDANCPにも職員が異動した。2020年時点で、全国に168名の職員と1,178名のレンジャーが配置されている。

8.5 商業省(Ministry of Commerce ; MOC)

商業省はカンボジアの商業及び貿易の規制と促進を管轄している。同省はカンボジア企業に対し、営業許可証、輸出入ライセンス、原産地証明を発行する。

Ⅱ植林関連基礎情報

1植林政策

2023年10月に環境大臣によって、毎年1百万本の植林を目標とする新たな施策(Circular Strategy on Environment 2023-2028)が打ち出され、2030年までに森林被覆率を60%に計画が作成されている。

植林の対象地としては私有地及び国有地が想定される。また、保護区内での植林も、「I. 森林の概況」の「7.3 保護区法(2008年)」に記載したとおり、環境省の主導・計画のもと、植生回復のための植林が行われる可能性がある。私有地における植林は、森林法4章10条において、所有者が自ら管理、開発、伐採、利用、販売もしくは分譲する権限を持ち、維持管理をすることが定められている。国有地における植林は、森林法12章61条にて、森林局が直接実施、もしくは森林局からの国有地の森林利用許可を受けることによって、コミュニティフォレスト、住民参加によって実施されると記載されている。さらに、2008年には政令26号国有地植林の森林利用権付与に関する規則(Sub-decree No. 26: Rules for Granting User Rights to Plant Trees within State Forest Lands)が制定された。この政令では、コミュニティフォレスト等、森林局と協力関係にある地域コミュニティ及び民間企業、個人や世帯が森林局から植林許可を受けることにより、国有地で植林活動が実施できると規定している。

植林実績

2016年時点におけるカンボジアの植林地の面積(天然ゴム、オイルパームを除く)は約4.3万haであり、これは森林全体の1%に満たない。カンボジアの国家森林プログラム(NFP)では5万ha/年の植林の実施を目標として掲げている。しかし、現状の植林面積は、2,500~3,000ha/年であり、しかもこの植林の多くは民間企業による経済的土地利用権(ELC)による天然ゴムの植林である。カンボジアにおける植林状況を表8に示す。 

面積(ha樹種
20071,000アカシア、ユーカリ
2008900アカシア、ユーカリ
20091,000アカシア、ユーカリ、在来樹種
20101,020アカシア、在来樹種
2011800アカシア
2012490アカシア、ローズウッド、フタバガキ科樹種
2013350ローズウッド
2014400ローズウッド
2015400ローズウッド
2016350ローズウッド
2017152ローズウッド
表8.森林局による植栽実績(出典:林野庁, 2021)

3 主な植栽樹種

2018年に森林管理局、コミュニティ林業、苗木センター、NGO、企業、及びその他関係者によって植林プログラムに使用されたのは39樹種(果樹7種)であり、植栽本数はローズウッド(Dalbergia cochinchinensis)が最も多く全体の23.5%を占め、アカシア類(Acassia sp.)、ビルマカリン(Pterocarpus macrocarpus)、タキアン(Hopea odorata)がそれに続いた(IRD, 2019)。

また植林活動に用いられる樹種は、実施主体の区分や目的によっても大きく異なる。2018年の植栽本数第2位だったアカシア類は、その多くが企業による植林に持ちいられた。一方で企業以外による植林では、主に郷土樹種が用いられた。企業による植林と、企業以外による植林に用いられる主な植栽樹種を表9に示す。

植林実施者主な植栽樹種
企業による植林アカシア交配種 ユーカリ(Eucalyptus spp.) チーク(Tectona grandis) ジンコウ(Aquilaria crassna) カポック(Ceiba pentandra
企業以外による植林等ローズウッド(Dalbegia cochinchinensis, D. bariensis) カリン(Pterocarpus macrocarpus) その他の在来樹種や果樹等
表9 カンボジアの主な植林樹種(出典:IRD, 2019)

Ⅲ植林ポテンシャル

1植林エリア

World Resources Institute[3]がWeb上で提供しているAtlas of Forest and Landscape Restoration Opportunitiesによって示されたカンボジアの潜在的森林回復(植林)可能エリアは図7の通りである。

図7 潜在的に森林回復(植林)可能なエリア(出典:World Resources Institute)

この情報によると、潜在的森林回復(植林)可能エリアは、東部のメコン川左岸地域のほかほか、シェムリアップ東部および北東部にもまとまって広がっていることが見て取れる。

2 植林にあたっての課題

  • カンボジアでは2010年代以降、企業が行う植林以外の植林では、ローズウッド(Dalbegia cochinchinensis, D. bariensis)を中心とした郷土樹種の植林活動が、盛んになってきている。しかし、チークなどの一部の樹種を除いては、郷土樹種を用いた植林の歴史が浅く、採取、育苗、保育を含めた植林に関する技術は確立していない。
  • 近年まで農地等に転換されずに森林であった土地、現在も森林である土地の殆どが、肥沃度が低いとされる土壌の上に成り立っている(MAFF, 2015)。Acid lithosols等、非常に浅いところに固い岩石の層を持つ土壌も広く広がっており、そのことが植栽木の成長のみならず、植栽した苗木の活着率にも大きな影響を与える。特に、Dipterocarpus等のフタバガキ科の植栽を行う場合には、植穴を通常よりも大きく掘り、植栽時に施肥を行うなどの特別な処理を施すことを検討することが望まれる。
  • カンボジアにおいて植林を推進するにあたって障壁となっているのが、ベトナム戦争とその後の内戦時に埋設され未処理のままになっている地雷の存在である。特にカンボジア北西部に多くの地雷が埋まっており、植林活動だけでなく住民の日常生活にも支障をきたしている。また、カンボジア東部は地雷の埋設が少ないが、ベトナム戦争時にホーチミン・ルートを標的とした爆撃時の不発弾が数多く埋まっており、これも植林活動を展開する上での障壁となっている。
  • 近年は、貧困住民が現金収入を得るために実施する違法伐採や、組織的な規模の大きい違法伐採、国境を越えて侵入してくる外国人による違法伐採等、様々なパターンの違法伐採の事例が報告されており、中には違法伐採者が武装しているケースも見受けられる。森林内は通信インフラが整備されていない地域もあることから、植林対象地の情報収集、安全対策等を事前に準備することが重要と考えられる。

[3] https://www.wri.org/applications/maps/flr-atlas/#


Ⅳ. 植林を実施している民間企業・NGO

1 民間企業・NGOによる植林活動例

我が国NGOのカンボジアでの活動の歴史は長く、1980年代に西側諸国がカンボジア援助を停止していた時代から活動を行ってきた。諸外国・機関のカンボジアに対する復興・開発援助が本格的に実施されるようになったのはパリ和平協定が調印された翌年の1992年である。

植林に関しては、住民の生活環境の保全を目的とした郷土樹種の植栽や、貧困削減を目的として果樹等の植栽が行われてきたが、概してその規模は小さい。また、観光資源の付加価値を高めるために遺跡周辺を対象として、植林活動を行っている団体があるのもカンボジアにおける植林の特徴である。

団体名概要対象地
特定非営利活動法人 環境修復保全機構事業名 カンボジア国モンドルキリ州の里山保全を目指した緑化推進事業 内容 収奪的な森林伐採と換金作物栽培のための農地転換により森林減少・劣化が進んでいるカンボジア国の最東部に位置するモンドルキリ州において、地域住民や小学生と協働で在来樹種の植林活動を行った 事業期間 2016-2019年 植栽樹種 Afzelia xylocarpaDalbergia cochinchinensisDipterocarpus alatusDalbergia oliveriAzadirachta indicaSindora siamensis 植栽本数・面積  2016年度実績:4.3ha(6,000本)モンドルキリ州
特定非営利活動法人 アジアの誇り・プレアビヒア日本協会事業名 カンボジア世界遺産プレアビヒア寺院周辺地区での森林環境教育と植樹活動 内容 世界遺産プレアビヒア寺院周辺地区を、緑豊かな自然の中の世界遺産として、観光資源として付加価値を高めるためのモデル事業としての「森」づくりを行っている 事業期間 2010年–(継続中) 植栽樹種 ➀世界遺産の環境に相応しい樹木、 ②自然林に相応しい近隣植生の樹木、 ③村の景観と住民の生活に寄与する花樹・果樹 ④住民が進んで樹木の保護に取り組むために、「花の咲く木」「実のなる木」 植栽本数・面積  カンボジア王国プレアビヒア州エコ村とエコパークを中心とした約200haを中心にして、その周辺約2,000haプレアビヒア州
一般財団法人 国際開発センター (IDCJ)事業名 「みんなで学校をつくろう」プロジェクト(中学校緑化支援) 内容 地域の青年団による環境教育ワークショップを通して、自然環境保護の重要性を子供たちや保護者に伝え、子供たちや先生の参加型による植樹を実施 事業期間 2013年–2014年 植栽樹種 コキ(フタバガキ科)60本、ジアン(フタバガキ科)60本、マンゴー 30本 植栽本数・面積  合計200本を、校庭周辺等に植栽シェムリアップ州
一般財団法人 国際開発センター (IDCJ)事業名 アンコールの森再生支援プロジェクト(小学校植樹活動と未来の環境教育・保全活動指導者つくり) 内容 地元NGOが小学校の先生と協働で開催する環境教育ワークショップを通して、自然環境保護の重要性を子供たちに伝え、子供たちや先生の参加型による植樹・植栽木の管理を実施 事業期間 2010年–2013年 植栽樹種 コキ(フタバガキ科)60本、ジアン(フタバガキ科)60本、マンゴー 30本 植栽本数・面積  合計1000本を、小学校16校の校庭周辺等に植栽シェムリアップ州
公益財団法人 オイスカ事業名 「子供の森」計画 内容 「子供の森」計画とは、子どもたち自身が学校や地域で苗木を植え、育てていく活動を通して、「自然を愛する心」や「緑を大切にする気持ち」を養いながら緑化を進めていくプログラムで、1991年にフィリピンの17校から始動。カンボジアでは2022年までに累計本数16,290本を累計面積21.65haに植栽した。 2022年度は南東部のコンポンチャム州と東部のトブンクムン州において、6つの学校と3つの寺院、そしてコミュニティセンターの計10ヵ所で植林活動を実施 植栽樹種 メンガやテチガイシタン、ケランジィ等のマメ科樹木が中心 植栽本数・面積  2022年度実績:1,800本コンポンチャム州、トブンクムン州
特定非営利活動法人 NICE国際ワークキャンプセンター内容 CYA(Cambodian Youth Action)と共同して、ワークキャンプ方式で植林活動を展開。2017年からの3年間は、シチズン時計株式会社とグループ・ワークキャンプを現地開催し、2020年からはシチズン株式会社の寄付事業「Eco Tree Action」を活用して現地支援を展開中。 事業期間 2015年- 植栽本数・面積  2年半(2021.6-2023.10)で61,000本強を植栽カンポット州
フロムファーイースト株式会社事業名 森の叡智プロジェクト 内容 生活用品の売上収益を活用したカンボジアの森の再生 その他  2014年と2015年に、プロジェクトが経済産業省より「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業」に採択されたカンボジア国
公益財団法人 イオン環境財団事業名 カンボジア プノンペン植樹 内容 プノンペンから約45km南方に位置するプノンタマウ野生生物保護センターにおいて、内戦や生活伐採により荒廃した広大な保護センター敷地内の森林を再生し、生物多様性を守るとともに、訪れる方々の環境についての認識向上の一助とするための植樹を実施した。 事業期間 2015-2017年 植栽本数・面積  3年間の実績:21,000本カンダル州
公益財団法人 イオン環境財団事業名 カンボジア アンコールワット植樹 内容 世界遺産アンコールワット参道脇への郷土樹種の植栽 事業期間 2002、2004、2005年 植栽本数・面積  3年間の実績:7,100本カンダル州
公益財団法人 イオン環境財団事業名 カンボジア アンコールワット植樹 内容 遺跡群チャウスレイ・ヴィヴォル遺跡周辺地域への郷土樹種の植栽 事業期間 2010、2011年 植栽本数・面積  2年間の実績:5,266本カンダル州
表10 カンボジアでの民間企業・NGOによる植林活動例

2 二国間クレジット

2.1 VCSへの取組状況

カンボジア国におけるVCS(Verified Carbon Standard)の森林プロジェクト(植林・REDD)の取組み状況を示す[4]。2024年2月現在で6件が確認でき、そのうち5件は他のプログラムへも登録していることが分かる。

プロジェクト名プロジェクトIDプロジェクト申請団体実施地域分野面積 (万ha他のプログラムへの登録状況
Lomphat Wildlife Sanctuary REDD+ Project https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/34343434Royal Government of Cambodia (RGC), Ministry of EnvironmentRatanakkiri and Mondulkiri provincesREDD13.5
Samkos REDD+ Project https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/33413341Royal Government of Cambodia (RGC), Ministry of EnvironmentPursat, Battambang, and Koh Kong ProvincesREDD28.3CCB, SD VISta
Southern Cardamom REDD+ Project https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/17483434Royal Government of Cambodia (RGC), Ministry of EnvironmentKoh Kong provinceREDD46.6CCB, SD VISta
Tumring REDD+ Project https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/16893341The Royal Government of Cambodia, Forestry AdministrationKampong Thom ProvinceREDD6.8CCB
Reduced Emissions from Deforestation and Degradation in Keo Seima Wildlife Sanctuary https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/16501748Royal Government of Cambodia (RGC), Ministry of EnvironmentOddar Meanchey provinceREDD16.7CCB
Reduced Emissions from Deforestation and Degradation in Community Forests – Oddar Meanchey, Cambodia https://registry.verra.org/app/projectDetail/VCS/9041689Royal Government of Cambodia-Forestry AdminOddar Meanchey provinceREDD6.4CCB
表11 カンボジアにおけるVCS取り組み状況

2.2 JCMでの取組状況

JCMについては、2013年に日本政府とカンボジア政府の間での合意が得られ、2019年にはREDD+実施ルールが採択された。それに合わせて、日本政府はラオス政府との間でガイドライン類を策定しており、それに基づいて日本の民間企業やNGOによるJCM-REDD+プロジェクトが進められているが、現在は2つのプロジェクトがJCMに登録されている。

一つ目は、コンサベーション・インターナショナル(CI)の「カンボジアにおける森林保全による森林減少と森林劣化の削減」(Reducing deforestation and forest degradation through forest conservation in Cambodia)プロジェクトである。プロジェクト計画は2019年5月22日にJCM(Cambodia-Japan)事務局によって公開審査にかけられ、2021年2月27日の一度目の承認、2023年1月16日の修正プロジェクト計画の再度公開審査を経て2023年6月9日にJCMプロジェクトとして登録されている。

二つ目は、三井物産株式会社の「プレイラン野生生物保護区 – ストゥントレンREDD+プロジェクト」(Prey Lang Wildlife Sanctuary – Stung Treng REDD+ project)である。2021年10月7日にそのプロジェクト計画がJCM(Cambodia-Japan)事務局によって公開審査にかけられ、2023年6月9日にJCMプロジェクトとして登録されている。


[4] https://registry.verra.org/app/search/VCS/All%20Projects


I. 植林に関する参考資料リスト

  • Center for Asian Conservation Ecology, Kyushu University. (2012). A picture guide of forest trees in Cambodia I ~ Kampong Chhnang ~
  • Center for Asian Conservation Ecology, Kyushu University. (2013). A picture guide of forest trees in Cambodia II ~Kampong Thom~
  • Center for Asian Conservation Ecology, Kyushu University. (2015). A picture guide of forest trees in Cambodia III ~Kratie~
  • Center for Asian Conservation Ecology, Kyushu University. (2017). A picture guide of forest trees in Cambodia IV ~Bokor National Park~
  • Ministry of Environment (MoE). (2017). National RED+ Strategy 2017-2026
  • Department of Forest Plantation and Private Forest Development. (2021). Guidelines on Private Forest Registration in Cambodia
  • Cambodia Tree Seed Project (CTSP), FA and DANIDA. (2004). Cambodian Tree Species – Monographs
  • Edward V. Maningo and So Thea (Regional Project for Promotion of Forest Rehabilitation in Cambodia and Vietnam through Demonstration Models and Improvement of Seed Supply System). (2019). Lessons Learned
  • Seong-Hyun Cho, Phourin Chhang and Young-Dong Kim. (National Institute of Biological Resources (NIBR)). (2016). A Checklist for the Seed Plants of Cambodia
  • General Directorate of Administration for Nature Conservation and Protection (GDNCP). (2017). Zoning Guidelines for the Protected Areas in Cambodia
  • Sok Tha and Jens Aare Olsen (DANIDA). (2001). Cambodia Tree Seed Project / Danida
  • DANIDA-CTSP, GTZ-CGFP, DFW, JICA and PRASAC. (2003). Farmers’ Tree Planting Manual
  • Seng Vang, CARDI/MAFF. (2015). Cambodia – Soil Resources(FAOが主催したワークショップでのプレゼン資料)

【参考文献】

  • Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries (MAFF).  (2015). Cambodia Soil Resources.
  • Ministry of Environment (MoE). (2016). Cambodia Forest Cover 2016.
  • Ministry of Environment (MoE). (2020). Cambodia Forest Cover 2018.
  • Ministry of Environment (MoE). (2023). Circular Strategy on Environment 2023-2028
  • Ministry of Environment and Ministry of Agriculture, Forestries ad Fisheries (MAFF). (2022). Second Forest Reference Level for Cambodia under the UNFCCC Framework Modified Submission.
  • NEPon. (2019). Timber Legality Risk Assessment Cambodia draft.
  • 林野庁. (2021). 令和2年度「クリーンウッド普及促進事業違法伐採関連情報の提供(3)掲載済み情報更新のための生産国における現地情報調査報告書
  • Forest and Wildlife Research and Development Institute (IRD). (2015). Report on Tree Seed Demand in Cambodia
  • Forest and Wildlife Research and Development Institute (IRD). (2019). Report on Tree Seed Demand in Cambodia
  • Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). (2020). Global Forest Resources Assessment 2020, Report, Cambodia
  • Sin Meng Srun, Ph.D. (2014). Forestry in Cambodia: The Dilemma of Development and Preservation.