フィリピン

アジア航測株式会社 社会インフラマネジメント事業部 海外プロジェクト部 海外技術課

(2024年3月時点)

Ⅰ 森林の概況

1自然地理と土地利用区分の概要

 フィリピンは東南アジアに位置する大小7,641の島々で構成されている国で、総面積は約3,000万haである。フィリピンは1年を通して気温・湿度の高い熱帯モンスーン型気候で、年平均気温は26~27℃、雨期(6~10月)と涼しい乾期(11~2月)、暑い乾期(3月〜5月)の3つに分かれる。年間平均降水量は約2,348mmであるが、ミンダナオ島南東部の960mmからルソン島中部の4,050mm以上まで地域ごとに幅広い。

 2020年の人口は約1億903万人で、全人口の5%は、山岳民族や水上生活の少数民族で、固有の文化と言語を持つ。

2森林の定義

フィリピン環境資源省は森林を以下の通り定義している。

“面積が0.5ha以上で、樹冠被覆率(または同等の材積レベル)が10%以上の土地。樹木は、成木の高さが最低5mに達するものでなければならない。また、樹冠密度が10%未満、または樹高が5mに達していない若い自然林と、林業目的で設立されたすべての植林地も、森林に含まれる。”

森林はフィリピンで最も貴重な天然資源の1つと考えられている。森林は、国内の気候レジリエンスの構築に不可欠な幅広い生態系サービスを提供しており、さらに、山間部に住むコミュニティに収入と生計の機会を提供する上で不可欠となっており、それらの人々は収入と自給自足のために森林資源に依存している。

環境天然資源省(Department of Environment and Natural Resources, DENR)がフィリピンの森林と保護地域の管理を担当する政府機関である。DENRの一部局として国の森林資源の管理に責任を持つ森林管理局(Forest Management Bureau, FMB)がある。この他に、環境全般の管理に責任を持つ環境管理局(Environmental Management Bureau, EMB)、統合保護地域システムの管理と生物多様性の保全に責任を持つ保護区及び野生動物局(Protected Areas and Wildlife Management Bureau, PAWB)、森林生態系の研究と技術開発に責任を持つ生態系研究開発局(Ecosystems Research and Development Bureau, ERDB)等がある。

3森林の区分

フィリピン森林管理局(FMB-DENR)では、森林の区分を閉鎖林(Closed Forest)、疎林(Open Forest)、マングローブ林(Mangrove Forest)の3つに分けている。 それぞれの定義は以下のとおりである。

用語定義
閉鎖林 (Closed Forest)様々な階層の樹木と下草が地表を高い割合(40%以上)で占め、連続して密生した草本層がない場所。管理林または非管理林で、遷移が進んでおり、1回または複数回伐採された可能性がある。
疎林 (Open Forest)非連続的な樹木層を持ち、被覆率は10%以上40%未満である。管理林または非管理林で、初期遷移状態にある。
マングローブ林 (Mangrove Forest)干潟や沿岸の浅瀬に沿って生育する森林性の湿地帯で、河川やその支流に沿って内陸に広がり、一般に汽水域に属し、主にRhizopora属、Bruguiera属、Ceriops属、Avicenia属、Aegicera属で構成される。

フィリピンの土地区分は法的には林地(Forestland)と譲渡・処分可能地(Alienable and Disposable lands:A&D)の2つに分類される。2021年FMB-DENRの統計資料によると、フィリピンの総土地面積約3,000万haのうち、1,580万ha(52.7%)が林地で、1,420万ha(47.3%)がA&Dである。公有地で傾斜が18%以上の土地はすべて林地に分類され、国が所有している。A&Dは、私有権の付与や様々な(主に農業)用途への割り当ての対象となる。2021年の森林局の統計データでは、1,580万haの林地(52.7%)の内訳は、木材利用地33.5%、森林保護区10.9%、国立公園動物保護区等4.5%、民間保留地0.6%、軍保留地0.4%、養魚地0.3%、未分類林地2.5%となる。 法的に林地と分類された土地が全て林業目的で使われており森林被覆があるわけではない。実際に、フィリピンの森林被覆面積は7,226,394ha(国土の約24%)であり、うち閉鎖林2,221,173ha(30.7%)、疎林4,693,821ha(65%)、マングローブ林311,400ha(4.3%)である。1934年は国土の60%(1,780万ha)が森林であったが、1990年には27%まで減少した。2000年以降になると、森林被覆面積は、横ばいもしくは微増傾向にあり、2015年は7,014,152ha、2020年は7,226,394haとなり、過去5年で3%増加した。DENRは森林面積について、衛星画像データから推計値を算出している。

図 1 森林面積の推移(1575年~2020年)
(引用:森林を活用した防災・減災の取組カントリーレポート-フィリピン共和国-,2021)

フィリピンの森林は、種の構成に基づいて5つの森林タイプに分類される:

森林タイプ内容
フタバガキ林フタバガキ科の樹種であるPentacme contorta(ホワイトラワン)、Shorea negrosensis(レッドラワン)、Dipterocarpus grandiflorus等が優占する。長年にわたり最も重要な木材生産樹種であった。
モラベ(Molave)林フタバガキ林より開放的で、1ha当たり平均30m3の材積がある。この森林タイプは、雨季と乾季がはっきりしている地域に見られる。主な樹種は、Vitex parviflora (molave)、Pterocarpus spp (narra)、Intisa bijuga (ipil)等である。
マツ林ルソン島北部とミンドロ島の高山地帯に分布する。主な種はPinus insularisP. merkusiiである。
マングローブ林河口の干潟や保護された湾の沿岸に生育する。1950年代にはマングローブ林の面積は375,000haを超えていたが、年々減少傾向にある。
海岸林渓流沿いや干潟に生育する。通常、ニッパヤシ(Nipa fruticans)からなるが、Terminalia catappa(talisai)、Barringtonia asiatica(botong)、Calophyllum inophyllum(palomaria)などの種を含むこともある。
図2 フィリピンケソン州ラモン湾のマングローブ林(撮影:アジア航測株式会社)

4森林資源の減少と劣化の要因

1970年代以降の森林減少の要因は、FMB-DENRの管理体制の不備、伐採業者による不法伐採、再植林の未実施と、伐採跡地に侵入した移動式耕作者による非伝統的な焼き畑を含む農業活動や人口増加に伴う薪炭林の需要増加等が挙げられている。また、1970年代の商業伐採跡地に残された二次林の多くが、乾期に頻繁に発生する山火事によって草地化し、はげ山となった。近年では、伐採、自然災害、違法伐採、違法鉱山開発が森林劣化の要因であると分析されている。マングローブ林は、養殖地、農地等に転換され減少してきた。1990年代以降は、マングローブ伐採禁止の各種対策を講じたが減少傾向に歯止めはかかっていない。

5森林関連政策等

フィリピンでは改正森林法(1975)として大統領令が発令されており、森林に係る行政、管理方針、伐採、利用、加工、保護、再生等について定めている。また、森林マスタープランを1990年に策定し、以後2003年、2016年に改定されている。現在のマスタープラン(2016)は、「気候変動に強く、持続可能な方法で管理された流域と森林生態系を持ち、社会に環境的及び経済的利益をもたらす」ビジョンを達成することを目的に掲げた「気候変動に強い森林開発のためのマスタープラン」となっている。同マスタープランでは、以下のプログラムや戦略を特定している。

  • 気候変動に対する森林生態系とコミュニティの回復力の強化
  • 森林生態系の商品とサービスの需要への効果的な対応
  • 迅速な森林ガバナンスの促進

さらに、国が決定する貢献(NDC)においては、森林保護、森林再生、再植林及び成果ベース支払に関する資金へのアクセスの追求を国の優先事項の一つとしている。

フィリピン国家REDDプラス戦略(PNRPS)は、2010年に策定され、2017年6月に更新された。「国家森林モニタリングシステム」と「森林参照排出レベル」は、2023年に提出されUNFCCCのウェブサイトにて公表されている。

フィリピンでは1920年代から民間企業が林業に参入し、フタバガキ科樹種を世界に輸出してきた。1970年代の最盛期には、公有林の2/3以上に民間企業がコンセッションとして参入し、木材を伐採した。天然林の減少に伴い、2011年に天然林の喪失を防ぐために全ての天然林及び残存林の木材伐採一時停止措置が課されたため、現在は輸入材と植林木からの木材供給が主流となっている。しかしながら、伐採規定は守られておらず、今日、違法行為の取締りは依然として大きな課題であり、持続的森林管理の主な障害のひとつと考えられている。

また、1995年に持続可能な森林管理の実施と住民の生活改善を目標に掲げた「Community-based Forest Management(コミュニティ森林管理、CBFM)」が国家戦略として打ち出された。このように、森林の一部は、民間セクター、コミュニティ、住民組織、先住民族によって、完全な所有権を含まない様々な種類の保有権の取り決めの下で保有されている。代表的な協定は以下のとおりである。

■CBFMA(Community-based forest management agreements, コミュニティ森林管理協定)

政府と現地コミュニティの間で交わされる合意であり、コミュニティは定められた権利と義務を有する森林管理者として活動する。コミュニティがそれぞれ最大 5,000 haの森林を 25 年間リースし、さらに 25 年間の更新が可能である。国(DENR)と参加住民との間の協定で、承認された戦略計画に従って、森林の特定部分を開発、利用、管理するための保有権の保証とインセンティブを提供するもの。

■IFMA(Industrial forest management agreements, 産業造林などのための包括的森林管理協定)

主に産業用植林を対象とする、民間企業向けの 25 年間の生産分与協定で、一定の賃料を対価としてDENRと協定を交わす。

持続可能な開発の原則に合致し、承認された管理計画に従って、特定地域の森林土地と森林資源を開発、管理、保護、利用する排他的権利を提供するDENR を通じた国と適格な申請者との間の生産分与契約。

■SIFMA(Socialized industrial forest management agreements, 社会産業林管理協定)

一般世帯または協会・パートナーシップ・協同組合が持続可能な開発の原則に合致し、承認された管理計画に従って、小区画の林地を開発、利用、管理する排他的権利を提供する、DENR を通して国と適格な申請者との間で締結される協定。

■TLA(Timber license agreements, 木材伐採権協定)

25年間更新可能なリース。これらの契約は憲法で認められなくなり、TLAは段階的に廃止された(一部の既存または無効のTLA は包括的森林管理協定(IFMA)へ転換されていった)。

CBFMAの下、組織化されたコミュニティは、政府が定めた伐採許容量の範囲内で活動する。彼らは木材やその他の林産物を伐採し、販売したり、自分たちの需要に使用したり、加工したりすると同時に、違法伐採やその他の無許可の活動から森林を保護している。木材、籐、竹、その他の林産物の販売は、コミュニティの追加収入をもたらしている。

森林管理協定(例:IFMAs、CBFMAs、SIFMAs等)の対象となる公有林地の全ての土地において、政府または現在の保有権保持者以外の主体が皆伐して植林した場合、伐採総収入の30%は政府に支払われ、70%は植林木伐採時の保有権保持者に支払われる。一方、現在の保有権保持者が植林及び育成した植栽木を伐採する場合は、同保有権保持者が収入の100%を取得する。

改定林業マスタープラン(2016)では、ミンダナオ島のIFMAとCBFMAの合計面積(1,482,000 ha)が、フィリピンの木材製品の国内総需要を満たすのに十分な面積であるとされる一方で、CBFMAやIFMAの保有権が植林のための銀行融資を受ける際の担保とならないこと、DENRのコミュニティ支援の普及活動が限られていること、などの理由からIFMA保有者の多くは、産業用植林への投資に積極的でないとしており、産業用植林の拡大のためには、政策やインセンティブと健全なガバナンスの必要性をあげている。

Ⅱ植林関連基礎情報

1植林政策:国家緑化プログラム(NGP)

フィリピン政府は、貧困削減、食糧安全保障、生物多様性保全、環境の安定、気候変動への適応と緩和のための持続可能な開発を追求するために大規模な森林再生プログラムを実施している。2011年から2016年までの6年間で、150万haに15億本の植林を目指したものである。2015年末には、2016年から2028年までの間に710万haと推定される残りの対象地(すべての非生産的な、荒廃した、劣化した林地)を復旧させるというNGPの延長拡大が発令された。

2011年のプログラム設立以来、DENRは国内の223万haの土地に18.6億本以上の苗木を植えてきた(2023年までの実績)。NGPは、気候変動の緩和、土壌浸食、流出防止、経済的生産性における炭素隔離の可能性からアグロフォレストリーを推進する一方、林産物を利用した経済的な活動を通じて、フィリピン国民の代替生計手段としても機能している。このプログラムだけで数百万人の雇用が創出されている。

NGPで推奨される樹種は、経済的価値のある早生樹種の他にも、市場性のあるゴム、木材用樹種、竹、果樹、コーヒー、カカオ等が推奨されている。

2既存の植林面積

過去数十年間における大幅な森林減少に対応するため、大規模な森林再生・修復プログラムや活動が実施された。その活動は、政府による大規模植林プロジェクト(国家緑化プログラムNGP)や産業植林から、契約植林、コミュニティベースの取り組み、総合開発・生計プロジェクト、アグロフォレストリー、民間植林まで多岐にわたっている。

フィリピン森林管理局(FMB-DENR)のデータによると、フィリピンの再植林面積は1974年から2013年にかけて概ね増加している。再植林のほとんどはDENRを中心とする政府部門(73%)によって行われ、27%はTLA等の木材伐採権協定保持者、森林所有権保持者、その他の民間団体を含む非政府部門によって行われている。

2010年以降、NGPの実施に伴い、再植林面積は大幅に増加した。第一フェーズ期間(2011-2016)の植林面積目標値150万haに対し実績160万ha以上と大幅に上回ったが、植栽本数は目標15億本に対し約13.7億本と下回り、目標の1haあたり約1,000本の植林目標から、約824本と下回った。

さらに、植えた苗の生存率も目標を下回っている。NGPでは85%の生存率を見込んでいたが、2013年の監査委員会(COA)の監査報告書では、植林された苗木の生存率は、調査されたサンプル面積において、68%であったと指摘されている。

国家森林プログラム(NGP)による植林実績は表1のとおりである。

目標面積(ha)植林面積(ha)達成度植栽本数(本)雇用人数(人)
2011100,000128,558129%89,624,12147,868
2012200,000221,763111%125,596,73055,146
2013300,000333,160111%182,548,86265,198
2014300,000334,302111%205,414,6391,079,792
2015350,000360,357103%351,014,239915,729
2016247,683284,089115%415,564,211114,584
2011-2016合計1,497,6831,662,229111%1,369,762,802558,323
2017193,803206,136106%182,185,53084,315
2018136,466141,310104%138,020,61662,375
201919,61721,925110%25,851,35946,313
202046,90747,229101%37,206,58155,141
202194,66795,666101%70,751,17038,547
202245,86845,997100%34,357,27544,881
202313,59717,155126%8,616,63229,540
2017-2023合計550,924575,489104%496,989,163361,112
総合計2,048,6072,237,718109%1,866,751,965919,435
表1 国家森林プログラム(NGP)による植林実績
(引用:[Enhanced]National Greening Programウェブサイト https://fmb.denr.gov.ph/ngp/ 、2024年1月時点)

2主な植栽樹種

政府の植林プロジェクトでは、成長の早い外来樹種による植林が中心となっている。一般的な樹種は、マホガニー、ヤマネ(Gmelina)、ゴム、マンギウム(A.Mangium)、A.Auriculiformis、ファルカタ(Paraserianthes falcataria)、イピルイピル(Ipil-ipil)である。在来種では、Erythrina variegataNarra (Pterocarpus indicus)、フタバガキ科、フィリピンマホガニー等がある。

国家緑化プログラム(NGP)で推奨している樹種は、将来の木材需要に応える木材、家庭用の燃料用木材、コーヒー、カカオ、ゴム、竹、果樹、マングローブ、固有種等の高価値な樹種をあげている。マングローブと竹は、2017 年から 2028 年の第 2 段階が開始されたGNPで力を入れている樹種である。加えて、ニッパヤシ、テリハボク、バニ(Pongamia pinnata)、タリサイ(Terminalia catappa)等の海岸林の植林も重要視される。

また、ミンダナオ島カラガ地方のディナガト諸島州のNGPサイトでは、以下の在来樹種が植林された。

Common NameScientific Name
AgohoCasuarina equisetifolia
AkleAlbizia acle
AnilauColona serratifolia
BagalungaMelia dubia
BagtikanParashorea malaanonan
BaloboDiplodiscus paniculantus
BitangholCalophyllum blancoi
BitalogCalophyllum inophyllum
DalingdinganHope foxworthyi
GuijoShorea guiso
HauiliFicus septica
KalantasToona calantas
MalatapaiAlangium longiflorum
NarraPterocarpus indicus
NatoPalaquium luzoniense
PanauDipterocarpus gracilis
SagimsimSyzygium brevistylum
SaplunganHopea plagata
SubiangBridelia insulana
TalutoPterocymbium tinctorium
TapinagSterculia crassiramea
TuaiBischofia javanica
YakalShorea astylosa
表2 国家緑化プログラムで植林された在来樹種リスト(ディナガト諸島州)
(引用:National Greening Program Assessment Project: Environmental Component -Process Evaluation Phase(Philippine Institute for Development Studies ,2016))

Ⅲ植林ポテンシャル

1植林エリア

フィリピンでは、国の林地として分類された土地は1,580万ha(52.7%)ある一方で、森林面積は約720万ha(国土の約24%)である。河川、湖沼、岩山等の非植林適地を考慮しても、再植林が必要とされている面積は広大である。また、一部の残存林でも地元コミュニティによる違法伐採等で常に脅威にさらされている。

2木材貿易

フィリピンはかつて、南洋材の主要生産・輸出国であり、特に1960年代後半から1970年代前半にかけては、公有地でのコンセッション等からの主に天然林からの丸太生産量が年間1,000万m3を上回っていた。しかし1980年代になると、過剰伐採、森林の他の土地利用への転換、移動耕作・木材の違法採取に起因する森林劣化等によって木材生産量は激減し、さらに2011年に全ての天然林の伐採が停止された。近年の産業用丸太の生産はそのほとんどが私有地の植林木が伐採されたものである。

2022年の木材由来製品の輸出量は約10.1億ドル、輸入量は26億ドルとなっている。木材由来製品の内訳は、木材、合板、紙・紙製品、家具、パルプ・古紙等である。輸出、輸入相手のそれぞれ上位5か国は下図のとおりである。

図3 木材由来製品の輸入国上位5か国(単位:百万ドル)
図4 木材由来製品の輸入品目上位5製品(単位:%)
図5 木材由来製品の輸出国上位5か国(単位:百万ドル)
図6 木材由来製品の輸出品目上位5製品(単位:%)
(引用:図3~図6 Philippine Forests At a Glance 2023 edition(FMB-DENR))

3植林にあたっての課題

気候的課題

フィリピンではこれまで植栽後の生存率は高くないと言われている。その原因は、気候的に乾季が長く、苗木を植えるための水不足にある。特に12月~3月は気温が8~15℃と低く、地表の水分がさらに乾燥し成長のための必要な土壌水分が奪われる。4月~6月にかけては気温30~37℃にまで上昇するため、土壌水分の蒸発が促され苗木に熱ストレスがかかる。これらの要因で植林した苗木の枯死率が高くなっている。

社会的課題

林地の非森林地帯では1900年代以降、約100万haの植林を行ったとされるが、活着率は低い。この要因として、植栽後の保育管理の不足が指摘されている。また、法律上林地と定義されている場所にも、数百万の人々が居住しており、植林活動を行うにあたり、住民への配慮の視点が必要である。国家先住民員会(NCIP)によると、森林は約1,200万~1,500万人の先住民の生活の場であり、多くの家族が森林からの資源で生計を立てている。

自然災害課題

フィリピンは東南アジアにおいて最も自然災害の多い国の一つであり、気候変動による台風やその他災害の頻度や被害強度が増大している。台風に伴う強風や多量の降雨による森林へのリスクや、台風の影響をあまり受けない地域でも、干ばつによる森林火災のリスクが高まる懸念もある。

カーボンクレジット創出支援

2021年に、フィリピンでの植林活動の後押しになるべく、政府による「森林カーボンプロジェクト認証制度」(CAVCS)の制定がなされた。CAVCSは、二酸化炭素を吸収し、森林劣化による排出を回避する活動への投資を奨励・支援するため、国内の森林プロジェクトのCO2 吸収量を認証する制度として、森林炭素プロジェクトのための炭素計算・検証・認証制度の確立を規定している。参加する個人や団体は、CAVCSを利用して、森林保護、植林、再植林、再生へのコミットメントを証明し、カーボンニュートラル目標を達成し、緩和や企業の持続可能性について報告することができる。

4.植林を実施している民間企業・NGO

フィリピンでは多くの民間企業・NGOによる植林活動が行われている。また、日本の組織として初めてVCSに登録されたMore Treesの植林活動を始め、フィリピンでの植林活動を通じてカーボンクレジット創出を目指した事業が注目されている。

団体名概要対象地
東京海上日動 https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/world/greengift/mangrove/report/philipino/事業名 Green Giftプロジェクト(9か国のうちの1つ) 実施期間:2019~実施中 実績:41ha(累計996ha)*オイスカへの支援含む マングローブ植林ルソン島 ホセ・パンガニバン
オイスカ https://oisca.org/ 事業名 災害に強い、森に守られた地域社会づくりプロジェクト 実施期間 2015-2018 実績:546ha 事業名 アホイ植林プロジェクト 実施期間 1993年~ 実績:約1,000ha 事業名 南ルソンマングローブ植林プロジェクト 実施期間 2004年~ 実績:約520ha 事業名 ヌエバビスカヤ植林プロジェクト 実施期間 1993年~ 実績:約520haレイテ島東岸、パナイ島アホイ、パナイ島イロイロ州、
Loob Japan(NPO法人)https://loobinc.com/sien/empowerment-for-community/事業名 マングローブ植林プロジェクト 実施期間:2007年~2016年(2023年から再開) 実績:10年間で115,232本(8.2ha)パナイ島
(一社)More Trees コンサベーションインターナショナル https://www.more-trees.org/forests/project4/  事業名 フィリピンの森林プロジェクト 実施期間:2009年~2018年 実績 ・植林面積 185ha(森林再生:約166ha、アグロフォレストリー:約19ha) ・植林本数 植林再生:187,956本、アグロフォレストリー:2,964本  合計:190,920本  *本プロジェクトは、民間のカーボンプロジェクト認証「VCS」に、日本の組織として初めて登録された。フィリピンキリノ州
アジア協会アジア友の会 https://congrant.com/project/fund/3585  事業名 植林・グリーンスカウト運動 竹植林 マングローブ植林 水源涵養植林ルソン島
Green carbon株式会社 http://green-carbon.co.jp/green-carbon%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AF%E3%80%81-jt-cloud-works%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%80%81%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%94%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%92%B0%E5%A2%83np/マングローブ植林を通じたカーボンクレジット創出事業 実施期間:2022年~ 3者業務提携 ・JT Cloud Works(株)現地プロジェクト管理、人材派遣 ・green carbon(株)クレジット創出、クレジット販売支援 ・OCEANUS(現地企業)マングローブ管理・育成・植林(政府と締結) マングローブ植林を通じて、Verraの認証取得を目指した活動 
丸紅 https://www.marubeni.com/jp/news/2023/release/00019.html森林再生を通じたカーボンクレジットプログラムの開発プロジェクト 3者でのカーボンクレジット創出に関するMOU締結 -DENR(フィリピン環境天然資源省) -DACON Corporation(現地企業) 3者でのF/S実施に関する覚書締結 -DACON Corporation(現地企業) -フィリピン大学森林天然資源学部 *フィリピンにて初めて産学官が協働し森林再生を通じたカーボンクレジットプログラムを開発西ネグロス州
カネパッケージ https://www.kanepa.co.jp/jp/topic/csr/topic05.htmlマングローブ林の再生 実施期間:2009~ 実績:336ha(5か所のサイト) 地元の住民組織と連携して植林を実施、地域住民の雇用創出にも貢献セブ州、ボホール州、東ネグロス州
特定非営利活動法人 イカオ・アコ http://ikawako.com/事業名 子供達と植えよう!マングローブの森づくり 実施期間:2023- 実績:20ha(目標) 事業名 少数民族の組織化と水源の森再生活動 実施期間:2014-2017 実績:37.5ha(33,500本) 事業名 住民参加型による上流部森林再生と野菜栽培による生計向上 実施期間:2013-2014 実績:1ha 事業名 アストモスの森づくり 実施期間:2010-2013 実績:11ha(115,000本) 事業名 エコツーリズムを導入した流域単位での森林再生と環境教育事業 実施期間:2010-2013 実績:33.5ha(マングローブ、在来種、果樹、コーヒー、カカオ)ネグロス州、ボホール州
トヨタ https://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/social_contribution/volunteer/environment/v_forestation/事業名 Philippine Peñablanca Sustainable Reforestation Project 実施期間:第1期 : 2007年9月~2010年7月 第2期 : 2010年8月~2013年7月 実績:第1期:1,772ha    第2期:2,563ha *DENR、コンサベーションインターナショナルと共同実施ルソン島北部のカガヤン州ペニャブランカ町
特定非営利活動法人 環境修復保全機構 https://www.erecon.jp/事業名 フィリピン国レイテ島北西部の台風被災地における地域復興を目指した植林事業 実施期間:2014年 – 2016年 実績: ・2014年度実績:6.4 ha (9,280本) ・2015年度実績:3.8 ha (5.511本)レイテ州ビラバ町・カナンガ町
特定非営利活動法人 ビラーンの医療と自立を支える会事業名 ミンダナオ島エルアリス村アグロフォレストリー事業 実施期間:2016-2017 実績:Lawaan, Nabol, Narra(3,000本)    ココヤシ、バナナ、コーヒー、果樹(3,550本) 事業名 フィリピン先住民族の村タクネルにおける森林再生とアグロフォレストリーの実施 実施時期:2014-2015 実績:木材(Lawaan, Nabol, Narra)5,000本、非木材林産物(パラゴムノキ、ドリアン、コーヒー、バナナ)7,000本 事業名 島の生態系修復のための在来種植林と持続可能な森林農業の推進 実施期間:2012-2014 実績 木材、非木材林産物(合計15,020本) 事業名 ダグマ山系ラムダラグ村生態系保全のための森林農業推進事業 実施期間:2013-2015 実績:木材(Lawaan, Nabol, Narra)9,000本、非木材林産物(パラゴムノキ、コーヒー)30,000本サイスコタバト州
表3 フィリピンでの民間企業・NGOによる植林活動例

フィリピンの市民社会の多くは、森林管理と開発に参加している。多くの国際NGOや国内NGOが林業、特にCBFMや環境保全に関わっている。

5 植林に関する参考資料リスト

【参考文献】